「月吹く風と紅の王」



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 ルピトはあまり賑やかな街ではないようだった。
 エルシェリタが使ったのは王族御用達の宿だったため、田舎ながら設備はしっかりしているし、対応もそつがない。しかしあまりぱっとしないのは、やはり客数の少なさから来るのだろう。
 疲れていたルシエにはどうでもよく、ただ静かなのがありがたかった。宿屋の主人が挨拶に来たが、どうやって受け答えしたのか記憶にもないぐらいルシエは眠たくてしょうがなく、夕食も適当に切り上げてしまった。
 しかし花青官たちはいつもと殆ど同じように立ち働くので、旅先だからと変わることなく、いつも通りたっぷり時間をかけた肌の手入れなどを受けているうちに、ルシエは深い眠りへと落ち込んでいた。
 翌朝もきれいに晴れ、マヴィエスト城まで約束通り、単身、空を飛んで行くことになったルシエは、常になく弾んだ気持ちでいた。宿から直接飛ぶのは少し問題があるとのことで、少し俥で行った先で降りる。
 ルシエは1番に俥から躍り出た。
 雲ひとつない青空。奔り行く風。
 燦々と降り注ぐ太陽の光を全身に浴びながら、身体いっぱいに風を受け、吸い込み、ルシエは空高くのぼった。
 層が変わるぎりぎりまで昇って、同じだけの勢いで沈み、風の流れに乗る。
「まるで風に舞う花びらのようですね」
 ひらひらと衣の裾とはためかせながら、ルシエが空を滑る。
 ルシエから少し間をあけたところで、エルシェリタはやや呆れたように空を往く人形を眺めた。
 エルシェリタはルシエに風の衣装をあしらった衣装を何着もあつらえさせていて、今日ルシエが身に付けているのもそのひとつである。
 一の宮付きの花青官が新しく見つけてきた衣屋はたっぷり時間を掛けて丁寧に採寸を行った。その折々にエルシェリタとルシエの意向に耳を傾け、時には提案もした結果、これまでにない大胆な衣装を仕立て上げたのである。
 足の形に沿って筒状に縫い合わせた膝下丈の内下衣に、肘丈の袖と胸もとで襟ぐりを合わせる内上衣。これは腰下までの長さがあり、共布の帯で結び留めた後、細長い葉のように裁って縫い合わせた星織りの布を羽織る。
 星織りの布は夜空にかざしても星が透けて見えるほど薄いので、その名が付いたとても薄い布である。肩巾などによく用いられるが、それを色合いと糸の縒り具合もかえた布を何枚も重ねて縫い合わせてあるため、肌は勿論、内衣も透けては見えない。
 大人しく佇んだ状態では薄紅の裾が八重咲きの花びらのように足もとを覆う。かかとが高く、華奢な靴をあわせれば、少しつんと尖った印象を与えて大人びた雰囲気をつくりだした。
 腰から下は縫い止めてはいない。風がややでるとふわふわと裾が上下するから、身動きすれば何とも愛らしい印象を与え、元気よく動き回れば、ちらちらと素足が覗く。そうなっても良いよう、内下衣は膝下まであるし、ひと目に触れても構わない仕立てだが、それが空だと星織りの布はめくれっぱなしだ。
 一定した早さで飛べばよいものを、ルシエといえば、まるで風と戯れるようにあっちへいったりこっちへいったり、姿勢ひとつ取っても定まらないのですっきり伸びた白い足が何度も剥き出しなる。
「もう少し、色っぽくなってくださると良いのですが…」
 申し訳ありません、と力ないツィーツェに、エルシェリタは苦笑う。
「仕方ありませんね。ですが良く似合っています。あの衣屋の主人。腕は確かのようですね」
「エルシェリタっ、雲行っていい?」
「いいですよ。ツィーツェ」
「はい」
 空はルシエの庭だ。
 何ものもルシエを止めることは出来ない。
 はち切れんばかりの笑顔で雲に突っ込むルシエの後をツィーツェに追わせたエルシェリタは、くるりと丸めた風の渦に身を乗せ、ゆるやかに上昇する。
 良く晴れた空に薄紅の風が舞う。
 ルシエはどこまでも高く飛び、旋回しては、必ずエルシェリタのもとに戻って目に見える風景をひとつずつ話した。




 タタ、タタタ、と雨音が木の屋根を打つ。
 遠い空の向こうから届く嵐の気配に最初に気づいたのはルシエだった。まだ黒雲の欠片もない時分に気づくことが出来たため、王子一行は充分支度をして、森の中に避難することが出来た。
 術を組んで仕立てた小屋は花青官らが細々としたところまで目を配ったため、急拵えの割にはまずまずの居心地であった。
「ムッフルタの嵐ですね」
 ムッフルタの風の精は北の谷の奥深くにいて、時折こういった嵐を引き起こす。
「うん…」
 ルシエは風に耳を傾けてながら、ぼんやり肯き返した。久しぶりに触れる嵐だった。
 花青宮を含めた王宮周辺では天気が荒れることなどない。気象に関わる精霊たちが遠慮するからである。
 ムッフルタの嵐を取り仕切る精霊たち自身は近くにいないようだった。
 ただそれでもほんのわずかに号令や歓声が伝わってくる。それがルシエには懐かしかった。
 この中に混ざって風を巻いたらどんなに楽しいだろう。
 渡り風は地元の精霊と一緒になってその土地土地に風を吹かせることもあるので、ルシエもこういった嵐に参加したことがある。
 それはすごく胸が躍る体験だった。
「…エ、……ルシエ」
「…っ」
 ルシエはどきりとして、顔を上げた。いやなふうに跳ね上がった鼓動に、つとめて平静を装う。
 案の定、少し尖った主人の眼差しを見つけ、ルシエは急いで風の音から身を離した。
「懐かしくてたまらないようですね」
「…そんな、ことは……」
「ルシエはもうただの風とは言えないでしょう。そうですね?」
「………、はい」
「不服そうですね」
 風の精霊であることをやめたわけではないと、ルシエは言いたい。
 けれどそれが主人の望む答えでないのは分かった。
 エルシェリタが見せる微妙な声の変化に気づいて体を強張らせたルシエは、やや逃げを打とうとして素早く腕を取られた。何が主人のカンに障ったのか冷たい顔で見下ろされ、つよい力で床に引き倒される。
「…痛い」
「今のあなたなんです。言ってご覧なさい」
「…に、人形です」
 人形の服はどれも脱げやすいつくりになっている。
 帯を引き抜かれて紐を幾つか外されると、あっという間に何もかもはぎ取られた。
「ルシエ」
「こ、ここは…、いや…だ」
 部屋は分けてあるとはいえ、薄い壁の向こうには護衛や側近たちが控えている。
 王宮は隣室の声など聞こえないし、ここは花青宮ではない。
 ルシエにはそれがひどくいやだった。おまけにすぐ外は嵐が進む。濃い風の気配と共に。いつ頭上を風の精霊の群れが通り過ぎるか分からない。
 ためらいを見せるルシエをエルシェリタは凍ったような眼差しで見下ろす。怒りを買ってしまったことを知り、ルシエは唇を震わせた。細い声で許しを請うが、黙殺されてしう。
「来なさい」
 絶望で目の前が真っ暗になる。
 ルシエに逃げ場はなかった。



 僅かに足をくつろげたエルシェリタの傍にルシエは無理矢理押しやられた。
 肌寒さにぶるりと震えて、ルシエは泣きそうな顔をじっと俯けたが、もう1度つよい口調で名を呼ばれれば諦めるほかない。
 あふれそうになった涙を堪えて、なるべく毅然と見えるように表情を殺す。
 ぐずぐずとためらって花青官に押さえ付けられる惨めさは、たとえようのない辛さだった。それなら形だけでもすすんで主人の求めに従いたい。 
 主人の下衣を解いて、舌先をそっと伸ばす。だらりと力なくさがったものを口に含んだ。
 口ので奉仕は人形になって最初に教えられたことのひとつだ。
 けれどいつまで経ってもルシエは慣れることが出来ない。やたらと唾液をまぶしてしまい、べたべたにしてしまった張りを舐め、奥までのみ込んで懸命に舌を使う。
 拙さは丁寧さで補うしかないが、次第に固く張り詰めてくると、ルシエには奇妙な満足感めいたものを覚えるようになる。主人の高ぶりを直に感じ取り、己が主人を心地よくさせていることにルシエの体が反応した。
「どうしたのです。口でしているのはルシエでしょう。なのに勃っているのではありませんか」
「ぁ…あ」
 先走りを絡め取り啜ると、体の奥深いところで熾火が目を覚ますのが分かった。
 主人の気を感じ取った人形の体が欲深い震えを起こす。
「ここにはまだ何もしていないというのに、ルシエ。感じているのですか」
「あ…、ッ」
 たっぷりの香油をまぶした指先が何の支度もしていない後肛にあてがわれ、中へ侵入り込んでくる。浅いところを細かな動きで抜き差しし、固くつぼまった縁を拡くように揉み込まれると、口からものを落としてルシエは身を捩った。
 エルシェリタがそれを咎めることはなかったが、指を増やしてルシエの内奥を執拗になぶる。ルシエは息を上げ、腰を突き出すような淫らな姿勢をとりながら、朱く染まった頬を敷き布に擦りつけた。昨日散々いじられたはずの後孔はまるではじめてひらかれたかのように、指に抗う。
「蜜があふれてきましたね」
「……、ひ、ッ…ぁ」
 濡れた先端をもう片方の手が取り上げ、かるく爪を立てられる。
 背筋をしならせ、ルシエは陰部に絡みついた指先を引きはがすように腕を突っ張ったが、まったく無駄であった。
「や、…やぁ…ッ」
「またきつく締め付けて。いけない人形ですね」
「……エ、エルシェリタ、さま…お願い…」
「何をです。言ってご覧なさい」
 指を抜いてと言いたいのに奥まで入り込んだ指が柔らかな内襞をなぶると、それだけで息が上がって言葉が出ない。
「もっと大きいものが欲しいのでしょう」
「ち…が……」
「ほらもう、指が3本も」
 悲鳴を上げて縋り付いてくる人形に主人が美しい笑みをうかべて、指を引き抜く。ルシエの中でかき混ぜられた香油がつぅと糸を引いて滴る。その感触に怖気たちながら、ルシエは指を失った寂しさにきゅぅと孔を窄めてしまい、恥ずかしさに目許を潤ませた。
「ツィーツェ」
「2の箱を開けましょう」
「はい」
 取り出されたのは奇妙に歪み、無数の疣がついた張り型だった。
 細身だが長さがあり、ルシエは悲鳴を上げて顔を背けるように主人の胸に縋り付いた。ぶるぶると震える人形の背を優しく撫でたエルシェリタは、その手に張り型を握らせた。
「自分で入れなさい」
「…ッ、や」
「緩みが足りませんか?なら、もっと揉みほぐしてあげましょうか」
「ぃや。やー…ッ」
 3本の指がぐっと押し込まれ、ばらばらに動く。ルシエは首を振って眦から涙を散らした。
 膝先を入れたエルシェリタは固く張り詰めた人形の高ぶりに爪を立て、蜜をあふれさせた入口にねじ込んでは雫を塗りつけるように手のひらでくるむ。ルシエが達しそうになる度に、きつく握り込んで歓びを殺すエルシェリタは、頬を濡らす涙を舌先で舐め取った。
「自分でしますね?」
「す、る…」
 がくがくと首を頷かせ、ルシエは握りしめた淫具の先端を己にあてがった。
 このままエルシェリタの指でなぶられていたら、どうなるか分からない。
 ひくりと喉を震わせ、恐る恐る淫具の先端をもぐり込ませたルシエはそのままの形で全身を強張らせた。
 思い切らねばならないと手のひらに力を込めるが、うまくいかない。
 ほんの僅かに入り込んだ淫具の瘤が襞を掻く。その圧迫感と違和感に恐れを成した手が淫具を引き抜いてしまい、ふたたびあてがうが、どうしようもなく手が震えた。
「窪みにあてるようにして、そうですよ。それぐらいなら簡単に入れられるでしょう」
「…ん、く…ぅ」
「力を込めて」
「ん、んッ…」
 少しずつだが、淫具が腹の中へ収まっていく。
 額から汗を滴らせ、髪を振り乱すようにしてルシエは懸命に力を込めた。
 奥まで入れれば、抜け落ちないよう刻まれた窪みに襞がぴったり絡んで動かなくなった。
 力尽きるように敷き布の上に崩れ落ちた体を、エルシェリタは抱き留め、苦労をねぎらうように優しく背を撫でる。涙と汗でぐしゃぐしゃになった顔に口づけを落とした。
「さあ、動かして。それではつまらないでしょう」
「でき、ない…。くるし、…っ」
「先を持ちなさい」
 厳しい口調で言いつけた主人に、ルシエは尻に手をまわす。
 後肛から突き出た淫具を手に持つと、その上から指先が絡みついた。
「ぃ、…いや、やめて…やぁ…ッ」
 容赦のない動きでエルシェリタの手がルシエの手ごと淫具を抜き出し突き入れると、その度ごとにルシエの背がきつくしなった。
 ぐいぐいと中襞を拡げるように抉り込ませ、抗う体を上からのし掛かるようにして押さえ込んで、捻りこむ。
 苦しみに喘ぎ、切れるような痛みに全身を捩らせたルシエは、次第に息を上げ、視界を灼くきつい歓びに涙をこぼした。
 やがて堪えきれずに自らの精で肌を汚したが、責めは終わらない。淫具に施された歪みは恐ろしいほどの歓びを引き出し、無数につくられた疣が意識を狂わせて、止めることの出来ない悲鳴と嬌声にルシエは喉を引きつらせた。



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