執拗に責め抜かれた奥肛はとろりと綻び、あてがわれた主人のものをするりとのみ込む。 今の今まで服を脱ぐことがなかった主人の肌身に腕を絡め、努めて弛めようとしたが、きつく反り返った高ぶりにねっとりと絡む己の襞を敏感に感じ取ったルシエは、ゆるく唇をひらいて吐息をこぼした。 「あ、あ、ぁ……」 淫具でのきつい責めが幻だったような、やさしい動きでエルシェリタが腰を蠢かす。 胸の尖りを引っかけるように手のひらを這わせ、エルシェリタはルシエの眦から首筋にかけてくすぐるように、あるいは愛しむように丹念に舐めた。 ほんのわずか肌を触れられる、痺れと熱が心地よい陶酔感をもたらし、ルシエは息を上げた。気持ちよくて、じんと痺れるような熱が体いっぱいに広がっていく。 涙に潤んだ視界の中に美しい顔が微笑むのが見えて、人形の喜びは増す。己だけが感じているのではないことが分かって、不思議な満足感が全身を満たすのだ。 心地よさげに細められた眼差しが人形を見つめ、喘ぎごと吸い込むように唇を重ねて、はむようについばんだ。 「あれだけ拡いてあげたのに、まだきつく締めつけて。もっと奥に欲しいのですか」 「……、し、て…して、ぁあ…エル…シェリタ……」 「たっぷり味わいなさい」 「ん、ぅう…あ、あ……」 エルシェリタの熱がルシエに染み込んでくる。 ルシエは望むまま、それ以上に与えられるたっぷり充溢感に深い歓びを覚え、淫らに身をくねらせた。 心が解けて触れ合った肌を伝い、境目をなくしていく。 息をかわし合うように口づけを重ね、ルシエはエルシェリタの全てを受け入れる。それだけしか考えられなくて、それがとても心地よくて。 たっぷりの精をそそがれるのと同時に、ルシエもまた極め、ふたりの肌に迸りを散らした。 先に行かせていた俥を戻しても良かったが、エルシェリタはそうしなかった。 立ち上がれなくなったルシエを横抱きに抱え、空を往く。 全身を満たす疲れに主人の首にまわす腕も力が入らない。 ルシエは素晴らしい迅さで後ろへと流れていく風景を眺めながら、次第に北独特の冷たさをはらむ風を追った。 「ルシエ、せっかく風よけをはってあるんですから、呼び寄せないように」 飛ぶのに邪魔になるつよい風を避けるため、術でつくり出した膜の間を縫うように入り込んでくる冷たい風に、エルシェリタは苦笑いをうかべてたしなめる。どこかぼんやりとしか顔つきで、ルシエは頷きを返した。呼び寄せていることに、言われるまで気がつかなかった。 「ごめんなさい、…」 「寒暖に強い質でも、あんまり涼んでいると風邪を引きますよ」 「ん、…」 王族が人形を夜伽に呼ぶ、あるいは花青宮に渡ってくる、ほぼ毎日のようにそれをしている他の宮の主人でも、それをただひとりの人形相手にしているわけではない。 さすがのエルシェリタも毎日ルシエを召し上げたりはしないが、それに近いものはあった。 他の人形に比べて、主人と過ごす時間は極めて多いだろう。ただしそれでもエルシェリタはマメに己の部屋に戻るし、人形との時間をだらだらと自堕落に過ごすこともない。 それが主人として良いのか悪いのか、一概に語ることは出来ないだろう。 人形によって、主人に対する想いは違う。 もちろん人形に対する主人の考えも、様々だ。 花青官任せにせず何かにつけ構うエルシェリタは、人形を道具や使い捨ての愛玩物とは思っていないはずだった。だが人形は愛人でも恋人でもない。正式な配偶者は人形にならなければなれないが、人形には服従と支配が付きまとう。 もう自由にして欲しい。 そう願うことなど、数え切れないほどある。 それは不思議と、きつい仕打ちを受けているときも、こうして穏やかなときが流れていればいるほど、つよく感じた。人の気持ちは永遠ではなくて、数多の人形を抱える花青宮暮らしが長くなれば長くなるほど、身につまされる。 どうせ捨てられるなら早い方がいい。 月日は情を湧かせる。それは嫌だった。 「…ルシエ?どこか体が痛みますか?」 「ううん…」 怠いだけで、つよい痛みはない。 首を振ったルシエは主人の胸もとに体を押しつけた。温もりが混ざり合うようにぴったりとくっつく。つねにない甘えた仕草にエルシェリタはわずかに片眉を上げたが、問うことはなかった。 夕方、陽が落ち始めた頃になって着いたマヴィエスト城は、北の森の中に埋もれるようあった。 マヴィエスト城は第1王子の私物で、細い尖塔が幾つも並んだ端麗な城である。灰色の石を積み重ねて設えられた城は雪が降り積もると、その姿を雪の中に隠してしまう。その為、地元では雪幻の城とも呼ばれているようだった。 そこには何日間か滞在することになっていて、数日経てばルシエはすっかりその城に慣れた。 「書庫があると聞いたのですが、どちらでしょうか」 「そちらの廊下を右に、突き当たりまで進んでいただいた後、左に進んでくださいませ。その先が書庫となっております」 「ありがとうございます」 主人のいない城を管理するため、老夫婦が城に住み暮らしている。 もともとは王宮に勤める侍従であったのだという白髪の老紳士は、人形の問いかけにも優しい微笑みをうかべて答えた。 力仕事など外から通って貰っている人はいるようだが、殆ど全ての仕事を彼らでこなして、城を維持しているのだという。 素朴で飾り気のない人柄は好感が持て、ルシエには何とも嬉しかった。考えてみれば花青宮には限られた人しか訪れないし、旅には多くの人が同行しているといえ、人形が直接話しかけることはできない。 老夫婦の人柄の良さは他の人々にも伝わるようで、城に着いてからまだそう時間も経っていないのに、まるで長く住み暮らした我が家のような安心感がそこかしこに漂う。 ルシエは礼を言い教えられた通りの道を辿る。 今のマヴィエスト城には王子一行と老夫婦がいるだけなので、ルシエは城内では花青官を伴わずとも好きに歩いて良いことになっていた。本来なら旅先だからといって、そのような特例が認められることはないが、きっちり独立した造りの花青宮ならともかく、開放的な城内でルシエが自主的に慎むとは主人さえ思っていないらしい。その許しはあっさりと出た。 地方にある小さな城なので蔵書には余り期待をしていなかったものの、実際書庫に入ってみると、ルシエの胸は否応なしに高鳴った。 「すごい。地元の風土記がこんなに」 土地土地に合った術というのがある。 それを知るのに風土記はなかなか使い出があった。 こういうときのルシエは自分が人形だとか、誰かに見つかったら叱られるのでは、といったことが頭の中からきれいに抜け落ちる。 さっそく幾つか抜き出してきてひらいたルシエにはもう何の音も聞こえない。ただ夢中になって読み耽った。 |