*注意* このお話には排泄表現があります。苦手な方は回れ右でお願いいたします。 「離せ、離せよ…ッッ」 理解できないままだった。なぜ、ここにいるのか、あのような人々に囲まれているのか。ルシエの胸の奥はさざ波立ち、常に揺れの収まらない船の上にいるようだった。 船上に飽きれば、海風に混ざればいい。舟は疲れた時に体を休める場所。何ものにも縛られない、それが渡り風なのではないのか。 幾らか後に成人の儀を控えていたとはいえ、ルシエはまだ子どもだった。 けれどそれが何かの免罪符になるかと言えば、何にもならない。強いて言えば子どもであったからこそ、耐えきることが出来たのかもしれない。 すべては終わった後。荒波の中ではまともなことなどなにひとつ考えることは出来なかった。 俯せに押さえ込まれた体をめちゃくちゃにばたつかせ、ルシエは肩や足を押さえる何本もの腕に抗う。 白い独特の衣装を身にまとった男たちの服には、9つの花びらをあしらった花青紋が縫い取られていた。それは花ではあるが、風や水のような姿にも見て取れる不思議な紋様で、ひとりずつ異なった雰囲気を持っている。 より複雑な形を持つものほど、上位の花青官であり、この場に揃った者たちはすべてある一定よりも上の紋様を持つ者たちであったが、そのようなことをルシエが知るわけもない。 床の上に押さえ込まれたルシエは素肌に触れる手袋越しの手のひらや、窓ひとつない室内にこもる濡れた空気に体を震わせる。 全身の何もかもを見ず知らずの相手に見られ、それどころか幼げな色を残した少年の証までもくまなく触れられる、それだけでもひどい苦痛だった。恥ずかしさに堪えきれず伏せた瞼の裏に白い光がちらつき、目眩がする。 ぽろぽろと涙を滴らせ、ルシエは冷たい床の上に火照った体を押し付けた。 「もう…ゆるして…」 「あともう少しですよ、ルシエさま」 「そうです、今日で5日経ちましたよ。後もう少しのご辛抱です」 「さあ、お腰をあげてくださいませ」 うつぶせの姿のままやや膝を立て、腰を持ち上げられる。手足を押さえた腕を振り払おうとするものの、それらは想像以上につよい力を持ってルシエの動きを阻んだ。 彼らは体の仕組みもはたらきも全て熟知しており、ほんのわずかな動きでもって抗いを制する。彼らは玄人であり、ひとつの間違いもないよう、細心の注意を払ってルシエの肌に触れ、声をかけていた。 後孔にごく細い棒をあてがわれると、少年の背が捩れ、かすかな悲鳴がこぼれる。 ひとりが棒を操り、ひとりの花青官が宥めるように肩を撫で、ひとりがやさしく涙を拭う。ルシエ1人のためにこの場には8人の花青官が揃っていた。 精一杯力を込めて抗うが適わない。奥まで入り込んだ棒がかちりと音をたて、先端に付けられていた小さな丸い珠が落ちる。 「…いや、いや、…ッ」 内襞の熱が珠を溶かしはじめると、みるみるまに玉のような汗が滴った。 熱く、痺れるような痛みに続き、体の中にあるものがきしきしと音を立てて捩れるような不快感が襲う。 全身を押さえ付けていた腕が離れても気づくことが出来ない。 人形になるための儀式にいったいどのようなことが行われるのか、それは秘中の秘である。ルシエ自身、今己に何が起きているのかを正確に把握することは最後までなかった。 珠が溶けきり、内襞が吸収しきれなかった分がつう、と内ももを伝う。 その頃になると痛みは遠ざかるが、雫が肌を流れる感触にルシエは肌を粟立てさせた。じんわりと広がっていく熱に下肢をもぞつかせ、息を上げる。 花青官の手が肌の弱いところを探すように撫でさすり、胸の尖りを摘まれ、時には爪を立てられると、頭の奥が痺れ、浅く屹立した自身からとろりと蜜が滴った。 否応なしにわき上がってくる心地よさとそれを上回る快感をどうやり過ごせばよいのか分からず、唇を噛めば指で解かれ、爪を立てればやんわりと手のひらでくるまれ、逃れられない。 「あ、あー…っっ」 今回の仕立てでようやく初精を迎えたルシエが、彼らの手管に歯向かうことなどできるはずがなかった。 あっという間に昇りつめ白い雫を散らしてしまうが、本来ならそれでいったんおさまるはずの熱が引くことはない。愛撫の手が止まることもなかった。 極めさせられる度に嬌声で喉を嗄らして、けれど少しも満ち足りることが出来ない。懸命に求めるがそれが何か分からず焦り、すすり泣く。 花青官たちは優しく、そして容赦なく、ルシエを人形につくりかえていった。主人のためだけの、たったひとりの人形に。本来ならひと月かけてゆっくり変化させていくところをたった10日で急激につくりかえる、それがルシエに求められたことだった。 通常なら大して違和感なく施術が進み、最後に主人の気と精を注がれることで仕上がるが、この場合、仕上がるまで花青官と主人が付きっきりで施術を行っていかなければならず、人形にかかる負担も大きかった。 人によっては体質などが合わず、仕立てを済ませられずに人形になれない、という時がある。しかし短い期間で行う仕立てには中断も加減も認められず、最悪施術を受けていた者は狂うか死か、そういった危険性さえ孕んでいた。 ただし通常のやり方よりも、成功さえすればより安定した体になる。仕立てがまずいともとの体に戻りにくくなったり、どこかしら不具合がでたりするが、そういったことが少ないのもまた事実であった。 この方法で仕立てを行うことに決めたからには成功させなければならない。 念入りに場所を選び、準備をしてきた主人と花青官たちは人形の仕立てを成功させるための方法を事細かに決めてあった。 この仕立てに加わった花青官はすでに何人もの施術に加わり、難しい事例も成功させてきた者たちだけで構成されている。複数の宮から選ばれた精鋭であり、ただ施術の腕が良いことだけではなく、人格的にも問題ないとされた者だけが選ばれていた。 施術の失敗などということにならないために、考え得る危険は全て省いたためである。だが幾ら手を尽くしても、だめなときはだめだと、花青官たちは理解している。その為、1日1日がルシエにとっての正念場であり、花青官たちにとっても日々すべてが真剣勝負の戦いであった。 「よくがんばりましたね、ルシエさま。さ、こちらにいらしてくださいね」 1日がとても長くて、いつ終わるのかも分からない。 繰り返し行われる苦痛と快楽に疲れ果て、指先ひとつ動かすこともままならない人形に花青官たちはやさしく声をかける。抗う力をなくし、わずかにみせる怯えは注意しなければならない変化だ。丁寧に湯をかけて和らぎ、抗ってつけた傷に軟膏をすり込んで、必ず誰かが共寝する。ひとときの安らぎに包まれるルシエに対し、花青官たちは休むことなく次の行程を話し合った。 激しい怒りや苛立ち、あるいは嘆きは体力を奪う。かといってすべてに諦めを覚えれば、気力を失って変化についていくことが出来ない。 難しいところだったが、花青官たちは注意深く見守り、必要な施術を確実に進めていた。 彼らの想定よりもルシエはしたたかである。朝になれば牙をむき出して威嚇する小さな獣のように暴れ、大人しくなったと思えば、驚くほど知恵を回して逃れる術を見つけ出したりする。 どんな場所からでも這い上がってこようとするつよさはあまりに強固すぎると危うさを含んだ諸刃の剣だが、ルシエの場合、しなやかでつよい。浮き沈むこともあれば、曲がることもある柔軟さを兼ね備えているようだった。無言の瞳に見据えられ、内心たじろいだ花青官も多い。だがそれで手をゆるめるほど、彼らは甘くはなく、また彼らの背後には更なる強者が控えていた。 「良いと言ったもの以外、口にしてはダメだと言ったでしょう」 「………知らない」 「知らないはずはありませんよ。ひどいまずさだったでしょうに。水でさえ、特別に用意したものしか受けつけなくなっていると教えましたね?」 「おまえが悪いんだ。ぜんぶ!…ぜんぶだっ」 自分の主人になるのだという紅い瞳の男を睨みつけ、ルシエは込み上げる吐き気によろめいた。もうさんざん吐いた後だというのに、少し動くと胃がけいれんを起こしそうだった。たったひとくちのお酒を口にしただけだったのに、ひどいものである。 まさかこれほどのことだとはルシエは思っていなかった。 ダメだと言われると無理矢理でも歯向かいたくなる。ただそれだけのことだった。幾らこれみよがしに男が酒を飲んでいたにせよ、ほんのわずかに見せた隙が故意だったにせよ、あまりに酷い結果であった。 完全に体が変われば、人形になればとということだが、元に戻ると言われているものの、とてもそうは思えない。それほどの苛烈な拒絶反応であった。 「早く異物を抜かないと、たいへんなことになりますからね。自分でしでかしたことなのですから、我慢できますね」 「………っ」 花青官たちによって手際よく床に押さえ付けられ、固い管の先端が後肛を割って圧し入れられる。不快感と痛みに慣れることなどできるわけがない。 管の先から大量の薬液を注ぎ込まれ、ぽっこり膨らんだ腹は重苦しく、ぐぅと嫌な音をたててじっとりと冷や汗がうかんだ。 「ルシエさま、お口を開けて下さい」 いやだと首をそむけるルシエはかたく唇を引き結んでいる。 「ルシエさま」 「ルシエ、あなたのその気の強さには、本当に感心しますよ」 美しい顔で微笑みをうかべた男をルシエはきつく睨みつける。 特別な円術を床に仕込んである部屋は、すでに幾度となくルシエに悲鳴を上げさせ、泣き声をたてさせた場所だったが、花青官の衣とは違う、艶やかな色で染められた長衣をまとった男は、こんなところにいてもそこだけ切り取ったような澄みきった気配を漂わせていた。 「苦しいのでしょう?」 「……っッ…」 痛む腹に触れた手のひらが腹をこねまわし、痛みを更に際だたせる。 少しでも気がゆるめば洩れだしてしまう。まとわりつく手を振り払うように身を捩るが、弱り切った抗いなどものともせず、離れない。 苦痛に歪む眦から溢れ落ちる涙を舌で舐めとりながら、エルシェリタは人形の固く張り詰めた先端から滴る蜜を指先に絡め、わざとくちゅくちゅと音を立てていじる。羞恥のあまり耳を塞ごうとした手はやんわり掴まれ、いじられている手もとを無理矢理見せられてしまう。ルシエは息をのんだ。 すぐに固く瞼を閉じても、脳裏にはり付いて拭い去ることが出来ない。あまりに淫らな姿だった。屹立した全体がしとどに濡れ、長い指先が先の割れ目に軽く爪を立てただけで歓喜の涙をこぼす。その度に奥孔がひくつき、腰が揺れるのも止めることが出来ない。 喘ぐ合間に匙を使って口から含まされる薬が否応なしに体の熱を高め、淫らな感覚を呼び起こさせていた。 否応なしに高められ、きつく反り返る先から精が迸りそうになると、双実を握り込んできつい痛みをもたらされる。そのため、いつまでも極めることができない熱がルシエを苦しめ、焦れさせた。 はやく。はやく。それだけしか考えられない。そのことがルシエを打ちのめす。淫らになることには際限がない。 何度も繰り返し限界を知らせる波が来て、血の気が失せた唇は白くかさついていた。堪えきれなかった分が生暖かい感触を伴って太腿を伝い落ちるのが、惨めで、情けなくて、決して床を汚すまいと歯を食いしばるが、苦しさに涙が止まらない。 「花蜜を混ぜてありますから、甘いでしょう。さあ、もう少しいただきましょうね」 すすり泣き、縋り付く人形を抱きかかえ、責めの手を止めた男に花青官から小皿が渡される。すでに舌が鈍くなるほど与えられていたのに、更に差し出される薬入りの蜜をルシエは絶望した瞳で見つめた。 美しい男は匙ですくったとろりとした液体を顎をとってひらかせた口の中に運ぶ。嫌がって顔を背けようとするが花青官たちに押さえられているため動かすことは出来ない。 吐き出せないよう喉の奥に流し込む手際の良さはいったいどこで身に付けたものか、エルシェリタは唇の端に垂れた僅かな蜜を丁寧に指先で拭った。 「そろそろ限界のようですね。どうして欲しいのか、きちんと口で言わなくてはいけませんよ」 「……ぁ、あ…」 だしたい。早く終わらせたい。 でももうほんの少しでも力がゆるんだらお終いだった。 「さあ、これをまたいで。ここにするんですよ」 手足を縮め、うずくまるようにして強張る体を男は優しく床に下ろす。 背もたれのない椅子にルシエを座らせ、エルシェリタは悪戯な手つきで背後からルシエの首筋に唇を押し付けた。椅子の底板は円く穴が開いていて、箱がはめ込まれている。 どうして。とルシエは潤んだ瞳を美しい男に向ける。 反抗心も自尊心も粉々に砕かれているのに、それ以上何を望むのかと。もう充分だろう。従えというなら従う、それだけで済むはずだった。それなのに男はまるで足りないというように残酷な言葉を吐くのだ。ルシエには理解できなかった。 「も…ゆるし、て…怒らせた…なら、謝る…から……」 「怒ってなどいませんよ。かわいいルシエ。ああ、ツィーツェに手伝って貰いましょうか。自分では出来ないようですからね」 「いや…、いやだ……、……あ、ぁッ」 止める間もなく正面から花青官の手でぐいと腹を圧される。耐えられなかった。 激しい破裂音と共に水が跳ねる音が響く。 ここ数日、まともな食事を取っておらず、特別に混ぜ合わせた薬液しか口にしていないため、腹の中から汚物が垂れ流されることはなかったが、だから良いというものではない。人前での排泄行為であるからにはひどい恥辱をもたらし、最後のひとしずくまで薬液を吹き零してしまうと、ルシエの体から力が抜けた。しかしそれが終わりではないのだ。 弱々しく涙をこぼしながら始末を受け入れ、ルシエは浅く息を吐いてぐったりと男の腕にもたれかかった。 まだ人形ではない。 まだ人形ではないから、男の手はどこまでも冷ややかで容赦がないのだ、ルシエはそう思わずにはいられなかった。 残酷な仕打ちをうけても、うちひしがれる暇はない。 人形としての仕立ての中には、主人を喜ばせるための性技の仕込みも含まれる。主人の前に人形として出る時にはおおよそ好みに仕上がっている、そういったものだが、ルシエの主人はそれをただ待つような人ではなかった。 ルシエにとっては全く不幸なことに、彼は自らこまごま手を焼くことを面倒だと思ったり、その為の時間を割くことを惜しんだりしない男だった。 「ルシエ、奥がちりちりとするでしょう?今日の香油にはハーディアを混ぜているからですよ。刺激感が薄まれば、いつもより少し敏感になれますからね」 「…あ、ぅっ、…ッ」 2本の指が窄まりをひらき、たっぷり垂らした香油を広げるように蠢くと、ふわりと熱がふくれあがる。 エルシェリタの手によって無垢だった体は歓びを覚え、未だ固さはあるが、欲望を受け止めるやわらかさを得るようになっていた。 ルシエの中に塗り込まれたハーディアの香油は、口に含むと独特の清涼感を発する植物の液を混ぜてある。貴人の閨では好んで使われるもので、交わりになれない相手に対し、優れた役目を果たすものだった。奥に塗り込めると痒みと疼きをもたらすためで、ごく薄くつくってあるものでも、そういった類に免疫がないルシエにはつよく効いた。 寝台の布をきつく握りしめ、熱に潤んだ瞳を瞬かせながら、ルシエは上がりそうになる声を必死に噛み殺した。仰向けにされたまま、足を開き、後肛を指でいじられる、己のその姿を脳裏に浮かべるだけでも羞恥に思考や灼き切れてしまいそうになるのに、それを上回ってあまりにある疼きがルシエを翻弄する。 罵りの言葉は喘ぎにすり替わり、痛みに引きつらせていた頬が歓びがもたらす熱で朱く上気すると、エルシェリタが優しく頬を撫でて、火照りを確かめるように額に額をこつりと触れ合わせた。 「ルシエ、言ってご覧なさい。あなたは私の何でしょうね」 「っ、あ、あ…ぅ、んんっ」 奥まで挿れられた指が引き抜かれ、入口に触れながら浅く出入りをはじめると、涙がつうと頬を伝った。 その指に沿うようにあてがわれたエルシェリタ自身がくちくちと襞の縁を拡いては離れて、怯えと焦りがルシエを満たす。 揺らしそうになる腰を必死に留めながら、ルシエは繰り返し耳元で囁かれた言葉を反芻しなければならない。そうしないと決して許されないと知っているから、熱にうかされちりぢりになった思考をかき集めて、答えを導き出さなくてはならなかった。 「ルシエ」 「に、…にん、ぎょ、う…」 「もっとはっきり言えるでしょう」 「人形…で、す、…」 「よく言えました。ご褒美をあげましょうね」 「…ん、ん…ああー…っッ」 指が抜かれ、その何倍もある熱い固まりをぐっと圧し挿れられる。 どくどくと小さな心臓のように脈打つような大ぶりの男をルシエは懸命にのみ込み、相手の背にしがみついた。 内臓を圧し上げられるような異物感に喘ぎ、ぽろぽろと涙をこぼすルシエは、奥襞から湧き上がる掻痒感と歓びに身を捩る。 「い、いや、あ、あ…」 まるで凶器のようなそれに襞を抉られながら、頭の芯が融けてしまいそうだった。 嬌声をこぼす喉に噛みつくような口づけを与え、胸の粒を押しつぶし、爪を立て、肌という肌をなぶり尽くしながら、激しい注挿を繰り返す。エルシェリタには飽きるという言葉がない。 夜の営みなど何も知らなかったルシエに想像を絶する悦びを与えながら、エルシェリタたちは少しずつ、人形の誓いの言葉を口にさせていった。たとえそれが殆どうわごとのようなものだったとしても、特殊な術が施された中で行われることには意味が伴う。 誰にも止めることは出来ない。 ルシエにはもう、人形になる以外の道は残されていなかった。 来る日も来る日も終わることがないように思われた日々に終止符が打たれたのは、まさに10日目。花青官が告げる宣言によってだった。 「初珠でございます。おめでとうございます」 それはルシエが人形になった、証だった。 |