「いやっ、あ、あ…っ」 改めて奥へと穿たれると、繰り返される行為に慣れ鈍り、感覚が弱まりだしたはずの奥肛が熱を搾り取るようにわななく。 すでにどれほどの時間、数え切れないほど体を繋ぎあったというのに、ルシエの体は満足することを忘れてしまったように餓え、エルシェリタもまた、はじめの頃と全く変わらない動きでルシエを責め立てる。 ふだんなら、ルシエの体力の方が先に尽きてしまって到底応えられるような状態ではなくなるのだが、戻しの影響のせいか多少の気怠さはあっても、それに勝る悦びがルシエを支配してしまう。 「ルシエ、喉が渇いたでしょう。水を飲みなさい」 「ひっ……う、…」 背後から体を繋がれたまま俯せていた体を起こされたルシエは、細い首筋を喘がせ、月色の髪を振り乱しながら、後肛にのみ込んだ主人が己の敏感な部分を抉られて悲痛な声を上げる。全身を侵し突き抜けてゆく官能の波に堪えきれず眦から涙をあふれさせて、朱く火照らせた頬を濡らした。 感じ極めすぎて気が狂いそうだった。 けれど頭の芯はどこかしんと清みきり、ぎりぎりのところでルシエを正気に戻す。 汗ばんだ手足にはりつく髪を払ってやりながら、エルシェリタは水を満たした手杯をルシエの口もとに近付けた。 すこしひんやりとした水は喉通りが良く、ルシエは最後まで夢中で飲み干した後、徐々に固く芯を持ち出す体内の欲望に怯えたように背を震わせた。 「も…もう…ゆるして……」 「そんなことを言って、まだ足りないでしょう?」 つねよりも少し掠れがちの声が唯一これまでの振る舞いを物語っていたが、起ち上がりっぱなしの先端から途切れなくこぼした蜜で体を汚し、泣きはらした顔を晒すルシエとは違い、わずかに目元を朱くしながらも、エルシェリタの端正な面差しはひと筋の疲れも淫蕩な雰囲気もない。 ルシエにはそれが信じがたく、自分だけが乱される恥ずかしさと相まって、ひどく恨みがましい気持ちになったが、ほんのわずかに腰を揺らされただけで甘い喘ぎがこぼれだすのを止められず、ぎゅうっと己の体を主人に押し付けて新しい蜜を先端の小さな孔からあふれさせた。 「あ、ぁ…ふ…」 わずかな動きでルシエを責めながら、手杯に新しく注がれた水を口にし、空にした器を戻しながらよりいっそう深く腰を進めて、自身を包む人形の温かな襞とその震えにうっすら目を細める。 「ルシエの中はとても熱くて、とても心地よいですよ」 「エ、エルシェリタ、や、やだ…」 「分かりますか。いやらしくひくついて、奥へ導こうとするんです」 「あ、あああー…っ」 よりいっそう奥深くまで主人が入り込んだ途端、すり切れたように痛む細い道から透きとおった薄い蜜を迸らせたルシエは、がくがくと背を震わせ、寝台の上に倒れ込んだ。 しかし達したのはルシエだけだったから、主人のものは依然恐ろしいまでのはりと固さを誇っている。再びじわじわと込み上げる快感の兆しにルシエはおののいた。 「も…抜いて、ください…お願い…」 「これぐらいのことでそんな泣き言を言ってはいけません」 「でも、…でも……」 浅くゆすられただけでも、頭の中がぐずぐずに融け出していくような感覚に満たされて、どうすればよいか分からない。 惑乱したように体を震わせる人形に小さく苦笑をこぼし、エルシェリタはそっと体を離した。自身を抜き去ると、鮮紅色の後肛から白い精がとろりとあふれ、まるで抜け落ちたものを惜しむようにひくつき、そうっと閉じようとする。 想像以上にいやらしい姿をさらしていることに気づかず、ルシエはようやくほっとこわばりを解く。 けれどそうしたのも束の間、じっと横たわっているだけで埋め火を熾されたように全身が火照り始めて、胸の奥から熱い吐息がこぼれだしてしまい、辛い気持ちに拍車を掛ける。 ぴんとそそり立った先端からつやつやした蜜があふれ、ずっしりとした高ぶりを失ったばかりの後肛の襞がざわつきだすと、ルシエは唇を噛みしめ、敷布をきつく握りしめた。 「辛そうですね」 「や、う…ぅっ」 体を横たえ、背を丸めようとするルシエを上に覆い被さったエルシェリタは、白く輝くような肢体が独りでに乱れていくさまを心ゆくまで眺め、舌先を胸の尖りに滑らせる。 「…や、いあぁ…ふ、…んん」 かすかに浮き出した肋骨を撫で、小さな粒がぽってりと腫れるまで舐めなぶり、歯を立ててはむ。胸を弄られただけで体を跳ね上げ、ますます蜜をあふれさせた体をたっぷり愛撫しながら、エルシェリタはほっそりした体を余すところなく指や舌で辿る。 上にのし掛かってきた主人の体をどうにかのけようと腕を突っ張らせながら適わず、ルシエは甘い喘ぎ声をもらし、どうしようもなく息を上げた。 「エル、シェ…リタ…や、あ、あぁ…」 「胸の尖りが可愛くふくれてきましたね。あんまり愛らしいから、つい咬み千切ってしまいそうになりますけれど、なくなったら悲しいのでしょうね」 視界を濡らしながらルシエはこくこくと頷く。 そんな真似をするわけがないとは思っても、きつく歯を立てられて胸の粒を捻られると、鋭い痛みと共に恐怖が込み上げて、気持ちが竦む。男のルシエにはとりたてて必要のない部分でも、快感を覚えたそこはむしろルシエの弱みのひとつになっていたものの、戯れに咬み切られては堪らない。怯えるルシエをやさしく舐めなぶって、エルシェリタは胸もとから顔を離す。 「そう、ならば別の場所にしましょうか」 「ひ、あぁ…ぁ…ッ」 胸もとを離れ、下肢に下がった唇が蜜を滴らせた窪みを啜り、舌先でつついて、更にあふれてきた蜜を口の中に含む。 まさかと思った瞬間、主人の口腔に自身を包まれたルシエは、衝撃の余り喉を引きつらせ、銀色の髪の中に手のひらを埋めた。 「や、あぁー…っ、やあ、…っ」 圧倒的な威力と壮絶な刺激をもたらす巧みな口淫に絡め取られ、目眩がするようなつよい快感に全身をぶるぶる震わせながら、ルシエは呆気なく飛沫を散らしてしまう。 「千切らないで…お願い…、咬まないで…っ」 行き過ぎた悦びがルシエに痛みをもたらし、切れ切れの懇願を口走らせる。 咬み千切りたいと囁かれた胸の粒よりもそこは敏感で、紛れもない急所である。冷静さを失ったルシエは救いを求めるように主人に縋り付いて、肌と肌が重なり合う熱さに身じろぎながらも、逃げようとしている相手に自らしがみついていることに気づかず、か細い声で許しを訴えた。 「エル…エルシェリタ…様…、どうか…どうか…」 「素直に欲しがってごらんなさい。そうすればもっと楽になれますよ」 「ん、んう…ふ、あぁ、っ」 「それとももっと、ひどくなぶってほしいのですか」 「やあ、も、…もう、あ、う、…う」 今すぐにだって止めて欲しいのに、指先が離れれば心臓が締め付けられたようなさびしさに苛まれ、自ら擦り寄らずにはいられない。 握られた片手を指先でくすぐられただけでじんと前方が固くはりつめてくる。 それでも決定的な言葉をルシエはなかなか口にすることは出来ず、浅く触れては離れていく指先にすすり泣きを零した。 やんわりと耳たぶを舐め、咬みながら、エルシェリタはそっと囁きを与える。 「……で、…ょう」 それは恐ろしいほど淫らな囁きだった。常日頃のルシエなら耳を塞いで、声を荒げて拒むぐらいのものだったが、睫毛に涙を絡めたまま、こくり、とルシエは頷く。 はっきりとした言葉をつくれなくても、それがルシエの精一杯の素直さで、堪えることに疲れ切ったルシエの正直な願いである。エルシェリタは落ち着きのある美しい顔に微笑みをうかべ、すでに幾度目か分からないほど繋がった箇所へ己をあてがうと、一気に入り込んだ。 薄味のとろみのあるスープと水を与えられながら、細切れの睡眠を取り、起きている間の殆どを喘ぎ極めることに費やす日々は数日間続いた。 もはや体が求めているのか満ち足りたのかも分からない。 喉はひりつき、節々が痛んで、全身が石に変わってしまったような重さがある。 花青官たちの手を借りて湯を使い、丁寧に水気を拭い取った体をエルシェリタに抱きかかえられて寝台に戻っても、ルシエはなすがままだった。 湯を使っている間に取り替えられるものをすべて取り替え、清潔な布が敷かれた寝台に横たえられたルシエは、布が持つ冷たさに安堵の息を吐く。 「ルシエ」 うとうとと微睡んでいると、ルシエを寝台に寝かせてから、改めて湯を浴びに行ったエルシェリタが戻ってくる。 エルシェリタは力なく横たわったルシエに微笑みを向け、ルシエの背の下に腕を入れて抱き起こした。 エルシェリタは薄い夜着を身に付けていたので、このまま眠れるのだろうとまどろみに落ちかけていたルシエは、少し不機嫌な様子で眉をひそめた。 これでも眠れないわけではないけれど、1度邪魔されると妙に目が冴えてしまう。唇を尖らせ、半ばぐずるような声をあげたルシエは、不意に慣れた違和感を覚えて身をこわばらせた。 下腹部のわずかな膨満感とぴりっとした痛み、尾てい骨から広がる重さと背筋の痺れ。急いでルシェリタから離れようと腕を突っぱねたものの、逆によりつよく抱き締められ、向き合う形で抗いを封じられる。 「は、…は…、…」 瞬く間に息が上がり、ぞくぞくとした快感に打ちのめされる。ぐう、と胃が迫り上がるような苦しさに身を屈め、ルシエはえづいた。 エルシェリタはルシエの背をさすって落ち着くのを待ってから、その身体を抱え直す。 「な…、んで……」 その違和感にも、体の火照り方にも身に覚えがある。 ある意味慣れ親しんだ感覚ではあったが、ルシエはすぐに受け入れることが出来ず、蒼褪めた顔で己の腹部に手をあてた。 「少し大きいようですね。調べておきましょうか。…ツィーツェ」 「はい」 「検珠の支度を」 「かしこまりました」 「ルシエ、今ツィーツェが調べてくれますからね」 「……っ、あ、や、…っ」 手早く支度を調え、寝台の上に上がったツィーツェに顔が向くよう抱え直されたルシエは、身体の奥からあふれ出てくる歓びに頬を朱に染めながら、抗いを封じるために触れてくる主人の肌に背を押し付けた。 体を捩ると、腹の奥に潜む珠の存在をまざまざと感じ取ってしまう。 ルシエに歓びを与え、快楽を滲ませ、人前で漏らす洩らす恥辱を与えるもの。 ツィーツェは肘まで消毒液に浸してから、水気を術で払い、両膝を付き合わせ、敷布に折り曲げた足を付けるような格好でしどけなく座り込んだルシエの正面に移る。 左右からもう2人の花青官が寝台に上がってツィーツェを手伝い、複数の小瓶を注いだどろりとした液をツィーツェに渡す姿を目の端に捉えたルシエは、狼狽しきった顔でゆるゆると首を振った。 「いや…、やだ、やめて、…やめさせて」 「大丈夫、すぐに済みますよ」 「おねがい…、ふ…んうッ」 かちかちと怯えの余り歯を鳴らすルシエの腕を取り、もう片方の手で顎を摘み上げ、振り向かせたエルシェリタは、蒼褪めた唇に口づけを落とした。 舌を絡めて吸い上げ、歯列をひとつひとつなぞるように丁寧に舐めなぶっていくと、ルシエは次第に息を上げて、おずおずと応える。 孕んだ珠によって疼き気味だったルシエの体が思い出したように、快楽を貪りだしたのを見て取ったツィーツェは、今のうちだというエルシェリタの目配せに応えてそっとルシエに歩み寄った。 手のひらを浅く上下する白い下腹部にあて、短く力ある言葉を紡ぐ。 「……、あ、あああああー…っ」 少しずつ、ほんのごくわずかずつ、ツィーツェの腕がルシエの肌を傷つけることなく、肉を切り開くことなく、押し込まれていく。 ルシエは悲痛な叫び声を上げて、己の体に伝わる異様な感覚に血の気を引かせた。 やがてツィーツェの指先が、少しずつ形を持ち出した珠に辿り着く。ルシエはびくりと背筋を震わせた。 それに神経が通っているわけではないのに、指先が表面を撫でる様子、弱く紡いだ力を針のように使って探る様子までまざまざと感じ取って、おぞましさに細く喘かずにはいられない。 「どうです、ツィーツェ」 「双珠でございます。どちらも表面に歪みはなく、6分ほど仕上がっております」 「自然に分かれた双子珠とは、珍しいですね。生めそうですか?」 「可能でございます」 「い。…い、や……」 あっさりとしたツィーツェの応えに声を上げたルシエを、エルシェリタは優しい顔で見下ろした。ツィーツェの腕が離れるのを待って、顔と顔とを向き合う形に戻す。 「きっときれいな珠ですよ、ルシエ。どうしても流したいと言うのなら、止めはしませんが。ふたつ分の流しは少し辛いかも知れませんね」 ルシエはふるふると首を振って流したくないと訴え、しかし孕んだ珠がふたつというのなら、いつもひとつでこの世もなくよがり泣いている体に、そのまま倍の快楽が与えられるのかと思うと恐ろしさで身が竦む。 どちらもルシエには到底認め難かった。 「ふ、っ…ぅ…」 蒼い瞳から大粒の涙があふれると、瞳に混ざる銀色がつよくなり、きらきらとした星の輝きを見せる。その様をのんびりと眺め、エルシェリタは目を細める。 すでに神経が灼き切れそうなほどの快楽に身を委ねてきたルシエは、弱々しくすすり泣き、うまく言葉を紡げない。これ以上の責めはたとえ体が保っても、心が砕けてしまいそうだった。 「仕方ありませんね」 このまま術を使って抜き出すこともできるが、その方が負担が大きいために、余程のことがなければ用いない。エルシェリタの決断は早かった。 「香を使いましょう」 「かしこまりました。硅澪と沈迅でよろしいでしょうか」 「ええ、4対6で」 ツィーツェは速やかに指示されたものを香炉にくゆらせ、口もとを覆う形の吸い込み口をつけて、エルシェリタに渡す。配合は慎重さを極めるが、ツィーツェの腕は確かなものである。 エルシェリタは吸い口をルシエにあてがい、時を数えながら数回に分けて香を吸わせる。 意識を鈍らせ、痛覚を鈍くさせる香だ。それほどつよいものではないので効きは浅いが、反作用がなく、人形には合いやすい。 「ルシエ、できますね?」 「ルシエさま、お体の力を抜いて。花珠を外へ出してあげましょう」 必要以上にぼんやりしないようにエルシェリタとツィーツェは揃って声をかけながら、戻し後はじめてつくられた珠をルシエの内側から外へと導く。 すすり泣きながらも懸命に力み、その日ルシエが孕み落としたのは、殆ど無色に近い透きとおった珠と乳白色の珠だった。 |