「鈴鳴るほうへ」



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「はー…、どうしてボクってこんなに可愛いのかな」
「自分で言うな。ばかか」
「ばかって言うな。でもさ、賛美も聞き飽きちゃった。だいたい蜜珠のことしか言ってないし?」
「ああ、一目惚れらしいからな。蜜珠に」
 真っ黒いのとかじゃなくて良かったよね、とつぶやいたナナセルに傍らの青年が眉を寄せる。
 それはそれで似合うな、という応えが返ってきて不満げに唇をとがらせた。どういう意味、と呟いて、うまく聞き取れなかったらしい顔をにらむ。
「何にせよ、蜜珠ってめんどう。抜いてもらわないといけないし、なんでああいうのできるんだろうね」
「さあ?」
「……あ、それは、魔法の力は丸くかたまる性質がもともとあると聞きました。そういうふうに周りから力がかかっているのもあるし、みつばちの体のつくりはそれをひとつにまとめやすいようにできていると」
 珠守である弟からの受け売りですがと付け加えたすず雪に少年は嫌そうに眉を寄せ、その傍らに腰を下ろした青年は感心したように頷く。
「そういう文献に目を通したことはある」
「あーもー、いいよ。むずかしい話は。まったくさー、すず雪だっけ。君も、いじわるされても黙って従ってる上に変なところへずんずん入っていっちゃうんだもん。どれだけまぬけなの」
「まぬけはないだろう。多少おばかなだけで」
 どちらも言っていることはひどい。
 そう思いながらも、ぽんぽんと交わされる言葉は聞いていて居心地が悪いものではなくて、あいまいな相づちを返しながらすず雪は大人しくだされた砂糖菓子に手を伸ばす。
 モーニー家のみつばちであるナナセルは水色の瞳を魅力的に輝かせながら、ぷうと頬をふくらませて十是(じゅうぜ)家のみつばち、胡はま(こはま)をにらんだ。
「だいたいさー、胡はまってばボクががんばってるあいだに置いてっちゃうし」
「別に平気だったろう。ナナセルはあいつに気に入られてる」
「そういう問題じゃないー」
 むくれた顔でそばにあった砂糖菓子を摘むと数粒を一気に口に放り込む。そうしてその顔をうっと歪めた。
 少しずつ口にするのがちょうどいい強い甘みが広がって喉を灼いたらしい。咳き込んだナナセルに胡はまはしかたないと言わんばかりの顔で自分のお茶を渡す。
「はー…甘い…胡はま、もっと違うお菓子にしてよ」
「いやだ。ナナセル好みにすると塩っけの強いものばかりじゃないか」
「あれはうちじゃ、ふつうのおやつだよ。お酒のおつまみみたいだって胡はまは言うけど」
 白い肌に淡い金色の髪は北の地方に暮らす者によく見られる容姿で、モーニー家はその辺りの有力な貴族だ。
 聞けばナナセルは塩漬け肉や、酒や香辛料を使って発酵させた魚などが好きらしい。おやつはおやつだが、ともに楽しむのはお茶と言うより酒だというからおつまみだといっても間違いはないだろう。
 どうやらこの砂糖菓子は胡はま好みのものだったらしい。彼は小さな白いお菓子を口に運ぶと、少しだけ嬉しそうに目もとをやわらげる。
 同じ日に承認式を迎えた二人は、どうやらもともと親しいらしい。
 聞けば花庭から続く腐れ縁なのだと、胡はまは少しだけ迷惑そうに言う。
 ただそうはっきり言うわりには、胡はまはナナセルのそばにいることが当たり前になっているようで、寄りかかられたり突かれたりしてもされるがままで気にもしていない。
 ナナセルは胡はまのお茶をそのままちびちびと飲み続けて離さないので、胡はまは黙って空になっていたナナセルのぶんを引き寄せ、そこに自分のを新しくいれなおす。
「承認式だって、本当ならおれを待つ必要などなかったろう。ナナセルの目覚めの方が早かったのに仮病を使うから。おかげでおれは、早く初珠を迎えますようにとまわりから祈られるはめになったぞ」
「いいじゃない、もうそろそろだって分かってたし。ひとりで先に花主なんて持ちたくなかったもの」
 ナナセルは胡はまの肩に掛かる真っ直ぐな黒髪を指先にくるくるとからめて、それをぽいっと放る。癖のない髪はそうやっていじられても同じように元の位置に戻って、何ごともなかったように彼を彩る。
 ナナセルが光でつくられた花なら、胡はまはたっぷりと水を含んだ若木のようだった。
 二人ともはっと目を引く容姿にも関わらず、並んでいると不思議と落ち着いておさまりがいい。
 仲がいいなあと思いながら、すず雪は居住まいを正して頭を下げた。
「あの、たすけていただきまして、ありがとうございます」
 あの場からうまく連れ出してもらったことは間違いないし、他のみつばちたちにかまわれているのを気にしてくれてもいたらしい。
 みつばち同士の力関係はよく分からなかったが、この二人はああいったみつばちに大人しく従うような性格ではなさそうだから、それとなく距離を保っているのかもしれない。
「別にあんなのたいしたことないし。君には恩もあるからね」
「……恩、ですか?」
 彼らとは承認式で会ったのはじめてで、その時だって特に話をしたわけではなかった。
 意味が分からなくて首を傾げたすず雪に胡はまは真面目な顔で頷きを返す。
「厄介なのを二人も引き受けてくれた」
「ええと、それは、……」
 まさかと浮かんだふたつの顔に、ナナセルが小さく唇をつりあげる。
「王子と東絃家の二人。ボク、いやだったんだよね。あんなの引き受けたくないし、かといって巡りをするのになんでダメなんだって言われると困っちゃうじゃない」
「おれだってあんなのと縁づきたくない。ろくに本も読めなくなる」
「星映さまも、……谷津江さまも、自分のみつばちになれと無理強いされる方ではないように思いますけれども」
 花を渡して、それを断られたからってそれを逆恨みしたりもしないだろう。
 怖い方たちではないと思いますけれどと呟いたすず雪に胡はまは薄く目を細める。
「あの強い魔法力を恐ろしいとは感じない?」
「ええと、恐ろしいというか……おおきいなあ、とは思いますけれども」
「はあ? にぶいっていうか、のんきっていうか」
「……その。すみません」
「あやまらないでよ。まあ何であれ、ボクはたすかった。だいたい、好みじゃないんだもの」
 好みではない、というのは理由として分かりやすいし、どうやら本音らしい。
 ただそういったことで決めてしまうのはちょっとと口を挟みたがる者が少なからず周りにいて、二人はそれを面倒に感じていたようだった。
 すず雪が彼らを望むなら、それに越したことはないということらしい。その方が周りにうるさく言われなくても済む。
 それは思ってもみなかったことで、すず雪は意外でもあり、同じだけほっともする。
 星映と谷津江のみつばちになるには相応しくない、と少し前にさんざん言われた。確かにそうなのだろう。
 すず雪はみつばちとしての良い振る舞いがなんなのかさっぱり分からないし、二人のような眩さも持ち合わせてない。
 彼らよりも自分の方が優れたところがあるとはとても思えないが、花主を決めるのに、それこそ好みだとか、そう言われるようなところで左右されるところがあってもいいのではないかと思う。
 すず雪は彼らを花主にと望んだことが、何かいけないことだとは思っていないし、そのことについてとやかく言われても困ってしまうのが正直なところではあったから、彼らのみつばちになるだろうと言われた二人にその気がなかったことは、単純に良かったと思えることだった。
「でも意外だったな。お茶の支度なんて、あんなつまらない言いがかりに付き合ってるところも、重ね花にしようとしているのも」
「はあ……」
 みつばちなら誰でもできることだ、と彼らは言っていたが、ナナセルと胡はまはお茶の支度には加わったことがないらしい。呼ばれて出たことはあるものの、あまり興味はないようでやり方もよく知らないという。
 すず雪のぼんやりとした反応に胡はまは小さく眉を寄せる。
「まさか、仮花決めも周りから言われるままに飲んだのか?」
「い、いえ。それは、わたしが選んで決めたことです」
 考えたこともなかったような問いかけに、慌てて首を振る。
 父も兄弟たちも相談には乗ってくれたが、すず雪が選ぶものだという前提を決して崩そうとはしなかった。
 もしすず雪が決めかねるなら先延ばしにすればいいと言っていて、そうなってもいいように支度もしていたらしい。
「お茶は、その、いじわるをされたと分かってはいるのですのですけれども。花主のことに関しては、わたしにも……、気が合う合わないがありますし」
「だよね。でも、すず雪ってすごく大人しくみえるし。言われるまま合わせておけばいいとか、そういう感じかなあってね」
「それは……」
「それとも、他のみつばちなんてどうでもいいっていう? これまで全く他のみつばちとも関わってこなかったし」
 すず雪がみつばち同士の付き合いをしてこなかったのは、外に出ていることを知られたくないということもあったし、実のところあんまり深く考えていなかったというところもある。
 鳴り方としてやっていくので精一杯でそこまで気がまわらなかったというのが正しいかもしれないが、周りから見れば何かと目立つ羽づまの後ろにずっと隠れ続けたまま、好き勝手なことをしているのだと、あるいはそうやって他のみつばちのことを区別して、軽く見ていると感じるかもしれない。
「それを言うなら、ナナセルだってけっこう勝手だろうが。あの人たちの考えてることってわからなーい、とか、すぐ言うし」
「胡はまなんて向こうから遠巻きにされてるくせに。わたくしたちには及びもつかない方だとか言われちゃって。むずかしいことばっかり、考えるのが好きなめんどうくさいみつばちなのに」
「面倒くさいとはなんだ。思索にふけると言うことはとてもすばらしいことだ」
 むっつりとした胡はまはナナセルをにらんだが、おそらく周りが彼を遠巻きにするのはむずかしいことを語るからではなく、彼のどことなく清んだ空気が人を近づけさせないのだろう。
 そばにいてほっと癒されると言うよりは、踏み越えてはいけないきれいな場所をのぞいてしまうような、そんな雰囲気が彼にはある。
 そのことをよく分かっていながらも教える気はないらしいナナセルは、胡はまが眉間につくったしわをひとしきりからかう。
 そんな二人を少しだけぼんやりと見つめて、すず雪はぬるみはじめたお茶に口をつける。
「わたしは、他のみつばちの方とはあまり関わらずにきました。それはよく考えてのことでもなくて、あんまり良いことでもないと言われたら否定はできないのですが。なんだか気づいたら……そうなってしまっていて」
「そうなの? 気弱ってふうには見えないんだけど、うっかり者なのかな。でもさー、こっちに無関心なひとってすごく適当な相づち返したりするし。そういうところもあるんじゃない」
「無関心と寛容さは違うだろう。ナナセルが気が短いからって、気長な相手にやつあたりするな」
「やつあたってなんかないし。気もそんなには短くないし」
 いかにも気短な様子で言い返したナナセルに、胡はまはふんといかにも関心なさそうな顔をうかべる。
 二人がいっとき、そばに人がいるのを忘れたように言い合うのを目を丸くして見つめながら、すず雪は顔をうつむけた。
 ナナセルははっきりとものを言う性格のようだから、すず雪が何かしらぼやかそうとしたり、受け流そうとするのがあんまりおもしろくないのかもしれない。
 ただナナセルは言葉を選んでいるし、すず雪のことが嫌いで、それをぶつけたがっているようには感じられなかった。
 すず雪は少しだけ考え込んで、自分の気持ちと合いそうなものを探す。
「確かにいじわるではありましたけど、やさしいところもある方たちではないかと思って」
「……えっ?」
「徒党を組んで人をくすくす笑うようなやつらだぞ……?」
 ナナセルと胡はまはお互いの顔を見合わせると、自分たちの耳がおかしくなったわけではないらしいと判断して首をひねる。
 そんな二人にすず雪は頷きを返す。
「いい人、とは言えないとは思いますけど、間違ったやり方を教えて後で恥をかかせようというような、そこまでのことはなさらないようだったので。当たりをうまくたどれば、そのうち正しいやり方を覚えられると思いましたし」
 すず雪が知らないことをうまくこなせないのかと言って笑う、そういう小さな悪意をのぞかせたが、正しい手順をこなせればそれを認めはするので、まあ時間はかかるし余計なことが多すぎても、結果的にすず雪はお茶の支度を多少なりとも覚えられた気がする。
 そう応じたすず雪に二人は驚いたような、あきれたような微妙な表情を浮かべ合う。
「のんきなのもここまで来ると……」
「いや、むしろいい性格じゃない。そういうのってボク好きだな」
「ナナセルに気に入られるとはなんと不幸な」
「胡はまは、いろいろと余計」
 不満げに唇を歪めたナナセルは淡い金色の髪をふわりと揺らして、おもしろいねえ…と呟く。
 そのままふっと空の高いところを舞う鳥に目をとめて、小さく伸びをした。
 なんとなくその眼差しの先を追いかけて、すず雪は大きく翼を広げた鳥が伸びやかな声に耳を傾ける。
 音の端がわずかにかすれるのは鳴き慣れないていない若鳥のものだからだろうか。空の中を伸びやかに満たす声は誰かを呼ぶようで、少しだけ胸をふるわせる。
「あれは、ユースクだな。尾羽に少し白さがあるから、雄か」
「……ええ、ずいぶん高くを飛んでいますね」
「そうだね。雲がはやいみたい」
 ナナセルたちといるのは中庭に立つ東屋で、壁のない屋根だけの建物は風をよく通す。
 ただここは魔法の力で囲まれているようで、あまり強く吹き付けてきたものは弱まるよう仕掛けが施されているらしい。
 みつばちのための庭園だからこその魔法の豊かさであり、贅沢さだろう。
 強すぎる陽射しも冷たすぎる風も、ここでは少し遠い。
「すず雪は色んなことを、いったん飲みこんでしまえるのかな。そうしてからゆっくりと考え出す」
「なるほど、牛みたいだな。反芻を繰り返してゆっくりと吸収する」
「…胡はま。そのたとえどうなの。よりにもよって牛、うら若きみつばちに対して、牛」
「牛のどこがわるいんだ。目なんて愛くるしいし食べておいしい」
 いかにも清みきった佇まいで、凛として、水しか口にしなくても平気と言われても頷けてしまいそうな見た目に反し、食べることが好きらしい胡はまはひどくまじめな顔で牛は嫌いか? とすず雪に尋ねる。
 すず雪は笑って首を振り、牛はおいしいですよねと頷いた。
「わたしはぼんやりしてるとか、のんきだとか、よく言われますので、それは直した方がいいところなのかもしれないのですけれども、……良いみつばちや、花主ってどういうものだろうと思うこともあって」
「さあ、分からないな。考えたこともない。ボクは可愛いし? にこにこしてれば大抵の魔法使いは言いなりだもの」
「ナナセルはもう少し考えた方がいい。巡りにするのだって、……」
「みつばちがどういったやり方で花主と付き合っても、かまわないはずでしょ。そもそもみつばちとして長続きするのなんて、ほんの一握りなんだよ。ボクは花主との短いひとときを楽しくやりたいの」
 胡はまはそんなナナセルの考えがあんまり好きではないようだったが、しかたないと感じているのだろう。抱きついてきたナナセルに大きなため息を吐くと、新しいお茶はいるかと尋ねる。
 それにいらないと首を振って、ナナセルはすず雪にやや憂いを帯びた空色の眼差しを向ける。
「すず雪は言われ慣れてなさそうだったから、言うけれどね。蜜珠だけがほしいって言われるのなんて、しょっちゅうだよ。気にしてたらやっていけない」
「……話には聞いていたのですけれど、とても、びっくりしました」
 今までそういうことをはっきり考えたことはなかったし、ああいう形でぽんと向けられてしまうものだとは思ってもみなかった。
 蜜珠ができなければ、みつばちとしては正式には認められない、そういうことは知ってはいたものの、そうなったらいったん師匠のもとを離れなくてはいけないとか、大丈夫だろうかとか、なにしろ出来てみないと分からないことだからそういうことばかり気にしていたのだ。
「みつばちと蜜珠はねえ……まあ、切っても切れない関係だし。ないがしろにはできないんだけど」
「そうだな。君の場合は、おれやナナセルよりもずっとちゃんと考えておいた方がいいかもしれないし」
「ああ、そっか。そうだねえ、すず雪って思ってた以上にみつばちらしいもの」
 思いがけない言葉にすず雪は小さく首を傾けた。
「みつばち、らしいですか?」
 すず雪はあんまりみつばちらしい暮らしをしてきていない。
 それこそ集まりに出ることもはじめてで、そのことが他のみつばちから反感を抱かれる理由のひとつとなったと言えるだろう。
 みつばちらしいと言うなら、すず雪にとってはそれはさきほどまでいたみつばちたちであり、目の前にいるナナセルたちがそれにあてはまる。
 逆のことを言われたなら、たぶんすんなり頷けるに違いないが、自分がそうだというのがうまく頭に入ってこない。
「わたしはまだ色んなことがおぼつかなくて、他の方たちを見習って、みつばちらしい振る舞いを身につけなくてはいけないという思いはあるのですが」
「立ち居振る舞いのことじゃないよ。その辺もうまくやれるんだろうって気がするけど、花師たちが優しいんじゃない? 君自身もそのことにそれほど抵抗がない」
「花師は総じてみつばちには優しいもの……だと」
 確かに彼らはすず雪を大事にしてくれている。
 けれどそれはごく自然な範囲に収まる程度だろう。彼らが他のみつばちに接するところを見たことはなかったが、誰にでも同じようなものだとすず雪は何の疑いもなく思っていたし、とりたてておかしな扱いは受けていないとも感じる。
「いや、確かにそうとも言えるが、おれやナナセルなんかにはわりと素っ気ない」
「ボクらはあんまり花師のいうこと聞いてないしー、放っておいても平気ってとこもあるしー」
「あの……、それは…その、どういうことでしょうか。わたしには、よく……」
 話がうまくつかめない。
 口ごもったすず雪に二人は顔を見合わせると、ゆるく首を振った。
「おかしなことを言っちゃったな。ごめん、気にしないで。何だかそののんきな顔を見てたら、つい。すず雪ってみつばちの友だちなんていないでしょ? ボクがなってあげるから、またお茶でもしようよ」
「ナナセル……、言うに事欠いてそれはないだろう……」
「正直なのがボクの美点だよ」
「自分で美点とか言うな」
「あっ、えと…わたしは、また、お茶出来たらうれしく思います」
「すず雪、君も。妥協と理解は別ものだ」
 ずいぶんとむずかしくたとえられたなと思いながら、すず雪はあいまいに頷く。
 ナナセルの振る舞いは別に気にならなかったし、またお茶ができたらと思ったのは本当のことだったから、すず雪としては何ら問題もない。
 けれど二人の掛け合いを眺めるのが楽しいのもあって、すず雪はそれ以上は何も言わず、もうひとつどうだとすすめられたお菓子を小さくかじって、その甘みをじんわりと舌の上に広げた。



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