「それではレン様、まいりましょうか」 「はいっ」 今日はリッフォートさんとおでかけだ。 正確に言うならオレのおでかけにリッフォートさんが付き合ってくれている。 本当はひとりでもいけますと言ってたんだけど、何かあってはいけないし、駅まで遠いからどのみち誰かに送ってもらわないとで、それならとひいおじいさまがリッフォートさんと行くことをすすめてくれたのだ。 オレとしては忙しいリッフォートさんを付き合わせてしまうなんて、という気持ちがあったのだけど、むしろひとりで出かけるオレを見送る方が心配…みたいな雰囲気だったので、ありがたく一緒に行ってもらうことにした。 小さな子どもじゃないし、幾ら外国だと行ってもひとり歩きができないほどあぶないわけじゃないし、とは思ったけれど、どうもひいおじいさまの中のオレって、小さいときに会った感じがつよいみたいなんだよなあ。 そればっかりはもう、地道に書き換えをお願いしていくしかできない。 まあ、はじめはじいさまとかトオ兄が来てくれる予定だったんだけどさ。ふたりは急なお仕事が入ったらしくて。 それはとても残念だったけれど、リッフォートさんと出かけられるのは楽しみだし、帰りにひいおじいさまと一緒に外でごはんを食べることになっているのが嬉しい。 「レン様、もうまもなく着きますよ」 のんびり流れる外の風景を眺めながら少しうとうとしていると、いつのまにか目的地が近くなっていたらしい。 名尾さんを思い出す柔らかな声に促されて目をあけて、オレはいつのまにかリッフォートさんにもたれかかっていたことに気づいた。 「うあ、すみません…」 よだれとか垂らさなかっただろうか、オレ。 慌てて体を起こすとリッフォートさんは目尻にしわを寄せながら小さく微笑み、大丈夫ですよと教えてくれる。何を心配したのかばればれらしい…。はずかしさ倍だって。うわぁ…。 「中に入るにはまだ少しかかりますが、もう見えておりますよ。あちらがベルストファ音楽院です」 顔が赤くなるのをごまかしながら、オレはこくこくと頷く。 こんもりとした緑の向こうに、レンガ色の屋根がのぞいているのが分かった。 想像以上に広い。前もって調べてきているはずなのに、ちっともぴんと来ないぐらいの大きさだ。 でも林の中に車が進むと、鋼で編まれた柵や石畳に、あ、と思うものがあり、外に降りると調べたとおりの風景が見てとれた。古い建物が持つ静けさが肌に心地がいい。 「待ち合わせにはまだ余裕がありますから、のんびりまいりましょう」 「はい」 オレは頷いて、少しでこぼこした石畳をゆっくりとすすむ。 「今日お会いになるアルベルティ氏とは以前からお付き合いがあるのですか?」 「と、とんでもない…っ」 隣を歩くリッフォートさんに、オレはぶんぶんと大きく首を振った。 ここで会うことになっているミケーレ・アルベルティは、その世界で知らないものはないものすごーい有名人だ。指揮者でありピアニストであり作曲家であり、オレの憧れの人だと言うのもおこがましいような。それぐらいの人。 これから会うなんて、今でもちょっと信じられないぐらいの話なのだ。 はじめてその話が来たときは、持っていた楽譜を床に散らばらせたぐらいだった。 つづってなかった紙がそれはもうものすごい勢いで手もとから流れていって、それを拾おうとしてつまづいて、そこをたまたま通りかかった父さんに抱きとめられたはいいけど、そのまま何秒かは凍り付いていたぐらいには驚いた。 だってミケーレ・アルベルティなんだぞっ。あのっ。 世界が賞賛してやまないマエストロだぞっ。 父さんいわく、魔法の呪文を唱えるべきか迷ったとか。ちなみにそれはどんなだと聞いてみようかと思ったけど、ものすごくくだらないことを言いそうだったので途中でやめた。 そんなオレのびっくり具合はともかく、どうしてそんな人と会う約束ができたかと言えば、不思議としかいいようがない縁で。 きっかけはお披露目でした演奏だったらしい。たまたまそれを聞いた人が知り合いにその話をして、その人が別の人に話をして、そんなふうにぐるぐるっとまわって、彼まで辿り着いてしまったというのだ。 世界は狭いと見るべきか、人と人とのつながりってすごいと言うべきか、まあ、秀さんとディが無名の新人でもないど素人と一緒に得体の知れない曲を弾いたと聞けば、確かに方々へ話が巡っていってもおかしくない。 最終的にはおじいさまのもとへ直接アルベルティ氏から連絡が来て、演奏が聴きたい、楽譜が見たい、という話になり。 オレひとりで作った曲じゃないからと慌ててディに連絡をとったら、オレの好きにしていいし、いやなら断っていいんだよ、と言われ、秀さんにも聞いたら、せっかくだから、アルベルティの直筆楽譜と交換というのはどうかな、という、とんでもない回答に挟まれて、オレはもう絶句していいんだか、むしろ叫び出すべきなのかという混乱状態だった。 そういう簡単な話なのか、いや、そもそも恐れ多いっていうか、断れるはずがないけど見せられるようなものでもないというのか。 でも本人たちがすごすぎるせいか、本職ふたりは一般庶民のオレの驚きをうまく分かってくれないみたいで、ふだんのオレなら平然と受け流しそうなのに、そんなに動揺するなんて、アルベルティ氏が苦手なのか、と妙な勘違いをしてくれたりして。オレはもうどう言ったらいいのか、ちっともさっぱり分からなくなってしまった。 見かねたらしい広也が相談に乗ってくれ、オレのつたない手書き楽譜をデータ化してから、それと一緒にメールを送る、という方法を提案してくれなかったら、オレはまず字の練習から開始していたと思う。 楽譜を送るにせよ清書するだけで緊張してどうにもならない、という状態だったので、機械音痴のオレとしては広也たちがいてくれて本当に良かったと言うか…。そんな方法があるなんて全く思い浮かばなかった…。 こんな光栄な話、断ったら損だよ、と和美や政春も背中を押してくれて、時差もあるし、相手の都合もあるから電話とかで直接話すのは難しいけれど、間に誰かしら人を挟んでやりとりするぐらいなら、わずかでもオレの人となりが伝わる形でやりとりした方がいいだろうと。 それで思いきって送り出したメールはそのまま読まれなくてもいいと思っていたし、オレなりに話を持ちかけてくれたことへのお礼を書き記すことができたから、それはそれで満足できて。 でも、ありがたいことに返事はすぐに来た。それはもうびっくりするぐらい早く。 アルベルティ氏とのメールのやりとりは、曲のつくりについて、解釈について、そういったところからはじまっていたけれど、季節のあいさつがどうこう、みたいな形から入る感じがまるっとなくて、要点をきっちりまとめた簡潔さがあった。おかげでオレはそれほど緊張することなく、少し冷静になることも出来た。 アルベルティ氏の曲づくりは大胆なんだけど緻密で、計算し尽くされた音のすごさというか、そういうのが演奏からも感じられる。 それを目の当たりにするみたいな、まわりくどさのない真っ直ぐな文章だったから、オレはとにかく全力で頭をひねって音とにらめっこしてそれを言葉にして、ってことに力を傾けられた。 幾らかやりとりを続けたあとに、ひいおじいさまからの招待状が届き、こちらへ来るのならぜひ会わないかということになった。幸いにもアルベルティ氏がお城からわりと近い学校へ赴く用があり、それにあわせてオレもその学校へ行く、ということになったのだ。 林の道を抜けると、丸みを帯びた屋根とレンガ色の壁がのぞく。 窓の縁取りにはよく見ると音楽記号と楽聖らしい顔の浮き彫りがほどこされていて、なんだか楽しい。白く射し込む光の中に石畳の道が続いて、なぜか飛び石みたいな幅で色の違う石が置かれいるのに気づいた。 ついついそれを辿りながら歩いていると、噴水のある小さな広場に出る。 「あ、ピアノ」 校内は夏休み中だから、生徒の姿はなくてしんとしている。 だから何の音もしないんだろうと思っていたら、どこからともなくふっと聞こえてくるから不思議だ。さすが音楽学校だなあ、と思いながら、音に引き寄せられるように建物と建物の間に挟まれた細い影の中を通っていくと、薄く窓があいた部屋を見つけてちょっとどきどきした。 のぞいちゃいけないかな、と思いながらも、見えちゃうから仕方ないよな、と思いながら少しだけのぞく。 ここの学生だろうか。樫の木みたいな髪がふわっと揺れながら黒いピアノを鳴らしていた。 ショパンの雨だれだ。 ゆっくりと屋根を打つような音の連なりと暗がりが目の前に広がるような、聞き慣れたメロディと響きと。でもすうっと空気が沈むような、しずまるような、そんな音。 オレの胸はどきどきとざわめいて、その音に釘付けになる。 もっと良く聞きたくて身を乗り出すと、光の加減で姿がうつりこんでしまったらしい。明るい茶色の瞳がオレを捉えて、ふっと音がやむ。 「……あんた。なにやってんの」 「……あ、あの、…」 「ここの生徒…じゃねぇな」 少しきつめの語尾にともなうように、とがった視線がオレを見据えて眉が寄せられる。 観光客が勝手に入ってきたとか思われてるかな、と思って、何か言わなければと思ったけど、オレの中ではまだ雨だれが響いていて、うまく言葉が出ない。 できることなら最後まで弾いて欲しくて、でもそれでもまだ足りないような。けれどそんなことを言っていい場合じゃないというのは理解できて、冷や汗がでそうになる。 今すぐまわれ右して帰りたくなる。部屋に行ってピアノの前に座って。そうしたら落ち着ける気がしたけれど、そんな逃げ道を探している場合ではない。 「失礼。練習中、お邪魔をして申し訳ありません。待ち合わせをしているのすが、お恥ずかしながら迷ってしまったようです。第6器楽室はこちらから近いでしょうか?」 「第6…? ああ、そんな遠くないけど。…」 オレの隣からすっと現れたリッフォートさんのおかげで、どうにかその場はおさめられたみたいだ。でもオレの方に向けられる雨だれの人の視線はいぜんとしてきつめで、さすがのオレも幾らか反省した。 勝手にのぞかれただけでなく邪魔されちゃ、嫌な気分にもなるよなあ。 少ししょんぼりしていると、わざわざ迎えに出てくれていたらしい学院の人がちょうどよく現れたので、その場から離れる。 でもオレの中にはどうにも消化しきれないものが残り、おそらく相手もそうだっただろう。 邪魔してごめんなさい、って言ったら、雨だれの人はちょっと奇妙な、不思議そうな顔になってた。きっと半分泣きそうになっているオレの姿が理解しづらかったんだろう。 オレは部外者だし、旅行者だしで。たぶんもう会うこともないだと思うけども、本当はオレ、もっと違う言葉が言いたくて。できればもっと聴かせてくださいって言いたかった。そう思うと、ぎゅっと胸をしめつけられる。 気に入った音を見つけると、そこから離れたくなくなるのはオレの悪い癖だ。そう分かってはいるけど、どうしようもなく欲しがってしまう。 でも、オレのどきどきはこれからが本番だった。 「やあ、はじめまして。君がレンか。ミケーレの言ったとおりの子だなあ」 通された部屋の中でオレを迎えてくれたのは、フルート奏者のカーヴェさんだ。 カーヴェさんはマエストロの古くからの知り合いで、今回はサマースクールの講師として一時的にこの学校へ来ていた。 カーヴェさんは親しみのこもった笑顔でオレの手を力強く握ってから、たっぷりお茶菓子が載せられたテーブルに案内してくれた。 彼の名前はマエストロのメールにも時々登場していた。だからあまりはじめて会ったという気にならないんだけど、カーヴェさんもそうらしい。 「甘いのはへいき?」 「あ、はい」 「ここのチョコレートに目がなくてね。ついつい集めちゃう。ミケーレは時々しか甘いものを食べないからつまらなくて」 「とてもおいしいです。それにすごく可愛い」 どうぶつの形をしたチョコレートは、その可愛さにも関わらずと言ってはおかしいかもしれないけど、とても本格的な味がする。甘すぎないし、口の中に入れるとカカオの匂いがふんわりと舌の上を広がって、とてもおいしい。 オレがそう言うと、カーヴェさんは理解者を得られたとでもいうように嬉しげに微笑み、明るい緑の瞳を細める。 「それにしても、レンの発音はすばらしくいいね。聞いていて心地いい」 「…だと嬉しいです。最近はひいおじいさまと話す機会が増えてきたので、なるべく発音が近くなるようにと心がけているのですが、なかなかむずかしくて」 ひいおじいさまもオレが耳慣れない単語に戸惑うと、少しゆっくりめに言ってくれて、音を直すのを手伝ってくれる。 おかげでずいぶんマシになってきたと思うけれど、まだまだ道のりは遠そうだった。 もともと塔子さんの方針で、じいさまの母国語は理解できるようにとたたき込まれているから、使えることは使えるんだけどさ。やっぱり訛りというか、微妙な発音のずれというか。そういうのってあると思う。 せっかくならひいじいさまが使うように使いたいと思っていたら、オレの行動に気づいたらしいリッフォートさんがひいおじいさまの若い頃の講演会の映像とか音源とかも貸してくれて。今、絶賛練習中なのだった。 そういった話をするとカーヴェさんは力強く頷いた。 「新しい言葉もいいけれど、受け継がれてきた言葉で話すことも大切なことだと思うよ。ミケーレもおばあちゃん子でねえ、今も時々言いまわしが古風だったりするんだけど、それが妙にかわいいときもあって」 「……ラウロ・カーヴェ。何がかわいいだ。聞き捨てならんことをいうな」 少し低めのテノールがぴしゃりと空気を割る。 大きな声ではないのによく響く声で、それが音の返りの良い壁に触れて跳ねるのが分かる。オレはどきっとして振り返った。 「やあ、遅かったねえ。ミケーレ」 カーヴェ先生は声の方向をちらとも見ずにのんびりと答えてカップに口をつける。そんな先生をマエストロはわずかばかりにらみつけた。 銀髪に灰色がかった青い瞳。映像で見るよりずっと静かな雰囲気を身にまとう人だ。オレはすっと立ちあがった。 「世儀蓮です。はじめてお目にかかります」 「ん。ミケーレ・アルベルティだ。さっそくだが時間がなくてね、ピアノの前へ行こう」 「せっかちだなあ、ミケーレ。お茶ぐらい飲めばいいのに。おいしいチョコレートもあるんだよ」 「君はそこでひとりお茶会を楽しんでいればいい。私はレンと弾く」 はじめからそのつもりでいたし、オレとしては否やはない。 カーヴェさんにお茶とお菓子のお礼を言ってから、オレは真っ直ぐピアノの前に向かった。そこにはあらかじめふたつの椅子が用意されていて、教師と生徒が並んで座れるような形をとっている。 演奏するのは月の湖のほとりで、だ。 あとはもうひとつ。これはマエストロからあらかじめ言われていた約束のようなもので、ここに来てから作った曲になる。 タイトルは、母の庭だ。シルヴィへ捧げるための曲。そして母さんの面影を追う曲。 オレの中にうっすらと残る声や笑顔や、足取りや手のひらのぬくもりや。 ひとつずつ丁寧に摘み取って庭の中へ溶け込ませるように。 でもこの曲からはあえて甘くなりがちな旋律ははぶいてあった。 これはふたりのものだから。 少女時代から娘へ華やかに、そして穏やかに、そして時にはつよく、やさしい。烈しさもある。悲しみもある。 けれど庭の中に残る姿は凛として眩い。 オレが今感じているだけのありったけのしあわせを詰め込んで。 「レン、そこはこうではないか」 「…えと、こう」 「ちがう。もっと散りそうなぐらいにだ」 「それでは、散ってしまいます」 「大丈夫だ、それぐらいじゃ千切れん」 いやいや千切れる。いや、でも散らない。 うーんと、しぶといんだ。そうだ。 「そっちは少したくましくて」 「優美さはどこだ」 「ここです? いや、ここ。ここです」 「そこをうねりが」 「回避しますっ」 「いや、退避だっ」 頭の中がつぶれそうなほど目まぐるしく変化していく旋律に立てかけてあった楽譜はついて行けず、まったく役立たない。 すべて口頭と表情と鍵盤の中で広げられ縮められて、ときおり、水を渡されたり傍らであおがれる風が流れてくるけれど、そういったものは全て意識の外に省かれていく。 音と。響きと。 重なり合う風景と。世界。 それだけがお互いを覆って、余分だと思われるものが全て遠ざかる。 「ふたりともー、お茶の時間ですよー。はいここ、座る」 ぱん、と手が鳴らされて、そこではじめて周りを覆っていた音の膜が破れた。 いったい何が起きたのか分からないぐらいにオレはぐったりしていたけど、すかさずリッフォートさんがぽつんとあけられたソファの上に導いてくれ、渡されたお茶を口に含み、どうにかこうにか人心地つく。 そうしてふと隣に目をやれば、何がものすごいまずい丸薬でも含んだような顔をしてどうぶつチョコレートを口に含むマエストロがいた。 「ぱるどん…む、…むっしゅ…」 「…ミケーレ」 「………」 それはそう呼べということだろうか。 じわじわ戻ってくる冷静さをはばむように、もう1度繰り返される。 オレはこくりと頷いた。 「み、ミケーレ…、その…、…」 「楽しかったな!」 はち切れんばかりの笑顔を向けられて、オレはどきりとした。まるで子どもみたいな、何のてらいもない笑顔だった。 にじんだ汗で髪がはりついているのがわずらわしくて、体はだるくて、ひどく疲れていたけれど。 オレは上がった息をととのえるように数回大きな深呼吸をして、はい、と小さく微笑んだ。 楽しかった。 まだどこかで響いている気がする。それは今にも外へと飛び出したがっていて、ピアノの前に座りたい気持ちに駆られた。 「なあ、レン。君はどこへ向かう」 「…………」 「世界に来なさい。私と同じところへ。まずはそうだな、私と曲を作らないか」 「………?」 「次のアルバムに母の庭をいれたい。奏者は君だ」 聞けばちょうど今作っているCDがあって、そこに入れる曲に悩んでいたということらしい。 「おやー、頭真っ白みたいだよ、かわいいこだねえ」 「混ぜっ返すな、ラウロ。私は本気だぞ」 演奏会もやりたいな、室内楽もいいが、オーケストラもいい。 そんなふうに声を弾ませるマエストロの隣で、カーヴェさんが少し落ち着くようにとおっとりとした声で会話の中にざくざく冷水を注ぎ込むけれど、よく聞いてみるとせっかくならコンピレーションもいいねと話を広げてくれていた。 うわあ、うわあ…。 オレがオレの曲を弾くのもあれば、オレがマエストロの曲を弾き、その逆も、なんて、空恐ろしい話がそばで続けられ、呆然としているオレのそばで、リッフォートさんが代わりに詳しい話を聞いてくれる。 リッフォートさんがいてくれてとっても助かった。助かったけれども、オレはただ次会う約束を交わすだけがせいいっぱいだった。 何が起きているのか、あるいは起きようとしているのか。 ただの冗談とか夢とか、ちっともそんな感じがしないのが逆にとても怖くて、ふわふわと足場の悪いところを進むみたいな、そんな不安を感じて仕方なかった。 |