「andante -唄う花-」



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「それで、そのわんこがどうしたって?」
「うん。そのベランジェの写真がすごく良くて。アルバムの表紙をお願いしてみようかなあって」
 そもそも、ベランジェがオレを部屋に連れてきたのは、写真を撮りたかったかららしい。
 ごはんも食べてほどよい疲れもあり、オレがうとうとしかけてると、ベランジェがいかにも重そうなカメラを持って現れたのだ。
 父さんは電話口に小さく笑い声をのせ、で、撮られたのか、なんて聞いてくる。
「んー。なんかベランジェの写真ってね、すごくさりげない感じで」
 あんまり撮られてるって感じゃなかった。
 さすがにプロらしく、持っているカメラは立派なものだったし、ちょっと持たせてもらったらものすごく重くて。なるほど力持ちなわけだと妙なところで感心してしまったんだけど、ベランジェは写真を撮るとき、じっと動かなくなる。
 写真のモデルにしたいなんて言われたときには、何かポーズみたいなの付けなくちゃいけないのかと思って、そんなのできない、って言ったんだけど、全然そんな感じじゃなかった。オレはただ、いつも通りにごはん作ったり、それを片付けたり、楽譜に向かったり。
 そうしている間にカメラのそばにいるベランジェの存在感は薄くなり、まるで部屋の中に融けてしまったように見えなくなっていってしまう。オレも集中してしまうと周りの様子が分からなくなってしまう質だけど、ベランジェのは本当にすごいと思う。
「でもさ、エドモンさんに聞いたらベランジェって何かすごい人みたいで、個展とかあってさ、なんだかすごい値段で売れたりするんだって」
 そんな人にアルバムのジャケットなんてお願いしていいんだろうか…と、まだちょっと心配している。こんな感じの曲なんだけど、って、聞いてもらったら、ベランジェは水色の瞳をきらきらさせて、撮る、って言ってくれたけど。
「本人が乗り気ならいいんじゃないか」
「ん、エドモンさんもそう言ってた……」
 あのベランジェが誰かを撮りたがるなんてこと、滅多にないよ、って、エドモンさんは目をきらっと輝かせて言ってた。
 なんというか素敵な獲物見つけちゃいました、っていうような、きらきらとぎらぎらまぜこぜみたいな目で。
「オレと契約できたらほんといいのに、ってエドモンさんすごく残念そうでさ。オレと契約してもベランジェはついてこないよ、って言ったんだけど」
 ベランジェのマネージメントは古くからの友人が請け負っているらしい。エドモンさんみたいな大きなところとは、そのときどきに手を組むぐらいなんだとか。
「ま、お手軽ではあるだろうな」
「おてがるー?」
 なんだろ、それ。お手軽ってことはつまり簡単ってことだから、ええと。
 まあ言われてみれば確かに他にオレと契約したがる人なんてないだろうから、楽にとれる物件って感じはあるかも。
 そう言うと父さんは小さく口もとをほころばせたみたいな笑い声をこぼして、未成年物件の契約には保護者の許可がいるぞ、なんて混ぜっ返す。
「あ、それだけどさ。ベランジェって、撮りたいって思うとほんと一直線で」
 実はここまで、ついてきちゃってたりなんだよ。
 ひいおじいさまに事情を話して、おゆるしはいただいたんだけど。
「お城の中に新しく部屋を用意してもらって、オレがじぶんの部屋から出ていて、いいって言ってるあいだは、撮影してもいい、ってことになってて」
 一応撮影したものは、オレやひいおじいさまの目を通させてもらうことになってるけど、ベランジェはそれでもいいから、とにかくオレにファインダーを合わせていたいらしい。
 ひいおじいさまがあらかじめ私室への入室禁止令を出さなかったら、それこそトイレの中までぴったりべったりくっついてまわりそうな勢いだった。
 さすがにトイレはなあ。ここ広いから色んなところにあるんだけど、じっと出待ちをされるのはちょっと困ってしまって。
 たまたま通りかかったリッフォートさんが、自分の部屋がどこか分からなくなったわけではありませんね、とにこやかに告げてた姿は、それこそわんこに家に入るよう指示を出すみたいなきっぱりさだった。
 本能的にリッフォートさんに逆らってはいけないと感じたらしいベランジェは大人しく言うことをきいていたからさすがだ。
 オレとしては大型犬に懐かれたみたいでついてまわられることそのものはあんまり気にならないんだけど、姿が見えなくなってきゅうんきゅうんいってるみたいな顔されると、うっかりついてきていいよ、って言ってしまいそうになるから、まわりが先手を打ってくれなかったらたいへんなことになっていたかも。
「アルバムの話とオレを撮りたいっていうベランジェの希望は別ものなんだけどさ。ここはひいおじいさまのおうちだし、その…、いいのかなって」
 ひいおじいさまにご迷惑をかけてしまってるだろうし、オレの写真そのものにはそれほど価値がなくても、お城の中の様子やひいおじいさまたちのそばにいる人たちが映ってしまうのはあまりいただけない気がする。
 もちろんベランジェは勝手に撮影した写真を表に出すことはないだろうって思うけど、形として残されたものが後々どうなっていくかは、当人たちにも分からないものだろう。
「ま、撮っていいとおしゃられてるんだ。大丈夫だろう」
 オレの不安に父さんはさらりと応える。
 ちょっとあっさりしすぎじゃないかと思ったけど、心配しだしたら切りがないもんな。
 もやもや考えてしまうより、ひいおじいさまに直接聞いてみればいいってことだ。
 オレは少しばかりほっとしながら、あ、と口をひらく。
「オレの写真、ベランジェに撮ってもらってもいいか?」
 すごい今さらだけど。
 そう付け加えたオレに父さんは今さらだなほんとに、と苦笑した気配が漂う。
「蓮が撮られることに抵抗がないっていうなら、いいんじゃないか」
 カメラを向けると急にこわばった顔になる蓮がなあ、撮ってもらってもいいかなんて言うようになるとは、なんて余計なひと言つきで。
 どんな顔すればいいのか分かるなくなるんだよ。ただ笑えばいいって思うんだけども、撮れるんだって思うとどきどきしてきて、ついぎくしゃくしてしまう。
 ベランジェの場合、不思議とそれがないからさ。
 ほんと、ただでっかいわんこが黒いかたまり持ってるだけみたいな。
「ん、ありがと……」
「そろそろ眠そうだな、蓮」
 言いながらうとうととしてくると、父さんの低い笑いが電話口から響いてくる。
 オレは見えないとは分かっていてもこくんと頷いて、今日も盛りだくさんだったから、と小さく答える。
「なあ親父……」
「ん?」
「オレ、こんなにいっぱい、…」
 いっぱいしあわせで、毎日楽しくていいのかな。
 ほしがりすぎじゃないのかな。
 言葉にならなかった声をひろいあげるように、ああ、と頷く父さんの声がする。
 それからいつもみたいにわしゃりと頭を撫でてくれるような。
 そんな感じがしてオレは不思議だなあと思いながらそのまま睡魔の中にうずもれていった。




「って、あー!? 夢じゃないっ」
「よっ」
「よ、じゃねえし」
 朝起きたら食堂で父さんが当たり前みたいにコーヒー飲んでるこの驚き。
 いやコーヒーそのものは別に何の驚きももたらさないけども、えっと、そういう話じゃなくてここはひいおじいさまのお城で、でもそういえばここでコーヒーの香りをかいだのははじめてかもだけど、意外にしっくりくるんだなあとか。
 いやいやそうじゃない落ち着けオレ。
「少し見ないうちにいい面構えになったな」
 そ、そうかな。
 顔なんていつも通りまったく変わってない気がするけどな。
 でもうれしそうに目を細める父さんに髪をわしゃりとかきまぜられると、悪い気はしなかったりする。
 父さんはそのままひょいっとオレを持ち上げ、でもちっとかるいぞ、とわずかにため息を吐く。
「せっかくメイド服とか着られるチャンスなのになあ、ぶかぶかじゃないのか」
「…………」
 こんな父さんでほんとすみません。
 ていうか本職のメイドさんたちに丸ぎこえだしはずかしいってのっ。
 まあ、父さんのふざけた提案にもメイドさんたちはちっとも動じてない。それどころかぶすくれたオレをみて、小さくほほえましげに笑みを交わし合う。
「よろしければユイさまのご衣装が残っておりますので、お出ししてみましょうか」
「あの小花ドレスなんてどうかしら、きっとお似合いになります」
 なんて、いやいやちょっとむしろ父さんの暴走に拍車をかけるようなことを。察しが良すぎる気がします。メイドさんたち、父さんは確かにお城のお客さまかもだけど、父さんはもてなさなくて大丈夫だとオレは思ったりです。
「結の服が残っているんですか?」
 父さん少しばかり真面目な口ぶりになって、メイドさんたちを見る。
 父さんが驚くのもむりはない。
 オレはもうそれを見せてもらっていたから少しばかり得意げな顔で頷いた。
「ひいおじいさまがあつらえてくれたけれど、母さんが持って帰れなかったやつをとっておいてくれてたみたい」
 というか、ひいおじいさま相当母さんに服をあつらえてたみたいでさ。よく話を聞いてみたら、そりゃあ持って帰りきらなかったろうなと思うぐらいの数だった。
「見てみたいな」
 父さんが興味深そうに言うので、抱えられた腕からぴょんと下りたオレはメイドさんたちの後ろについて一緒に衣装部屋に向かう。
 母さんの娘時代を教えてくれるドレスはメイドさんたちの丁寧な手入れのおかげで、まだきれいな姿を保っている。そのことがとてもありがたくて、そして同じだけ不思議な気持ちになった。
 母さんがその服を身につけていた頃にはオレはまだ存在してないわけで、会うことなんて決してないんだけども、なぜだか懐かしい気持ちになるような、そんな不思議さだ。
「母さん、この色が好きだったみたい」
 深い紅色のドレスだ。
 まるで空の縁に沈もうとしてる夕日のような。灼けるような紅。
 正直、オレの中にある母さんの姿は淡い色を身につけてることが多い。白い病室のなかでやわらかに微笑む姿がつよく印象づけられていたオレにとって、その色は思ってもみないものだった。
 父さんはそうっといとしむようにドレスの布地に触れる。
 きっと父さんにはそのドレスを身につけた母さんの姿がまざまざと浮かぶのだろう。
 いつか父さんの口から出会ったばかりの頃の母さんとの思い出を聞いてみたい気がしたけれど、でもそれは父さんのとっておきの思い出で、オレは聞いちゃいけないような、そんな気持ちもする。
 だからごくしぜんに、たまたまみたいに、ぽつんと語られることがあったら、その時はこのドレスの色を重ねて聞いてみたいなあと思えた。
「レン様はお母さま似でいらっしゃいますもの。紅い薔薇をまとうには少しお早くても、こちらの淡いピンクなんてお似合いになるんじゃないかしら」
「ええ、確かに。ほら、蓮」
「うん。…え?」
「少し胴回りをつめましょう」
 しまったメイドさんたちの目がきらきらに輝いてる。これはもうものすごく覚えがありすぎる桜朱恩のおねえさまたちの目というか、えっと、ええっと。
 もう止まりませんけどいいですわね、って感じでメイドさんたちがいそいそとオレに詰め寄ってくる。
 父さんは……、と、止めてくれそうにもない。すごいにやにや顔だ。何度も言うようだけどさ父さんオレ息子です娘じゃないですどっちの姿も楽しめて両得だなみたいな顔するのはどうかと思うんだけどもっ。
 母さん…オレには…あらがいきれそうにありません。



 淡い桜色のドレスは、腰まわりをきゅっとしぼって、たっぷりのパニエでふくらませてあった。
 小さな花たちを象ったレースが胸もとから裾にかけて大胆にあしらわれていて、まるで空に流れるひとすじの雲みたいだ。古風なドレスに加わった白さは、少し甘くなりがちな雰囲気にすっきりとした印象を与えてくれる。
 そのおかげか喉もとまで覆う襟や、手首まですっぽり包むドレスでも暑苦しさはなく、爽やかさというか、気持ちがふっと軽くなるようなそんな涼やかさがあった。
 横髪をピンでとめて、メイドさんたちいちおしのヘッドドレスを身につける。
 光沢のある布でつくられた生成り色のバラを数輪まとめて、幅が異なるレースのリボンを組み合わせた華やかなものだ。
「おそろしきメイドさんたちの腕……」
 こりゃ別人だ……。
 オレであってオレでないみたいな。
 いや、今までだってさんざん女の子の格好はしてきたけどさ、母さんが持っていた中でもアンティークドレスに近い形のデザインのせいか、むかしむかしのお話の中にでてくるお姫さまを思い出させるような、そんな雰囲気。
 うっかり絵本の中から出てきました、といっても、通じそう。ここお城だし。
 メイドさんたちと父さんに乞われるまま、その場でくるっとまわってみたり、笑顔をつくってみたりしてから、オレとしてはすみやかに動きやすくって布地が少ない現代の服に着替えるつもりだった。
 の、だけども。
「レーヌ…?」
「これは…驚きました。奥様によく似ておいでですね」
 リッフォートさんが言う奥様というのは、ひいおばあさまのことだ。
「レン、きれい」
 ベランジェは大きく目を見ひらいて、その場で動かなくなる。
 ああっ、スイッチ入ってる、これ撮りたいのか。そうなのかベランジェ…。
 衣装部屋でいつまでもオレたちが騒いでいたので、気になったのだろう。
 のぞきにきたひいおじいさまたちにドレス姿をばっちり見られてオレは大慌てだ。でも幸いと言うべきか3人とも少しもいやそうな顔にならず、オレはほっとする。
 びっくりしたひいおじいさまの寿命が縮んだら、オレ、ひいおばあさまに何て謝ればいいか分からないものなあ。
「似てる…かなあ?」
 ひいおばあさまはもっとずっと華やかで、きらきらっとした感じがするけれど。
 そう言ったオレにリッフォートさんは楽しげに口もとをほころばせる。
「ええ、懐かしゅうございます。社交界にでたての頃のシルヴィ様とよく似ておいでですよ。初々しく、とても可憐でいらっしゃいました」
 聞けば14とか、それぐらいの年齢の頃らしい。
 そりゃあ、ひいおばあさまも初々しかっただろうなあ。ひとめで恋に落ちてしまう若者が大勢いましてね、と語るリッフォートさんの口ぶりにはいくらか茶目っ気がのぞく。
 きっとその中にひいおじいさまも含まれているんだろう。
「レーヌ」
 呼ばれてひいおじいさまに近づくと、ひいおじいさまのまなじりが和らいでいるのが分かった。
「ちょっとおどってみなさい」
 おどる?
 とっさにててんでんでん、と盆踊りがうかんだけどそれたぶん違う。
 戸惑っているとオレが何を思い浮かべたか丸わかりって顔で、父さんが口元にうかんだ笑みを押し隠しながら片手を差し出してきた。
「お手をどうぞ」
 言われるまま手のひらを重ねると、腰に腕をまわした父さんがオレごとゆっくりくるりとまわりだす。
 三拍子、ワルツだ。
 桜朱恩で少しばかりダンスを学んだことがあったけれど、慣れないオレのたどたどしさを父さんがやわらかなリードで補ってくれる。
 ただ足音と衣擦れだけが響く部屋の中に弦の音が広がり、まるでそこが舞踏会の会場のような高まりが満ちていく。周りのメイドさんたちがほんわり夢見るような華やいだ空気を見せて、ふわふわと楽しげな空気が漂った。
 それは数小節もいかずに幕を閉じる小さな舞踏会だったけれど、その余韻はすぐに消えずに部屋に残る。
 どこかきらきら輝くような空気の残り香を消さないようにオレは小さくドレスの裾をつまんで父さんにお姫さまの挨拶みたいなまねごとをしてみたけれど、それも何だか楽しくてつい笑顔になった。
「レーヌ」
「はい」
「そなたはまだ、こちらの社交界にはでてなかったな」
 こちらというか、どちらもいうか。
 オレ、世儀のお披露目は済ませたけど、まだまだそういうのは遠くて近寄りがたくて、正直言えばどうすればいいのか分からないというかさ。
 そういったことを話せば、ひいおじいさまは少し考え込むように瞼を伏せ、杖でとんと床を鳴らす。
「リッフォート」
「はい」
「門をあけよ」
「……よろしいのですか」
 ひいおじいさまの言葉に、リッフォートさんがためらいがちな間をあける。
 オレは門? と首を傾げたけれど、周りの空気も少しかたくこわばるのを感じて、沈黙を守る。
「かまわぬ。レーヌ、にぎやかなのはきらいか?」
 オレはふるんと首を横に振る。
 色んな声や音があふれているところにいると、いつも自然と心が浮き立つ。
 静かなのも好きだけれど、にぎやかなのも好きだ。
 どちらかといえば、それはいつも窓の向こうの世界だけども。オレがでていっても迷惑をかけてしまうことが多いから、少しだけ離れたところでそっとのぞかせてもらったりするのもいやじゃない。
「みんなが楽しそうにしてるのを見るのは好きです」
 神妙な顔で答えたオレにひいおじいさまは何か言いたげに口をひらきかけたけど、その顔をふっと笑みに変える。
「そなたはまだ、知らぬのだな」
「……?」
 ひいおじいさまの言葉はオレには良く分からなかったけれど、その眼差しはとてもあたたかくて、それに少し嬉しげだ。
 よく分からなかったけれども、ひいおじいさま嬉しそうだから。きっと悪い意味じゃない。
「リッフォート」
「はい」
「日取りは任せるが、近い方がよい。薔薇が恥ずかしがって隠れてしまわぬように」
「かしこまりました」
 急ですまぬな、と付け加えたひいおじいさまに、リッフォートさんはやわらかな笑みをうかべ、いいえと首を振る。
「ずっとこの時を待っておりましたから」
 どこか感慨深そうにリッフォートさんは口をひらく。
 後で聞いたところによれば、門をあける、というのはこのお城でふたたびパーティがひらかれるということらしい。
 かつてル・リラン城で盛んに行われていた夜会やアフタヌーンパーティは、ひいおばあさまが亡くなったのを境にぱたりと止んでしまっていて、ひいおじいさまはそういったところへ出かけることもなくなった。
 にぎやかさから離れ、ひっそりした時を過ごしていくことは何も悪いことではないと思うけれど、その頃を知っているお城の人たちにとっては、ひとつの灯が消えてしまったようなそんなさびしさがあったのだと思う。
 たとえほんのささやかな、小さなものであったとしても。
 城の門がふたたび開かれ、招かれた人たちが集まり合う。それがとっても嬉しいんだってことは、いつも以上にいきいきと輝く顔が教えてくれる。
 実のところオレにとってはまだそれはどこか他人事だったので、みんな楽しげだなあ、すごく忙しそうだけどどの顔も嬉しげだなあって思ってるぐらいで。
 後でそのことを話したら、ひいおじいさまはどこか面白そうな顔でそうか、と頷いていた。オレがぼんやりのんきに構えてたことぐらいお見通しだったらしいけれど、実際にその輪の中にじぶんがいるんだって知ったときは驚いて、とてもどきどきした。



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