「たのしく書こう! 小説講座1-1解説」
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講座1-1での「小説を書くうえで必要不可欠な要素」の説明をしたいと思います。
予想より長文になってしまったのと、「理屈はいいのでワークだけやりたい!」という人のために、
ページを分けることにしました。
1. 「イメージの文字化アウトプット」 → 表現・描写のトレーニング
2. 「好きの可視化」 →「作品内容の”マイ評価基準”の確立」
「1」は納得しやすいのではないかと思います。まずここから説明しますね。
1. 「文字化アウトプット+イメージを捕まえろ!」
文章がうまくなりたければ「日記を書け!」「小説を書き続けろ!」って言われること、多いですよね。
塔の提案もほぼそれに近いのですが、ひとつだけ追加事項が。
それは、「わかりきっていることを漫然と記すのではなく、わけのわかならいぼんやりしたものを”自分からつかまえに行く”意識をもって書いてほしい!」ということです。
小説を書くって、絵でたとえるなら「想像画」を描くのと似ていると思うんです。「写生」ではなくてね。
目の前に見えているものをただ写真のように正確に写し取るのではなく、
「書き手の頭のなかにあるイメージ」を取り出してみせたような文章を書くのが、「小説を書く」ということだと塔は認識しています。それには、「あいまいなもの」を文章としてアウトプットする力が要る。
なので、1-1のワークでは「記憶」をたぐってもらう内容にしました。
「自分の記憶を頼りに」と注をつけたのも、ネットや他の人からの裏打ちのない「あいまいな記憶」を探って、「形にしにくいものを、それでもどうにか文章に落とし込むという努力」をしてほしかったから、です。
「なんとなくこうやればできる」という自分なりの感覚を、このワークでつかんでいただければと思います。数をこなせばだんだん慣れてくるんじゃないかな?
さて、次です。「2」ですが、納得しにくいと思います。
「なんで好きなものを語ることが”評価基準”につながるの? たくさん売れてるものがやっぱり一番”優れている”んでしょ? 個人的な基準じゃ他人に通用しないよ!」ってね。
私も前はそう思ってました。でもね、それだと創作意欲にまずい影響が出るってわかったんですよ!
2. 「あなたの”好き”は、あなたの創作の源。自分の中においては譲らなくていい!」
この考えは、自分の体験談を論拠としています。
塔は以前、イラストでプロを志向していました。挫折してしばらく一切描けなくなりましたけどね。
で、どうして挫折してしまったかと言うと、恐らく「目的がゆがんでしまった」からと考えています。
「イラストを描くのが大好きだから」「自分の好きな世界を形にして人に見て欲しいと思ったから」プロになりたいと思ったはずでした。
しかし、将来が見えない中焦るあまり、それを忘れていったように思います。
当時はこんな感じでしたね。
・描いていて「楽しい」より、「上手いとほめて欲しい、他の描き手より優れていると見られたい」と思ってしまう
・多数にウケるかウケないかだけを考えてしまう
・少数にしか評価されない=きっと私の絵は無価値なんだ……
・せめて引き出しを増やさなきゃ。描けないものをなくさなきゃ。これは嫌いだけど流行だから描けるようにならなきゃ。少しでも好きになろう好きになろう好きになろう……。
・……。楽しくない。私、何のために描いてるの……?
まあ、しなくてもいいムリをして潰れちゃったんだな、もったいなかったな。と今は思います。
だって、創作って「基準なき世界」なんですから。
今、爆発的に売れているものでさえ、「たまたま狙いが世の中の流れに合致しただけ」で、そうだなあ、4〜5年出るのがずれたらそこまで売れなかったと思いますよ? たとえ中身がまったく同じ作品であっても、です。
「売れる売れない」で考えると、世界の状況、流行、空気に左右される、バクチみたいな世界、なんですよね。価値基準という意味ではあてにできなさそうです。
だいたい、売り上げで量れるのは人気の有無=商品としていかに売れたかという数値であって、作品品質は量れないと思うんですよね……。
では、万人に通用する「品質が優れている」創作物を選出できるような確固たる基準をつくればいいのか?
これはね、できません。それがもしできるなら、全員が絶対「良し、悪し」という要素がこの世にあるってことになっちゃう。
そんなわけないですよね? だって皆さんの「良し悪し」は千差万別なのが当たり前。なぜなら、それは個人の体験と感情に紐づいて生まれてくるからです。
自分と全く同じ体験と感情を、全く同じ環境で同じタイミングで経験しつづけた、自分と全く同じ人間が、この世にいると思います? いたら……こわいですね。いっそホラーです。
つまり、作品品質の価値基準って個人的なものしか持ちようがないんですよ。あなたの価値観は誰かと二アリーなことはあっても、イコールはない、唯一無二のもの。なので、絶対にだれかと矛盾するんです。
そういう中で、最終的に信じられるものはやはり「自分」なわけです。
創作の世界は、究極には「自分で判断し、誰になんと言われようと自分の作品のポリシーを貫き、価値を自己肯定できて、ここが気に入らないから修正せよという相手と時には戦わなければ、やっていけない場所」なんですよね。
こういうわけで、創作意欲って、手入れ(=自己肯定、自己分析、自分軸の確立)をおろそかにすると、ガリガリ削れてなくなっちゃう、というのが塔の経験談です。
だから、これを読んでくれている皆さんには、自分の好きなものをしっかり見て、ああここが大好きだなあって確認して、こういうの書きたいなあって思うことを、意識して行ってほしいんです。
書き手が無理して無理して限界で倒れて挫折してやめていくなんて、読み手だって望んでいないし、そういうケースを見たら悲しい思いすると思うんだ!
反面、こういう話をすると「じゃあ自分に自信さえ持てばいいものが書けるの? ひとの意見を聞く必要はないの?」って疑問が出ると思います。
そこで、私は「ゾーン分け」を提唱したい。「自分の好き嫌いを譲ろうとする」のと、「相手に安心して読んでもらおうと工夫する=狙った読者層に近い他者の意見を参考にする」のは、混同してはいけないと思うので。
前者は「自分の中の価値観」の話だと思います。後者は、「相手との関係を考える」話だと思うのです。
ちょっと、チャートにしてみますね。
●根源・自分の中(譲れない) (譲れる)他者との間・表層○
=自分はこれが好き・嫌い 読み手の考え方を意識し、配慮しようと工夫する=
<失敗しやすいパターン>--------------------------------------------------------------
↓譲ってしまう 譲らない↓
・自分軸を見失う 書き手の押し付けがましさが出やすくなる(独善、きゅうくつ)・
・展開や演出に迷いやすくなる 狙った客層からコレジャナイ反応が出やすくなる(迷走、暴走)・
・楽しくなくて創作パワー減衰 書き手だけが楽しもうとする(ひとりよがり)・
(強制的に書かされている感、
自分で選べない感で)
<失敗しにくいパターン>--------------------------------------------------------------
↓譲らない 譲る↓
・自分軸がゆるがない 読み手への配慮がうかがえる内容で好感度アップ・
・思い切って方針を決定できる 狙った客層に合わせた表現で好感度アップ・
・書き手が楽しいので創作パワーを維持できる 読み手を楽しませようとする・
<各組みあわせ>-------------------------------------------------------------
○バランスタイプ 自分の中→譲らない 他者との間→譲る
△頑固者タイプ 自分の中→譲らない 他者との間→譲らない
×強がりタイプ 自分の中→譲る 他者との間→譲らない
△振り回されタイプ 自分の中→譲る 他者との間→譲る
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いかがでしょう、できれば「○」のバランスタイプを目指したいと思いませんか? 書き手も読み手もいいところどりですしね。
ちなみに、皆さんは自分がどのタイプだと思いますか?
塔はというと、「△振り回されタイプ」かと思います。迷って迷って決められず、ぶれを補うために外堀を埋めまくって、ようやく「書けるようになる」ので(汗)。
ただ、「△」タイプは、適性や狙いが合っていれば、そのままでも「うまくいく」場合もあると思います。
「頑固者タイプ」は、独自のセンスや作品の希少性、確かな実力があれば、固定ファンがついてくれるかもしれません。「振り回されタイプ」は、そもそも「作品を介してのコミュ」の方に主眼をおいている人なら、好みがぶれることは問題ではなくなるでしょう。
それと、「×」タイプは「悪い・ダメ」ではなく「おすすめしない」、です。本当は軸がぶれているのに強がりつづけるのって、すごくしんどいのではないかと思うので。消耗して書けなくならないかな〜? と心配になる感じですね。
かといって、タイプは仮に「変えたい!」と思ったとしても、なかなか変えられないものだと思います。「考え方のくせ」のようなものなので。
でも、それで困っている人がいたら、やっぱりまずは「自分の価値観を可視化し、大切なものだと認めること」を私はおすすめします。まず自分の「好き」を大事にできて、それから読み手の「好き」に配慮する余裕が生まれると思うので。
それでは、これで説明を終わります。次のワーク(講座1-2)はこちらからどうぞ!