ふたつの力のぶつかり合い。
それを見つめる、さまざまな心。
Another Name For Life
第12話 再会と邂逅
〜Chapter2 皮肉な再会〜
いきなり全員で構えるのではなく、館の主であるギブソンがまず出て、敵の様子を見つつ残りのメンバーが飛び出す。
そんな作戦をとることにした。
無駄とは思うが、それでも、やリューグは兵士に顔を覚えられている可能性があるだろうということからの配慮も含まれていた。
「この屋敷の者か?」
リーダー格らしき槍を持った金髪の青年が、現れたギブソンに尋ねた。
「そのとおりだが、なんの用事かな?」
「とぼけても無駄だよ。貴方がかくまっている者たちを引き渡してもらいたい」
しれっと返すギブソンだが、青年も動じない。
「素直に引き渡せるなら最初からかくまったりはしないだろう?」
「なるほど……」
それだけ言って、青年がふっと小さく息をつき、キッと前方を見据えた。
「総員、行動開始! 速やかに対象を確保せよ!!」
凛とした声があたりに響く。
(――あれ? ……この声……)
は、敵のリーダーの声に聞き覚えがあった。
「させるかよぉッ!!」
リューグが、斧を握る手に力を込め、黒鎧の兵士に突っ込むような形で出て行った。
それに合わせてネスティ、フォルテ、も屋敷の前に飛び出した。
「「…………あッ!?」」
の目に入ったのは、鮮やかな金色の髪。
「…………イオス?」
「、どうして……」
もイオスも、互いの姿をとらえ呆然とした。
確かに、また会いたいとは思った。
でも、よりにもよってこんなかたちで、こんなに早く再会するなんて。
聞き覚えのあった敵のリーダーの声。
さっき別れたばかりの友達のそれと、そっくりだった。
気のせいだと、思いたかった。
「おい、どういうことなんだ?」
「君は、彼を知っているのか?」
の動揺は、仲間たちにも伝わった。
しかし、ためらっている余裕など、ない。
フォルテとネスティの問いかけに答えず、は剣を抜くと、敵将へ向かって駆け出した。
「っ!?」
「あの槍使いは引き受けた! みんなは他をよろしくっ!!」
一度だけ振り返りそう言い残して、また走り出す。
「……まったく、なにを考えているんだ!!」
もうああなっては聞く耳など持たないだろう。
ネスティはを止めるのを諦め、杖を構えた。
黒鎧の兵士達は、ひとり突っこんできた無謀としか思えない少女に攻撃を仕掛けようとするも、スピードが早く、あっさりと脇をすり抜けられてしまう。
は苦もなく、イオスのもとへと到達した。
「まさか、こんなに早く再会できるとはねぇ」
「まったくだな……君が聖女をかくまっている一行の一人だとは思わなかったよ」
互いに口調こそのほほんとしているが、油断なく武器を構えている。
「退いては、くれない?」
「あたりまえだろう。聖女を捕らえるのが、僕達の任務なんだからな」
「そっか……まぁ、期待してなかったけど」
あっさりと即答するイオスに、がため息混じりに呟く。
「軍人さんだもんね。いろいろあるんでしょ?」
表面の言葉だけではない、奥に何かを含んでいるようなの言葉に、イオスが僅かに目を見開く。
その瞬間、ヒュッとの剣が振り下ろされる。
イオスはそれを槍で弾いた。
金属同士の擦れる耳障りな音が響き渡る。
「くッ……!!」
想像していたよりも、ずっと重い。
その攻撃に、イオスは思わず眉を顰める。
「軍隊のやり方は、これでも理解してるつもりだよ。
でも…………私も、譲れないんだ」
が、口の端だけでにっと笑う。
「あの子を連れて行きたいなら、まずは私を倒すことだね」
「もとよりそのつもりだよ。君に僕が止められるのか?」
イオスが挑発の意味も含めてそう言ってみせた。
しかしがそれに応じる気配はない。
「さぁ、どうだろうね? 少なくとも、私は友達が相手だからって手加減するつもりはないから。
それと……あまり私を甘く見ないほうが身のためだよッ!!」
言い切るかどうかというところで、が仕掛けた。
連続で繰り出される攻撃。それぞれが重く、それでいて速い。
槍の特性を生かすべく距離をとろうとするイオスだが、僅かにあけたところですぐに詰められてしまう。
イオスは何よりも、目の前の敵の技量に驚かされた。
こちらの動きを読み、それに合わせて動く。
そのひとつひとつのセンスの良さは称賛に値するほどだ。
少なくとも一朝一夕で身に付くようなものではなく、また生まれもったセンスのみで行われている動作とは思えない。端々に、培われてきた経験の跡が見え隠れしている。
それはまさしく、熟練した戦士そのもの。
さっき庭園で話していた時のとは、まるで別人だった。
相手を甘く見ていた自分を叱りつつ、イオスも槍を閃かせた。
交戦中の者も、戦線を離脱してしまった者も。
その場にいる全員が、敵味方問わず、思わず戦闘の手を止めてその闘いに見入ってしまっていた。
それ程に、イオスとの戦いぶりは鮮やかだった。
隊長と互角に渡り合う少女。
そんなものを目の当たりにした兵士達の驚きもそうとうなものだったけれど、むしろそれ以上に驚いているのは、『少女』の仲間――中でも特にネスティとフォルテ――の方だった。
流砂の谷でも、銃を使っていたとはいえ実質は素手のみで、盗賊団を壊滅させてしまった。あの時見せた動きも、只者ではないと感じさせるものであったのは確かだ。
しかし、今のこの動きは、それとは比較にならない。
同じく剣士であるフォルテの目から見ると特に、剣を使っている時とそれ以外のときのの動きの違いがよくわかる。
明らかに、剣で戦ったときの方が強い。
従来の女性剣士のような速さと技で繰り広げる型を使ったと思えば、力押しの攻撃にも切り替わる。
騎士のような流麗な動きと、傭兵のような荒々しい動き。それらが見事に合わさって調和している。
渡り合っている槍使いもそうとうの腕前だろうけれど、あれだけの動きをされては、捌ききれなくなるのも時間の問題だろうとうかがえた。
「あいつ、何なんだ……?」
思わず口から漏れた言葉は、自分自身にしか聞こえなかった。
ギブソンは、の戦いぶりに見覚えがあった。
剣術には疎いギブソンの目にも明らかにわかるほどに、型も構えもまるで違う。
それなのに、その動きは何故かある人物を思い出させる。
1年前、共に戦ったひとりの剣士を。
動きも違う、容姿も違う。
そんなをあの人と重ねてしまうものは、おそらくきっと、身に纏った気迫。
それだけが、非常に似ていた。
ネスティは、戦っているを改めて見る。
普段の人懐っこく、どこかのほほんとした調子とは明らかに違う。
動きも、表情も、態度も。
まるで、全くの別人を見ているような気にさえなる。
しかし、その瞳にだけは見覚えがあった。
初めて会ったときの、あの瞳だ。
凛とした、触れたものを切り裂くような鋭さをもつそれは、戦場から放り出されたことによる名残だったのだろう。
の本質は、普段見せている姿だろう。
どうして、戦いの場ではここまで変わってしまう、否、変わらなければならなかったのだろうか。
そう考えると、僅かに心の奥が、ざわついた。
UP: 03.10.28
更新: 06.09.21
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