切り開いた、可能性。
その先に待つものは。
Another Name For Life
第12話 再会と邂逅
〜Chapter3 挑戦〜
とイオスが激戦を繰り広げているその頃。
アメルを連れて裏口から抜け出したトリスたちは、ゼルフィルドと名乗る機械兵士率いる黒鎧の兵士達と交戦していた。
レルム村で見たときよりも、兵士達の動きは散漫だった。
しかし、ゼルフィルドの存在が、それを埋めてもなお余りある。
ケイナの弓が効かない。
ミモザやトリスの召喚術も効果が薄い。
ロッカとマグナ、レオルドが必死で食い下がるものの、相手がダメージを負っている気配がなかった。
しかも、ゼルフィルド一人を相手にしていればいいのならまだともかく、後ろに控えた兵士達も牽制しなくてはならない。
はっきり言って、負担が大きい。
「く……っ!!」
ロッカが顔を険しくする。
装甲の分厚い機械兵士が相手では、槍のような武器では分が悪い。
もちろん、関節のつなぎ目などを狙おうとすることも可能ではあるけれど、そんな余裕がないほどに、敵は強かった。
弟の斧のような、叩きつける武器であったらもう少しは効果があったのかもしれないが。
ないものねだりなど、してはいられない。
「3人とも下がって!!」
ミモザの詠唱が完了し、術が発動した。
マグナたちがタイミングを見てゼルフィルドから離れる。
メイトルパから呼び出された半人半魚の乙女の放つ水流が、ゼルフィルドと数名の兵士を襲った。
「……っ!?」
水が引き、現れた黒い機体には、確かに損傷があるようには見えた。
しかし、致命傷とは程遠い。
巻き込まれた兵士が下がり、また数名が前へと出てくる。
もはや皆の顔には、今まで浮かんでいた焦りのほかに、絶望の色が加わりつつあった。
「マグナ」
くい、と服のすそを引っ張られる感触に、マグナが振り返る。
「トリス、何だ?」
自分を見上げる妹が、何かを決意したような目をしていた。マグナにも自然と、緊張が伝わる。
「前に、ネスに聞いた事があるでしょ? 二人以上の召喚師の力を使って、召喚術を増幅する方法」
「そういえば、そんなのあったよな…………って、まさか……!?」
トリスの言わんとしていることを察したマグナが、声を上げそうになった。
「もう、これしか方法がないと思うの。いくらなんでもキリがないし。ミモザ先輩も限界近いし、あたしたちにしかできないわ。
あたしが喚ぶから、マグナは手伝って」
「……あぁ、わかった!」
可能性があるなら、それに賭けたい。
こんなところで、終わらせたくない。
守りたいと思った、アメルのためにも。
よろしく頼むと、任せると言って送り出してくれた彼女のためにも。
「……いくわよ、マグナ!」
「ああ!」
双子の召喚師は目を合わせ、確認しあうように頷いた。
「古き英知の術と我らが声によって、今ここに召喚の門を開かん……」
トリスの詠唱が始まる。
「連ねた声を螺旋と成し、これを力とするべし……」
マグナが、術の増幅を始める。
詠唱を聞いたミモザの顔が青くなる。
「マグナ、トリス!?
やめなさい! その術はまだ、あなたたちには早いわ!!」
しかし、二人の詠唱は止まらない。
「我らが魔力に応えて異界より来たれ……」
「我らが力を道標と成せ……」
魔力の渦が、二人をとり巻く。
「新たなる誓約の名の下にトリスが……」
「そしてマグナが命じる」
力が、その濃度をどんどん増してゆく。
「「呼びかけに応えよ……異界のものよ!!」」
詠唱が完成した。
まばゆい光が、広がる。
やがて光が収束し、そこにひとつの影を生み出した。
「成功、したの…………?」
魔力によって生じた光は、普通に使う召喚術よりも数段強く瞳を灼いた。
目をこすりながら、恐る恐るトリスが目の前の空間を見る。
「……ここは…………?」
そこにいたのは、自分と同じくらいの年頃に見える、まだ顔に幼さの残るひとりの青年。
短く切られた黒い髪。
見慣れないデザインの、シンプルな白いシャツに黒っぽいズボンといういでたち。
「……?」
青年がトリスの視線に気づいて、こちらを見る。
目が合い、トリスははっとする。
「あ、あの……ええと……」
きょとんとこちらを見つめる青年に、何と声をかけるべきなのかと思った。
その矢先に。
「!! 危ない!!」
「えっ? きゃぁ!?」
ふいに、腕を引っ張られた。
鋭い銃声と共に、今までトリスがいた場所を、銃弾が通り過ぎていく。
青年にかばわれる形で引き寄せられたトリスは、青年の肩越しに自身の立っていた場所に残された銃弾の跡に、さっと血の気が引くのを感じた。
「大丈夫か?」
頭の上からの声に、顔を上げると、青年が自分を見下ろしていた。
「あ、はい……ありがとう……」
青年はトリスの無事を確認すると、にっこり笑った。
「そうか、よかった」
そして引き寄せていたトリスを今度は背中に下げる。
「なんかやばそうだから、下がってた方がいい。狙われでもしてるのか?」
「いや、確かに狙われてるけど、あたしじゃ……」
傍から見ればかなり間の抜けたやり取りだっただろう。
「トリス!!」
マグナが駆け寄る。
術の詠唱時にはすぐ傍にいたマグナだが、どうやら術の完成と共に少し離れた所に動いていたらしい。
「だいじょうぶかっ?」
「うん、へいき。このひとが助けてくれたから……」
言われてマグナも、妹の傍らにいる青年に目を向けた。
当の本人はといえば、状況が理解できないといった顔をして二人を見ている。
「ええと、とにかく、あの黒い連中をどうにかすればいいのか?」
す、と青年が『黒い連中』に目を向ける。
「だ、大丈夫なの?」
不安そうなトリスの声は、もっともなものだった。
青年は、武器らしきものも防具も、何も持っていない。
全く普通の民間人を呼び出してしまったのだろうと、思ったのだが。
しかし、青年はトリスの心配を読んでか、笑ってみせる。
「まぁ、いいから下がっててくれよ」
言いながら、青年がすっと前に出る。
それに気づいたミモザたちも、声を上げた。
「ちょっと、何してるのあなた! 危ないから下がりなさい!!」
ミモザの声にも、青年は足を止めない。
光にやられていた視力が回復した兵士達が、青年に襲い掛かる。
次の瞬間に広がるであろう光景に、思わずトリスが目をギュッと閉じる。
しかし。
「「ぐああぁっ!!」」
複数の兵士の悲鳴が響いた。
「え……?」
トリスが目を開けると、そこには。
数名の倒れた兵士と、その中心に立つ、青年。
彼の手には数枚の、黄色っぽい紙。
「……おふだ……?」
いつの間にかすぐ傍に来ていたのか、ハサハがぽつりと口にした。
「ハサハ、『おふだ』って?」
トリスが不思議そうに尋ねると、ハサハは青年を指した。
「あのおにいちゃんの、もってるの……」
トリスの得意とする召喚術は、鬼妖界シルターンのものだ。
シルターンには、鬼や妖怪たちだけでなく、人間も暮らしているという。
彼の格好はシルターンらしくなかったが、それでも、おそらくそこから来たのだろう。
ハサハの知るものを持つ青年に対し、トリスはそう判断した。
しかし。
「ちがうよ、おねえちゃん……
あのひと、シルターンのひとじゃ、ないよ?」
「へ??」
自分の心を見透かしたハサハにも驚いたが、それ以上に、その言葉の内容のほうに驚く。
「でも、召喚したのはあたしだし……いくらマグナが手伝ったって言ったって……??」
考えれば考えるほど、混乱していく。
「そうだ、サモナイト石……!!」
召喚術の媒介とするサモナイト石が、開く扉と召喚獣の属性を決定する。
そう思って、無我夢中で取り出し、握り締めたままだったサモナイト石を見ると……
「…………あ、あれ…………?」
その石は、今まで見たこともない色をしていた。
基本は無属性の、無色の石に似ている。
しかし、石の内側に、淡い光が留まっている。
それは、晴れ渡る夏の空のような、青。
そしてそのさらに内側で、さまざまな色が見える。
ロレイラルの黒。
シルターンの赤。
サプレスの紫。
そして、メイトルパの、緑。
これらを含み、またさらに他の色も混ざり、青い光の内側で渦巻いていた。
その様子は、まさに混沌。
「何よ、これ……?」
今まで見たこともない、覚えてきた常識から明らかに外れたものに、トリスは不安を覚えた。
彼は、どこから来たのだろう。
UP: 03.10.28
更新: 06.09.21
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