ゆずれないから、退けない。
それが、痛い。
Another Name For Life
第12話 再会と邂逅
〜Chapter5 分かたれる道〜
とイオスの戦いは続いていた。
まるでこれが勝敗を決める一騎討ちであるかのように、周りの者は皆、敵味方問わずその戦いを見守っている。否、見入ってしまい動けない。
ずっと続くかのようにさえ思われた状況に、変化が生じた。
「「……!?」」
裏口方面から強力な魔力の流れを感じた。
ギブソンとネスティが屋敷の方を見る。敵方にいる召喚師も、不思議そうな顔をしていた。
この魔力を感じたのは、彼らだけではなかった。
も一瞬、そちらへと意識を移してしまう。
イオスがその隙を見逃してくれる筈がなかった。
風を切り、イオスの槍が閃く。
「うわっ!?」
繰り出される槍の一撃を、紙一重でかわす。
イオスはそのまま連続して攻撃を仕掛けた。は剣を使って捌いたり身体の位置をずらして避けたりしているものの、細かな傷が少しずつ増えていっていた。
このまま押し切られるわけにはいかない。
何とか体勢を立て直そうと、一撃を加えるために構えた。
が。
「ッッ!?」
ふいにの動きが止まる。
(しまった、こんな時に……ッ!!)
今にも崩れ落ちそうになる身体に活を入れ、何とかこらえる。
そこへイオスの槍が迫る。
――やばいっ!!――
反射的に思うも、身体が言うことを聞かない。
死さえ覚悟したその瞬間。
「ぐぁっ!?」
突然、イオスが吹き飛ばされた。
「え……?」
何事かとが見回すと。
そこには、見覚えのある機界の召喚獣。
役目を終え、在るべき処へと還ってゆく。
は召喚主へと目をやった。
「――ネスティ」
「退がれ、!!」
言われて、はその場から2、3歩離れる。
ネスティの召喚術を合図に、再び乱戦が始まった。
しかし、こちらはすぐにケリがつく。
フォルテやリューグの攻撃に加え、ギブソン・ネスティの召喚術で、兵士達は次々と戦闘不能にさせられた。
イオスとの戦いに使われた時間の半分もかからず、残っていた黒鎧の兵士達は沈められてしまった。
イオスが舌打ちする。
「まさかこれほどの召喚師がついていたとはな……」
屋敷の主が召喚師だということから、ある程度の被害は覚悟していた。しかし、その実力は、イオスの想像を超えるものだった。
その上、意外すぎたの存在。
色々な意味で、誤算だった。
イオスの態度に、リューグが怒りを露わにする。
「なにをすかしてやがる、テメェ!!」
いきり立つリューグ。しかしイオスはそれに動じる風はない。
「どうにも、これでは分が悪い……」
この状況を、どう打開する?
イオスが悩んでいたその時。
イオスとリューグたちのあいだに、数発の銃弾が撃ち込まれる。
「!?」
慌ててリューグが身を引く。
建物の陰から現れたのは、漆黒の機体。
「気をつけろ! そいつはロレイラルの機械兵士だ!!」
ネスティの警告が飛ぶ。
「撤退スベキダ、いおす。コノ騒ギデハ、ジキニ王都ノ兵士タチモヤッテクル」
ゼルフィルドの方に向けていた目をちらりと敵方に向け、伏せる。
「…………やむを得まい」
裏口で戦っていたゼルフィルドがこの場にいるということは、聖女の捕獲が出来なかったということ。
このままこの場に留まった所で、この状況を好転させる事など出来ないだろう。
「総員、撤退する!!」
イオスの号令で、黒鎧の兵士達が退却を始めた。
「イオス……」
の声がかけられる。
「…………こんなことになってしまい、残念だよ。
次は負けない。覚悟しておくことだね、」
感情を読ませない表情でそれだけ言い残し、コートの裾を翻して、去っていった。
には、黙ってその背中を見送ることしか、出来なかった。
「さぁ、私たちも戻ろう」
ギブソンが皆に声をかける。
「ほれ、行くぞ、」
フォルテに促されるまで、はイオスの去った方を見つめたままだった。
その後ろ姿に向けられる視線に、気づく者はなかった。
UP: 03.10.29
更新: 06.09.21
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