なぜ。どうして。
疑問は、不安と苛立ちを生み出し。
心に暗く、拡がっていく。
Another Name For Life
第13話 Constitute Element
〜Chapter1 歪み〜
「みんな、無事!?」
屋敷内に戻ったたちを真っ先に出迎えたのは、トリスとマグナだった。
応接室へ向かうと、アメルもミモザ達も、みんな無事な姿で出迎えてくれた。
ただひとつ、窓際にひとり、見慣れない人物が立っているのが目に入る。
「あの、ミモザ先輩。彼は……?」
ネスティの問いに、マグナとトリスがビクッと肩を震わす。ミモザはにやりと笑いながら、そんな二人を指差す。
「私よりも、あの二人に聞いた方がいいわよぉ」
その言葉に、『あの二人』が青ざめて固まった。
ミモザの態度とマグナたちの反応に、何となく答えが理解できる。ネスティは半眼でトリスとマグナを見やった。
「どういうことなんだ?」
「「ご……ごめんなさいっ……」」
揃って冷や汗をかきつつ頭を下げる。
「実は、前教えてもらった召喚術の増幅をやったら……」
「……あれはまだ早いと、言わなかったか?」
「でも、あの時は他に方法がなかったの。だから、いちかばちかで……」
「……君たちはバカかっ!?」
半ば予想されていた展開が待っていた。
「まあまあ、ネスティ」
そのまま延々とお説教を続けそうな勢いのネスティを、が止める。
「でもホント、みんな無事でよかったよ」
「真っ先に敵将に突っこんでったお前さんのセリフじゃあねえやな、それは」
「……う。」
笑顔で言うに、フォルテが珍しく(?)ツッコミを入れた。
「ちょっと、またそんな無茶やらかしたの!?」
その言葉に目の色を変えたトリスが、に詰め寄った。
「そうだよ! どうしてはいっつも無茶ばっかりするんだよー!!」
マグナも加わって、今度はが困った顔をする番だった。
「いや、でも……」
「でもじゃないわよ! あたしたち、と別れた時すっごく心配してたのよ!?」
が何かを言おうと口を開いたその時。
「なんで……」
全く別の方から聞こえてきた言葉に、室内が静まり返る。
「なんで、こいつがここにいるんだよ」
立ち上がり、を指差したのは。
「リューグ……?」
アメルが訝しげに名を呼ぶが、リューグは応えない。
「あの時、俺たちは確かにコイツよりも先に逃げたんだ。追ってくる連中から少しでも逃げるために、回り道したりしながらな」
結局追っ手は撒ききれなかったが。
それは今問題にする所ではない。
「でもコイツは、俺たちが逃げた後も残ってた。
なのに、どうして俺たちよりも先にここに来てるんだ?
……追われる心配が、なかったからなんじゃねえのかっ?」
「……何が言いたい?」
問いかけるに、リューグは吐き捨てるように叫んだ。
「てめえが、あいつらとつながってんじゃねえかってコトだよッ!!」
全員が、息をのんだ。
「ちょっとリューグ、何てことを……!!」
「黙ってろ、アメル!
さっきも敵の槍使いと顔見知りだったみてぇだし……テメェ、本当はあいつらの仲間なんじゃねえのか!?」
「リューグ!! ロッカも見てないで止めて!」
アメルがロッカにも言うが、ロッカもリューグと同じことを考えていたようで、を睨みつけたまま動こうとしない。
はで、リューグの言葉を黙って聞いている。
「そんなことあるわけないだろ!!」
リューグに反論したのは、マグナだった。
「は、あたし達の目の前に召喚されてきたのよ!? それからずっと一緒にいたのに、あいつらの仲間だなんて、あるわけないじゃない!!」
「召喚……?
さんも、ショウさんみたいに、召喚獣だったんですか……?」
トリスの言葉に、アメルが目を見開く。
「はっ! それだって、てめえらの目をごまかすための作戦か何かだったんじゃねえのか?」
「それはありえないな。
あの場には僕ら以外、召喚師は存在しなかったし、誰も術を使っていなかった。
そもそも、あの時はまだ僕らはレルムの村の聖女については全く知らなかったわけだし、もし仮にが奴らの一味だったとしても、僕らと行動を共にする理由はない」
きっぱり言い放つネスティに、さすがのリューグも押し黙る。
「……それでも、コイツがあの場に一人で残ってたのは事実なんだ。その時に寝返ったのかもしれねェだろ!?」
「おいおい、それこそ証拠がねえんじゃねぇのか?」
たしなめるように言うフォルテを、ギッと睨みつけるリューグ。
「証拠? はっ、あの槍使いと顔見知りだったんだぜ? それで充分じゃねえか!
随分と仲も良さそうだったみてぇだしな!?」
確かに、それはフォルテもネスティも気になっていることだった。
「これでも、コイツが敵じゃねえって言い切れんのか?」
「それは……」
マグナが口ごもる。
トリスが何かに気づいたようにはっと顔を上げた。
「そうだ、アメル!! アメルなら、わかるんじゃない?」
「奇跡の力を使って、記憶を読むということか?」
問いかけるネスティに、トリスが頷く。
「ね、できるかな、アメル?」
「わかりません……でも、やってみます」
あの時、木から落ちた自分を助けてくれたことを。
猫とじゃれていた時の笑顔を。
落ち込む自分を励ましてくれた、言葉を。
アメルも、信じたかった。
自分なら、それが証明できるかもしれない。
決心して、のもとへ歩み寄り、その手を伸ばそうとした。
しかし。
「やめた方がいい」
「……!?」
制止の言葉に、アメルの手が宙を泳ぐ。
止めたのは、他でもない自身。
「、どうして……?」
「ほら見ろ! 見られたくない、やましい事があるんだろ?」
戸惑うトリスと、対照的に蔑むような目で見るリューグ。
はそんなリューグにす、と目を向ける。
戦いの場そのままの、鋭い眼を。
「勘違いしてないか? 私はアメルのために言ったんだ」
「……なんだと?」
リューグの眉がぴくりと跳ねる。
「さっきあんた自身が言っただろう? 私はあの場所に最後までいた。
ということは、誰よりも長くあの光景を見てたって事だ。
自分の記憶の中のものが蘇るならまだいいさ。でも、私の記憶を見ることで、見ずに済んだ余計なものまで見なくちゃいけなくなる」
アメルが、肩を震わす。
「その上さらに、あれ以上のものまで見てしまう可能性だってある。
そんなものを、あんたは彼女に見せてもいいのか?」
トリスとマグナ、そしてネスティは、のこの言葉の意味を、おぼろげながらも理解した。
亡霊や屍の兵士達と戦う『戦場』は、確かに常人には見るに耐えない光景だろう。
しかもそれを、あのレルム村の惨劇を目の当たりにしたばかりのアメルに見せるのは、酷以外の何者でもない。
「んだよ、それ……」
リューグも、の様子にただならぬものさえ感じた。
「私は、この世界に来てから一度だって、やましいところのあることはしていない。
それだけは断言できる。誓ったっていい」
きっぱりと、が言い放つ。
「……では、あなたはどうやって村からここまで来たのか……そして、何故敵の槍使いと面識があったのか……
説明できますか?」
それまで口を閉ざしていたロッカがに問う。
「……村からは、『足』を使った。その方が、ただ走るよりも早く確実に逃げられるから。
イオス――槍使いとは、さっき剣を買いに街に行ったとき、偶然知り合ったんだよ」
は、自分を見据えるロッカの目をまっすぐ見つめ、よどみなく応える。
「『足』、とは? あの状況では、馬なんてそうそう手に入りませんよ?」
「アイツらのもんでも借りたんじゃねえのか?」
リューグが毒づく。
「…………」
は黙っている。
目を伏せ、そしてゆっくりと開いた。
「それを話そうとするなら、少し長くなる。
私がもといた世界と、それから、そこで私がしてきたことについて、説明しないといけなくなるから。
それでも構わないなら、話すよ」
「話を聞いて、それでも……僕たちが納得できなかったら?」
「私はここを出て行く。それでも不安なら……」
は腰の剣を外し、鞘ごとロッカに差し出す。
「この場で私を殺すなり、すればいい」
「「「なッ……!?」」」
これにはさすがにその場の全員がざわめく。
言われたロッカも、その隣に立つリューグも、目を丸くした。
「君はバカか!? 何を言い出すんだ!!」
ネスティが言葉を荒げる。
はネスティの方を向いて、ふっと微笑んだ。
そこには、鋭さも、普段の柔らかさも、共に在る。
「誠意を示さないと、相手には伝わらないよ。
私は、私のできる限りのことをする。それでも信じてもらえないなら、しょうがないでしょ?」
「だが……!!」
「それに、今までちゃんと話したこと、なかったでしょ。いい機会だよ」
隠しておく必要などないのだけど。
言えずにいた、自分のこと。
伝えないままで済むなら、それでもよかった。
“あの”世界を知るには、ここは綺麗すぎるから。
「……話してみろよ。
それで納得いかなかったら、ただじゃおかねぇからな」
を睨みつけながら、リューグが言った。
ロッカも、を見据える。
ゆっくりと、が口を開いた。
「さて、何から話そうか……」
UP: 03.10.29
更新: 06.09.21
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