暫しの別れのとき。
新たにわかった意外な事実。
これらが導く先は。
Another Name For Life
第13話 Constitute Element
〜Chapter5 つかの間の別れ、そして〜
「いろいろと、お世話になりました」
とロッカ&リューグの戦いから数時間後、旅装束姿のロッカがたちの目の前にいた。
「答え、出たの?」
「はい。あれから3人で話し合いまして……」
アメルの願いは、『みんなが無事でいること』。
マグナもトリスも、アメルを守ることに協力すると宣言していた。
「だから、アメルは彼らに任せて、僕かリューグのどちらかが、おじいさんを探しに行こうということになったんです。一人が探しに行って、もう一人が、ここでアメルを守ろうって。
家族みんなで、一緒にいたいですから」
「兄貴は俺と違って器用だからな。いざって時に、うまく立ち回れるのはどっちだって考えて、兄貴が行くことになったんだ」
「でも、ひとりじゃ危険なんじゃ……?」
マグナが不安そうに尋ねる。アメルとリューグも、それを心配しているらしく表情が暗い。
「なら、こいつも連れて行ったらどうだ?」
ショウが言った。
「こいつ??」
「あぁ、えーと……ちょっと待ってて」
首をかしげるトリスに返事をしつつ、ショウが取り出したのは、1本の笛。
唇を付け、息を吹き込む。
流れる旋律が、広がり、揺らいで、形を作り出してゆく。
ショウが笛から唇を離したとき、彼の目の前に、ひとつの人影が新たに存在していた。
それは、少年とも少女ともとれる、細身の子供。
静かな、涼しげな翠の瞳が印象的だ。
「……お呼びですか? わが主よ」
「この子は?」
尋ねたのはマグナ。
「こいつは、“フェン”。風の力を持った精霊で、オレの……まぁ、使い魔ってトコだね」
「以後お見知りおきを」
「は、はぁ」
フェンが、手のひらと拳をあわせ、ぺこりとお辞儀する。マグナもつられて頭を下げた。
「こいつは見かけによらず戦闘力もあるし、離れててもオレと連絡が取れるんだ。護衛も兼ねて、どうかな?」
「それじゃあ、せっかくですからお言葉に甘えさせてもらいます」
ロッカがにこりと笑う。
「よし。じゃあ、フェン……」
ショウとフェンが目を合わす。
僅かな間をおき、フェンがロッカの前に立った。
「では、ロッカ殿。主の命により、あなたに同行させていただきます。
こんごとも、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく、フェン」
* * *
「ショウも、悪魔召喚師ってやつなの?」
ロッカを見送ったあと、ふいにトリスがそんなことを言い出した。
「兄貴と妹が、そうだよ。オレは落ちこぼれだったから」
「落ちこぼれって……ショウが!?」
マグナが思わず驚きの声を上げる。
あれだけ重症だったの傷をふさぎ、自分たちが苦戦させられたゼルフィルドとも対等に渡り合っていたショウには、『落ちこぼれ』という単語は合わない気がする。
「オレも代々悪魔召喚師の家系でさ。兄貴も妹もできるのに、オレだけ悪魔召喚師としての資質がほとんどなくてね。
その代わりにこっちの資質があったから、これを学んで、修行してたんだ」
そう言って、手にしていた小さな笛を掲げてみせる。
「符術、それに笛……
ショウ、あんたが学んだってのは、もしかして……」
ふと呟かれたの言葉に、ショウが頷いた。
「そう。『
道』だよ」
「タオ……
符術と
嘯呼と呼ばれる笛の術によって形成される、道士の技……
聞いたことはあるけど、本物見るのは初めてだよ」
が感嘆して言った。
「ねえねえ、ショウの家も代々召喚師だったってことは、もしかしたらの家のことも知ってるんじゃない?」
突然、トリスが言った。
「あぁ、ありうるかもしれないな。国内の古い家柄ならそう多くないし、割とつながりあったりするし。
の苗字、なんていうんだ?」
「苗字? だよ」
「……え!?」
の答えに、聞いた本人は声を上げた。
ショウの顔に浮かぶのは、驚き。
それも、尋常ではない。
「な、なに?」
「……いやでも……とは言えの召喚師って言ったら……」
が訝しげにショウに問いかけるが、ショウは答えない。しばらく、口の中で何事かをぶつぶつと呟くのみだ。
「……なあ、『
風真』か『
碧海』 って名前に心当たり、あったりするか……?」
「アオイは、私を育ててくれたばっちゃんの名前だよ。
フウマは……私のじっちゃんだって、聞いたことある。ばっちゃんはじっちゃんの妹なんだって」
答えるに、ショウが頭を抱えた。
「マジかよ……!」
「そ、それがどうかしたのか??」
ショウの様子が普通でないことに不安を抱いたマグナが問い掛ける。
「……風真と碧海は、オレの兄貴と妹の名前なんだよ……」
搾り出すように、ショウが言った。
「「「「「…………………」」」」」
辺りから、音が消えた。
「「「「「……ええぇぇぇっ!?」」」」」
一瞬後に、その場にいた全員が大声を上げる。
「ちょ、ちょっと待って! それじゃ、ショウとって……!?」
「親戚、ということになるな……」
「そんな偶然って、あるものなのか!?」
「偶然にしたって、出来すぎだろこれはっ!」
口々に、声が飛び交う。
「…………でも、言われてみれば確かにそうかもな……
、どこかで見たような顔だと思ってたんだけど……」
ショウが、脱力したような声で言った。
「私の顔が、なんなの??」
「そっくりなんだよ。兄貴に。
髪の色とか違うし、女の子だから、ぱっとわからなかったけど」
そう言うショウの声は、どこか柔らかい。
「じゃあ、やっぱり……」
「ああ、間違いないよたぶん。オレと、血のつながりのある親戚同士って事だ」
これが偶然なのか、それとも運命なのかはわからない。
それでも、見知らぬ地で同じ血筋のものに会えたことは、やはり嬉しさを感じた。
「そっかぁ……」
が、嬉しそうに顔を綻ばせた。
そして、ショウにすっと右手を差し出す。
「それじゃあ、改めて。
こんごともよろしくね、ショウのじっちゃん!!」
ずべしゃあ。
の言葉に、ショウがまともにひっくり返る。
周りの面々も、固まっていた。
「……あ、あのさ。いくらなんでも『じっちゃん』てのは、ちょっと……」
何とか身を起こしながら、ショウが言った。
「なんで?? フウマのじっちゃんの妹のアオイばっちゃんには何も言われなかったよ?」
当のはきょとんとした顔である。
「そりゃ、50年後の話だろ!? 何が悲しゅうてまだハタチにもなってないオレが、しかも同い年くらいの女の子に『じっちゃん』なんて呼ばれないといかんのさっ!!」
半泣きで訴えるショウ。
「えー、でも……」
「でもじゃなーい!!」
自分の発言の意味を理解しきっていないには、ショウがここまで反対する理由が、さっぱりわからない。
首をかしげ頭に疑問符を浮かべていると、ネスティがぽんと肩に手を置く。
「。相手の歳を少しは考えてやったらどうだ?
君が今まで『ばっちゃん』と呼んでいた人物は、そう呼ばれても不自然ではない歳だったから何も言わなかったんじゃないか? だがショウはまだ18歳なんだぞ」
言われて、も考える。
「うーん……やっぱり、まずいのかなぁ。でも、じゃあなんて呼べばいいんだろ??」
そう言って腕を胸の前で組み、むぅ、と悩みだす。
「普通に『ショウ』でいいよ。呼び捨てでかまわないから」
切実な思いをこめて、ショウが言う。
「……わかった。そうするよ、ショウ」
が頷いた。
この奇妙な因果関係が、何を導き出すのか。
それはまだ、誰にもわからない。