敵も味方も、入り混じって戦う。
駆け抜ける者が、思うことは。
Another Name For Life
第34話 混戦模様
少しずつ、兵士の数が増え始めていた。
他の場所で待機していた別働隊が合流しつつあるのだろう。
「リューグッ!!」
ルヴァイドと剣を交えているが、名を呼ぶ。
呼ばれたリューグが向かってきているのを横目に、はそれまでのような小さく細かい動きとは違う、強い一撃を放った。
「くっ!?」
ギィンッという不協和音が響く。
不意をつかれたルヴァイドの動きが一瞬止まったのを見計らい、は距離をとろうと一歩後ずさった。
リューグがのそばまでやって来た。
ルヴァイドはリューグに任せようと、は反転して、数を増やしつつある兵士たちの方へと向かおうとした。
……が。
ブンッ!!
「――――わっ!?」
ルヴァイドが離脱しようとしたに向かって剣を振った。
とっさのことに態勢を崩しながらも、なんとか避けることが出来たが、揺れる長い三つ編みだけが動きに間に合わずに遅れ、髪を束ねる紐を切っ先が掠めた。
ゆるやかに波打つ明るいセピアの髪が、はらりとほどけての背中に広がっていく。
「ちっ……」
は鬱陶しそうに眉根を寄せた。
「リューグ!
手本は見せたよ、教えたとおりにやれる?」
「ったりめーだ!!」
振り仰いで尋ねると、力強い返事と共にリューグは斧を振るう。
それを見とめたから、はその場を離れようとした。
「!!
待てッッ!!」
ルヴァイドが攻撃を仕掛ける。
阻止しようとしたリューグの動きも、間に合わない。
ギィィンッ!!
「――俺もいること、忘れんなよ。
黒騎士の旦那」
大剣の一撃を受け止めながら、フォルテが不敵に笑った。
「さんきゅ、フォルテ!」
「おう!
ここはいいから、あっちを頼む!!」
フォルテが顎で示した方を向くと、トリスやミニス達、召喚師組の方へと兵士の攻撃が集中し始めているのが見えた。
「――うん、頼んだよ!」
言葉だけ残し、立ちふさがる兵士達をなぎ払いながら、は走って行った。
改めて、三人がそれぞれ武器を構える。
「二対一でちと卑怯な気もするが、それくらいのハンデはあってもいいよな?」
飄々とした態度のまま、しかし目だけは真剣にルヴァイドを見据えながらフォルテが言った。
リューグは不服そうだったが、そんなことを言っていられる状況でも、それを許されるような相手でもないのは重々承知していたので、黙って眼前の敵を睨みつけていた。
* * *
「誓約のもと、トリスが命じる……召喚、ロックマテリアルっ!!」
トリスの声に応じ、夜空に生じた光の中から、岩の塊が姿を現す。
「いっけえ、プチメテオ!!」
大岩が、兵士たちへと落下する。
倒れた兵士の脇から、また別の者が前進してくる。
「あぁもう、キリがないわよぉ!!」
ミニスが苛立ち混じりに叫ぶ。
レオルドやバルレル、ショウにレシィが抑えてくれているものの、兵士たちは着実に召喚師たちに迫っていた。
「ぐあっ!」
「がっ!?」
ふいに、横から叫び声が上がる。
そちらに目を向けると。
「みんな、無事!?」
「「……!?」」
三つ編みにしているはずの髪がふわふわと背で踊っていたため、一瞬誰かと思ってしまったが、そこにいたのは間違いなくだった。
「あー、鬱陶しいッ」
ぱさりと肩口から流れてくる長い髪を、無造作にかきあげ、払いのける。
「さん、髪……」
「ん、あぁ。
紐を切られちゃってね」
指摘するアメルに苦笑して答えた。
――と。
ガゥン、ガゥンッ!!
聞き覚えのある銃声が響いた。
敵も味方も、自然とそちらへ目を移す。
「――ゼルフィルド!」
「第三部隊、合流。
コレヨリ作戦ふぇいず02ヘ移行……」
言ってから、ゼルフィルドは銃口をがちゃりと向けた。
その先にいるのは、ショウだった。
「…………ご指名ってわけか?」
口の端だけで笑いながら、ショウは符を取り出して剣の刃に張り付けた。
刀身にサッと淡い光が広がる。
「ご、ご主人様……!」
「大丈夫だよ。
レシィはこっちを頼むな」
言い残して、ショウはゼルフィルドに向かって駆け出した。
「ショウ!!
――くっ!」
近くに立っていたネスティが、その後を追った。
いくらなんでも、機械兵士相手にたった一人で立ち向かうなんて無謀もいいところだ。
ロレイラルの召喚術は、同じ世界に属する機械兵士には効果が薄いが、それでもサポートにはなるはず。
そう考え、ネスティはサモナイト石を取り出し、口早に術を唱えた。
「我が召喚に応えよ、機界の従者よ……!
――コマンド・オン、ギヤ・メタル!!」
現れた召喚獣が、ゼルフィルドを攻撃した。
「ネスティ?」
「……君は馬鹿か?
この状況で単独行動、しかも相手は機械兵士。
君ならもっと冷静に状況を見ることが出来ると思っていたんだがな」
ため息まじりに言われた言葉に、ショウは苦笑した。
「そう?
オレは“この状況”でお説教できるネスティの方が凄いと思うけど。
それに単独行動ってんだったら、はどうなるんだよ?」
「彼女は僕が今更言ったところで聞くとでも?」
「……それもそうだよな」
の単独行動なんて、今に始まったことではない。
それに、止めたところで絶対に聞かない。
毎度毎度、注意してそれでも聞き入れられたことのないネスティが、それを一番よく、嫌というほどにわかっていた。
「まぁ、その辺のことについてはおいおい話すとして、今はここをなんとかしないとな」
あくまで口調はマイペースに、それでも油断なく剣を構えるショウの後ろ姿は、どこかを髣髴とさせる。
やはり血の繋がりがあるのだなと、改めて感じさせられたネスティだった。
* * *
戦いは次第に、敵も味方も入り乱れた混戦状態に発展していった。
少しずつ、確実に体力は削られていく。
が目の前の敵を倒し、ふとアメルたちのいる方へ視線を向けると。
「――――ッッ!!」
後ろから、アメルの隣に立つトリスに向かって剣を振り下ろそうとしている兵士がいた。
――間に合え!!――
全力で、駆け抜ける。
「…………おねえちゃんっ!!」
ハサハが、主人の危機を察して叫ぶ。
その声にハッとトリスが後ろを振り仰ぐと、まさに眼前に刃が迫っていた。
「きゃ……!!」
悲鳴は、途切れた。
ガッ!!
トリスと兵士の間に飛び込んだ影が、ひとつ。
「…………!?」
トリスの目に映ったのは、ふわりと広がるセピア。
時の流れが、緩やかになる錯覚。
が、トリスにもたれるように、くずおれた。
「…………!!!」
剣を振り下ろそうとしていた兵士は、手を押さえている。
切り裂くような音でなく、鈍い音がしたのは、剣の柄で殴られる形になったからだろう。
その兵士も、レオルドの攻撃により、倒れた。
トリスの叫び声は、ゼルフィルドと交戦しているショウとネスティのもとへも届いた。
ネスティがそちらに目をやると、ぐったりとトリスに抱えられているが見えた。
「――……!?」
「、っ!!
しっかりしてよ、ねえってばぁ!!!」
半狂乱で、力なく気を失う少女の名を叫びながら、トリスは腕の中のの身体を揺さぶる。
「トリスさん、落ち着いてくださいっ!!」
「いやぁっ!!」
アメルの呼びかけにも、トリスはぶんぶんと首を振るばかり。
自分の不注意で。
あたしをかばって。
あたしの、せいで。
――――が。
もし、このまま。
目を覚まさなかったら。
「トリスさんっ!!」
「……ッッ!?」
アメルの声で、トリスは我に返る。
「大丈夫ですから。
さん、剣で斬られたわけじゃないですから……」
「……うん、ごめん……」
小さく謝り、トリスはアメルにを託す。
「アメル、お願いしていい?」
頷くことで、アメルは答えた。