その言葉の本当の意味を知らぬ者は、簡単に口にする。

 現実はそんなものなんかじゃないのに。





Another Name For Life

第40話  Cannon from Revengers






 翌日。

 改めて出発の準備を終え、一行はモーリンに見送られながら下町の飲食店街まで歩いてきていた。



「全部片付いたらさ、また遊びにおいで。
 今度は、じいさんも連れてさ」

 にっこりとモーリンが笑うと、アメルはパッと顔を綻ばせた。

「は、はい……っ! 絶対また来ますっ!」



 にわかに生じた和やかな空気は。



 ひゅううぅぅぅ……

 どおぉぉぉんっ!!



 突然の爆音に、かき消された。



「何、今の!?」

 叫んだトリスの声とほぼ同時に、全く同じ爆音が別の場所から響いた。



「これは……大砲の砲撃だぞ!」
 ネスティの言葉に、皆が驚きに目を見開く。



 何故、砲撃などが起こるのか。

 思い当たるものは、ひとつしかなかった。



「弾道ヲ計算、射撃地点ハ……海カラデス!」
「間違いないよ、海賊のやつらだ!」
 レオルドの言葉が、確信させた。
 モーリンが、怒りを露わにして怒鳴った。



「あいつら、わざと下町だけ狙って撃ってやがる……
 ちくしょお、もう勘弁できないっ!!」

「おい、モーリン!?」



 言うが早いか、マグナの呼びかけにも答えずに、モーリンは一目散に港の方へ駆け出して行った。



「オレたちも急ごう!」
「僕たちにとってもまんざら無関係なことじゃないからな」

 ショウはともかく、ネスティからもそんな言葉が出るとは思いもよらず、マグナとトリスは目を丸くした。



「ちょっとした恩返しといこうか?」

 二人の顔を見て、ネスティはニッと笑ってみせた。



* * *



「燃えちょる燃えちょる!
 がはははっ、いい気分じゃのう!!」

 海賊旗を掲げた船の上で、髭を蓄え眼帯をつけた男が、高笑いをしていた。

「もっと撃ちまくれい!
 海賊をナメたらどうなるか、徹底的に教えたるんじゃ!!」

 砲撃手に向かって、手を上げて指示を出す。
 どうやら、彼がこの船の船長のようだ。



「やめろぉぉぉーッッ!!」



 港まで走ってきたモーリンが、声の限りに叫ぶ。
 船の上にいた海賊の下っ端が、彼女の顔を見るなり蒼ざめた。

「ジャ、ジャキーニ船長! あいつです!!
 あのバカでかい図体の女が、俺たちを……!!」

 言われて、ジャキーニと呼ばれた船長はモーリンを一瞥した。

「ふん、情けないのう! あんな女ごときに尻尾を巻きよって」

 船長はあいつの恐ろしさを知らねえんです、という下っ端の言い分は無視し、ジャキーニは一歩踏み出してモーリンを船の上から見下ろした。



「やい、女っ! よくも昨日は子分を痛めつけてくれたのう!
 このジャキーニ様が直々に落とし前をつけてやるわい!!」

「望むところだよ! さあ、下りてきなっ!」



 ジャキーニのドラ声に負けない声で怒鳴りながら、モーリンは構える。
 しかしジャキーニはそんなモーリンに対してフンッと鼻を鳴らしただけだった。

「誰がじかにお前と戦うと言ったかのう?」

 モーリンは訝しげに眉をひそめた。
 ジャキーニはごそごそと懐を漁ると、何かを取り出し、掲げた。



「さあ、出るんじゃあっ!
 化け物どもおぉっ!!」

 翠の光があたり一面に広がる。
 目をかばい上げた腕を下ろすと、モーリンの視界には見たことのない怪物がいた。



「ウコケケケエェッ!!」

「な……ッッ!
 召喚術……!?」



 怯んだモーリンに、人間と魚を掛け合わせたような召喚獣が襲い掛かった。

 鋭い爪が、モーリンを斬り裂きそうになったその時。



 ドオォンッ!!

「グゲルアアアッ!?」

 爆発音と共に、召喚獣が後ろに吹っ飛んだ。

「大丈夫、モーリンっ!?」
「あ……トリス……」

 後ろから掛けられた呼びかけに、半ばあっけに取られながらモーリンは見知った顔に気付いた。

「まさか海賊の親玉が外道召喚師とはな。
 まったく、どんな師匠についたのやら」
「やかましいわいっ!」

 呆れたようなため息をつくネスティに、ジャキーニが怒鳴る。

「どいつもこいつもなめやがって……そういうつもりなら戦争じゃあ!!
 かまやしねえから、大砲でファナン中を火の海にしちまえい!」
「へい、船長!」

 ジャキーニの指示のもと、またしても大砲を撃ち出す準備が始まってしまう。

「おいおい!
 あの野郎、目がすわってやがるぞ」
「これ以上撃たせたら、街がめちゃくちゃになっちゃうよぉ!?」

 焦る声を上げるフォルテとミニスだが、ジャキーニが先ほど喚んだ召喚獣が一行を阻む。

「ダメ、間に合わないっ!!」
 トリスの視線の先で、海賊が砲弾の導火線に火を灯していた。



「や、やめろおぉっ!!」

 モーリンの叫びが響き渡る。



 その背後に、すっと人影がひとつ忍び寄った。

「……!?」
 振り返ると、そこには見覚えのある男が、腰から下げた刀に手をかけている。

「あの人、昨日のサムライ……!?」
 トリスとマグナ、ショウも、彼を知っていた。
 昨日、銀沙の浜で行き倒れかけていた、シルターンの侍だ。

 それが何故、こんなところに?



 一瞬彼に気を取られているうちに、弾丸に火がついたのか、ドォンッと爆音がして、大砲の弾が撃ち出されてしまった。

 砲弾は煙の尾を引き、下町へと向かう。



「……キエエェェェェッッ!!!」



 突如、侍が吼えた。

 気合の声と共に地を蹴り、飛び上がる。



 ギィィィンッ!!



 金属のぶつかる鈍い音が響いた。

 そして、重いものが落ちる音がふたつ。



「……なっ!?」
「嘘でしょぉ!?」
「た……大砲の弾を、斬りやがった……!?」
「マサカ……! 計算上デハ、絶対ニアンナコトハ不可能デス!」

 敵も味方も、目の前の光景にただ呆然とした。



「カザミネさんっ!?」

 いち早く硬直から解放されたマグナが、侍の名を呼んだ。
 カザミネと呼ばれた侍は、マグナたちにニッと笑ってみせる。

「おぬしたちにはひとかたならぬ世話を受けておるからな。
 シルターンが剣客カザミネ……義によって助太刀いたすっ!」

 カザミネの言葉に奮い立たされたマグナとトリスが、瞳に輝きを宿す。

「……よし、みんな!
 行くぞ!!」

「あいよっ!!」

 気合十分のモーリンが、勢いよく返事をした。







 走っていくマグナたちを追いかけようとしたネスティの横を、何かが高速ですり抜けていった。
 衝撃が生み出した風にあおられ、深紅のマントがはためく。



「な……!?」

 通り過ぎ、あっという間に小さくなった後ろ姿に、目を丸くした。

!?」



 駆け抜けるは、マグナたちも追い越して船に向かっていく。
 船に近いところまで来ると、そのまま地を蹴り跳び上がった。

 くるんっと宙返りなどしてみせて、船の真ん中に着地する。

 海賊達は、いきなり自分達の中心に飛び込んできた敵の姿に驚愕した。
 はおもむろに剣を抜いて、だらりと切っ先を足元に下ろす。

 俯いていた顔がまっすぐに向くと、その表情にまた驚かされた。



 この上なく生き生きしている。

 そして、瞳は妖しげともいうべき輝きを宿していた。



「ここんとこ、ずーっとおとなしくさせられてたんだ。
 あんたらには悪いけど、暴れさせてもらうよっ!」

「抜かせ小娘!!
 野郎ども、思い知らせてやるんじゃあ!!」
「へい、船長!!」

 ジャキーニが吼えると、海賊達が一斉にに向かってきた。



「遅いッッ!!」

 ゼラムの屋敷の前での戦いのように、は海賊達の間をすり抜けていく。
 しかし、あの時と違うところがひとつ。

「ぐあっ!」
「ぎゃあっ!!」

 すり抜ける際に、海賊達の腕や足を斬りつける。
 腕を斬られた者は思わず手にしたナイフやカトラスを取り落とし、足を斬られた者は反射的にその場にうずくまる。

 一部の戦力を削ぎながら、はまっすぐにジャキーニのいる甲板に駆けていった。



「思い知らされるのは、どっちだったかな?」

「うぐぐ……!」



 不敵にが笑うと、ジャキーニは悔しそうに唇をかみ締める。



「く……こ、これでも喰らえい!!」

 ジャキーニの手の中に握られた緑のサモナイト石が光を発する。
 喚び出されたローレライが手にしたトライデントを掲げると、水が渦を巻いてに襲い掛かった。

 荒れ狂うような轟音と共に、水しぶきが煌く。

「がーっはっはっはっは!!
 これでどうじゃ小娘ッッ!!」

 ジャキーニの高笑いが響く。

 船に上がり、半魚兵と戦っていたマグナたちは、見えない甲板の上に駆け上がって行ってしまったを案じた。



「はははは……は……は……?」

 笑い声は、不自然にかすれて消えていった。



 水の渦がどこへともなく消え去った跡に、剣を片手にぶら下げた少女が一人たたずんでいる。

 水流にやられたのか、体のあちこちに裂傷があり、また、身体中も水浸しだった。
 冷え切っているであろう身体以上に凍てつく瞳と、対照的な熱気の籠もる気配に、ジャキーニは凍りついてしまう。



「…………」



 はゆっくりと、拳を握り締めたままになっていた左手を、胸の前まで持ち上げる。
 その指の隙間から、紫の光が淡く零れていた。

 にやりと、口の端だけでは笑ってみせた。



「……よろしく頼むよ」

 小さく、呟いた。



「……召喚、ボワ!!」

 よく通る声が響くと、ランタンを手にして青いボロを纏ったような召喚獣がふわふわと現れる。
 そのランタンをジャキーニの上を浮遊したときに、落っことした。



 炎が勢いよく燃え上がった。



「ぎぃやあぁぁぁー!!」

 ジャキーニが悲鳴を上げる。
 炎はすぐ消え、ボワもいなくなったが、ジャキーニはその場にへたり込んでしまった。



 ちゃきりと小さな音がして、の剣がジャキーニの首筋に添えられる。

「ひ、ひぃぃぃっ!?」
「勝負ありだね」

 静かな声でが呟く。
 それとほぼ同時に、マグナたちも半魚兵を片づけ終わっていた。



 は、剣をジャキーニの首筋にあてがったまま、冷たく彼を睨んだ。



「……“戦争”なんて言葉、二度と軽々しく使うんじゃない。

 わかったな」



 冷めた声は、小さい。

 しかしはっきりと耳に届いた。

 またしてもさくっと解決の主人公です。
 なんていうか、サモキャラがちっとも活躍しない二次創作ですみません……

 ジャキーニさんは初プレイ時はアウトオブ眼中でした(酷)が、3で好きになりました。
 かなり台詞も3の影響受けまくってると思います。「へい、船長!」とか。(笑)

* * *

 ちょっとだけ、レオルドのセリフを追加しました。

UP: 04.10.13
更新: 05.02.12

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