責任者の為すべき事。

 害を及ぼすものを制圧する。

 けれど、それだけではなく。





Another Name For Life

第41話  街を守る者たち






「イヤじゃあぁ……陸にあがるのはイヤなんじゃあぁぁぁっ!!」

「おぬし、本当に往生際が悪いでござるなあ」



 ジャキーニの叫び声が、ファナンの港に響き渡る。
 手下ともども縄でぐるぐる巻きにされ、目に涙すら浮かべる海賊船長の姿を、カザミネが呆れて見下ろした。

「あんだけのことをしたからには、きちんと覚悟を決めてもらうよ。
 下町の連中はみぃんな荒っぽいんだからねぇ」

 にやりと口の端を吊り上げながらモーリンが指をぱきぽき鳴らすと、ジャキーニは震え上がった。

「モーリン、そのへんで勘弁してあげたらどうだ?」
「貴女に殴られたぶんだけで、そいつの頭はコブだらけじゃない」

 マグナとトリスの指摘通り、ジャキーニもその子分達も、すっかりぼこぼこになっている。

「ほんと……おいもさんみたいにでこぼこになって」

 頬に手をつき、同情の色を浮かべるアメルに対し、

((その表現はどうよ……))

 数名の心の声が合致した。



「ふんっ、まだまだ殴り足りないくらいさ!」
「まぁまぁ。
 あとはファナンの兵士たちに任せましょう。ね?」

 モーリンは不満を露わにしている。隣に立つトリスが苦笑いを浮かべていた。

「そうだな、向こうもそのつもりで出迎えにきているようだぞ」
「へ?」

 ネスティが指した方向を、きょとんとした顔のマグナが見てみれば、上等な服を着た女性が金色の鎧を着込んだ兵士を数名連れて歩いて来ていた。



「貴方たちですね?
 海賊たちをやっつけてくれたのは」

 女性が柔らかな表情のまま、マグナたちに問う。
 着ているものだけでなく、しぐさや話し方にも上品さがうかがえた。

「ええ、まあ」
「なりゆきですが一応はそうですけど」

「んー……」

 マグナとトリスが答えたが、女性はそれに反応を示さず、双子の召喚師の顔をじっとうかがっていた。
 マグナもトリスも、その女性が何者なのかが気になった。

「……あら? あらあら……あららら??」

 女性が困ったような声を上げた。

「ど、どうかしましたか?」
 思わずトリスが尋ねると、女性は眉を寄せて首をかしげた。

「変ですわねえ。
 派閥にいる子の顔はきちんと覚えておいたつもりなのに……
 やだわ、物忘れなんて。トシなのかしら?」

 そんなことを言うが、“トシなのか”などと気にするほどの年齢には到底見えない。

「物忘れではないですよ。
 僕たちは、蒼の派閥の人間なのですから」

 女性の疑問には、ネスティが答えた。



「……金の派閥の議長、ファミィ=マーン様」

「「えぇッ!?」」



 ネスティの言葉には、皆それぞれに驚く。

 金の派閥といえば、このファナンの街を治める機関。
 そして、そこの議長ということは最高責任者である。

 何より、『マーン』という家名は……



「そっ、それじゃこの人がミニスのおか……」

 ドゴォッ!!

「っがはぁ!?」
「しぃっ!」

 マグナが思わず余計なことを口走りかけ、わき腹にミニスの拳が炸裂した。



「うわ……見事なコークスクリューブロー……」
「ミニスって召喚師だけど、もしかしてそっちの才能もあるのかなぁ?」

 わき腹を押さえてうずくまるマグナに同情するショウのすぐ後ろで、がなんとものん気に分析をしていた。



 娘がボクサーの才覚を見せている方とはまったく別の方を向きながら、ファミィはころころと鈴を転がすように笑っていた。

「まあ、そうでしたの?
 それならわからなくて当然ですね」

 それにしても、とファミィは辺りを軽く見回してみせる。

「みっともないところをお見せしてしまって……
 貴方たちが助けてくれなければ、もっと大変なことになっていたでしょうね」
「……ああ、まったくそのとおりだよッ!!」

 涼やかなファミィとは対照的な、敵意のこもる炎を燃やしたような声で、モーリンが怒鳴った。

「今までぼけっとなにしてたんだい?
 ファナンを守るのもあんたらの仕事だろ?
 それでよく偉そうにしてられるねッ!?」
「本当にすいません。
 わたくしが至らぬせいでご迷惑をかけて」

 烈火のように食って掛かるモーリンを前にしても、ファミィはあくまで自分のペースを崩そうとしないまま、のんびりとした口調で謝る。

「二度とこんな事にはならぬよう、そこの人たちにはきつぅく言い聞かせますから」

 微笑を浮かべ、簀巻きにされた海賊たちの方へと視線を移す。
 ぞくりとしたものが、海賊達の背筋を走りぬけた。

「連れてってくださいな。
 後で、わたくしが直接おしおきをしますから」
「はっ!」

 兵士が短く答え、何人かが簀巻きの海賊達を引きずってゆく。

「ひッ、ひいィィッ!?」

 ジャキーニの悲鳴がむなしく響いた。



 海賊を連れた兵士がその場から見えなくなるのと同じ頃に、別の場所からまた別の兵士が現れ、ファミィに敬礼をした。

「議長殿、ご指示どおり下町の火災は最小限に食い止めました!」

 兵士の報告に、モーリンが目を丸くした。

「ご苦労さまです。
 でしたら引き続いて、壊れた建物の再建費を算出してくださいな」

 モーリンの様子を気にかける風もなく、ファミィは兵士に指示を与える。
 兵士は短く答えて、その場を去った。



 モーリンも、周りの仲間達も、理解する。

 ファミィたち金の派閥は、決して何もしなかったわけではなかった。
 海賊の退治よりも、下町に暮らす人々の避難を優先し、また下町を守っていたのだ。



 モーリンは申し訳なさそうにうなだれた。
 ファミィはにこりと微笑し、トリスたちに向き直った。

 ……ちなみに、マグナは未だにわき腹を押さえてうめいている。

「頑張った貴方がたには、何かご褒美をあげないといけませんわね。
 また明日にでも改めて、派閥の本部にご招待いたしますわ」
「は、はぁ……」

 トリスが曖昧に返事をする。
 ファミィはちらりと、数名が折り重なった箇所に視線をやった。



「その時にはぜひ、貴方がたの後ろに隠れているわたくしの娘も連れて来てくださいね」

「!?!?!?」



 ファミィの一言に、ミニスの顔色がさっと変わった。

「それでは、また明日。
 ごきげんよう」

 優雅に挨拶をして、ファミィは残りの兵士を引き連れ、その場を去っていった。



「……見つかっちゃったね、ミニスちゃん」
「こうなったらもう、腹くくれ」

 アメルが苦笑し、リューグがぽつりとトドメをさした。

「あううぅぅぅ〜〜〜〜〜っ!!!」
 ミニスの苦悶の叫びが、ファナンの港にこだました。



「なんだか大変なことになったねえ」
「何をのん気に……って、!?」

 ネスティの驚いた声に、皆が振り返った。



「うわ……!」

 誰かが息を呑むのが聞こえた。



 今までどたばたしきっていたし、一連の騒動の中はずっと後ろに立っていたので、誰も気付かなかった……というか、気にかける余裕がなかったのだが。

 の格好は、ひどいものだった。



 全身が水浸しのずぶ濡れ。
 加えて、セーターの袖やスパッツのあちこちが破れ、すぐ下の肌から血がにじんでいる。

 ローレライの水流に思い切り巻き込まれたせいだった。

 もっとも、当の本人はきょとんとした顔で、騒ぐ周りの仲間達を見渡しているのだが。



「どうしてもっと早く言わないんだ!」
「別にこれくらい、あとでリプシー喚んで治すよ。
 それに、言えるような状況じゃなかったじゃん」

 確かに、何人もいた海賊を船から引きずり降ろし、簀巻きにしたあたりでファミィたちがやって来たわけで。

 説得力のあるの言葉に、怒鳴ったネスティのほうが逆に言葉に詰まった。



「と、とにかくその格好を何とかしろ!」

 頬を染め、ネスティは僅かにから視線をそらした。

 ひどい有様なのは事実なのだが、目にすることなどないの腕やら足やらの、古い傷痕の見え隠れする素肌が、僅かながらもところどころ露出してるのは確かなのだ。

 ネスティがおもむろにマントを外した。

「とりあえずこれでも羽織っておけ」

 紅いマントをの肩にかけようとすると、は慌ててそれを止めた。

「い、いいよ!
 マントまでびしょ濡れになっちゃうから」
「そんなこと気にするな。
 いいから、ほら」

 譲ろうとしないネスティに、の方が折れて、マントを借り受けた。

 ネスティがホッと一息つくと、背後でトリスとアメルがなんとも言えない視線を送っているのに気がつき、恐る恐るそちらへと目を向ける。



「うふふふ、お熱いことで〜」
「な……っ!?」

 にやっと笑うトリスの言葉に、ネスティの顔が真っ赤に染まる。

 もはやお約束となりつつある光景を、当事者の一人であるはずのは首を傾げて眺めていた。

 ちょっと短いですが、キリもいいのでここまでにします。
 原作の台詞まんまな部分が多くてすみません……

 ファミィママがついに登場です。この人は笑顔に秘めた威圧感が表現しづらいです……!(汗)
 今回書いてて楽しかったのは、ミニスのコークスクリュー。(待て)
 原作でもあのシーンでマグナorトリスはかなりダメージを受けてたみたいなので、こうしてみました。ごめん、マグナ……

 最後はお約束で。
 これもそろそろワンパターン気味なので、何とかしたいです。

 次回夜会話です。
 withは、未だにまとまっていません……(大汗)

UP: 04.10.23

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