どうか、安らかに眠れるように。
Another Name For Life
第46話 魂の行き先
光を放ったアメルは、その光が消えると同時に気を失ってしまった。
くずおれたところをリューグが支える。
ショウは倒れこそしなかったものの、目元を押さえてぼんやりとしていた。
「……ここの死体、埋葬しよう」
マグナが言い出した事に、皆が頷いた。
それぞれに動き出す中、はショウの後ろ姿を見つめていた。
「そら、嬢ちゃん」
後ろから声を掛けられて振り返ると、先程自分と共にガレアノに銃を向けていたコートの男が、大きなスコップをふたつ手にして立っていた。
手渡されたスコップを受け取ると、重みが手に伝わる。
「ありがとう、ええと……」
「ああ、まだ名乗ってなかったな。
俺様はレナードってんだ。……この砦の生き残りさ」
最後に呟かれた言葉に、「そうか」とは僅かに目を伏せた。
「で、どこに行けばいいんですか? 掘る場所教えてください」
「ああ、こっちだ。ついてきな」
レナードに連れられて歩いていけば、同じスコップを手にしたマグナとトリスが、水を吸った重い――それでも柔らかくなっていた土を掘り起こしていた。
トリスが小さく息をついて、手を休める。
はそんなトリスの肩にぽんと軽く手を乗せる。
「交代。少し休みな」
「え、でも」
「いいから。ほら、どいたどいた」
本人の了承も得ずに、はおもむろにトリスの近くの土を掘り起こし始める。
「わわっ、ちょっとぉ……!」
文句を言いながら、しかしトリスは少しだけ頬を緩ませて城壁の方へ歩いていき、そこにもたれかかった。
土を掘り返しながらはちらりと空を見上げる。
雨はやんだが、どんよりとした曇り空はいっこうに晴れない。
まるで今の自分達の心境でも表しているような気になり、ため息が零れる。
しかしそんなことを気にしていてもしょうがないと、は黙々と土を掘り返した。
……こうしていると、昔を思い出す。
にとって、死者を弔い墓を作るのは、初めての経験ではない。
(……あの時は)
スコップの柄を強く握り締め、深く地面に突き刺す。
(あの時は、もっと――――)
単調な作業を黙々とこなすことで、心の中でのひとり言が自然と増える。
「――」
声をかけられて、思考は中断する。
顔を上げてみれば、声の主は隣にいたマグナだった。
「大丈夫か?
顔色あんまり良くないけど」
「平気だよ、ありがと」
小さく笑ってから、作業に戻る。
マグナは答えに少し不満そうな顔をしていたけど、気にしないようにする。
* * *
空けられたたくさんの穴に、兵士達の亡骸をひとりずつ入れてゆき、土をかぶせる。
砦のすぐ近くに墓が完成した頃に、アメルが目を覚ました。
そのまま、一行は逃げるようにファナンへと引き返した。
最後に、は一度だけ砦を振り返る。
……あの砦は、妙な既視感ばかりを感じた場所だった。
この世界では死者がどこへ行くのか、には未だによくわからない。
しかし、亡くなってそこへ行った兵士達の魂が今度こそ安らげればよいと、心の中で小さく思った。
* * *
帰り道にまた雨が降る。
それさえお構いなしに街道を通り抜けた。
ファナンにたどり着いたのは、門が閉まる直前の夕方だった。
モーリンの道場に着いた頃には、アメルは完全にぐったりしてしまっていた。
アメルだけでなく、他の誰も皆、疲労の色が濃く顔に浮かんでいる。
それぞれに割り当てられていた部屋に入っていった。
会話は、ほとんどなかった。
* * *
濡れた服を着替えて、はひとつの扉の前に立っていた。
少しだけ躊躇ってから、小さくノックする。
「……はい」
間を置いて、部屋の主――ショウが顔を出した。
「ってなんだ、じゃないか。
どうしたんだ?」
「ちょっと話があって」
「そか。
今、レシィが寝てるんだ。どこか他の場所で――」
ショウの提案に、はこくんと頷いた。
場所を、道場に移した。
今日はみんなくたびれ果てているから、こんな時間に道場にやって来たりはしないだろうという考えがにもショウにもあった。
「で、話って?」
「昼間のさ、ガレアノってのと戦ったときのこと、覚えてる?」
の言葉に、ショウは僅かに顔を曇らせた。
「それが……窓から飛び降りたあたりまでは覚えてるんだけど、そこから先があんまりよく思い出せないんだよな。
身体の中が熱くなっていって、気がついたら……戦いは終わってて、みんなが死体を埋葬してるところだった」
「そう、なんだ……」
「あのさ。何があったのか、教えてくれないかな。
他のみんなにはいまいち聞きづらくて……」
ショウの申し出に頷いて、はゆっくりとショウの記憶から欠けている部分の話を伝えた。
「……そうか」
「何か、あのときの力とかについて心当たりとかある?」
ショウは首を振って否定した。
「悪いけどさっぱりだ。
オレにそんな力があったってこと自体そもそも寝耳に水っていうか」
「わからないならしょうがないけど。
でも、悪い力って感じはあんまりしなかったから……きっと大丈夫だよ」
「そうだな。
教えてくれてありがとう。覚えておくよ」
一礼して、ショウは母屋に戻っていった。
その後ろ姿に、は何か言い知れぬ不安を感じ取っていた。