闇を照らす、柔らかい光。
with
第10話 ひとすじの月の光
「ふに……」
ついたての向こうからかすかに聞こえてきた声に、イオスは顔を上げ、頬を緩めた。
初めての遠出はやはり疲れたらしく、は買った荷物の整理もそこそこに、買ってきたパジャマを着こんでそのままベッドにもぐりこんでしまった。
テントを真ん中から二分するついたてのおかげで、今こうしてランプの明かりでを起こさないようにしながらデスクワークが出来るわけなのだが。
何かの加減で光がのほうにまで行ってしまったのかと、イオスはいったん手を止め、ついたての横から向こう側をのぞいた。
「…………すぅ…………」
「寝てる、か」
起こしたというわけではないようだ。
見ると、寝返りでもうったのか掛け布団がベッドからずり落ちそうになっている。
はといえば、そんなことすらわからないほどにぐっすりと寝入っているらしく、ベッドの上で丸くなっていた。
苦笑し、イオスはそっと布団を掛け直す。
その時、のかげに隠れて見えなかった枕もとに、昼間買ったバレッタが置いてあるのに気がついた。
男所帯のこの集団において、女の子らしいことなど何一つさせてやることは出来ない。
せめて、という思いをこめて。
そして、彼女に言ったように旅団の仲間入りを果たしたという記念の意味も含めて。
そういうつもりで、贈った銀の髪飾り。
しかし、思ってみればもしかしたらそれは、建前でしかなかったのかもしれない。
イオスにとって、は光だった。
混沌の闇へと堕ちて行きそうだった心に射した、一条の光。
強すぎず、静かであたたかい。
暗雲の隙間から不意に射した月の光のような。
そんなの喜ぶ顔が見たかった。
自身を救ってくれたへの、感謝のしるし。
本当は、そういった意味合いの方が強かった。
けれど、それを素直に言ってしまうとは受け取ってはくれなかっただろう。
「恩返しをしたいんだ」と言っているから。
バレッタの中央にはまっている石に視線を移す。
光の加減で淡い蒼の光を映す、白い石。
それを見た瞬間、に相応しい石だと、イオスは直観的に思っていた。
本人も何か感じるものがあったようで視線が釘付けになっていたのだから、もしかしたらこの石には何かあるのかもしれない。
詳しい話を店員に聞けなかったのは残念だった。
店員にもわからないのでは聞き様がないのだから、しょうがないのだけれど。
イオスは、幸せそうに眠るに、もう一度視線を落とした。
初めて会ったときのような怯える姿は、最近はあまり目にしない。
それだけ、自分や周りの人間たちを信じられるようになったのだろう。
には、ずっとこのままでいて欲しい。
つらそうな顔や怯えた姿は、正直あまり見たくないから。
このまま、優しい少女でいて欲しい。
イオスは、の頭をそっとなでる。
さらさらと落ちる漆黒の髪が心地よかった。
「…………おやすみ、」
耳元でそれだけをそっと囁くと、イオスは仕事を再開すべく、ついたての向こうへと戻っていった。
UP: 04.02.17
更新: 05.10.09
-
Back
-
Menu
-
Next
-