安らぎの時間。
ひとときの、穏やかな時間。
そばにあるのは。
想い出と、あたたかさ。
with
第24話 祝福の光
「ちょっと出かけてきます」
「え?」
もうあとは寝るだけといった、夜遅い時間。
一言だけを残して、イオスの返事も聞かないままに、はテントから抜け出して行った。
「ちょ、ちょっと待て! !!」
慌てて、イオスもコートを引っ掴んで追いかけた。
* * *
は案外すぐに見つかった。
駐屯地の明かりも遠い森の中の、少しだけ開けた場所。
降り注ぐ月の光と、ぼんやりとした蒼い光に照らされたは、暗闇の中でもよく見えた。
「!」
少々きつめに呼び掛けてみると、はきょとんとした顔で振りかえった。
「あっ、イオスさん。どうしたんですか?」
悪びれた様子もなくいつもどおりに笑顔を浮かべるの姿を見て、イオスは安心した反面、少しムッとしたのもまた事実だった。
「どうしたんですかじゃないよ。こんな時間に外に出歩くなんて、君はいったい何を考えているんだ?」
「あ……ご、ごめんなさいです」
途端にしゅんとなってしまったのそばまで歩いてくると、蒼の淡い光の正体がわかった。
「……それ……」
の手に収められた、今は鞘から抜き出されている大振りのナイフ。
――昼間、彼女が“お守り”と呼んでいたもの。
その刀身が、やわらかな光をにじませている。
「最近、ちょっとサボってたから」
は小さく肩をすくめてみせてから、淡く光る刀身に視線を落とす。
「このナイフはね、“アセイミ・ナイフ”って言って、妖精の祝福を受けてるんです。
月の光を力の源にしてるから、ときどきこうやって月光浴させてあげると、力が続くんですよ」
言われて、イオスは改めてナイフを眺めた。
たしかに、その刀身からは不可思議な力を感じるような気がする。
「あたしはこんなの振り回したってなんにもできないけど……
でも、このナイフといっしょに月光浴してるの、好きだから。
リィンバウムは、あたしがいたところよりも月の光の力が強いみたいだし、こうやってると気分がいいんです」
は満足そうに笑っていた。
その笑顔に、イオスの方も毒気を抜かれてしまう。本当なら、ひとりでこんな時間に、こんな場所に出歩く事をもっと叱るはずだったのだけれど、もうそんな気分はどこかへ行ってしまった。
「でも、イオスさんに心配かけるつもりなんかぜんぜんなかったのに……ごめんなさいです」
イオスの心を読んだかのように、はしゅんと頭を垂れた。
ばつが悪そうに、上目遣いで自分を見上げてくるに、思わず笑みが零れた。
「……ちゃんと、反省してる?」
静かな問いに、はこくんと頷く。
「じゃあ、許してあげる。ただし……」
イオスは、ぽすんとの頭に手を載せて、やわらかく撫でた。
「これからは、月光浴をするときにはひとりで行かないで、僕も連れて行くこと。
それだけは守ってくれるかい?」
「あ……はいっ」
「約束だよ」
わざと小さな子供にするように念を押してみれば、案の定は不満そうに唇を尖らせて抗議したが、すぐにまた笑顔を浮かべた。
「はい……約束、です」