『いつの間にか美少女になっていた親戚の子と交際を賭けてゲームすることになったというお話』





 なんにせよ当面の危機は去った。
 いくら性格が昔のままだったとしても、体が成熟したトモに対して平常心を保てるほど俺は強い人間ではない。

 高ぶった気持ちを落ち着けるためにも普段より長めに風呂に入った。
 かなり熱めの湯加減のはずだったが気にならなかった。
 それよりもさっき味わったトモの細くてしなやかな体の感触が忘れられない。

(まさかトモの体に欲情する日が来るなんてな……)

 少しのぼせながら脱衣場で着替えて部屋へ戻る。
 階段を登る途中で、さっきは少し言い方が良くなかったと反省する。
 あれじゃあいくらなんでもトモだって意味がわからないだろう。

 もしかしたら不必要に怖がらせてしまったかもしれない。
 あれこれ悩みながら部屋までの短い距離を歩く。

 ただ、俺も今日は疲れている。
 トモに明日会った時、ちゃんと謝ろう。

「ふぅ……」

 旅の疲れもあって今夜はすぐに眠れそうだった。
 部屋の明かりをつけずに布団の中へ入ろうとすると、柔らかい何かに手が触れた。

「んっ……なんだこれは」

 手探りで確かめると、それは柔らかくもあり弾力性もありの不思議な感触で――、

「にいちゃんっ!」
「うわあああああああああっ!」
「そんなに私のこと嫌い?」
「と、トモ!?」

 驚いて大きな声を出してしまい、慌てて自分の口をふさぐ。
 暗闇に潜んでいたのが彼女だとは思いもしなかった。

「お前どうして……」
「少しお話しよ? ねっ」

 聞けばさっき叱られたあと、こっそりもう一度ここへ忍び込んだという。
 呆れてる俺に対してトモがもう一度同じことを尋ねてきた。

「それでにいちゃん、トモのこと嫌いだからさっき怒ったの?」
「そ、そんなこと、ないけどさ……」
「じゃあどうしてさっきトモは怒られたの?」

 不安そうな目で見つめられる。
 じつに気まずい。
 でもここは適当にごまかすべきではない。

 実際、俺がトモのことを嫌いなわけがない。
 ただ、異性として意識してしまったことで戸惑いが生まれたのだ。

 意を決してそのことを伝えようとすると、急にトモが泣きそうな顔になった。

「悲しかったんだよ。いっぱい勇気を出したのに。
 にいちゃんが喜んでくれると思って頑張ったのに」
「それは……ごめんな」
「お風呂のことだって真剣だったよ。
 にいちゃんと会える日をずっと楽しみにしてたんだから。
 だって私たちって何年も前に会ったきりじゃない?
 今日を逃したらまたしばらく会えないかなと思って」

 全てこいつなりに考えた上での行為だったのだ。
 頭ごなしに叱りつけていいはずもなかった。

 俺は素直に謝った。

 そして罪滅ぼしのつもりで何でもいうことを聞いてやると言ってしまった。

「ホントに!?」
「ああ」
「じゃあゲームしようよ」
「えっ」

 それならお安い御用だ。トモの機嫌がその程度のことで直るなら。
 明日の朝まで格闘ゲームに付き合うくらいならかまわないと考えていたのだが、彼女の希望は少し違うようだった。

「ちょっとくらいエッチなゲームでもいいよね……」
「えっ」
「にいちゃんが私の誘惑に我慢できたら、今日のこと許してあげる」
「えっ、えええっ!?」

 そう言ってからトモは俺の両肩に手をおいて、体をギュウウウッと押し付けてきた。
 柔らかな胸が俺の体にぶつかって形を変える。
 密着したことで俺の心臓が一気に早鐘を打ち始める。

「ゆ、誘惑ってどういうことだ? お前は一体何を……」
「お風呂上がりだから温かいね。にいちゃん♪」

 色っぽい上目遣いにドキッとする。
 トモは着替えに行った時にシャワーを浴びてきたようで、少し濡れた黒髪からは清潔感が漂っていた。

 トモは、いや朋花はじっと俺を見つめたまま言葉を発しない。
 うっとりしたような熱っぽい目で俺をじっと見ていた。

(でも、こうしてるだけでこいつの気持ちが伝わってくる……)

 ひたすら俺のことが好きだという思いがビンビン伝わってくる。
 自意識過剰じゃない。
 その証拠に朋花の指先はしっかりと俺の腕を掴んでいた。
 こんなにストレートな気持ちをぶつけられて俺は我慢できるのだろうか。

「ゲ、ゲームで……」
「うん?」
「もしも俺が、朋花の誘惑に負けてしまったら?」
「その時は……ふふふふっ」

 意味深な笑みを浮かべながら、朋花はリモコンに手を伸ばして部屋の照明をつけた。
 最も光量を落とした状態だが相手の顔ははっきりわかる。
 淡いダウンライトに照らされた美しい横顔に俺はますますドキドキしてしまう。


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