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『季節外れの新入部員と洗礼』



 年が明けてすぐという時期に俺、大井ミナトはこの私立鷹見学園に編入した。
 その理由は進学先がこの学園の高等部に内定しているからだ。

 表向きは親都合での転校ということになっているが、その実態は特待生候補。
 学費の免除はもちろん、専用の個人寮まで用意されているのでその情報は一応秘匿している。
 同級生に妬まれながらの学園生活なんてまっぴらごめんだ。

 昨年の春にテニスの大会で好成績を残した俺を、この学園のテニス部が半年前にスカウトしに来た。
 これが青田刈りというやつか。俺が卒業するのは再来年だというのに気の早いことだ。
 聞くところによると俺の他にも数名候補者がいるらしい。

 いくつかの好条件を出されたので俺は両親と相談の上、進学先をここに決めた。
 ただ、この学園で一つだけ特殊な点があるとスカウトが話していた。

 掛け持ちでのバトルファック部への在籍が勧められているという。
 そして特待生は必ず一ヶ月以上在籍しなければならない。
 半強制的な理由として、鷹見学園が少子化対策のモデル校であることをスカウト氏は挙げていたが、狙いは別のところにあるという。

「ずばりハニートラップ対策です。有望な選手は特に必要かと」
「えっ、なんですかそれ」
「ミナトくんみたいな男子は特にモテると思いますので」
「バトルファックで女の子に慣れろという意味ですか」
「だいたいそんなところです。色仕掛けのせいで試合に黒星がつくようなことがあってはなりませんから」

 まあ俺にとっては通過点に過ぎないこの学園中等部で、しかもバトルファックなんてどうでもいいことではあるが。
 むしろ公然と女子と肌を合わせることができるなんてラッキーじゃないか。願わくば相手がそれなりに可愛い子だったら嬉しいと思う。
 その時の俺はバトルファックについてその程度の認識しか持ち合わせていなかった。



 そして迎えた初登校の日。流石に緊張する。

「はじめまして。自分は――」

 無事に自己紹介を終えるとクラスメイトから拍手が送られた。
 短い付き合いになるかもしれない俺のために手を叩かせて申し訳ない。

(いい雰囲気のクラスだ。荒れてなくてよかった)

 あとは目立たずず今学期を過ごせばいいだけだ。バトルファック部への半強制的な在籍期間は中等部で消化することが許されているらしい。

(今日の放課後は早速入部届を出さなきゃいけないな)

 そんな事を考えていると、隣の女子が話しかけてきた。

「大井くん、あの進学校から移ってくるなんて珍しいね。得意な科目って何?」

 名札を見る。
 北川ミズホという名前みたいだ。なかなか可愛い。

「あ……大井くん、大井さん? 呼び方はどっちがいい?」
「好きに呼んでくれていいけど」
「じゃあミナトくんでもいいってことだね!」
「かまわないよ」

 じつはちょっと照れくさかったりする。
 いきなり距離感を詰めてきやがった。俺にとって新鮮な感覚だ。

「にひひ、ミナトくんも私のことミズホって呼んでいーよ」
「う、うん……わかった」

 黒髪のボブカットで清潔感のある素朴さ。
 身長はおそらく俺より15センチ程度低いだろうが、スタイルは悪くない。
 胸もそれなりに大きく見える。何より笑顔がいい。
 見惚れてると思われるのも恥ずかしいので話題を戻そう。

「俺は数学が得意な方だけど、実際はそれほど大したことはないかもしれない」
「どっちなのよ~!?」
「想像におまかせする」

 適当に話を合わせる。何事も最初が肝心。
 事を成す前に余計な心配事は少ないほうがいいからな。

「そういえばこの学校のこと知ってる?」
「いや、わからないことだらけで」
「男女問わず全員がバトルファックしなきゃいけないんだよー! 恥ずかしがり屋さんには辛い制度だよね」

 プクーと頬を膨らませている。表情豊かでやはり可愛い。
 件のバトルファック部でもこの子に相手してほしいくらいだ。
 聞けば彼女は新体操部だという。時間がある時に練習を見学したいな。

「あの、バトルファック? やっぱり必須なんですか」

 生徒から生の声が聞きたいのでとぼけたふりをする。

「拒否ると留年だよね」
「じゃあ仕方ない。やるしかないなぁ……」

 本音が半分、期待と嘘が半分で受け答えする。
 俺は既に頭の中で目の前のミズホとバトルファックをしていた。

(抱き心地の良さそうな体だ……目一杯優しく扱ってあげたい。そして彼女をイかせてから俺も膣内で――)

 初対面なのに適度に距離が近いので欲情しかけてしまった。
 そういえば彼女、なんだかいい匂いがするぞ。

「大井くん、今なんかエッチなことかんがえてた?」
「い、いや別に?」

 勘が鋭いな。やりにくい。それにしても、他校からこの学園の高等部へ進学が内定している俺だが、これは誤算だったかもしれない。
 まさか入部を拒否したら進学に影響するほどとは……そしてさらに北川ミズホと話をしてみると、この学園はバトルファックが強いのだという。
 団体戦では常に県内リーグトップ。
 個人戦では全国大会に手が届くレベルの猛者もいるとか。


 他の部活をやるにしてもバトルファックの成績は影響が強く、しかも必ず上級生と一度は手合わせをしなければならない。上級生が居ない俺の場合は同級生が相手となる。
 そして、困ったことに俺は童貞だった。

(できればこの子みたいに可愛いこと対戦したいな……ミズホならきっと優しく勝たせてくれる気がする)

 期待と不安が入り混じるが、スカウトから言われたことが引っかかる。

「ミナトくん、君は特待生候補とはいえまだ試用期間だ。不都合なことが
 重なると学園長からお叱りを受けて内定が取り消しになることもある。
 くれぐれも女性の魅力におぼれないようにね」

 バトルファックでは必ず女子と肌を合わせることになる。
 男子は少なからずドキドキしてしまうだろう。
 もちろん俺だって、すごく緊張してる……

 それ以外にもいろんな事を考えていたらあっという間に放課後になった。

 ミズホと挨拶をして別れる。彼女も部活だという。
 新体操をする姿も可愛いんだろうなと思う。
 とにかく初日から友だちができてよかった。

 立ち上がろうとした時、ミズホとは反対側の席の子にツンツンと肩をつつかれた。

「え、えっと……何かな?」
「藤原リコだよ。顔と名前、まだ覚えてくれてないんだ」
「うん。ごめんな」
「ふふっ、いいよ別に。それより、バトルファック部の部室を探してるんでしょ」
「ああ。知ってるのか?」
「うん! だってアタシ、部員だもん」

 得意げに胸を張るギャル、じゃなくて藤原さん。
 これはちょうどいい。
 彼女のあとに付いていこう。

「ミナトはエッチ得意な人?」
「い、いや……普通かな。藤原さんはどうなの」
「リコでいいよ。みんなそう呼んでくれるし」
「じゃあリコ。なれなれしくないか? 俺」
「いいね、その声♪ ちなみにアタシはエッチ好きだけど得意じゃないよ」

 人もまばらな廊下を彼女と一緒に歩いていく。
 ミズホと違ってリコはすらりとした高身長。
 そして胸はミズホよりも少しだけ控えめ。
 日焼けしているのか地黒なのかわからないけど、活発な印象を受ける。
 茶髪がよく似合うきれいな子だと思う。

「ところでミナトは知ってる?
 バトルファックしてると内申点が上がるんだって!」
「なん、だと……初耳だな」
「しかも二段階! だからアタシみたいに勉強あんまり好きじゃない子にとっては大助かりな制度なんだよねー」

 ついでにエッチもできちゃうし、と言ってからリコはぺろっと舌を出す。
 これくらいあっけらかんとしていたほうがエロさがなくて好みだな。

 スカウトにも言われけどバトルファックは国策だという。
 少子化の抑制、出生率の向上、何よりも男女の意識を対等なものにするためだとか。

(体でわかり合うといえば聞こえはいいけど、さすがに抵抗あるよなぁ)

 単純に恥ずかしさや照れもある。感染症などの衛生面については専属の医療スタッフもいるらしく万全だと聞かされているが、俺にとっては初体験のことが多すぎる。なんと言っても今までは男子テニス部の連中としか関わってなかったからな。

「ついたよー」

 あれこれ考えているうちに到着したらしい。
 普通の教室の入口、だ。特別等のワンフロア全てが闘技場だという。
 いまのところバトルファックの声や物音は聞こえていない。

「はいりまーす。うわっ、副部長!?」
「何故驚くのよ。それにしても久しぶりね、藤原リコ」

 部室にはすでに一人の女子がいた。
 ミズホより少しだけ長い黒髪でキリッとした印象の美形さんだった。

「だって普段は副部長はここに居ないって聞いてたからさ。
 ああ、そうそう! 新入部員連れてきたよー」
「こんな時期に?」
「うちのクラスの転校生くんだよ。じゃ、あとはよろしくー」

 そう言い残してリコは足早に立ち去っていった。
 副部長さんがそんなに苦手なのか。

「慌ただしくてごめんなさいね」
「いいえ」

 フーっとため息を吐く副部長さん。
 俺と同い年のはずなのに妙に落ち着いた雰囲気をまとっている。

「わたし、蔵瀬立華(くらせりっか)。ここでは副部長をさせてもらってるわ」
「自分は今日からこの学校に転向してきた大井ミナトです」
「説明は聞いてると思うから省くけど、
 最低でも一ヶ月間の付き合いになると思うからよろしくね」

 ギュッと握手を交わす。すると彼女は微笑みながらこういった。

「あら、うふふふ……ちょっとうれしくなっちゃった」
「!?」

 さらにギュッギュと手のひらを握られ、指の先まで撫でられた。

(き、きもちいい……なんで、ただこれだけなのに、おかしいぞ!?)

 特に彼女の細い指で爪をくすぐられるとダメだった。
 声が抑えられない。

「大井くんって、童貞で間違いないわよね?」
「な、なんで」
「おいで。優しくしてあげる」

 細い指先を絡ませたまま、副部長が俺を隣室へといざなう。

 部屋の奥にあるドアを開ける。そこは薄暗い部屋だった。

「靴はここで一旦脱いで」

 言われるままに靴を脱ぎ、一段上がっている室内へ入る。
 自動的に間接照明が点灯する。

「新入部員は部長か副部長がお相手することになっているんだよ」
「そうなんですか」
「少し声が震えてるよ? 怖がらなくていいのに」

 クスッと笑う副部長。
 その横で俺はこれから何が始まるのかを期待していた。

 フカフカの赤い絨毯と、中央にある幅が2メートルはあろうかというベッド。
 更に奥に見えるのがシャワーブース。四方を囲むカメラと壁掛けのスクリーン。

「まさかこれ、バトルファックのための……!」
「そう。全ては記録されているわ。後で反省会や検証を行うためにね」

 喋りながら制服の上着やリボンを外し始める副部長。
 なめらかで真っ白な肌が惜しげなく俺の目の前にさらされる。

「二人きりだよ。あなたも脱がないと始まらないでしょ」
「で、でもっ!」

 こんないきなり、と言い出しそうな俺の唇に副部長は人差し指を当ててきた。

(言葉なんていらないわ。あなたの初めて貰ってアゲる♪)

 彼女の目がそう言っているように感じる。

 俺は圧倒されていた。
 薄暗いのは分厚いカーテンが窓を覆っているせいなのだが、それ以上にここが学園内であるとは、もはや思えなかった。



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