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 重いまぶたを開けるとそこは医務室だった。

「あっ、ミナトくんが起きたよ!」

 聞き慣れた声。逆さになって俺を覗き込むのは、クラスメイトでありバトルファック部の部長でもあるミズホ。俺はこいつに何かされたんだっけ。

「うっ、まだ頭がクラクラするぞ……」
「ごめんね。まさか副部長があそこまでやるとは思ってなくて」

 ああそうだ、ミズホじゃなくて副部長のリッカだ。
 俺を医務室送りにしたのは。

「大井くんごめんね。ちょっとわたし、熱くなりすぎたみたい」

 ミズホの背中から申し訳無さそうに顔を出した副部長は、何故かいつもより顔を赤くしているように感じた。
 予想外に俺が粘ったものだからつい本気を出してしまったという。

「ミナトくんダメだよ! まだ動けないでしょう。無理しなくていーよ」

 体を起こそうとした俺をミズホが制止した。
 その言葉に甘えて素直に従う。

(リッカは百戦錬磨の副部長。
 どう考えても脱童貞から数週間の俺が相手になるわけがない。)

 そう考えた俺は、あのマッチングについてミズホに尋ねてみた。

「さっきの対戦でわかってもらえたと思うけど、ミナトくんに足りないのは駆け引きの技術なんだよ」
「それは自分でも感じるけど……」
「まあ、そう簡単には行かないよね」

 ミズホは穏やかに微笑んでいる。

「でもね、他の同級生よりもミナトくんが圧倒的に自慢できる部分もあるよ!」
「なにっ」

 単なる気休めとか慰めのつもりならやめて欲しいところだが、部長である彼女がそんな事を言うはずもなかろう。

「まだ初めて一ヶ月も経たないミナトくんだけど、部長である私とリッカが割と付きっきりで鍛えてきたものがあるじゃない」

 付きっきりで高められたものって言われても思いつかないな。
 でも待てよ、何かある。無意識だけど確かなもの。

 何度も何度も射精して、そのあとさらにイかされて――、

「あっ」

「そう、耐久力だよ!」

 俺の心の中を覗いたようにミズホがポンと手を打った。


 それからさらに少し休憩してから俺たちは医務室を出た。
 三人でバトルファック部の会議室に戻る。
 部室では数名の部員が打ち合わせをしていた。

 俺たちはその脇を通り抜けて会議スペースに入った。
 防音扉で仕切られた4メートル四方の空間だ。

 部長と副部長から大切な話があると聞かされている。

「実はね、ミナトくんがうちのクラスに来たのは偶然じゃないんだ」
「え、それはどういう意味だ?」
「ミナトくんのおうちにきたスカウトの人の顔覚えてる?」

 急に尋ねられて困惑する。たしか若い女性だったと記憶している。
 人懐っこい笑顔で話しかけられて、ついつい気を許してしまうようなスカウト氏。
 それこそミズホみたいな黒髪で可愛らしい感じの……

「あれ、私のお姉ちゃんなの」
「なんだってー!?」

 俺にとって今日一番の驚きだった。ミズホが話を続ける。

「ミナトくんがうちの学園に来るって決めた次の日に学園長から直々に依頼が来たの」

 ミズホのお姉さん、美野里(みのり)さんというらしいけど、彼女は学園の教師であり卒園生だった。
 在学中から学園長に可愛がられており、バトルファック部でも当時指折りの実力者だったという。
 そんな姉を持つミズホだからこそ、自分はバトルファックとは縁が薄そうな新体操での活躍を目指したらしい。でも結局はバトルファックの才能の輝きが強かった。

「それで、お姉ちゃんから私に話が降りてきたの」
 彼は将来うちの学園にとって期待の星になるから、
 他校のハニートラップから身を守れるように鍛え上げてくれって」

「そんなことがあったのか……」
「だから私は最初から知ってたの。ミナトくんが特待生だってことを」

 そこまで話し終えてからミズホがペコリと頭を下げた。

「別にそんなに謝らなくていいから」
「でも……」

 騙し討ちのようなことをしてごめんなさいとミズホに続いてリッカも頭を下げた。
 防音された仕切の中で話す理由がわかった。
 こんなところを他の部員に見せるわけには行かない。

「ミズホもリッカも俺を鍛えてくれた。それだけのことだろ?」
「う、うん……」
「おかげで黒崎さんの襲撃にもある程度我慢できたってわけだ」

 俺の言葉に安心したように、二人は揃って肩の力を抜いた。


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