学校へ行く途中、俺は困っていた。

さっき柚子に言ったとおり誰に告白するかを決めてはみたものの、
よく考えてみたら相手への連絡方法がない。

(まいったな……どうすっかな)

ボリボリと頭をかいていたその時、ケータイにメールが着信した。

これは……柚子?

画面を開いてみる。



『080-2255-xxxx かりん
 兄貴ガンバレ! きっとお似合いの二人になれるよっ』



すげー!!

なんでわかったんだ……さすが俺の妹といったところか。

柚子の助けもあり、花鈴ちゃんの番号をゲットした。

でもいきなり電話したら迷惑かな…………時間はまだ九時前だ。


……………………

………………

…………

……


ちょっとだけ迷った末に、俺は思い切って通話ボタンを押した ―――




プップップ……という音の後、花鈴ちゃんのケータイにコールが響く。

それと同時に俺の背後に驚きの声が上がった。


「キャッ!!」

「えっ……?」


なんとそこには私服姿の花鈴ちゃんが!

「おはよう……ございます、センパイ……」

「やあ、すごい偶然だね!」

何でここにいるんだろう?
本当に偶然にしては出来すぎだ。


「センパイ、土曜日なのに学校ですか?」

「今日は補講にいくんだよ。花鈴ちゃんは?」

「私?……えっと……コンビニまでお買い物ですっ。そしたら急にセンパイから電話がきたからびっくりしちゃって……」

「そうなんだ」

「お隣いいですか?」

黙ってうなずくと、花鈴ちゃんがチョコンと俺の隣にやってきた。
しばらくの間は会話もなくまっすぐの道を歩いた。

「あの……」

「なんで俺からの電話ってわかったの?」

「あっ……!」

「俺は君の番号を知ったのは今日なんだけど?」

そこまで言ったとき、花鈴ちゃんの足が止まった。

「わ、私はっ……ずっと前から知ってました……ごめんなさい」

「ゆずから聞いたの?」

「ハイ……」

だいたい予想はしていたけど、花鈴ちゃんも積極的だな……

彼女は性格的には一途過ぎるというか、けっこう激しいタイプだと思う。

ただ行動はなぜかいつも控えめだけど……キレさせると怖いタイプかもしれないな。


「花鈴ちゃん」

「本当にごめんなさいっ! でも私……」

必死に弁明する彼女の頭に手を置いた。
そして柚子にもよくやるように、前髪をクシャっとしながら撫でてやる。

「あっ……」

「ずっと俺のこと、見ててくれたんだね?」

「ハイ……」

「ゆずと遊んでいるときも?」

「ハィ……」

彼女の声の震えが止まった。
俺が怒っていないことはなんとなく伝わったらしい。


「いつごろから?」

「恥ずかしいからあんまり聞かないでください…………全部お話しますから……」

花鈴ちゃんと俺は近くの公園に立ち寄ることにした。



「ずっとセンパイが……お兄さんが好きでした」

公園のベンチに腰をかけて、しばらくしてから花鈴ちゃんがポツリと話し始めた。


「小さい頃、私もゆずみたいな髪型だったんです」

「ほんとに?」

「ハイ!」

彼女がこっちを向いて笑うと、すごく癒される。
基本的に柔らかな物腰だからなのか……一緒にいて心地よい女性だと思う。


「それで?」

「私が交差点の信号を渡れなくて困っているところに、お兄さんが突然やってきて手を引っ張ってくれたんです」

そんなことしたのか?
全然記憶がないんだが……俺の記憶よりも彼女の記憶のほうが信憑性がある。
ここはひとつ黙って聞こうか。

「渡りきったところでポカッて叩かれて『もうあんな危ないところに行くな、ゆず!』って叱ってくれたんです」

その行為は確かに俺らしい。
特に柚子に対してだったら、容赦なく手を上げていただろう。

「最後までお兄さんは勘違いしたままで、そのままどこかへ遊びに行っちゃいました」

「それは……わるいことをしたね……」

俺は素直に謝った。
柚子相手のパンチだったら、かなり痛かっただろうに。

「覚えてないですよね? うふふっ……」

「申し訳ない」

「でも私は覚えてます。嬉しかった……」

花鈴ちゃんは少し遠くを見るような目をした。


「叩かれたのは驚いたけど、叱り方がとても優しくって…………ゆずが羨ましくなりました」

そういえば彼女はお兄さんがいないといってたっけ。
幼い日の想いを今までずっと温め続けていたというわけか……

「それでいつかお兄さんにまた手を引っ張って欲しいなって思いながら今までずっと」


そこまで言ってから、花鈴ちゃんはベンチから立ち上がった。

「私と付き合ってください。」

「かりんちゃ……」

「お兄さんのことなら誰にも負けません。夏蜜センパイにも……そして、ゆずにも……」

彼女の目にいつものオドオドした感じはなかった。
年下の……柚子の親友である彼女からの告白に改めて心が揺れる。
俺は花鈴ちゃんをじっと見つめていた。



「夏蜜さんはともかく、柚子は手ごわいぞ?」

「はい、わかってます」

「やきもち焼きで、自分勝手で泣き虫で……」

「……それにお兄さんのことが大好きですよね?」

付き合いが長いからさすがに良くわかってる。
花鈴ちゃんならきっと俺の知らないことまで詳しく把握してそうだ。


「全部わかった上で、私……お兄さんの彼女になりたいんです……あの……ダメですか?」

どうやら彼女は本気らしい。
心のどこかで俺は疑っていた。
こんな可愛い子が本気で俺のことを思っているはずはない、と。

しばらく考えてから、俺は口を開いた。

「ダメだ」

「っ! 私じゃダメなんですか……っ!!」

「……」

「教えてください。直せるところがあるなら全部直しますからっ」

今にも泣き出しそうな顔で俺にすがりつく花鈴ちゃん。


「彼女にしてくれるなら髪型だって服装だって、全部お兄さんの好みに合わせちゃいます! 部活だって、それに……エッチだって……なんでも……」

「…… お兄さん ――」


俺は遮るように言った。


「えっ……?」

「俺のことを『お兄さん』っていうところがダメ。」

「あっ……、じゃあ直します。他には?」

「他には何もない。君は素敵だよ、花鈴ちゃん。」

「えっ、えっ!?……え???」

俺もベンチから立ち上がった。
勇気を振り絞って必死に語りかけてくれた彼女に、礼を尽くさねばならない。


「それと俺のほうからお願いさせて。俺と……いや、俺の彼女になってください」

「ハイ……」

俺からの告白を聞いてリンゴみたいに真っ赤になる彼女の顔。


「でもどうして……ですか?」

「理由が必要?」

「できれば……ききたいです……」

今度は俺が悩む番だ。
でもいい言葉がでてこない。
俺の頭に浮かんだことを素直に並べることにした。

「君はいつも柚子の後ろに隠れてオドオドしてるでしょ?」

「ハイ……」

「でもたまに笑うとすごく可愛くて……いい子だなぁ……ってずっと思ってた。」

「そんな……」

どうやらうまく伝わったらしい。


「でもこれから俺と一緒にいるときは、いっぱい笑って欲しい」

「いっぱい笑います! ゆずみたいに!!」

「ゆずや夏蜜さんと自分を比べることもしなくていい。君は君のままで……俺のそばにいて欲しい」

まだ開く前のつぼみ……
うまく言えないけどそれが彼女に対する俺の印象だ。

俺がうまく花を開かせてやる自信は今のところないけど、付き合ううちにお互いを知ればきっとうまくいくと思う。
花鈴ちゃんと手を繋いで、俺たちは公園をあとにした。

補講が終わったら彼女とデートしたい……と考えてる。



校門の前での別れ際、俺はそっと囁いた。

「あと……こないだのエッチはすごく強烈だったよ?」

「あっ、あっ、あれは……言わないで……! 恥ずかしいっ…………でもまた今度シテあげますね? ふふっ」

普段はおとなしくて理想的な妹みたいな花鈴ちゃん。
今までどおり柚子ともうまく付き合ってくれるだろう。

これからはうちに来る回数も増えるかもしれない。
時々大胆な行動をする危なっかしい彼女と一緒に過ごすことを、俺は決意したのだった。










『あたしが応援してあげるッ ~ ver. かりん ~』 おしまい♪




おまけ