『あたしが応援してあげるッ -LOVE TRIANGLE-』
(うぉぉ、体の芯が焼ける……柚子のやつ、くそ…ぉ!)
いったん部屋の外に出た柚子が戻ってくるまでの間、俺は下半身が疼いて全く身動きが出来なかった。
「あーすっきりした! おやすみ兄貴」
「で、肝心の話っていうのは……」
「お~っ、今日はもういいや。
また明日、お話しよう? じゃあね~~」
「お、おいいいいいっ!」
自分から切り出しておいてそれかよ!!
「言っとくけど、自分でシコってもたぶん出せないから
ね」
「ぅくっ!!」
「妹のテクニックで中まで蕩けちゃったおちんちんと一緒に一晩悶えてなさい!」
「待ってくれ柚子……
こんなの我慢するなんて無理いいぃぃ」
ばたん
(あいつめ、覚えてろよ……でも体が……うううぅぅぅ!)
俺のほうも今の一件で体力を搾り尽くされた気がするので、今日はおとなしく休む事に決めたのだった。
■
じつに寝苦しい夜だった。
柚子の焦らし責めのおかげで、明け方近くまで悶々としていたのだ。
(ホ、ホントに自分でしごいても何か足りない……いつもみたいにイけない、くそおお!)
ついさっき目覚ましが鳴り響いた瞬間、本能的に手を伸ばし、停止ボタンを押してまた二度寝してしまった。
おかげでまぶたが重すぎてあがらない。
ああ、もっと俺に睡眠を……
んっ……?
「起きろっつってんでしょ、兄貴いいいいいいいいいいいいい!!」
「あがっがががっががが!」
柚子のちっこい足が俺の股間を踏みにじってる! 両脇でがっしりと俺を拘束したまま、無防備な股間を何度も何度も何度も何度も――
「刺さってる、足の指、刺さってるからそれ! もげるうううううぅぅ!!」
ぽいっ。
必死で訴えること十秒弱。妹は残忍な笑みを浮かべて俺の足を放り投げた。
「ぁんっ、もしかして出ちゃった?」
「ああッ、ぐぁ……ぅああ、出ねえよ!!」
いつかこいつに教えてやりたい男の痛み。
しびれる股間を両手でかばうように押さえながら俺は妹をにらみつける。
「あっそ……
あたし今日急ぐから。じゃあねー」
「てめぇ、待ちやがれ……この痛みを……ぅぉ」
駄目だ、まだ動けない。柚子の電気あんまのせいで上半身しか言う事を聞いてくれない。
「言い忘れてたけど、玄関にかりん待たせてるから」
「マジかああぁ! またかよっ
うおお、おおおおおい! 柚子~~!」
駄目だ、すぐに立ち上がれない……
■
「今日も待たせてごめん!」
連日の寝坊で彼女を待たせてしまった。こんなに健気で可愛い後輩なのに申し訳ないと思う。
我ながら実に情けない朝だ……
でも花鈴ちゃんはそれほど怒ってる様子もなく、いつもと同じ笑顔だった。
それがまた俺の申し訳ない気持ちに拍車をかけているわけだが……
「慌ててるセンパイもちょっと素敵かな……って」
(素敵……どこが?)
たまに彼女の考えてる事がわからなくなるけど、何か妄想しているみたいだ。
その様子をしばらくの間眺めていたのだが、ちょっと飽きてきた。
「あの、そろそろ行こうか……」
「ひゃあああっ、な、なんでもないです~~~!
こっち見ないでください、センパイ!!」
「わああ、ごめんっ!」
■
足早に歩いたせいか、今日は昨日よりも余裕を持って校門をくぐる事ができた。
花鈴ちゃんも忘れ物しなかったし、いい感じで学園生活を迎えられそうだなと思った矢先……
「そこの男子イイィィッ! 今日もけしからん男子生徒、
大島勇気くん、とまりなさあああああい!」
(柚子より身長小さいのに元気いいなぁ、あの子……)
不機嫌そうな風紀委員、いや生徒会の副会長。
しかも今日は名指しですか。
ぼんやりとそんな事に感心していたら、花鈴ちゃんがゆらりと一歩前へ出た。
「もうっ、せっかくセンパイとお話してるのに!
何か御用ですかぁ」
「ひゃうっ! き、きむら……かりん、さん……」
花鈴ちゃんの顔を見て明らかに狼狽する副委員長。
「もしかして知り合いなの?」
「はい、それはもう…
働き者の副会長さんですから……ねっ?」
(言われたほうは微妙な表情してるな……)
「ははっ、そうだよ! 副会長は働き者で可愛くっ…
…て、フガフガフガアア」
得意気に語りだす手下・りんごの口元を慌てて塞ぐ須田千夏。
昨日とは違って全く落ち着きが無い。
「い、いいからあなたはお黙りなさい!
お願いだから数百メートル後ろに下がってなさい」
「ふぁい……ううぅぅ……
なんでボクが怒られるのおおぉぉぉ」
副会長に蹴飛ばされるようにして、りんごちゃんは遠くへ走り去っていった。
(あの子、可哀想なほどいじられてるな……)
「いろいろ大変そうね、須田さん。ところで……大島センパイに何か御用? 代わりに私が聞いてあげてもいいけど」
「い~えいえいえいえいえ! ただその、彼は昨日、生徒会の呼び出しに応じてくれなかったので……あの、その…厳重注意しようかな、なんて…」
「う~ん、それは本当ですか? センパイ」
(あっ…………!)
そう言えば「夏蜜さんのことで話したい事がある」と言われてたような気もする。
「う、うん……確かに忘れてたかも。申し訳ない」
この副会長が昼休みに俺のことを待っていたのかと思うと、ちょっと悪い事をした気持ちになってきた。こういうときは素直に頭を下げる。
「ふ、ふんっ! ご自身の立場を弁えてらっしゃるようですね! 破廉恥男子生徒にしてはまあまあ躾が…」
「す・だ・ち・な・つ・さん……
今、なんて言った?」
「ぴぎいっ! と、とにかくお昼休みに大島くんは生徒会室に来て下さい。あ、あっ、あと私は急用を思い出しましたので、今日はこれで失礼しますわッ」
どうやら昼休みに生徒会室へ行かねばならなくなった。
それにしてもなかなかのスピードだ。
「今日はおとなしく退散してくれたか。昨日は柚子も
いてさ……ハッ! かり、んちゃ…」
「ちなつ……
もしもセンパイに手を出したら許さないから」
俺の脇で彼女がつぶやく。
(今の花鈴ちゃん、ちょっと怖い……)
■
午前中の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
皆が食堂や売店へ向かう中、普段は行かない場所めがけて俺は廊下をひたすら歩く。
数分後、俺は生徒会室の扉をたたいていた。
「よくきたな被告人!
さあ座れ、そこに座りなさいっ」
「こいつ……」
「りんごちゃん、
そういう言い方はよろしくないですわ」
「で、でもっ! はううぅぅぅ……
ボクばっかりぃ……ごにょごにょ……」
「その……昨日はごめんな。正式な呼び出しだと思ってなかったんだ。許して欲しい」
「ふ~ん、案外素直なところもあるのですね。
ちょっとだけ見直しました…」
「ボクも見直したぞ! キミはいいやつだなっ」
「お、おう……」
「りんごちゃん、あとは私が聞いておくから
あなたはもう教室に戻っていいわ」
「はいっ、すだちさん!」
「……念入りにいじめられたいのかしら?」
「ひいいいいっ、失礼しまーす!!」
にぎやかな後輩が消えた後、お呼びたてしてすみません……と須田千夏が急に頭を下げてきた。
そして彼女は学園内にはふさわしくない高そうなカップに入れたコーヒーを出してくれた。
(なんだこれ……頂いちゃっていいのか?)
聞けばこれも夏蜜さんから譲り受けたものだという。
「じつは天川先輩から、あなたのことを聞かされてましたの」
「夏蜜さんが俺のことを……」
「ええ、天川先輩は日本を発つ前に生徒会のことを私に全て引き継いでゆきました」
そこまで話してから彼女もコーヒーカップに口をつけた。
「ひと通り引継ぎが終わったころ、ひとつだけ心残りがあるって」
「それは?」
「大島勇気、という男子生徒のことですわ」
「っ!!」
「単刀直入にお尋ねしますけど……
あなた、天川先輩とはどんな関係だったのですか?」
「それは……」
目の前で興味深そうにしてる須田千夏への回答に詰まる。本当に自分でもわからないのだ。
夏蜜さんとは恋人ではないけど、仲の良い友人だとは思う。いや、空港での出来事は友人の範囲を超えてるのかもしれない。
少し時間をかけて、言葉を選びながら回答すると、
須田千夏は黙って頷いてくれた。
彼女は夏蜜さんにも同じ質問をしたらしい。
そして偶然だが、俺と同じ反応だったそうだ。
でも、曖昧なところだけ認識が一緒というのは……
ちょっと複雑な気分だな。
膨大な量であろう、生徒会長業務の引継ぎ。その最後に夏蜜さんはひとつだけプライベートの心配事を信頼できる副会長に伝えたのだ。
「うまく答えられなくて申し訳ない…」
もう一度彼女に頭を下げる。
今まで笑顔を見せなかった副会長が少しだけ口元を緩めた。こんな俺の言葉に納得してくれたようだ。
そして彼女はもう一口、コーヒーを口にしてから今度は上目遣いでこちらを見つめてきた。
「そ、それと……いい、妹さんのことですけど……」
「柚子がなにかしたの?」
突然切り出された話題に戸惑いつつ聞き返すと、須田千夏は首を横に振ってみせた。
生徒会の規律に触れるような行いをしたわけではないらしい。ちょっと一安心。
「最近その、何か変わった事はありませんでしたか?」
「随分漠然とした質問だけど、そうだなぁ……」
真っ先に思い出したのは今朝の電気あんま。それと昨夜の悶絶焦らし責め、それと未解決の相談……
「う~~~ん、あると言えばあるんだけど、詳しくわからないし。ちょっと答えられないな」
少し考えてからそう告げると、須田千夏は少し肩を落とした。
「そ、そうですか……しょぼん……」
「なっ、なんだか残念そうだね?」
「いえ、なんでもありませんわ。ところで……」
副会長の唇の端が少し釣り上がった。
なんだこの不穏なムード…!
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