第二章 第四話





 ここは悲しみの都と呼ばれる場所で、人間界ではない。
 目の前にいるのはルルカという名前のサキュバスに違いない。
 なぜなら彼女の背中で揺れているのは、淫魔の尻尾だから。

「あ、あの……ルルカ、さん?」
「はい。なんでしょうか」
「キミは、浅乃さんじゃないんだよね……」

 恐る恐る尋ねてみる。変に刺激して気分を害してしまったら捕食されてしまうかもしれない。
 しかし彼女は何も気にした様子もなく、朗らかに答えてくれた。

「そうですよ。私は完全な意味では、浅乃香織ではありません」
「!?」

 完全な意味、というのはどういうことなのか。
 問い返すべきか迷っているうちに彼女の口から次の言葉が……、

「容姿は完全に同じだと思いますけど、中身はおおよそ数パーセントと言ったところでしょうか。でも、本人と記憶を共有しています」
「本人と、記憶って……どういう事!?」
「ユウマ様がエスノートに名前を書き込んだからですよ」

 その言葉で俺はようやく半分くらい理解できた。
 目の前にいるサキュバスは、エスノートの効果で名前を書き込んだ人物と魂を交換した。
 ほんの僅かでも心と心が交わっている状態なのだろう。

「なんてことだ……」
「でも、おそらく香織本人には全く違和感がないはずです」
「えっ」
「私の思考と香織の思考はリンクしてます。マッチングも良好なので、おそらくこれから起きることも夢として処理するでしょうね」

 浅乃さん自身にも当然影響は及ぶと考えられる。
 ルルカが言うには、サキュバスとしての自分をこれから浅乃さんは意識せざるを得ない。
 ただしそれは夢の領域として認識することになるから、実際の生活への影響は少ないはず。
 肉体的な変化はないのだから。そして、

「これから起きること……」

 俺が呟くと、ルルカは変わらぬ笑顔で俺をじっと見つめてきた。

「はい。ですが、その前にユウマ様。香織の気持ちはちゃんと通じてますか」
「浅乃さんの気持ちって?」
「その様子だと伝わってないみたいですね」
「ルルカさん、もしかしてわかるのか! 浅乃さんが俺をどう思っているのかを!?」

 記憶を共有していると言った。それならルルカはすべてを知っているのかも。
 しかし、焦る俺に対して、彼女は答えを口にしない。

「ふふふ、それはご自分で確かめてみてはいかがでしょう」
「そうだよな……ルルカさんはサキュバスで、浅乃さんじゃないんだから」
「はい。ユウマ様……女の子の秘密をばらす訳には参りません」

 すると突然、彼女が両手で俺の左手を握ってきた。
 ふんわりと柔らかな手だ。同時に、ほっそりした指先にも目を奪われた。

「ちょ、まって、ルルカさんッ!」
「ルルカでいいですよ。呼び捨てにしてください……」
「く、くそっ、ずるい……どうせサキュバスだから姿かたちを似せているだけで――、」
「いいえ、それは違います。私達はすでに魂を重ねてしまったので、細かい部分を除けば同じ体ですよ」

 彼女は握りしめた俺の手を、そのまま自分の胸元へと導く。

「触ってみますか?」

 少し頬を赤く染めてルルカが問いかけてきた。
 その表情は浅乃さんが困った時と同じように可愛らしく、どこか儚い美しさがあった。

「ゴクリ……じゃ、じゃあ……」
「はい、どうぞ♪」

ふにょんっ……

 ニコッと微笑みながら、何のためらいもなく彼女は俺の手を自分のバストに押し付けてきた。
 指先が肌に触れ、そのまま食い込んでいく。
 ふわふわのマシュマロに指が沈み込んでいくようで、清らかなものを汚している罪悪感が俺の頭を駆け抜けた。

「ああ、柔らかいよぉ……」
「ふふ……♪」

 だが止まらない。指が勝手に動き出し、その感触を堪能したい気持ちが止められない!
 ルルカの慈愛に満ちた表情が、全てを許してくれそうな笑顔が心地よくて欲望は膨らむばかりだった。
 気づけばもう片方の手も彼女の胸を愛撫していた。

「だめだ、こんなの……ルルカ、ルルカァ!」
「はい、もっと溺れていいんですよぉ……もっと強くしてくれても構いませんよ?」
「うあああぁぁぁ!」

 必死で指先に意識を集中させる。俺の体質、絶対敏感による女の子への嫌悪感は今のところ無い。
 だからこそ溺れてしまう。
 ルルカの手が俺の頭を優しく愛撫する。それもたまらなく気持ちいい。
 そして俺は、彼女の名前を呼んでいれば浅乃さんを汚さずに済むと思っていたが、それも関係なかった。
 可愛らしい声とバストの感触に心が支配されていく。
 ルルカと浅乃さん、両方が頭の中に広がっていくだけだった。

「はぁ、はぁ、はぁ、ルル、カ……」
「ユウマ様、柔らかいのはそこだけじゃないんですよ?」

 そう言いながら、彼女は俺の頭を撫でていた手のひらを滑らせ、顎をそっと持ち上げた。
 視線の高さが同じになって、彼女の瞳を正面から覗き込むことになる。

(なんて、きれいな目をしてるんだ……ルルカ、すごく可愛い……!)

 俺の気持ちが伝わったのか、彼女は嬉しそうな表情をした。
 そして……、

チュウゥゥ♪

「あっ……ああああぁぁぁ!」

 極上の柔らかさが、俺を包み込んだ。
 蕩けるような彼女の唇がピチャピチャと音を立てて俺を舐め溶かしてゆく。
 甘いキスは続く……ずっと、ずっと、ずっと。
 顔の角度を小刻みに変えながら、何かを探るようにルルカは何度もキスを重ねてきた。

ちゅ、ぽっ……

 そのキスが終わりを告げたのは、おそらく一分以上が経過してからだった。
 すでに全身から力が抜け落ちて彼女にすがりつくような姿勢だけど、ルルカは全く嫌そうな顔をしないで俺を受け止めている。

「良かったですね。香織とのファーストキス♪」
「ちち、ちがう、俺はルルカとキスをしただけで……」
「ううん、ルルカとはまだでしょう? だって、今からなのですから……ちゅううぅぅ♪」

 その言葉が終わるのと同時に、ルルカが俺の頭を両手で抱きしめてきた!
 後頭部をしっかり固定されたまま、先ほどとは違って、舌先を尖らせた情熱的なキスが俺を何度も貫いてくる……

ちゅぷ、つぷつぷっ、ちゅるるっ!

ずっ、ずずっ、ずちゅっ!

(だめだ、これええええ! 激し、激しすぎるよルルカアアアア!!)

 もがいてみても無駄だった。
 暴れようとしても力が入らない。
 後頭部に添えられていた片方の手が俺の手のひらに重ねられる。
 しっかりと指と指が絡み合う状態でのキスなんて初めてだった。

「あっ、ああああああああああ~~~~!!」
「ユウマ様、好きになって……香織みたいに、私のことも、少しでいいですから……」

 溶けてる……心が、彼女の方へ流れていく!
 熱い眼差しと、それを裏付けるような口づけが心地よくて、身を任せてしまう。
 無意識に俺は彼女の唇を求め、名前を呼び続けていた。

「んぅ、ちゅっ♪ これが私の得意技『魅了する愛の鎖(メルティ・チャーム・キッス)』です。お気に召して?」

 彼女が俺を解放すると、俺は膝から崩れ落ちた。
 その場で正座するように座り込む俺の顔を彼女が覗き込む。

「ルルカ、ルルカ……好き、すきぃ……」
「くすくすっ、かーわぃ♪」

 完全に意識を溶かされていた。
 心地よい脱力感の中でルルカに抱かれ、見つめ合う快感は本当に素晴らしすぎて……

「もっとゆっくり溶け合いたいですけど、次の人が睨んでるから今日はここまでにしましょうね?」

ぱちん♪

「う……あっ、あれ……?」

 ルルカが指を鳴らすと、それまでの快感が一瞬でクリアになる。
 まるで幻でも見ていたかのように。

 そして入れ替わりで俺の前に立ったのは……

「あんまり見せつけないでほしいんだけど?」
「ごめんごめん。次は貴女の番だね、シフォン」

 ルルカが舌を出しながら謝った相手は、俺の幼馴染・仲川志穂と同じ顔立ちをしたサキュバスだった。


「……そんなに私の顔が気になる?」

 目の前で俺を見下ろしている涼しげな瞳には見覚えがありすぎる。
 そのせいで今の自分がいる場所が淫魔の世界であることすらあっさり忘れてしまいそうだった。

 彼女の名前は、シフォン・スターク。
 先程リリスの前では「白昼の騎士」と言っていたのを覚えてる。
 その意味するところはよくわからないけど。

「う、ううぅ……今度は志穂の番なのか……」
「違うわ。私はシフォン。名前だけは仲川志穂と似てるけど」

 彼女はそう言ったけど、実際に対峙してみると、着ている服や肌の色など細かいところしか違いを見いだせずに戸惑う。
 どう見ても志穂なのに別人であり、ルルカとは違った意味で恐怖を感じる。
 違和感が無さすぎて俺の中では切り離して考えられないのだ。

「だめだ、シフォン……本当に志穂とそっくりだ! 雰囲気までほとんど同じだよ」
「あっ、そう。でも志穂とは性格が違いすぎるかもね?」
「えっ」

 俺に向かって彼女は手を差し伸べた。
 表情は変わらずだけど、それはとても自然で優しい振る舞いに感じた。

「私はこの世界の昼間を司る存在。できるだけ皆を明るくしてあげたいの」
「そうなんだ……」
「ところでユウマ、あなたは志穂のことをどれくらい知ってる?」
「そりゃあ、幼馴染だから……だいたいこの事は……」

 差し出された手に自分の手のひらを重ねると、彼女はグッと力を込めて俺を立たせてくれた。
 そして正面から俺を見つめ、彼女は問いかけてきた。

「なるほどね。でも、自分で作ったその枠を……越えようと思ったこと、今まで一度でもあった?」
「な、なにっ!?」
「彼女と意識を共有してわかったの。志穂はあなたに対して、かなり気持ちを抑えてる」

 言われて見ると思い当たる節はある。
 いつもそばに居てくれるけど、あえて冷たくあしらわれているような気もする。
 それが彼女の、志穂の性格だと思いこんでいた。

 彼女の写し身であるシフォンの指摘は俺の思い込みを否定するものであり、非常に重い。
 魂を共有している以上、言葉には正しさがあり、嘘をつく必要もない。

「本当にそうなの、か……?」
「ほらね、気づいてない。志穂はいつだってユウマとこんな風に踊りたいのに……」

 シフォンは小さく笑って見せると、俺の腰に腕を回した。

ぎゅうううっ!

「えっ、あ、ふああああぁぁ!」
「ユウマ、せっかく出会えた奇跡を楽しみましょう」

 そして腰と腰をぴったり合わせた状態で、軽く足をかけて俺を押し倒してきた。
 ルルカにキスされたせいもあって、未だに俺の体には力が入らない。

 目の前にはシフォンの顔がある。
 気の強そうな大きな瞳と、自信たっぷりの口元。
 そして細身で引き締まった肉体と、弾力性に富んだバストが惜しげなく擦りつけられている。

(ああぁ、志穂ぉ……なんかいつもと違って……ぁ!)

 とても綺麗で整った顔立ちは幼馴染のそれと同じで、慣れ親しんだ理想的な造形とも言える。
 それでも志穂に欲情したことがなかったのは、今までこんな風に正面から見つめられたことはなかったからだ。

 でも今は違う。
 シフォンという淫魔の助力を経て、理想的な女性像の一人として俺に覆いかぶさっているのだから。


 俺を映し、揺れ続ける瞳を見ながら思う。

 志穂なら何でも受け止めてくれる。

 志穂なら俺のことをわかってくれる。

 志穂なら……


ツプゥッ……♪

「んああああっ!」

 不意に何かが俺の胸に、心の中に挿し込まれた気がした。

 慌てて視線を落とす。
 シフォンの指先が淡く光を放ち、俺の左胸を貫いていた。

「あ、ああああぁぁぁ!」
「大丈夫よ。痛みはないでしょう?」

 微笑みながらシフォンが言う。たしかに痛みはまったくない。
 だがそれが逆に恐ろしかった。

ツプ、クプゥ……くにゅんっ!

「あ……」
「届いたみたい。さあ、これからが本番だよ?」

 そのままズプズプと指先が浮き沈み、俺の体の中心を軽くくすぐってきた。
 あまりのくすぐったさに体をよじろうとするけど、抱きしめられた彼女の腕の中から逃れられない。

 そして数秒後、俺の心の中の何かが弾けた……!

くにゅくにゅくにゅっ♪

「ふあ、あ、ああっ!」

 細い指が楽器を奏でるように俺の内部を弄ぶ。
 体が中から快感が生まれ、それに応じるように手足が震え出す。
 シフォンに抱かれれたまま、心のある場所を弄り回されて俺は激しく悶えた。

ふにゅふにゅ、くちゅくちゅくちゅっ!

「なにこれ、あああ、何だよこれえええええええ!?」
「クスッ、ずいぶん大げさね?」

 先程から変わらず痛みはない。
 代わりに、そこにあるのは興奮だけだった。

 シフォンの細い指が、いたずらっぽく俺の魂をくすぐっている。
 直接触れられてはいけない場所を指先が弄り回してくる。

「ああ、あ、ああぁぁ!」
「もっと上手に想像してご覧なさい……?」

 悩ましげな表情を浮かべなら、彼女は俺に抱きつき、押さえ込みながら囁いてきた。

「これが私の得意技『淫らに踊る魂の共鳴(ソウル・シェイカー)』だよ……もっと感じて、あなたが大好きな志穂の体に密着して、自分が何をされているのかを」

 そして彼女は強く俺を抱きしめる。
 形の良いバストが潰れ、ますます彼女の体の匂いが俺に刻みつけられるようだった。

「気持ちいいっ、志穂の体、こんなに気持ちいいはずがあああ!?」
「いつも抑えてるんだよ。心も体もギュッと封じ込めてるの……」
「あああ、志穂! 志穂ぉぉ!!」
「嬉しい……本当はね、大好きなの。志穂はあなたのことが大好き。でも彼女は口下手だから絶対に言わない」

 ピクピク震え続ける俺の体を全身で抱きしめながらシフォンは言う。
 それは歪んだ愛の形にも見えるが、包み隠さずに気持ちを伝えてこようとするあたりが非常に志穂らしかった。

「うあっ、ああ、これ、これええ! ああ、気持ちいいいいいぃぃぃぃ!!」
「ユウマ、覚悟してね。この私、シフォン・スタークは志穂と違うから。選定の儀よりも、彼女をサポートしたい。切ない思いを成就させたい……それなのに、なぁに? これ……うふふふふ」

 真上から俺を押さえ込み、ギンギンに勃起したペニスを見て彼女は笑う。

「虜にしてあげよっか?」

 そのまま彼女は腰をぴったりと合わせ、位置を直してきた。
 彼女の腹部、真っ白な肌がペニスに吸い付いてくる……

「あああああ、シフォンのお腹があああ!」
「ふふっ、どうかしら? けっこう気持ちいいでしょ」

パチュンッ!

「ふあああああああああ!!」

 シフォンはそのまま俺の腰を掴み、少しだけ自分の体を持ち上げてから、真下に落としてきた。
 一瞬だけ解放されて、無防備になったペニスを再び彼女のお腹が押しつぶす。
 単純な刺激だが、今の俺にはたまらなく心地よい。

「もっと、いまの、もっとしてええぇぇ!」
「いいわよ。本番で犯したら狂っちゃいそうだから、きょうはこのままイかせてあげる」

 ニヤニヤしながら彼女は同じ動作を繰り返す。
 すっかりヌルヌルにされたペニスは、この時すでに白旗をあげようとしていた。

パチュ♪ パチュパチュッ! パチュパチュッ! パチュンッ!

パチュパチュッ! パチュンッ! パチュパチュパチュッ! 

パチュッ! パチュンッ! パチュパチュパチュッ! 

パチュパチュッ! パチュンッ!

「あがっ、あ、あああっ!」

 不規則に叩きつけられるサキュバスの美しい体に酔いしれる。
 そして何よりも志穂と同じ顔をした彼女が、正面から優しく見つめてくれるのが心地よい。

「あひ、ひぎいいいっ!」
「私のお肌におちんちん潰されて気持ちいいね?」
「あああぁ、気持ちいい、いいい、志穂、志穂おおぉぉぉ!」
「だからぁ、シフォンだってば!」

パチュパチュッ、パチュウウウウッ!

「あ、だめ、ああっ! 出るうううう!!!」

 彼女が腰をくねらせ、リズミカルな刺激に切り替えてきたのがトリガーだった。


ドプッ! ドプドプッ、ビュルルルルルルルルルルルルルル~~~~!

 ルルカにキスで焦らされていたこともあって、シフォンに抱かれたままでの射精は長く続いた。

 数回に分けて、一度目と同じ量の射精が断続的に続いた。

 その度に俺は軽く気を失ってしまうのだった。

「良かったでしょ? これが志穂が隠しているあなたへの思いよ」
「はぁ、はぁ、そんな……志穂が、俺のことを……」
「この儀式を利用して、本気で落としてみせる。それはきっとあなたの幸せにもつながるはずよ」

 クールな声で情熱的な言葉を囁かれた俺は、頭がどうにかなりそうだった。
 シフォンは志穂とは違うけど、中身は色濃く現実の彼女とリンクしているように思える。
 顔立ち、スタイル……どれも申し分ない幼馴染が、さらにパワーアップされたような印象だ。

「今日の踊りはこれくらいにしてあげる。次はもっと、情熱的に……するからね? うふふっ」

 その言葉と同時に、ようやくシフォンが俺から離れてくれた。
 最後に軽く俺に口付けをしてから、彼女はゆらりと体を起こすのだった。


(2018.06.18 更新部分)



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