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  第二章 第六話
  
  
  
   リリスの側近である三騎士に、それぞれの性技で骨抜きにされまくった俺は指先すら動かせないほど疲弊していた。
   手始めにルルカのキスで心を溶かされ、続くシフォンのしなやかな体に翻弄され、最後のリンネが繰り出してきたパイズリで根こそぎ精液を搾り取られた。
  
  
 人生初の連続大量射精だった。
 しかもこの世界へ来てから体中が敏感にされてしまったようで未だに射精の余韻が抜けきらない。
 ペニスは膨張したままで硬さも固定されているようだし、何よりまだ彼女たちと交わっていたい衝動が心の奥でジクジクと疼いてる……けどこれはやばい。
 本能が訴えかける。これを続けたら俺は戻れなくなると。
 リンネに射精させられたあと俺は逃げるように体を投げ出した。
 床へ這いつくばって上半身の力だけでこの場を切り抜けようとしている。
「し、死ぬ……もうやめて……」
「何をいうか。童貞卒業おめでとうユウマ」
 顔を上げると、しゃがみこんだリリスがニヤニヤと俺を見つめている。
 無意識に伸ばした指先がきゅっと握られた。
「あ……」
「妾からのプレゼントじゃ。受け取るがいい」
 右手を封じられたままぐいっと引っ張られた。
 リリスの右手の人差指が俺の額の上で文字を描いた。
 体がじわりと熱くなる。
「完了っと。これでお主はそう簡単に死ぬことはない」
「は?」
  「精力絶倫、回復力無双、射精すると記憶はそのままに肉体が5分前に遡るという特典付き・妾の加護を与えておいたからな!」
  「お、おまっ、余計なことするなよ!?」
 恐ろしいことをサラリと言いのけやがった。
 リリスのいうとおりならば俺が射精疲れすることはなくなるわけで、同時にそれはサキュバスたちにとって格好の餌ということになってしまうじゃないか。
「まあ! それは羨ましいですユウマ様!」
「待て、寄るなルルカ!」
 両手を胸の前で組んだ彼女がキラキラした目で詰め寄ってくる。
 慌てて立ち上がって、あっ!もう動けるけどそんなことは問題じゃないな……早く逃げなきゃやばいのに、左足が遊馬に吸い付いてるみたいで動けな――、
「だったら手加減無しで良かったわけだ。女王様も人が悪い」
「シ、シフォン!?」
  「じゃあリンネもおっぱい攻撃、もっと激しくしてもいいんだよね?」
  「なっ、うごけない!? お前らなにやってんだあああああ!」
 両手を前にかざした彼女たちの指先からピンク色の糸、後で聞いた話だけど淫気が俺の左半身に絡みついて自由を奪っていた。
「ルルカばかりでは飽きてしまうだろう。私の胸も味わってみるか? ユウマ」
「じゃあリンネはシフォンが授乳プレイしてる間、ずっと手コキしてあげるー!」
 ジリジリと距離を詰められ、三人が密着してくる。
 甘い香りに包まれながら俺は助けを求めるようにリリスに目をやると、
「存分に搾り取ってやれ。ユウマの童貞卒業お祝いじゃあああああああああ!!」
「「「はぁーい♪」」」
「ふざけんなああああああああ!!」
 俺に覆いかぶさるようにして再び三騎士が集う。
 柔らかな肉体に動きを阻害されながら俺は悶える。
 ルルカの乳首を無理やり口元に押し当てられ、思わずしゃぶってしまう。
 それと同時に体を割り込ませてきたシフォンが俺の右手と右足に絡みつき、耳にキスをしながら極上の感触を肌に植え付けてくる。
 唯一自由に動かせる左手はリンネに取り押さえられ、柔らかい何かに導かれる……ムニュムニュと形を変えながら指先がどんどん沈んでいく。
 お、おっぱいだこれええええ!?
 その後も俺は順番に犯され、彼女たちに両手両足の先までしっかり味わいつくされた。
 射精してもすぐに回復する体のせいで疲労はなく、純粋に彼女たちの体の素晴らしさを延々と理解させられた。
 十時間近くかけて、俺はサキュバスの世界における洗礼を受け続けた。
  
   しかし俺には彼女たちを恨む気持ちなど無く、むしろ感謝の念すら覚えていた。
   単純に快楽を与えられたからではない。
   女体に触れて無事でいる自分に驚きを隠せない。
   もちろん精液は搾り尽くされはしたが……彼女たちへの嫌悪感はなかった。
  
  「頼む……」
  
   俺が搾り出した声に、三人が振り向いた。
  
  「なんですかー? また私にメルティー・キスをされたいのです?」
  「これは驚いた。ユウマ、かなりの絶倫ですね……」
  「あれあれー? 優しくしすぎちゃったかな。もう一発おっぱいで抜いとく?」
  
  「違う、待ってくれ!」
  
   俺への興味で目を丸くしている彼女たちをもう一度見る。
   エスノートに名前を書く人物を身近な女性で固めておいて正解だったと今なら思える。
  
   全くの見知らぬ女性だったら緊張するばかりでまともに話せなかったことだろう。
   微妙に姿や雰囲気は違うけど、全員が見慣れた顔だ。
   これなら言える。
  
  「頼む、俺を鍛えてくれないか?」
  
   その言葉が意外だったのか、三者三様に驚いた顔をしている。
  
  「リンネのおっぱいに強くなりたいってこと?」
  「違いますよね、ユウマ様。もっと私達と触れ合いたいってことですよね」
  「サキュバスへの耐性をつけたいという意味? 随分無茶な要求ね……」
  
   リンネ、ルルカ、シフォンの三人に向かって俺は恥を忍んで自分の体質について告白した。
   異性に触れられない人生だったこと、この先も不安だったこと、しかし三人に触れられても平気だったので希望が持てたこと……
   彼女たちは興味深そうに頷きながら、最後には承諾してくれた。
   俺の話が一段落した頃合いを見て、リリスがそばに寄ってきた。
  「一応これで自己紹介は終わりということで、良いかな? 皆の者」
  
   その言葉に三騎士は頷き、この場から姿を消した。
   リリスは左手を俺の背中にかざして何やら呪文を唱え始めた。
  
  「心配するな。純粋な回復魔法じゃ」
  
   その言葉通り、体に淀んでいた疲労感がじわじわと消え去って心が軽くなっていくのを感じる。
  
  「ありがとうございます……」
  「キサマもご苦労だったな。しかし大したものだ。
   三騎士の責めを受けきって、なお精神崩壊していないとは」
  「ははは、なんだかもう無理やり慣らされたみたいな感じで……」
  「うむうむ、ではここからは妾から補足説明じゃ……これを見るが良い」
  
   彼女は空いている方の手に持っていたエスノートを広げた。
   微妙に俺が持っているものと色が違うように見えるのだが――、
「先程、ユウマが香織と志穂と結菜の名を書き込むのと同じタイミングで、実は妾の手元にある原本に細工をしておいた」
  「細工ですか?」
  「うむ、キサマが最初に書いた名前をルルカ、その次がシフォン、最後にリンネへと対応するようにしたのじゃ」
  
   俺が持っているノートに名前を書くと、自動的に担当する淫魔とリンクする仕組みになっていたらしい。
「その結果だが、ルルカと香織はマッチング良好……シフォンはシンクロ率が高過ぎでちょっと不安じゃな、逆にリンネと結菜は性格が反転した」
  「シンクロ率が高いと駄目なんですか?」
  「一概にそうとも言えぬのだが、選定の義を行うにあたっては障害になりかねん。あくまでも可能性の問題じゃ」
  「はぁ。それと反転というのは……」
  「反転は悪いことではないからな。むしろ自分を冷静に分析できるきっかけになる」
  
   リリスは俺の疑問に丁寧に答えてくれたが、まだまだ理解が追いつかない部分もある。
   それは都度尋ねていくことにしよう。
「そしてユウマよ、キサマに頼んだ件についてだが……」
  「はい」
「一週間以内に答えを出して欲しい」
  「えっ、そんなに早く……?」
  「無理を言っているのは承知。理由があるのだ……」
  
   神妙な様子でリリスは続ける。
  
「断続的にでも一週間以上の時をこの世界で過ごせば、キサマは戻れなくなる」
  「それは人間の世界に戻れなくなるという意味でしょうか」
「そうじゃ。もちろん戻らないという選択肢もあるにはあるが、それは妾の本意ではない」
  
   このリリス、淫魔の親玉のくせに常識的と言うか、たまに公正な態度を取るからびっくりだ……。
  
「そしてキサマが出した答えを、妾は最大限尊重する。その事は三騎士に告げてある」
  「改めて責任重大ですね」
  「そんなにかしこまるな。気楽に選べば良い。そしてキサマにこの護符を貸し与える……」
  
   リリスが取り出したのは、ハートマークを重ねたような、複雑な模様が描かれたカードだった。
   ご丁寧に首からぶら下げられるようにケースが付いている。
  
 淫魔の紋章を手に入れた!
  
  「これはどんな風に使えばよいのです?」
「ニンゲンの世界と、この場所を自由に通行できる通行証だと思ってくれていい。念じれば道が開く。場所はキサマの部屋じゃ」
  「それは助かる」
  
   思わず本音が出る。じつはそろそろ家に帰りたいと思っていたところだった。
   こんな手軽な方法で戻れるなら心配せずに済みそうだ。
  
  「他にも機能はあるのだが、今は説明を省かせてもらおう。いずれ話すこともあろう」
  
   リリスはそこで言葉を切ると、じっとこちらを見つめてきた。
   正面から対峙すると本当にきれいな人だと感じる。
   三騎士もそれぞれ良さがあったけど、リリスと比べると決定的に欠けているものがある。
   しかし今の俺にはそれが何なのか理解できなかった。
  
「今日はこのまま戻るがいい。そして元の世界にいる三人の変化を見ながら、こちらの三騎士への対応を考えるもよし」
  「三騎士への対応というのは……それと具体的に俺は何をすればよいのですか」
「妾は、キサマの目から見た三人の率直な感想や意見がほしい。故に、積極的に交われ」
  
   その言葉が理解できず、俺は一瞬固まった。
  
「ええい、やりまくれと言っておるのじゃ! 察しろ!」
  「いやいやいや! 簡単に言ってくれますけど俺の体が持ちませんから!!」
  「あー、だいじょうぶ……倒れても妾がすぐに全快させてやる」
  
   そういいつつ先程のように彼女は手のひらに魔力を集めてみせた。
  
  「何十回でもイキまくるがいい!」
  「鬼かよ、アンタ!!」
「もしも快感を与えられ過ぎて精神が壊れたら……まあ、その時はその時じゃな! ふふふふ」
  「そこは妾がなんとかするって言わないと!」
   俺が抗議しても、リリスはニヤニヤと笑うだけだった。
   その後もう一度、先程預かった淫魔の紋章の使い方を教わってから俺は人間界へ戻るためにゲートを開いた。
  
   扉の向こうは本当に俺の部屋だった。時計を見ると針が動いておらず、こちらへ飛ばされてきた時と同じ時刻を指していた。
  
  「じゃあまた……明日の夜にでも来ますので」
  「うむ、それまでゆっくり休むがいい」
  
   どこか間延びしたようなリリスの声を聞きながら、俺は異界へ通じる門を閉じた。
  
  
  
  ・・・・・
  ・・・・
  ・・・
  ・・
  ・
  
  
  
  「よろしかったのですか?」
  
   ユウマが消えた後、リリスの近くに警備係をしていた兵士が現れた。
  「ステラか。なぁに、まだ時間はある……それにルルカ達からもユウマに話は伝わるじゃろう」
  「ここが悲しみの都と呼ばれる所以ですね」
  
   ステラと呼ばれた女性が兵士の兜を脱いだ。
   銀色の長い髪がふわりと広がる。
   普段は警備の任務に就いているが、彼女はリリスにとっては腹心の一人だった。
   その銀色の髪の先をリリスはぼんやりと見つめていた。
「いかがされましたか?」
  「少々気持ちが高ぶっておる。妾はあのニンゲンが誰を選ぶのか、そしてどんな形を望むのか。興味津々じゃ……」
  「それで楽しそうな様子なのですね」
  「ほれ、もう警備の仕事はよかろう? まあそこへ座れ」
  
   リリスが近くの椅子に座ると、ステラもその隣に腰を下ろす。
  
「現在の三騎士はいずれも甲乙がつけがたい存在ゆえ、妾だけでは後継者を選び兼ねる……」
  「随分慎重なのね。私の時みたいに適当に決めちゃってもいいのに」
  「そうはいかぬ! それに、あの時は……本当に驚いた。あのまま泡となって消えるはずじゃったのに無理やり引き止めおって!」
  「ふふふふ……ごめんなさいね?」
  
   無邪気な笑顔で談笑するステラをみてリリスが苦笑する。
  
   銀髪のステラ……リリスの隣で微笑む彼女は、先代である15代目のリリス、その人だった。
   現在はフローラにリリスの座を明け渡して、相談役として悠々自適な毎日を送っている。
  
「願わくば、ユウマには妾の後継者の伴侶として終生寄り添って欲しいところじゃが、そこまで望むのは酷であろうな」
  「そうね。でも、その気持はわかるわ……」
  「ふむ……ユウマの意思でここに残るのならば、人として望むものの殆どは手に入るであろう」
  
   リリスの言う通り、人間が考える程度のものであるならば彼女の力を持ってすれば容易に与えることはできる。
   しかし大切なのは本人の意志だ。
   無理やり矯正された魂にはどこか翳りが生じる。
   その事を彼女たちは経験から熟知していた。
  
  「ニンゲンのいいところは無限に湧き上がる欲望。でも、それだけじゃないものね」
  「うむ。手近な欲を満たすのと引き換えに、背負いきれない悲しみを押し付けるわけにはいかんよ……」
  「ふふっ、マーメイドの頃から知っていたけど、フローラ……あなた本当に優しいのね」
  「オ、オホン! 今のことは、他言無用だぞ?」
  
   突然彼女の口調が替わったことで、ステラは立ち上がり、兜をかぶってリリスに敬礼をした。
  
  「心得ております、リリス様」
  「うむ、下がれ」
  
   ステラはもう一度深くお辞儀をしてから、女王の間を後にするのだった。
  
  
  
  
  
  (2018.06.20更新部分)
  (2019.09.08一部変更)
  
  
  
 
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