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第三章 第二話
さて、お忘れだろうか。
数日前の学園内で、俺が浅乃さんに手を握られただけで射精してしまったことを。
あの時は人目もあり、そのおかげで注意力も今よりは散漫だった。
そういった俺自身の強化ステータスすら無効化され、彼女の柔らかな温もりに包まれて気持ちよくイかされてしまったことを。
「浅乃さん! あの、手が……」
「私の意見だけどね、奏瀬くんは全てを話さなきゃいけないと思うの」
そっと重ねてきた白い指先が、俺の手の甲をカリッと軽くひっかいた。
「ひう! ああぁぁ、浅乃さん!」
「そう言えば、香織って呼んでくれないんだね……ルルカのことは呼び捨てなのに」
重ねられた手の指先に力がこもり、俺はますます彼女を近くに感じた。
そして浅乃さんは明らかに、ルルカに対してやきもちを焼いているように見える。
「よ、呼び捨て!? そ、それはあああああ!」
「ルルカの言葉は聞いてくれるのに、私からのお願いは聞いてくれないの?」
「そんな、お願いって、あ、か、香織……さん……」
「んっ? もう一度呼んでみて」
言われるままに口を動かす。
彼女の名前を呼んだ直後、自分の胸の音が異常に大きくなっていくのを感じた。
(なんで俺、浅乃さ……じゃない、香織さんのことを馴れ馴れしく、呼んでるんだ……これじゃあまるで!)
まだ彼氏でも彼女でもない関係のはずなのに、香織さんからのリクエストに応えただけで気持ちがふわふわと舞い上がる。
「ふふふ、まあ今はそれでいいかな♪」
そして彼女が俺の言葉を肯定してくれたことで、ますます深く魅了されてしまう。
大好きな女性から許されたことで、心の中に穏やかな何かが広がっていくのを感じていた。
「それに前よりは少し改善されたみたいね」
俺がその意味を理解できていないことを察したのか、香織さんは空いていた手を自分の手に重ねてみせた。
「さっきから私、ずっと奏瀬くんに触れてるんだよ」
「あ……」
「ほら、すっかり忘れてたでしょ」
保健室の一件で、香織さんに触れられても拒絶反応が出ないことはわかっていた。
でも今はそれと違って、触れられていることに安らぎを感じている。
(もしかして俺は自分の体質を、あの忌まわしい絶対敏感を克服したのか……?)
それはちょっとした感動だった。
苦手な教科のテストでいい点数を取った時のような爽快感だった。
「ふううぅぅ~~~♪」
「あひゃああっ!」
間抜けな声と同時に俺はビクンと背中を反らせる。
このゾクゾクする感覚は記憶にある。妹の結菜がたまにいたずらしてくる時と同じなのだ。
そして横を向くと、香織さんがニッコリと微笑んでいる。
間違いない、耳の穴に息を吹き込まれたんだ。
「あ、あのっ……香織、さんっ!?」
「なぁに?」
「顔、近すぎるのと、それと、それとおおぉぉ!」
俺に囁いてくるように、彼女が再び耳に顔を寄せてきた……。
「ふううぅぅ~~~♪」
「ん、ああぁ、それえぇぇ……!」
「好きなんだ? くすぐったいの」
今度は意識していた分、強く快感を送り込まれてしまった。
全身から力が抜けてしまいそうだった。
事実、ソファに腰掛けていなければ俺はその場に膝から崩れ落ちていたと思う。
「ねえ奏瀬くん、あっちでルルカに何をされたか覚えてるよね?」
「え」
息を弾ませる俺に彼女が囁いてくる。
しかもそれはとても艶のある、それでいて悪戯な声で……まさかこいつは、
「お、おま、お前はルルカ!?」
「ううん、ちがうよ……香織のままですよ」
「香織さん、ごめ、ああ、あ、あ、あれは、ですね!」
「もしかして、彼女のせいにしちゃうつもりだったのかな」
「ひっ、そんなことは決してないです! でも、でもっ!!」
ここまでの流れの中に、確かにルルカの存在を感じたのに……それは間違いだったようだ。
でも強く影響されているのだと思う。
香織さん自身はこんなに大胆な性格じゃないと思うから。
「昨日の夜、ずっと眠れなかったんだからね……」
「それは俺のせいじゃない、っていうか! でもそれだとルルカのせいになっちゃう、あ、浅乃さ、んう、ううぅぅっ――!?」
ちゅ、ううぅぅ……
手のひらよりも柔らかで、とびきり上品な何かが俺の呼吸を奪う。
いい匂い、それに体温、トロリとした唾液、甘い吐息……
感じる全てに言葉が吸い尽くされる。
それが一番適切な表現だと思う。
(あ、ああぁ! 香織さんに、キ、キス、されてるぅ……)
香織さんと重なり合った唇が自然に震える。
密室の中、こんな淫らな空気の中で俺のファーストキスが彩られてゆく。
「ん、うぅ♪ 奏瀬くん、いいんだよ……私のせいにしても」
「あ、あああぁぁ……っ!!」
「ほらぁ、もう一度、私のせいにして? ん、ちゅっ……」
そしてまた、俺は蕩ける。
彼女に溶かされて、何がなんだかわからなくされてしまう。
ちゅっちゅっちゅっちゅ、ちゅううう♪
香織さんはその様子を楽しみながら、何度も俺に唇を重ねてくる。
両手で俺の顔を挟み込み、逃げ場をなくして貪るようなキスを繰り返してから呟く。
「同じクラスの奏瀬くんに、こんなにドキドキさせられるなんて……先週までは全然予想できなかったなぁ♪」
俺はもはや言葉を発することもできず、彼女を見つめるだけしかできない。
大好きな彼女に、理想的な女性からこんなに求められるなんて……。
「ふあ、ああ、あぁ……かおりさん、香織さん、香織さん……」
「奏瀬くん、かわいー♪」
すっかり脱力した俺に彼女は頬ずりしてきた。
これもかなりヤバイ。
どんどん気持ちが彼女の色に染められていくようだった。
「香織さん、だめ……それ好きだから……好きになっちゃう……」
「うふっ、ルルカよりも上手にできた? 私」
不意に尋ねられ、俺は戸惑う。
ルルカと比べて……いや、比べること自体が失礼じゃないか。
「……わからないよ……」
それが今の自分が考えつく最良の答えだと思った。
俺の言葉に香織さんはクスッと笑う。
「どうしたの?」
「うふふっ♪あのね、私の心の中で、今の言葉を聞いたルルカが……私にヤキモチ焼いてるの」
「それって……あっ……」
そこで俺は気づく。
エスノートの効力のひとつに、名前を書かれた者の魂をコピーする能力があったことを。
きっと香織さんは、さっきまで俺をリードする方法をルルカに聞いていたのだ。
「もしかしてルルカと交信して……んううううぅぅ!?」
ちゅ、うううぅぅぅ~~~!
俺の質問に対する彼女の答えは熱いキスだった。
「教えてあげない♪ それが彼女との約束だもん」
クチュッ……♪
「浅、あ、かっ、香織さん!? あっ、あっ、それえええ!」
いつの間にか彼女の手のひらが俺の股間に添えられていた。
すでにふっくらと主張し始めていた部分を揉みほぐすように、彼女は艶かしく指先を這わせてくる。
「駄目だよ、そんなところ、触られたらあああああぁぁぁ……!」
「知ってるよ……興奮しちゃうんだよね?」
彼女は俺の反応を確かめながら、ズボン越しにペニスを刺激してくる。
厚手の生地をカリカリと爪でひっかくようにしたり、ググッと力を込めて圧迫してきたり……
「うああああっ!!」
「まだ手のひらを乗せただけなのに」
「ちが、指が動いて、んあ、ああああぁっ、駄目えええええ!!」
問題は指だけじゃなかった。
密着することで彼女の髪の匂いが漂ってきて、さらに耳元で声を出されるとそれも我慢出来ないほど心地よくて……、
「私はサキュバスじゃないんだよ? 普通の女の子に触られてるだけで、そんなに恥ずかしい声を出しちゃうの?」
少し咎めるような言葉使いですら魅力的だった。
頭の中に彼女を甘く刷り込まれていくようで、ますます俺は悶えてしまう。
「かおり、さん、やめて……俺、おかしくなる……」
「でも、感じてくれてるんだ。嬉しいなぁ」
もはや何を言われても我慢できるわけがない。
俺は全身で香織さんを感じてしまっているのだから。
クニクニクニッ♪
「んひいいいいっ! ゆ、ゆび! 指動かしちゃ駄目だからあああああぁぁぁ!」
「どうして?」
問いかけながら彼女は俺の股間を手のひらで優しく撫で回す。
その凶悪な刺激は容易に俺を射精へと導いてゆく。
「ねえどうしてなの? 奏瀬クン」
「あっ、ああっ、あっ、らめ、ああああ!」
なんとか耐えようとする俺に顔を寄せ、彼女の唇が耳たぶを甘噛みしてきた。
はむっ♪
「ふひいいいいいっ!」
「ぴちゅ、ニュルル……チュッ♪」
舌先が耳の輪郭を舐めた後に、穴の中に挿し込まれた。
ゾワゾワした音と、湿った感触に俺は全身の毛穴が開く思いだった。
「あああああああああああああああああああああああああッ!!」
同時に彼女は手のひらにかける圧力を強め、俺を追い込んできた。
(だめだ、もうイくっ、香織さんにイかされちゃうよおおおおおおお!!)
全身がブルブル震えだす。
彼女はそんな俺をギュッと抱きしめ、一言だけポツリと漏らす……
「イっていいよ……♪」
「っ!!」
びゅくっ、びゅくんっ、びゅるるるるるるる!!
足の先をピーンと張り詰めさせたまま、俺は絶頂してしまう。
そして息を切らせ、半開きになった俺の口に彼女が口づけてくる……
チュルル、チュ、チュッチュッチュ……ピチュ♪
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、か、香織さ、ん……ど、どうして……」
「キスしながらだと、もっと感じちゃうんでしょ。聞いてるよ、ルルカから全部……」
トロ~ンと熱くなった瞳で彼女が言う。
「これだと、二人がかりで責められちゃってるみたいだね」
さらに彼女は俺にキスをしながら、精液でドロドロになっている股間を撫で回してきた。
敏感なままのペニスが彼女の手でこね回される。
「んああああっ、それずるぃ、ひいっ、待っ、まって香織ぃぃ、ん、んうううううう~~!」
叫ぼうとする俺を唇で制圧しながら、暫く彼女の愛撫が続いた。
その数分後、俺を解放してから彼女は言う。
「今日はね、このあと私のお家に来てほしいの」
「えっ」
「続き……ちゃんとしよう? 奏瀬くん」
控えめな声で照れながら彼女は言うけど、事の重大さは変わらない。
今から俺は香織さんの家に行くことになったらしい。
「これからって……え、ええええ!? だ、だって」
「明日の夜までは私しか居ないから寂しいの。人助けだと思って、一緒に居てくれない? 夜の九時頃まででもいいから」
こうして両手を合わされて頼まれると断りづらい。
そして何より俺自身に断る理由がなかった。
自宅に連絡さえ入れておけば特に問題はないだろう。
「それくらいなら……あとシャワーも借りたいし」
「やったぁ♪」
俺が承諾すると、彼女は無邪気に喜んで見せるのだった。
(2018.06.25 更新部分)
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