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第三章 第三話  ~ルートL~



 キスの余韻はそのままに、俺はリンネの横顔に見とれていた。
 いつもの結菜と同じようだが少し違う。
 こちらの世界で彼女が妹に乗り移ると、目つきが微妙に鋭くなる。
 目尻が上がって見える……これは発見だな。

「あたしはまだ『悲しみ』については勉強中だけど」
「うん?」
「そんなにありがたいものではなさそうだね」

 不意にこちらを向いてニカッと笑った。
 決して明るい話題ではないのに、リンネの口調がそう感じさせないのが不思議だ。

「まあ、普通はそうかな。俺だって悲しいのは嫌だよ」
「でもリリス様は悲しみを知ったことで強くなれたと言ってたんだよ」
「どういう意味だろう……」
「それが理解できたらあたしはもっといいオンナになれる気がするのよねー」

 真面目なことを言われたので、俺は少し考え込んだ。

「わからないでもないけど、リンネはそういうタイプじゃなさそうな……
 もっと脳天気というか、悲しみが似合わないといいますか」
「んっ? もしかして私、軽く侮られてる?」

 口調はそのままだけど少しムッとしたような表情、に見える。
 リンネは両手を腰に当ててから、コツンとおでこをぶつけてきた。

「こうみえてもけっこうオトナなんだよねー!」
「それ、自分で言ったら台無しだろ」
「じゃあユウマが言ってよ! もっと褒めてよリンネちゃんを!」

 最後にクスッと笑いながら褒め言葉のおねだりとか、こいつは本当に天然の小悪魔だと思う。
 妹の結菜に足りない部分(=強引さ)をリンネがうまく補っている。

「俺だってまだリンネのことをよくわかってないからなぁ」
「じゃあ妹ちゃんと同じだね」
「えっ」

 彼女の鋭いツッコミに絶句してしまった。
 言葉の意味を考えてドキッとしたのだ。

「ユウマは妹ちゃんのこと、何でもわかってると思ってるの?」

 人差し指を唇に当てるような仕草で彼女は言った。
 中身はリンネに違いないのに、結菜の可愛さがにじみ出ている表情だ。

「結菜はね、いっぱい我慢してるんだよ。
 大好きな人がお兄ちゃんっていうだけで悩んだり、泣いたり、
 誰にも言えないことがあるんだって。あたしも胸が熱くなってきちゃう」

 リンネの言葉が俺に突き刺さる。
 それは俺もなんとなく察していた部分だった。



(2020.08.15 更新部分)




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