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第四章 第二話
「戻りましたぁ……」
「おかえり、って……おにい、大丈夫!?」
どうにか自分の家にたどり着いた俺は、結菜の顔を見るなり膝から崩れ落ちそうになりかけた。
志穂の家からここまでの道のりが普段の百倍くらいに感じるほど俺は疲弊している。
「ゆ、ぅな……悪い……」
「おにい、しっかり! あぁん、重いよおぉぉ~~~~!」
もたれかかるようにして妹に体を預ける。
懐かしい匂いに気持ちが落ち着いてゆく。
随分長い間、家を離れていたような気がする。
すると突然、妹の手が俺の顎を持ち上げた。
チュッ……
甘い唇の味と柔らかな感触に背筋が震える。
同時に俺は自分の足でしっかりと立つことができた。
「うぁっ!?」
「少しだけ力を分けてあげる。そのまま結菜についてきて?」
にっこりと微笑んでから妹が背を向ける。
形の良いお尻を見つめながら、俺はその後をついて行く。
まるで体が操られているように自然と……。
そして結菜の瞳を一瞬だけ見て俺は気づいた。
(今のあれはリンネの、目の色だった……!)
そうなると、さきほど俺に分け与えたというのはサキュバスの力、なのだろうか……。
「しほちゃんにやられちゃったの?」
自分の部屋に俺を招き入れてから、結菜が首を傾げながら尋ねてきた。
おおむねそのとおりなのだが、一応順を追って話す。
「なんで最初に結菜のところに来てくれなかったの?」
「え……」
やがて話を聞き終えた結菜が、ぷくっと頬を膨らませた。
その仕草がいつもより可愛く見えた。
気のせいじゃなく、確実にこいつは女としての魅力が増している気がする。
(な、なんで妹を見てドキドキしてるんだ俺……)
その理由は次の瞬間に判明した。
すっと伸ばされた妹の腕は、どこか見慣れたチョコレート色で……
「リンネが怒ってるよ、ほらぁ!」
「な、な、な!」
俺を見て妖しげに微笑む結菜の目の色は、確実に宵闇の騎士・リンネのものだった。
右目がリンネ、左目が結菜……そう見える。
つまり尻尾や翼はないものの、俺を見つめているのはリンネと結菜の二人が混じったものだ。
「妹ちゃんにはすべてを伝えたよ、ユウマ」
するとリンネの言葉に反応したのか、半身の結菜の頬が赤く染まった。
「リンネ! お前、なんでこっちに……」
「結菜とソウルエクスチェンジしてるから受肉して現界する必要はないからね」
「でも他の二人はそんなことできなかった気が……」
「あー、相性とかあるし? あたしと妹ちゃんは奇跡的なシンクロ率だよ」
エスノートに記名したことで、精神だけでなく全身の5~10%程度はいつでも交換することができるという。
それは結菜の意識のままで、リンネのテクニックを運用できるという意味だ。
やばい……リンネと情を交わしたことを結菜に知られてるだけでも恥ずかしいのに、俺が感じやすい場所などもすべて把握されているということになるじゃないか!
「それで、どうする? あっちでの続きしよっか?」
「な、なにを!?」
俺が聞き返すと、リンネはいたずらっぽく笑い返す。
腕に抱きついて豊かなバストを、これは妹のものだが……駄目だ、興奮しちまう!
(あ、あっちの世界でリンネと肌を合わせたことを思い出してしまう……!)
そんな事を考えてる間も、隣りに座ったままリンネはじりじりと身を擦り寄せてくる。
だがここは人間界だ。
下には親父もお袋もいるし、何より近所迷惑なのだ。
すると不意に、リンネがニヤリと笑った。
「ダイジョーブだよ、ユウマ♪」
「!?」
「ちゃんと結界張っておくから。妹ちゃんの体に居ても、それくらいはできちゃうよ?」
この部屋の音や動きは外にもれないし、外からはこの部屋に入れなくするという。
それならたしかに安心だが……
「そうか、だから志穂の部屋でも……」
「んふふ、たぶんそれ正解。共存するための気配りは必要だよね」
志穂の部屋で起きたことを思い出しながら、俺はその事に気づいた。
何も言わなかったけどシフォンの力を使っていたのだろう。
ともあれ、心配事が一つ消えたわけだ。
「なるほど。ありがとな、リンネ」
「わかれば宜しい♪ じゃあ、妹ちゃんとバトンタッチするね」
「え」
にっこり笑いながら、リンネは目を閉じる。
その数秒後……微妙に眉根を潜めた表情で、結菜が俺を睨みつけてきた。
「おにい、ずるい!」
「なんだよきなり!?」
くりくりした可愛らしい目で睨まれてもそれほど怖くない。
何よりこいつは俺の妹だ。
妹に負ける兄などいるはずがない。
「リンネと仲良くしてた……」
「しょうがないだろ、あれは。てゆーか、全部見てたのか……?」
「同じ体だもん! だから複雑なのっ」
ぐいっ!
その直後、結菜は怒りに身を任せ、強引に俺をベッドに押し倒してきた。
柔らかい体と、結菜の胸で誇らしげに揺れる凶器を感じながら俺を仰向けになる。
(か、かわいいな……なんだか前よりも、そう思う……)
真上から俺を見下ろす怒り顔の結菜に見とれてしまった。
これはきっとリンネのせいだ、と思いたい。
「ねえ、おにい……リンネが好きなの? それとも、結菜のことが好きなの?」
「えっ!」
妹の口からリンネの名前が出て、思わずドキッとした。
まるで気持ちを見透かされたようで、ちょっと恥ずかしい。
「りょ、両方好きっていう答えじゃ駄目か……」
「駄目ーーーーーーーーーーーーーっ!!」
しばらくためらった後で俺の口から出た答えは、一瞬で却下された。
そして――、
ぱにゅんっ!
少し背伸びをするようにして、結菜がバストで俺に目隠しをしてきた。
「ぐはああああああああっ、お、おま……」
「おっぱいでお仕置き確定でーす!」
ふにゅ、ふりゅんっ♪
(うあ、なん、だ……駄目だこれ……逆らえない……)
惜しげなく擦り付けられる感触は、もはや俺にとっては猛毒に等しい。
触れてるだけで動けなくされてしまうのだから。
しかも今回は言い訳ができない。淫魔の世界でリンネと触れ合っているわけではないからだ。
妹の部屋で、妹の意思で、妹の体に溺れさせられてる……
困ったことに、それが心地よくてたまらない。
以前の俺なら跳ね除けられていたかもしれないけど、今はこのまま……
しかし、急にその甘美な時間が終わりを告げた。
「あーーっ、やっぱりやめた」
「なっ、なんで……」
「えへへ……おにいのこれ、結菜の膣内にお迎えしてあげる♪」
体を起こした妹が信じられない言葉を吐き出した。
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