俺の名は佐助。
 忍としての単独任務を終えた帰り道、沙織・左京・右京と名乗るくノ一どもに襲われた。
 戦いの最中、不覚にも秘密の文書を奪われ、それらを奪い返すために奴らの本拠地へと乗り込んだ。


 そこまでは良かったのだが……。
 くノ一の里で沙織たちに再戦を挑んだ俺は、返り討ちにされてしまった。
 

 それはまさに地獄の業火も生ぬるいと思えるほどの快楽拷問。


 快楽が痛みに変わり、痛みが無理やり快楽にすり替えられる無限地獄。

 力尽きて捕獲された俺を待ち受けていたのは、想像を絶する責め苦だった。



 左京や右京、そして沙織が交代で何度も何度も俺を責め続けた。


 俺の情けない嬌声と共に、永遠にも感じられるほど長い時間が流れた。


 喉は枯れ果て、体中の毛穴が開き、身体中の汗一滴まで全て搾りとられた後……ようやく俺は解放された。







 足腰が立たなくなった俺が放り込まれたのは、およそ牢獄とは思えない普通の部屋だった。


 板張りの床の上に畳が何枚か敷いてあるので冷たくも痛くも無い。


 岩壁がむき出しの冷え冷えした地下牢を覚悟していたのだが、くノ一の里にはそういった場所が無いらしい。


 もしくは……沙織たちが捕らえた、久しぶりに嬲り甲斐のある獲物ということで歓待されているのかもしれない。



 いずれにせよ、この後も拷問は続くだろう。


 それを考えると気が重い。


 身体は火照りきっているが、俺の気分は沈んだままだ。



「……ううっ!」



 身体を起こそうとしてみたが、まだ満足に動けない。



 小指の先すらまともに動かせないとは……。


 手足が鎖や縄で拘束されていないのは、身体を動かす意思が首から先に伝わらないほど精を抜き取られたから。


 たしかにここまで徹底的に獲物を犯しつくせば、手錠も足かせも必要はないだろう……。


「あの……お食事です」



 身動きもできず、特にやることもない俺の近くに、可愛らしい少女がやってきた。



「誰だ……あぐぅっ!!」



「あっ……かわいそう……どこか痛みますか?」

 大きな眼で心配そうに俺を見る少女。


 くノ一の里には女子(おなご)しかいないと聞いている。


 まだ純粋そうなこの子も、やがて沙織たちのような残忍なくノ一になるのだろうか……?

「すごくつらそう……どうしよう……」


「あっちにいけ……」


 かすれた声で少女に向かって語りかける。


 たった一言、口にするだけでも今の俺にとっては面倒だ。


「ひゃうっ! や、やっぱり沙織様を呼んできますねっ!」



 何……?


 ま、待て!


 そいつは呼ばなくていい……
 違う、むしろ呼ばないでくれっ!



 だが少女を呼び止める声すらうまく出せない。

 俺の訴えも虚しく、少女は食事を置いて立ち去ってしまった。

…………。

……。







 それから間もなくして、少女が戻ってきた。


「呼んできましたよっ」


 この馬鹿娘……本当に沙織を連れてきやがった!!



「どうしたの? 佐助くん」


 眠そうな顔で俺を見下す沙織。
 言いようの無い嫌悪感が湧き上がってくるのだが、気持ちとは逆に身体が疼きはじめる。
 くノ一どもにたっぷり快楽調教されたおかげで、俺の心身は壊れかけてるのだろうか……。


「沙織様! このおにいさんがすごく辛そうだったの」


 少女は心底俺を心配してくれているのだろう。泣きだしそうな顔をしている。
 しかし沙織は相変わらず眠そうなままだ。
 どうでもいいから早く目の前から消えて欲しい……。



「ふぅん……」


「ちっ……お前に用など無いっ!」


 沙織は右足を持ち上げると、憎まれ口を叩く俺の股間に押し当てた。



「お、おい待て! なにをす……」



「……」


 そして息を大きく吸って、思い切り踏みつけながら足を前後させてきた。


ぎゅりっ……!





「つぶれるっ! あぎゃあああぁぁぁ!!」



「なんだ、大丈夫じゃない」


 貴様、いつか必ず復讐してや……あぎゃあああ!!!


「困ったときはこうやって踏みなさい」



「やめ、やめろおおおおぉぉ!!」



ぎゅりっぎゅりっ……!



「ぎひいいぃぃ!!」




「彼が壊れていなければ、ちゃんと動くから」



「は~~~い」


 は~~~い、じゃないだろ!!

 いいか……決して気安く俺の股間を踏むなよ、小娘。



「貴様、これから俺をどうするつもりだ!」



 沙織を睨みつけながら俺は吼えた。
 確実に言えることがひとつだけある。
 これから再び俺は拷問される。
 奴らが俺から奪い取った巻物を解読するためには鍵が必要なのだ。
 その鍵は俺だけが知っている。
 沙織はどんな手段を用いても、それを聞き出すつもりだろう。




「うん? ああ、そのことなんだけどね……」


「……」



「あなたほど優秀な忍を殺す訳にはいかないでしょう?」


「……むっ?」

 沙織の言葉が頭をめぐる。少なくとも命は助かる……のか?

 まだ逃げる機会はありそうだ。


「だから、あの娘たちの指南役になってもらうわ」


「…………な、なにっ!?」


 敵である俺が、くノ一の指南役だと? ありえない!?
 全く想定していない展開に言葉を失ってしまう。
 沙織にとって一番大事なのは巻物の情報ではないのか?



「いきなり言われても困るでしょう?」



「……当たり前だ」



「だから、あなたに選ばせてあげる」


 こいつはいったい俺に何をさせる気だ……?



「小春! こっちにいらっしゃい」


 沙織が声を上げると、遠くから足音が聞こえてきた。


「沙織様、お呼びですか?」


 沙織の後ろにもう一人、少女が現れた。

 はじめに出てきた少女とは対照的な顔立ちで、大人らしさとは程遠い可愛らしい少女だった。


「佐助くんには、この二人の指南役になってもらうわ」


「ちょ、ちょっと待て!」


 こいつらが沙織の後継者だというのか?
 二人とも沙織よりだいぶ年下ではないか……。


「ああ、心配しないで……」



 なにを……?



「この子達、私に比べればもちろん未熟だから……」


 そんなことは心配していない!
 くノ一とはいえ、こんな少女たちに淫らな行為をさせようとするお前が許せん。
 それだけのことだ。



「この二人には課題を与えてあるの」



「……」



「だから必死になってあなたから精を抜き取ろうとするわ」


「正気か、貴様……!」



「私は本気よ?」



「あなたが選べるのは、沙雪と小春のどちらかを取るかだけ。どちらも拒むなら私がたっぷり相手してあげる」



「なぜお前が出てくる……!」



「私は別にそれでもいいけど? うふふっ」


「ちっ…………」


 忌まわしい記憶が甦る。
 沙織の淫らな技に踊らされ、男として屈辱的な目に合わされた。
 そんな俺が沙織を選ぶはずなどない。
 それを承知で沙織は尋ねてきたのだ。
 歯軋りする俺の様子を見ながら沙織が言う。



「じゃあ紹介するわね」



「この子は沙雪(さゆき)。私の一番弟子よ」


 はじめに現れた食事係の娘が顔を出した。


「それともう一人……この子は小春(こはる)。右京の弟子よ」


小春と呼ばれたのは、後から来た少女だ。



「左京にも弟子はいるけれど、まだ若すぎるの」


 ……おい。

 この二人でも充分若すぎるぞ!?

 お前や左京、右京と比べての話だが……いや、俺よりも年下と言う時点でかなり問題がある。


「だから、この二人のどちらかをあなたに選ばせてあげる」




「選んでいいと言われてもだな…………」


 俺にはそんな趣味は無いのだが。


「沙雪、小春……よくお聞きなさい」

 俺のことは全く無視か!



「試験は数日に分けて行うわ」


「おい、沙織! 試験ってなんだ!!」

 しかし沙織は答えない。



「あなたたちのどちらか……」



「佐助くんを虜にしたほうに、中忍の資格を与えます」




「ふわああぁぁ!!」


「本当ですか! 沙織様!!」



 まるで新しい玩具を与えられた子供のように、二人は眼を輝かせた。


「彼ほどの忍を虜にできるなら、下忍はもう卒業よ」


 そして沙織は俺のほうを向いた。



「ほら、二人とも……あいさつしなさい?」



「はじめまして、おにいさん。私は沙雪っていいます」



「お師匠様から聞いてます……」



「な、なにを……?」



「おにいさんに体術を教えてもらえれば、私は今よりもっと強くなれるって」


 沙織はこの娘に一体何を吹き込んだのだ?


「ちゃんと教えてくれるなら、いっぱいお礼してあげますよ? うふふふ」



 とにかくやたらに元気がいい娘だな。さて、もう一人は……






「あ、あのっ! はじめまして……小春っていいますぅ!」


 このちっちゃいのは小春……か。


「あたしはまだ右京様みたいにおっぱい大きくないけど、
 一生懸命頑張ります!」



「そ、そうか…………ん?」



 じと…………



 なぜか必要以上に見つめられている気がする!



「おにいちゃんみたいな人……はじめてだから、小春は恥ずかしいです……」




「……」


 軽くめまいがしてきた。
 俺はこんな小娘たちの相手をしなければならないのか?
 沙織達に対する嫌悪感とは違う、得体の知れない何かが俺を包み込んだ。
 これはなんだ……罪悪感とでも言えばいいのか。
 くノ一候補生とはいえ、俺より年下の娘が二人も……。

(ん……待てよ?)

 その時俺の頭の中で何かが閃いた。
 逆にこいつらを飼い慣らしてしまえば、今の俺にとって非常に有利になるのではないか。
 くノ一の里の情報を抜き取った上で、いつでもここを脱出できるようになるかもしれない。
 ……ここは我慢の時だ。



「よし……」


「お前が沙雪で……」

「ちょっとぉ! お前って言わないで、おにいさん」


「えっ……」

「私のことは『沙雪ちゃん』って呼んで欲しいなぁ」

「うぐっ……すまん」


 急に怒り出したかと思えばすぐに笑う沙雪。
 どうにも調子が狂う。



「じゃ、じゃあ沙雪ちゃんと……小春……ちゃん?」


 沙雪は満足そうにうなづいている。


(ふふふふっ……!)

 少女たちの後ろで沙織が笑いをこらえている。

 くそっ……!
 とんでもない辱めを受けている気がしてきた……。



「えへっ……♪ あたしは……呼び捨てのほうが好きよ、おにいちゃん」



「そ、そうか……」


「では小春、でいいな?」

「はぁい……!」


さて、どうしたものか……


選択肢

1・沙雪を見る

2・小春を見る










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