――それから三十分ほど後の話。



「結局負けちまった……」

 布団の中でゲームの敗北を噛みしめる俺。
 あくまでも朋花から仕掛けられたゲームという意味でのことだが、久しぶりに会った相手にやられてしまったのは悔しい。

 逆に朋花はというと、

「わーい、ハジメにいちゃんに勝った! あははははははっ」

 まるで昔の彼女(トモ)を思い出させるような無邪気な様子で、とても嬉しそうだった。

「それで、俺はどうなるんだ?」

 ふと気になったことを尋ねてみると、隣で俺を見つめていた朋花が待ってましたとばかりに微笑んだ。

「そうだなぁ……じゃあまずは、明日は私と一緒にお風呂に入ること!」
「マジか!」
「ハジメくんの体、すみずみまで洗ってあげるよ~」

 指を一本立てて、軽くウインクしながら朋花はそう言った。
 最後の一言のおかげでエロい妄想が止まらない。

 ただ、その無邪気な仕草がとても可愛らしくて昔の彼女を思い出した。

「まずは……ってことは、俺の罰ゲームはもちろんそれだけじゃないんだよな」
「そもそもこれは罰ゲームじゃないよー!」
「じゃあ何だ?」
「私へのご褒美だよっ!
 私からイチバンお願いしたいのは、ハジメくんが私の彼氏さんになってくれること!」

 ちょっと恥ずかしそうで、それでいて嬉しそうに朋花が顔をほころばせる。
 こうしてじっくり見つめてみると彼女は本当に昔のままだと思う。
 ストレートで、純粋で、そしていつも俺に全力でぶつかってくる朋花。

「わかったよ。でもさ、ご褒美というなら、それじゃあまだ足りない気がする」
「え……ちょ、ハジメくっ、んううぅぅ~~~!?」

 それから俺たちは布団の中で何度もキスをした。
 回数が増えてもドキドキが全然収まらない。
 それどころかますます彼女を好きになっていく自分に驚く。

(一時間前とはぜんぜん違う関係になったんだなぁ……俺たち)

 俺に今まで恋人らしい恋人ができなかった理由も今ならわかる。
 ずっと待ち望んでいたものは遠い記憶の中にあったんだ。

「わ、私ね! ハジメくんのこと、離さないから!」
「じゃあずっとくっついてろ」

 ぎゅっと抱き寄せると、朋花も必死にしがみついてくる。

「うんっ、逆に離れろって言われたら泣いちゃうから!」
「言わねーし」

 俺の言葉を聞いた朋花の目尻に薄っすらと涙が浮かび上がる。

「悲しくないのに泣くなよ」
「えへ、えへへ……ハジメくん大好き!
 本当はね、ずっとずっと……ずっと前から言いたかったんだ!」

 顔が真っ赤になっていることがばれないように朋花はうつむいた。
 でも同時に俺も恥ずかしくなってきたので朋花を抱きすくめる。

 すると頬を擦り寄せながら朋花がさらに懐いてくれる。
 柔らかな黒髪を撫でてやる。
 しっとりした手触りも、俺を優しく見つめる大きな目も、よく響く高い声も、細い手足もすべてが魅力的でたまらない。

 不意に朋花はハッとして、何かを思い出したように顔をあげた。

「あのね! ずっと前から七夕の短冊に書いてたんだよ。それがやっと叶って嬉しいなぁ……」
「ふぅん、短冊に何を書いたんだ?」
「そ、それは、あ、ううぅ……いつかハジメくんの恋人になれますように、って」

 朋花はそう言ってからまたうつむいた。
 その顔を無理やりあげさせて、俺の方からキスをしてやる。
 目をつぶっていた彼女の肩の力が抜けた。

 まったく、昨日までこんなことになるとは予想もしていなかった。
 今年の夏はこの可愛い恋人と何回キスをすることになるのだろう。

(今まで会えなかった分、朋花のことを満足させてやりたいな。
 そうと決まれば休暇の期間も延長しなきゃ……)

 朋花の肌に触れながら、俺は密かにそんな覚悟を決めるのだった。





(了)






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