ちょっとした妄想 #11 『魅了』
【前回までのあらすじ】
凶悪なモンスターがいると評判の地底魔城に潜入した勇者リコスを救出すべく、隣国の勇者がその地に向かいました……。
→勇者リコスの活躍ぶりはこちらを参照 ★
――ここは地底魔城。
暗闇の奥深くで勇者はこの城を統べる魔物との戦いを繰り広げていた。
(まさかここのボスが……こんな少女だったなんて!)
勇者が想定していた溶岩や土の類のパワータイプ、巨大モンスターはここにはいなかった。
その代わり眼の前にいるのは金色の髪をひとつに束ねた美しい魔女。
美少女と言っても差し支えない外見だが彼は惑わされなかった。
(こいつ、ただのサキュバスじゃない……炎の力と、とてつもない魔力を感じる!)
彼の推察通り、目の前の少女は特殊な進化を遂げた存在だった。
サラマンダーという炎の精霊の加護を受けたサキュバス……それが彼女。
名前を「サラ」と言う。
普通のサキュバスなら雑魚キャラと言って差し支えないほどの存在だが、彼の目の前で微笑むのは極めて上級のサキュバス。
人間で言うならば魔法使いの攻撃力と賢者の回復力を兼ね備えたようなモンスター。
「これはかわせるかなぁ?」
サラは両手に魔力を集中させ、自分の体より大きな巨大な火の玉を作り上げた。
そして剣を構える勇者に向かってスッと指を伸ばした瞬間――、
ゴオオオオオオオオオオッ!!
火の玉が彼めがけて唸りを上げた。
勇者は一つ目の火の玉を避けながら彼女に近づく。
それを迎撃するようにもう一つの火の玉が彼を捉える……が、巧みな剣術で炎を切り裂いた。
「もらったああああ!」
炎を切った勢いを殺さず、そのままサラに向けて剣を突き出す勇者。
「ぅ……あああああ!」
しかしその剣先がサラに届くことはなかった。
回避したはずの一発目の火の玉が勇者の背中を熱く焦がしていた。
「とても強い勇者のあなたでも油断しちゃうんだね」
魔界の業火に焼かれ、崩れ落ちそうになる体を必死でこらえる彼の頬にサラは優しく触れた。
そして……
チュプゥッ……♪
「!?」
「うふふふ♪」
勇者の唇がやわらかな少女の口で塞がれた。
ピチャピチャと音を立て、甘い唾液を飲まされそうになる……
ザシュッ!!
「くっ! な、何をッ……!」
気力を振り絞り、勇者は剣をなぎ払う。
一瞬でも心を奪われそうになった自分を彼は許せなかった。
(ありえない……戦いのさなかにこんな不埒な!)
「そんなに警戒しないでいいのに。すぐに心が蕩けてくるわ……」
「くっ……!」
不意に軽くめまいを覚えた。
集中していないと世界がぐるぐると回ってしまいそうな。
(何か毒を盛られたか……今のキスで……)
相手は人外の魔性。
何をされても不思議ではない。それだけに隙を作ってしまった自分自身を彼は責めた。
「反撃はこないの? じゃあこちらから行くわ」
その声が終わる直前、サラの身体が彼の視界から消えた。
(速いッ!!)
反射的に勇者は剣を握りしめ、身体を右に回転させながら背後に迫っているであろう彼女を迎撃しようとし……
ぱしっ!
「え……」
「ほら、捕まっちゃったわよ? ピンチね」
剣を振りぬく前に、既に彼の手首はサラにしっかりと掴まれていた。
「く、くそおおおっ!」
その衝撃を噛み殺し、なんとか剣を振りぬいた時にはサラの姿はそこには無かった。
剣が届く範囲のギリギリ外側で彼を見つめて微笑んでいる。
(馬鹿な……ここまでのスピードはさっきまではなかったはず!)
そしてまた次の瞬間見失う。
次に勇者が彼女を感じたのは背後から両方の手首を掴まれた時だった。
「あああぁぁ!」
「そんな鈍い動きじゃ私を捕まえることは出来ないわ」
不敵に笑うサラの手を今度は振り払えない。
「えいっ!」
ぎゅりっ!
「あぐっ! 痛っ……!」
ガシャアアアアッ
すごい力で手首をねじられ、思わず剣を落としてしまった。
それに彼女の手を振り払い、一瞬だけ自由になっても、直ぐに元の体勢に戻されてしまうのだ。
勇者は立ち尽くしたままサラの手によって大の字に拘束されてしまった。
「不思議でしょう? フフフ、じゃあ種明かししましょうか」
彼の左手を掴んでいた手を離し、頬に手を添えるサラ。
無理やり自分の方へと顔を向けさせると、さっきと同じように熱い口づけを彼に与えた。
チュウウウッ♪
(うああああっ、また、こい……つ……!)
あっという間の出来事に対応できない勇者。
「避けられなかったでしょ? この意味がわかるかしら」
「?」
「あなたは私に魅了されてしまった。最初の口づけでね」
「!!」
勇者はサラの言葉を聞いて戦慄した。
戦いの最中で一瞬でも隙を見せてしまったとはいえ、それによる致命傷は回避できたと思い込んでいたのだ。
だが彼女の言葉が真実だとすると厄介だ。
とりあえずサキュバスの呪縛を打ち消さないと……
チュッ!
「ああああ~~~!」
唇から少しずつ体力が吸われてゆく。
指先が鈍り思考が停止する。
「逃がさないわよ? 勇者クン」
左手一つで彼の顔を抱きしめたまま、サラは何度もキスをしてみせた。
その合間に右手の指で彼の体にルーンを刻み、何やら不思議な魔法を彼の身体にかけ続けている……
ガシャッ、ドサ……
装備品が全て彼の身体から外れ、地面に音を立てて落ちる。
「これで生まれたままの姿だね……勇者クン♪」
裸にされ、呪縛をかけ続けながら彼は震えていた。手足に力が入らず、自分の意志が足元へすり抜けていくような不思議な感覚だった。
(体が……動かせない……!)
焦りで硬直する彼の身体を感じてサラが微笑む。
顔を抱きしめていた左手が静かに脇の下に通された。
「かわいい乳首さんもコリコリしようね~?」
チュプッ、クチュクチュ、レロ……ピチャ、チュルルルルルル……
淫らなキスを続けながら背後から彼を抱きしめ、両手で乳首や脇腹をなぞる。
「あはあああっ!」
「くすっ、可愛い……勇者クン、前に来た彼も同じような反応だったわ」
「!!」
「もしかしてお仲間? だったら…無駄足ね、あなた」
引き締まった勇者の身体を這いまわるサラの指先が、彼の心を徐々に堕落させてゆく。
脇の下をそっとくすぐり、反射的に跳ね上がった腹部を両手の指がサラサラと優しく撫で上げ、細い小指がへその穴にズプリと差し込まれる。
「お、んううう!」
「まだまだこれからよ……ボウヤ♪」
ほんの少しだけ沈み込んだ彼女の指先に勇者は全く抵抗できなかった。
小指の先が微妙に揺れるだけで内蔵全てをくすぐられているかのような錯覚に陥った。
「んああ、はあ、許して! 許してええええっ、んううう!」
「プチュッ、だ~め♪ 叫ぶのも許さないわ」
ちゅっちゅっちゅっちゅ♪
クリクリクリクリ…
「~~~~~~~~~~!!!!」
悶えまくる彼を見つめてサラは目を細める。
おへそへの責めは継続したまま彼女は次なる一手を打とうとしていた。
「そんなに感じちゃうんだ? ハァハァ言わされちゃって情けないね…」
「はぁ、う、あ、ああぁぁ……」
「もっと良くしてアゲル……♪」
続いて自らの長い金色の髪の先を数本束ね、ゆっくりと彼の耳の中に忍び込ませる。
ツプウウウッ!
「んはああ! はふっ、んあああ、まっ……ううううぅぅぅ!」
チュッ♪
「だからしゃべっちゃだめ……感じて?」
熱いキスと同時に、むず痒さが抜け切らない勇者の身体をさらに責め立てる魔性の指。
ジタバタする両足でさえ外側から内側にかけて丹念に愛撫され、敏感になった部分だけあぶり出すように指先が踊る。
「が、ああ、うぶううう!」
「んふ、もっとくすぐって壊してあげるから……じっとしてなさいって♪」
抵抗してもすぐに無力化される。
体中をサラに包み込まれているような思いだった。
くすぐったさを打ち消すようにさらにくすぐりを上書きされ、叫び声をあげようとすると唇を封じられる。先手を打たれて叫ぶことすらできない。
(こんな、ずっとこれをされ続けたら、ああ、あ、悶え狂ってしまううううう!)
すっかり蕩けきった思考でも、先に潜入した勇者はすでに彼女の手に落ちているということだけは理解した。
「ぅくっ…!」
「もう私を傷つけられない。あなたは私に勝てないわ」
伸ばした手のひらをやんわり握られつつ、甘い声でささやかれる。
勇者の耳の奥にその言葉が何度もこだまする……本当にもう自分は逆らえないのかもしれない。
「それでもまだ私に抗うの? 無駄なのに」
「ぐううっ!!」
その一言に折れそうになる心を奮い立たせ、勇者は拳を握りしめてサラに殴りかかろうとした……が、
ぱしっ!
「な、に……ぃ!」
「やっぱり遅い。ほらね? もう私に逆らいたくないんだよ。勇者くんの身体は自然に私を求めてるの」
「うるさいっ!」
「自分では気づいてないのね。可哀想な勇者くん…」
「黙れえええっ、う、うるさ……んっ、ううううう!」
あくまでも抵抗しようとする彼を優しく抱きすくめ、サラは今までよりも長い時間彼の唇を奪う。
燃えるように真っ赤な舌先が彼の口元でクチュクチュと蠢きながら対抗意識を根こそぎ奪い去る。
(なに、こ…れ……キス、さっきと、ぜんぜ、ん…)
十秒、二十秒、三十秒……
時を追うごとに彼の体から力が消え失せてゆく。
淫魔の得意技の一つであるエナジードレインと、敵の闘争心を鈍らせるソウルドレインの合わせ技に体中の力が抜け落ちてゆく…
チュ、パッ…………
「ね? 私の責めに全然反応できてないよ。そろそろ負けを認めちゃえば?」
「うあ……あああぁぁ……」
「男の子って強情ね。じゃあもう一度、シテあげる♪」
弱々しく首を横に振る勇者をフロアに横たえると、サラは覆いかぶさるようにして彼に優しく口づけた。
同時にしなやかな指先が彼の頬や顎、脇腹をくすぐり、いきり立ったペニスはサラのスベスベの太ももに収容された……
――そして一時間後。
勇者に長い時間をかけてキスし続けていたサラがゆらりと立ち上がった。
「ふふふ……堕ちたわね」
満足そうに見つめる先には、ほぼ白目をむきながら口元を緩ませている勇者の姿があった。
彼がペニスから精を放つたび、サラは唇から新たな精を吹き込み循環させた。
サラの魔力混じりの精が何度も彼の体を駆け巡るうちにすっかり抵抗する気力が消え去った。
勇者の心は完全に折れ、そしてサラの虜がまたひとり増えた瞬間だった……。
実は二度目の口づけを受けるまでは、彼は魅了されていなかった。
動きが鈍くなったのは剣を弾き飛ばされた直後に受けた魔法の効力だったのだ。
火の玉に似せた緩やかな時間停止の魔法。
サラが彼に施したのはただの口づけにすぎない。
「じゃあここからはゆっくり楽しみましょう……体の芯まで柔らかくなったでしょ? 全部吸い尽くしてあげる。そしてまた元に戻してあげるわ」
ここは地底魔城。
生きて戻った人間は誰一人居ないという……。
(ここまで)