『スライムバスター3 ~境界線からの使者~』





僕の名前はウィル。
職業はスライムバスター……スライム専門のハンターだ。
何故こんな仕事をしているのか、簡単に話しておこう。

かつてこの世界のスライムはキングオブ雑魚。
とにかく弱かった。
初級冒険者のレベル上げの相手として定番だったのだが、約十年ほど前から異常な進化を遂げた。

スライムたちは自分の弱さを補うためにサキュバスと融合した。
サキュバス側もスライムの自己再生機能、分身能力、バイタリティの高さを受け入れた。

その結果、スライムは剣も魔法も効きにくい難敵へと生まれ変わった。
サキュバスに通常攻撃は通用しない。
おまけに性的な誘惑で冒険者達を惑わし、多大な被害を出している。

そんな厄介な特技をスライムたちは手に入れたのだ。

この世界を旅していて、半透明の肌を持つ美女を見かけたら要注意だ。

彼女たちに対抗するため、スライムバスターという職業が生まれた。



そんなわけで僕は人々に害をなすスライムを退治する専門職に就いた。

はじめのうちはスライムを撃退できず、苦労が多かったけど少しずつ力をつけていった。

戦い続ける日々の中、僕はスライムの中には、良い奴も悪い奴もいることに気づいた。

なんとか共生、共存できないものか……たとえこちらが勝てる戦いだとしても、争いごとは好きじゃない。

そして一つの可能性を見出した。現在、一緒に旅を続けている仲間のライムだ。


彼女は元々僕たちの敵。スライム界のエリート戦闘集団「LIPS」の二番手だった。

人はライムのことを「紅の魔女」とか「千人斬り」と呼ぶ。

ライムとバトルファックをして生き残ったのは後にも先にもおそらく僕だけだろう。


僕と戦い、敗れた彼女は潔い死を覚悟したけど、勝者である僕はそれを許さなかった。

今までの罪滅ぼしとして、この先の未来の為に僕と生きることをライムに命じた。

実は少なからず僕が彼女に好意を抱いていたというのもあるんだけど……。


ハンター協会からはライムを処刑する意見が多数を占めたけど、いろんな人の協力もあってそれを退けた。

そんな紆余曲折があって、ライムは僕の家で大人しく暮らしている。


彼女は自分のことをスライムと人間のハーフ、と言う。何故そうなったのか問いただしたことはあるのだけど、どうにも要領を得ない説明ばかり。
ライム自身が現在だけにこだわる性格ということもあって、ハーフスライムの出生の謎はそのままだ。







ここはキャンプ内。
パチパチと音を立てながら小さな炎が灯された暖炉に、僕とライムは手をかざしていた。



「ねえ、ウィル……あとどれくらいここに居なきゃいけないの?」

「んー……そうだなぁ」

そばで不満そうにつぶやく彼女を見て申し訳なく思う。

今回僕たちは普段暮らしている温暖な王都付近を離れ、北の果てまでやってきたのだ。

依頼内容はこの地域を荒らすスライムのような敵の掃討。正体不明の敵が暴れまわっているらしい。こんな寒いところで迷惑な話だ。


しかし色々とおかしな点はある。
元来スライムは低温が苦手なのだ。理由は体組織が凍りついてしまうから。

僕がスライムを倒す時、基本的に冷凍魔法を用いている。場合によっては絶対零度まで扱うこともあるけど、その場合は自分の肉体にもダメージがくるので多用しない。

一方、人間とのハーフであるライムは少し特殊な事情があって、北の大地でも普通に活動できる。

彼女は通常のスライムと異なり、体内に精霊石「炎のエレメント」を宿している。
これは生まれついて彼女に備わっていたらしく、その影響もあってライムの髪の色は赤い。そしてこれを言うと間違いなく怒り出すのだが、気性がとても荒い……。

しかし寒さに決して強いというわけではなく、常に僕を風よけにしてライムは北風をしのいでいる。

できるだけ早く任務を終わらせて帰りたいのは僕も同じ。

軽くため息をつきながら、ターゲットリストを確認する。





少し陽が高くなってから、僕たちは歩き始めた。


「もうすぐだよライム。この先の境界線を超えたところで被害が出てる。早く終わらせて帰ろう」

「うんっ、今回だけはウィルのことを頼りにしてるからねッ」


「ははは……」

珍しくライムの方から僕の腕に寄りかかってきた。
調子のいいことを言いながら僕の身体で温まろうとしてるのだろうけど……。

丸太で組まれた簡素な橋をいくつか越えてゆくと、徐々に気温が下がってきた。


現在僕達が足を踏み入れている地域のことを、ハンターの間では「境界線」と呼んでいる。

ここから先は積雪は当たり前、吹雪や氷河が彩る冬の世界。
基本的にモンスターだって生存しづらく、絶対数も少ない地域なのに何故か最近被害が続出してる。

しかも敵の形状は「スライム」という報告が多い。
さっきも言ったけど、寒い地域では純粋なスライムは活動できないというのに。

二ヶ月ほど前にハンターが集う酒場でそんな話題になり、アイスゴーレムや雪女と見間違えたのだろうと鼻で笑っていたハンターたちが正式任務を受けて旅立ってから二週間が経過した。その後出発した中規模の探索隊も約二名を除いて全滅。

はじめはシルバーチケット(Bクラス)任務だったものが、ゴールドチケット(Aクラス)に変化して、更にその上のプラチナ(Sクラス)にまで賞金額が跳ね上がった。
さらに行方不明者が三桁を超えたあたりで、他の任務を完了させた僕に依頼が回ってきたのだ。


報酬額の多さに惹かれ、快く引き受けてみたけれど不安はある。僕の力がどこまで通じるだろうか。

それ以前に相手がスライムじゃなかったら? もっと凶悪な種族だったとしたら?

この依頼は生還したものがほとんどいないので、情報不足。

偵察だけこなして最悪任務を破棄してもいい。

そのために弟子のマルクを自宅に残し、瞬間移動できる段取りも整えてきた。

その他いざというときの準備は幾つかしてきたけど……できれば早めに切り上げたい。



「ねえウィル! 私寒いの苦手だもん。早く帰ろうよ」

「そうだね。僕もそれは賛成だよ……ん?」

僕達からおよそ100m位離れた場所、氷の岩陰で何かが動いた気がした。
その気配をライムも敏感に読み取り、僕と背中合わせになる。

「あの白いの……敵だよね?」

残念なことにそれは幻ではなかった。
しかも僕たちはいつの間にか囲まれていたようだ。ターゲットリストに載ってるホワイトレディ三人組に。

雪で出来たような細身の体に青白い衣装をまとい、微笑みながらこちらへ近づいてくる。
髪の色は水色と白の中間、氷の衣装はどこかミニスカートのような……素足にロングブーツを履いているような出で立ちだ。
彼女たちに抱きすくめられて凍死してしまった冒険者達も多いという。





(ふむ、たしかにスライムっぽい……)

だがそれは僕が知っているホワイトレディではなかった。

魔物図鑑に描かれているように、雪のように真っ白な肌には違いないけど、どこかヌラヌラとした艶がかかっている。

動作も予想以上に滑らかだ。


(まさか本当にスライムと融合したのか? でもどうやって……)

基本的に低温で生きる彼女たちがスライムと融合することはありえない。

融合したところで自らの体組織を冷凍破壊してしまう危険性が高いのだから。


「ねえ、あいつらをやっつければいいんだよね?」

戸惑いながら身構える僕の脇でライムが耳打ちしてきた。


「あ、うん……そうなんだけどさ。なんかおかしいと思っ……あっ、おいいいいっ! ライム!!」

僕が答えきるより前に彼女は踊るように前に出た。

そして左手に火の玉を浮かべ、一番近くにいたホワイトレディの懐に入り込む。


「アンタたち、悪いけど急いでるの……さっさと消えて!」

ライムの左手に宿した炎の形が、細身の剣のように変化した。

ホワイトレディが獲物を抱きすくめる動作に移った刹那、ライムはためらいなく炎の剣を袈裟斬りに振りぬいた。


「……!」

瞬間的に炎の勢いが強まって、敵の白いからだが真っ二つになって地面に落ちた。


ホワイトレディを一体倒した!



(氷と炎……しかもフィールドは氷土。ここでは水属性のほうが強いはずなんだけど、そんなのライムには関係なし、か…)

至近距離からライムの炎を食らったホワイトレディは断末魔の悲鳴を上げる間もなく姿を失った。

仲間が倒されたことで残り二匹の矛先がライムに向く。

明らかに移動速度があがってる!


……しかしライムは動けない。炎のエレメントを使ったことで硬直時間が生まれたのだ。

しかも凍えた大地での火属性攻撃は、やはり普段よりも負担が大きかったのか。

二匹の両腕が同時に襲いかかってきたところで、とっさに回避行動をとるライム。


「ウィルッ! 一匹お願い。炎の力をチャージするのに少し時間が掛かるわ」

先程は一撃でホワイトレディを仕留めたライムだが、どうやら次の攻撃までに時間がかかるらしい。


僕は……


選択肢:

1・気を引き締めて戦う


2・ホワイトレディのスカートの中身が気になる



































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