『スライムバスター3 ~境界線からの使者~』
1・気を引き締めて戦う
(ホワイトレディのスカートの中は、やっぱりホワイトなのだろうか――)
今はそんなことを考えてる場合ではない。
頭をよぎった雑念を振り払い、目の前のホワイトレディたちを見据える。
片方はライムの方を向いていて、もう片方は僕を横目で睨んでいる。
凄くきれいな顔立ちだけど……こいつはターゲット。情けをかけたらこちらがやられる。
彼女たちのうち、一匹だけ倒せば良いとライムは言うけど、ここはひとつ良いところを見せたい。
「いくよッ! ……あ、あれっ…」
ホワイトレディを押し倒そうとして跳びかかってみたけど、あっさり回避されてしまった。
実は体術はそれほど得意ではない。
戦士や武闘家と比べた場合、僕の体力は十分の一くらいだろう。
スピードだけは勝てるかもしれないけど、攻撃力や防御力は半分以下。我ながら正しい推論だ。
「うふふふ…」
ホワイトレディの手が僕の肩に触れる。
うっすらと微笑む彼女。そしてほんのり輝く白い手を観察する。
「ウィル! 離れて!!」
ライムの声が聞こえる。
もちろんちゃんと聞こえてる。
それでもホワイトレディを観察し続ける。体の表面がみずみずしい。そして触れられた手はどこか柔らかで、氷の魔物らしさを感じさせない。
彼女は僕の体温を急激に吸い取ろうとしているのがわかる。
(ふむ、熱変換。しかもスライムだ。手のひらからエナジードレイン……まあ、この程度か……)
深呼吸をする。頭の中で清冽な風をイメージした。そして体の隅々にまで魔力を行き届かせる。
「うふふふ……ふふ……?」
敵も僕からエネルギーを奪えないことに気づいたらしい。
さっきも言ったように僕は戦士などの攻撃職と比べた時、ひ弱な肉体といえる。
しかし目の前のホワイトレディには1ポイントの体力も吸い取られていないはずだ。
魔力を纏う僕の身体には氷の呪法は通じない。それ以前にホワイトレデイの手のひらはそれほど冷たくないのだ。
絶対零度には程遠い。
仮に先ほどの攻撃を戦士が受けたら凍傷だけではすまないだろう。
でも戦士と比べた場合、僕の魔力防御は十倍、スライムに対する防御力はおそらく百倍以上に達する。
「キミにはしばらくおとなしくしてもらうよ…」
呼吸を整えた僕はホワイトレディの体を正面から抱きしめた。
「あはあぁっ♪」
ホワイトレディが歓喜の声を上げつつ、僕の腕の中で悶える。
魔力によって絶対零度に近い冷気を作り出し、空間ごと凍らせるイメージ。
その思惑通り徐々に相手の動きが鈍くなる…鈍くなる…ついに動きが止まった。
ホワイトレディを倒した!
「いや、まだもう一匹い……うわああっ!?」
突然視界が反転する。
ホワイトレディに足払いを食らった僕はそのまま空を見上げた。
「ううっ、あ……んぶ、んううっ!!
肉体的なダメージはない。
ちゃんと受け身はとったけれど、ホワイトレディは少し怒った様子で僕の顔を踏みつぶしてきた!
「……」
さらに無言のまま、尻で何度も僕を押しつぶす。
(こんな攻撃、聞いたこと無いぞ!?)
ひんやりとした柔らかな肉に顔を潰され、左右に頭を揺らされているうちに意識がぼんやりしてきた。
視界は常に真っ暗で、ホワイトレディに手首を掴まれたまましつこく責められる。
完璧な精神統一が出来ないとエナジードレインに対する魔力を生み出すことが出来ないというのに!
「……」
相変わらず無言でホワイトレディが腰を振り続けている。
その下で僕は、だんだん抵抗する意思が抜け落ちてゆくのを感じていた……
(このままじゃヤバい……操られてしまう…抜け出さないと本当に!)
焦りは募るばかりで身体は言う事を聞かない。
彼女に掴まれた手首からエナジードレインされているけどうまく抗えない。
馬乗りになられたまま徐々に手足に力が入らなくなってゆく。
「……♪」
突然ゆらりと身を起こしたホワイトレディが僕に向かって微笑んだ。
そしてスルリとショーツを脱ぎ捨て、今度は僕の下半身へと回りこんで……まずいぞ、このまま犯されたら僕は――、
「ぐっ……くそ、ダメか」
知らないうちにかけられていた呪縛のせいなのか動きが鈍い。逃げ切れない!
ザンッ
「……えっ」
目の前でホワイトレディが崩れ落ちた。
その背後では復活したライムが不満気にこちらを睨んでいた。
「だから一匹だけでいいって言ったのに。何してるのよ、ウィル…」
「助かったよ」
苦戦の末、ホワイトレディを二匹倒した!
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