『スライムバスター3 ~境界線からの使者~』





クリスタルパレスで一夜を過ごした僕達は、ルシェに見送られながら敵地へ向かう準備を整えていた。

ここから北の大地までは魔法で移動することになる。
必要な装備類はシアノ女王の厚意で全て揃えて貰う事ができそうだ。


「ウィル殿、これをお持ちになって」

女王が僕に手渡したのは不思議な色をしたマントだった。
上質な布地であつらえた立派な代物なのに向こう側が透けて見えるほど薄い。いや、厚みはかなりある。
それに僕の肩から下をすっぽりと覆うほどの大きさなのに重さをほとんど感じない。

「大地のローブ、とでも言えば良いかしら……特に名前は付けておりません」

聞けばブルーティアラと並ぶスライム界の至宝だという。
さすがにそんなものは受け取れないと固辞しようとしたところ、任務が終わったら返してくれればいいと言われた。
それなら断る理由も無い。

さっそく羽織ってみると僕の体を静かな波動が包み込んだ。
そしてやはり軽い。装着感がほとんど無いのだ。
得体の知れない強い魔力を感じるけど不快ではない。
本当に不思議なアイテムだ。


「きっと旅の役に立つはずです。あなた方に大いなる加護があらんことを……それと娘を、ライムを宜しくお願いします」

ライムには聞こえないような小さな声で女王がつぶやいた。
僕も黙って頷いて見せた。
彼女が母としてライムのことを気にかけてくれていることがとても嬉しい。


「そろそろ行こうか」

「は~いっ!」

僕の声に反応したリィナがいつものような元気さを見せてくれた。
昨夜は遅くまでルシェと話し込んでいたみたいだけど体調は万全みたいだ。


「……」

ライムはと言えば、僕の脇を通り抜けて黙ってシアノ女王の元へと近づいていった。


「どうしました? ライ――」

「じゃあ行ってくるわ…………お母様。また戻ってくるから」

はっきりと聞こえた。
その一言だけ残してライムは女王に背を向けた。


「必ず戻ってきなさい。今度は二人きりで話したいことがあります。だから……」

心なしか震え声の女王に、ライムは右手で答えた。






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