『スライムバスター3 ~境界線からの使者~』








それはまだウィルがスライムバスターの称号を得る前の話。修行中に心を通わせたスライムが何名か存在した。
メタリカもその中の一人であり、いわゆる「はぐれメタル」と呼ばれるレアモンスターだった。

形状を変えることができる銀色の鎧をまとった彼女は、超スピードで敵を撹乱することが得意であり、また口付けすることで相手の好みを読み取って、自らの肉体を作り変えることができる。

触れることすら難しい彼女にウィルがどうやって勝利したのかは、また別のお話……





「ねーねー、これは一体どういう状況なの? ボクにわかるように説明してよー」

『……!』

久しぶりにライムの体を通じて外に出たメタリカは背伸びをしながらミルティーユの分身に問う。
もちろん期待するような反応は得られない。
分身はただじっとメタリカを舐め回すように観察しているだけだった。


「ん~~~~~~~~?」

メタリカは周囲を見回す。
だいたいのことは潜在意識下においてライムから伝達は受けていたが、自分の目でみる状況は大ピンチそのものに感じた。

少し離れたところでは、中が見えない程の分厚い氷のドームがあって、その中にウィルの存在を感じる。
それよりさらに離れたところでリィナがミルティーユの分身が繰り出す攻撃を必死で避けている。

どうやら直接触れたらアウトな相手、なのかもしれない。
属性違いのメタリカにとってはたいして脅威ではなさそうだが。


『あなたは何者……?』

目の前の分身が口を開く。
引きちぎられた腕はすでに再生していた。

しかしメタリカは答えない。
恐らく先ほど自分が無視されたことを快く思っていないのだろう。

すると分身はニヤリと笑ってから両腕を前に突き出した。


『消えなさい!!』

そして微動だにしないメタリカに向けて巨大な炎の玉を放出した。

燃え盛る炎が轟音とともにメタリカに直撃して、立っていた場所を焦がし始める。

『フフフフフフ……』

完全に不意打ちが成功して再び勝利を確信する分身。
だがその直後、

「遅いなぁ~~」

「っ!!」

声がする方向、慌てて右斜め後ろを見る分身の目にメタリカの姿が映った。


「ボクの質問に答えてくれないならもう遊んであげないよ」

『離ッ……』


「えいっ!!」

ムッとした表情のままミルティーユの分身の腕をつかんで、メタリカは無造作にその半透明な腕を引き寄せる。

さらにカウンター気味に強烈な打撃を数回与えると、分身は力なくその場に崩れ落ちた。


「あっちも助けなきゃいけないね……」






『そろそろ諦めなさいッ』

リィナは苦戦していた。
目の前で氷の刃が鼻先をかすめる。

「あれに触ったら凍りついちゃうです! どうすればいいんですかぁ……助けてよマルクくん!」

彼女が対戦しているミルティーユの分身は腕から先の形状を変化させ、攻撃に特化した形になっていた。
リィナとしては迂闊に近づけない状況。
刃のうちに秘めた冷気の量が自分とは比較にならない。

「冷気には冷気で対抗したいところですけど力を貯めないと……」

しかしその僅かな時間すら分身は与えてくれそうになかった。

息をつかせぬような連続攻撃の前に、リィナは受け身にならざるをえない。
両手にオーラを込めて簡易の盾がわりにして、襲いかかる刃の先を変える程度の抵抗しかできなかった。


「このままじゃそのうち捕まるです……あっ!!」

『フフフ』

飛びのいた先、リイナが左足をついた水たまりに分身は罠を張っていた。

水たまりのように見えたのは分身体の一部だった。
強い粘着力が獲物の動きを鈍らせる。


『さよなら。リモーネ家のお嬢様……』

ミルティーユの分身がとどめを刺さんとばかりに腕を振りかぶった。
氷の刃に太陽の光が反射してリイナの瞳に飛び込んでくる。

「あっ、ああ、いやあああああああああああああっ!!」

ザシュッ、と空気を切り裂く音が小さく響いた。








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