『スライムバスター3 ~境界線からの使者~』
メタリカの手刀が空を裂く。
「はああああああああっ!!」
その軌跡にそって、分厚い氷の壁が音を立てて崩れてゆく。
ミルティーユが生み出した氷の結界は巨大な岩をいくつも重ねたような大きさだった。
リィナだけではもちろん、マルクの魔法を使ったとしても除去するためにはかなりの時間を要しただろう。
「も、もうこれで終わりだよ……ボク、限界……」
目の前にあった最後の氷塊を粉砕した後、メタリカはその場にぺたりと座り込んだ。
「おつかれさま、メタリカちゃん!」
リィナが労いの声をかける。
メタリカは軽く微笑みを浮かべたまま静かな眠りについた。
「……ウィルは?」
「あっ、ライムお姉さま! それが――」
それから数分後、目を覚ましたメタリカ……いや、ライムは背伸びをしながらリィナに問いかけた。
ライムにしてみても人格が隠れている間、メタリカと意識を共有していたので大体のことはわかっているつもりでいた。
リィナの話を聞きながら周囲を見回してみる。
「――以上です。ウィルさんの姿は確認できてないですぅ」
「そう。リィナを助けるためにマルクも来てくれたんだ。ありがとう」
「いいえ……あの、えっと……」
不意に礼を言われたマルクが言葉を詰まらせる。
「何よ」
「いえ、その……怒ってないライムさんって、やっぱり綺麗だなーって」
今まで彼女に優しい言葉をかけてもらったことのないマルクにとっては新鮮な出来事ではあったが、たった一言でいつもの様子に戻ってしまうライムである。
「馬鹿なこと言ってないでウィルを探しなさい!」
「ひいいいいいいっ! わかりましたあああ!!」
慌ててリィナを伴って周囲を捜索するマルクの背中を見て、ライムは深いため息を吐いた。
◆
「いないですねぇ……」
困り果てた顔でリィナが戻ってくると、ライムは砕け散った岩のような氷に腰を掛けて意識を集中していた。
「ちょっと待ってて」
ライムの背中に紅のオーラが浮かび上がる。
リィナは固唾を呑んでその姿を眺めていた。
さらに少し後、マルクも戻ってきたところでライムは静かに目を開いた。
「……ふたりとも退却よ」
「「えっ」」
あまりにもあっさりと言い切るライムに、マルクたちは声を合わせて驚いた。
「ウィルは生きてる。でもここにはいない。おそらくあの性悪妹の居城よ」
ライムは忌々しげに日が沈もうとしている山の陰を睨みつける。
青い指輪を通してリィナの危機を感知したマルクと同じように、ライムもウィルの位置を知る手段を持っているのかもしれない。
「いつまでもここでじっとしていても仕方ないわ。一旦戻って女王様に報告しましょう」
「あっ、待ってくださいライムお姉さま~~~!」
くるりと自分に背を向けて歩き出すライムに向かって、リィナが慌てて駆け寄った。
「ちょっと待ってて下さい……」
後日同じ場所へ戻ってこれるように、マルクは近くの大きな木にワープポイントの魔力を施した。
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