『スライムバスター3 ~境界線からの使者~』
――ライムたちが撤退を決めてからいくらかの時間が過ぎようとしていた。
暗闇の中で目覚めたウィルは身動きもできずに天井を見上げていた。
ただ一点だけ、ぼんやりとオレンジ色に光る点を見つめながら。
「……」
それほど広い室内でないことは空気の流れで何となく分かる。
ここがどこなのかわからない。
順当に考えれば敵に囚われた自分にふさわしい部屋、ということになる。
耳が痛くなるほどの静寂。
拘束具の存在は感じられないのに動かせない手足。
おそらく照明なのだろうが、頼り無さすぎる輝き。
与えられる情報が少なすぎるので、彼は考えるのをやめた。
キィ……ッ
ウィルが息を吐くのと同時に暗闇の一点から金属が軋む音が聞こえた。
続いて水滴が地面に弾ける音。
近づいてくる靴音。
「……始めるわ」
「ッ!!」
聞き覚えのある声だった。
記憶違いでなければおそらくこれは――
クチュウウッ!
「ッ! ~~~~~~~~~~ッ!!」
突然、しっとりとした何かに下半身全体を包み込まれた。
一秒ごとに指の先まで疼くように熱くなってゆく。
だが次の瞬間にはそれがペニスのみに与えられた刺激だと気づいた。
クチュ、クチュ、クチュ、クチュ♪
クチュ、クチュ、クチュ、クチュ、クチュ、クチュ、クチュ、クチュ♪
クチュ、クチュ、クチュ、クチュ……
(うわああああああああああああああああっ!!!)
規則的に刻まれる快感の旋律に悶える。
それに抗うように声を上げようとするのだが、口元が上手く動かない。
手足をばたつかせているつもりなのに、体をよじることさえうまくできない。
(動けないッ、自由なのに! どうして――ッ)
「うふっ、不思議ね?」
艶やかな女性の声が降り注ぐ。
右の乳首にフゥ~~~っと息をかけられ、身震いする。
その間もずっと、表面にスライムの粘液をまとった指先が、下から上へとペニスを撫で回していた。
ゆっくりとひねりを加えながら裏筋を指の腹で指圧するように刺激することも忘れていない。快感が蓄積されてゆく……。
だが意地悪な指先は尿道に達する直前でピタリと止まる。
ツツゥ……
「ぁはううぅぅ!」
そして今度はゆっくりと降下してくる……と同時に、手首を返すときにカリ首の周囲も一緒に引っ掛けながら、くるくると亀頭を回してゆく。
「んはああ、あっ! あああっ!!」
ようやくまともに声を出すことができた。
異常に喉が渇いている。
だが快感の波はその程度では収まってくれない。
クリュッ、クリュ、チュクリュッ、クリュ、チュクッ!
クリュッ、クリュ、チュクッ!
甘い痺れを伴うスライムローションの手コキに思わず顎が跳ね上げてしまう。
腰から下が勝手にガクガクと震えだすほどの快感だった。
「フフフフ……弱点を増やしてあげる」
こちらの反応を楽しみながら彼女は笑う。
しかしその指の動きは極めて緩慢だ。
(こんなに焦らされたら狂っちゃう! おかしくなっちゃうよおおおぉぉぉ!!)
すると、静かに手のひらがペニスから離れた。
なめらかな動きで今度は真上から亀頭全体が包み込まれる。
ニチュッ、ニチュ、ニチュッ、ニチュ、ニチュッ、ニチュ、ニチュッ、ニチュ、ニチュッ、ニチュ、
ニチュッ、ニチュ、ニチュッ、ニチュ、ニチュッ、ニチュ、
ニチュッ、ニチュ、ニチュッ……
「うああぁ、あっ、あああ!」
もがいても、しつこくまとわりつく蛇のような動き。
しなやかな五本の指がカリのクビレに軽く食い込み、微振動する。
少しばかり感度の良い男性なら、これだけで悶え狂わされてしまうだろうという動き。
蕩け始めたペニスからは止めどなく我慢汁が溢れ、女の手のひらをますます悩ましい凶器へと変えてゆく。
「感じ過ぎじゃない? まだまだこれからなのに」
今度は手のひら全体をつかって、ゆっくりと円を描きながら張り詰めた部分がこねまわされる。
手のくぼみが亀頭に達する時、自然と喘いでしまいそうになる。
必死で歯を食いしばっても無駄だった。
熟達した拷問官の、女の指先は簡単にウィルの弱点をあぶり出して刺激してくる。
「そろそろ一度、精を捧げて貰おうかしら」
片方の手で根本を強く掴んだまま、反対の手は焦らすようにペニスのクビレから上を柔らかく責め続けている。
即座にイかせるためではなく、これは精を溜めさせるためのテクニックだ。
クニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュ
クニュクニュクニュクニュクニュクニュッ♪
クニュクニュクニュ……
「ああぁ、あっ、あーっ!」
裏筋部分を優しくくすぐられてたまらず叫ぶ。
自分でもわかるほど彼女の指先が我慢汁でドロドロになっている。
イきたい! イきたいいいい!
そう願いを込めて腰を突き上げようとする。
しかし不意に根本への戒めが説かれて、つややかな指先でカリ首が挟み込まれた。
「もうちょっと焦らすね? あんまり早くやるとすぐに達しちゃうからつまんないし」
すでにウィルの体は全身が性感帯のように疼いている。
女の仕打ちに思わずため息が漏れる。
だが同時にある種の快感を植え付けられたことも自覚していた。
(じらされておかしくなっひゃう……でもきもちいいぃぃ……ぃひぎい!?)
クチュウウゥゥゥ♪
気を抜いた瞬間に、生暖かいものにペニスが包み込まれた。
挿入されたのだと錯覚してしまいそうなほど心地よい刺激……
「ふふふ、驚いた? よく我慢できたわね……ペロッ♪」
「はあぁぁ! うくううっ!」
左耳の輪郭を優しく舌先でなぞられて悶絶する。
その間もペニスへの温かい刺激は続いている。
(こ、これはあああぁぁ――!?)
ペニスはゆっくりと柔らかくこね回されていた。
彼女の両手で挟まれたまま、全体をもみほぐされていたにすぎない。
しかし巧みな技術によってその刺激は挿入以上の心地よさを生み出していた。
尿道に触れないギリギリの部分をいじられると全身が甘くしびれだす。
先端に向かうほど優しく、根本に近づくほど強めに締めあげられる。
浮き出た血管は特に念入りにマッサージされているようだ。
「そろそろいいみたいね」
耳元で妖しくささやかれると、無意識にコクコクと頷いてしまう。
(ああああ、早く出させて~~~!!!)
彼の心を察したように、膨れ上がった亀頭が中指と薬指の間でフックされ、細かく振動させられた。
「あああああっ、イくっ! イくうううううう!!」
「クスッ♪」
発射直前で責めの手が緩む。
気を張り詰めるとそれらをあざ笑うように指先で裏筋がくすぐられ、はぐらかされる。
そしてもう一度同じ順序で快感を刻まれる。
まるでウィルの感じる場所を増やしつつ、効果を試すように残酷な責めが延々と続いた。
………………
…………
……
「うっ……夢、か」
ゆっくりと目を開くと、窓から差し込む月の光が眩しく感じられた。
ひんやりとした空気の中で体を起こすと、傍で何者かが声をかけてきた。
「お目覚めですか? ウィル」
涼し気なその声に振り返る。
見慣れた微笑みがそこにあった。
「あれライム? ぅあ、違っ……」
「フフフ、そんなに似てるのかしら」
その女性は薄く笑いながらウィルが横たわっているベッドに腰を掛けた。
彼女がミルティーユであることを理解するのにそれほど時間はかからなかったが、改めてウィルはその姿を見て驚く。
身長こそ僅かに及ばないものの、ライムと同じく整った顔立ちと息を呑むスタイルの良さ。
何よりもライムとは違う気品があった。
ウィルはゆっくりと自分の置かれている状況を確認する。
豪華な装飾はあるものの、どこか殺風景に感じられる室内。
ここはおそらくミルティーユの居室。
北の大地にあるというティフォリア城に間違いはないだろう。
見渡す限り拘束具もないし、魔法陣もない。
第一、彼女から敵意は感じられない。
自分の手足は自由で枷もつけられていない。
もしかしたら逃げることができるかもしれない。
「ねえ、ライムと知り合ってから今までの事を話して欲しいのです」
彼のそんな思惑を無視して、突然彼女がこう切り出してきた。
「えっ、なぜそんなことを……ミルティーユ、君は一体」
「あの、ミルって呼んでください」
「えっ……!?」
「さあ早く、貴方達の話を聞かせて下さいな」
それはライムへの敵意も嫉妬もない無邪気な言葉に感じられた。
子供のように目を輝かせるミルティーユから逃れるように、ウィルはため息を一つ吐く。
「その前に僕から先に一つ。ミルは本当にライムのことが憎いのかい?」
「……」
ウィルの問いかけに対してミルティーユは答えなかった。
だからと言って戸惑っている風でもない。
厳密に言うならば答えを探してみたのだが、見つからないといった様子だ。
その整った横顔をウィルはじっと観察していた。
「わかった。じゃあ何から話そうか……」
暫く沈黙した後で、ウィルは自分とライムが初めて出会った日のことを語り始めた。
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