『スライムバスター3 ~境界線からの使者~』







「そうでしたか……また貴女に、つらい思いをさせてしまいましたね」

 ライムの報告に、シアノは痛ましい表情を見せた。
 本来ならばミルティーユ討伐とブルーティアラ奪還任務の失敗を責めるべき場面である。


「私に嘆いてる暇はないの。ウィルは囚われの身、時間が惜しいわ」

 怒りを押し隠し、静かな口調でライムは言う。


「だから見せて。あの日の記録映像を。それからルシェも呼んでほしいの。確かめたいことがある」

 ライムの言葉通り、シアノはルシェを呼ぶ。
 数分後、彼女は宝物庫に姿を表した。

「遅くなりました女王様。そしてライム、私に何か御用かしら?」

「ルシェ、彼が攫われたのは聞いてるわよね」

 その言葉にルシェの表情が険しくなる。


「ええ、存じてますわ。この役立たず」

「ルシェ、控えなさい!」

「……いいえ、お母様。ルシェの言うとおりよ。だから甘んじて受けるわ。返す言葉もない」

 いつになく口調の強い部下を女王が諌めるが、ライムは瞳を伏せたままルシェに言葉を返す。

「ウィルは絶対取り戻す。だから力を貸してほしいの」

「ライム……」

 ルシェは表情を緩め、手に持っていた書面をライムに突きつける。

 それはウィルが身にまとっている「大地のローブ」が発する精霊の波長を記したものだった。

 「大地のローブ」は優れた防具であると同時に、装備者のおおまかな所在と生存が確認できる仕組みになっている。
 ルシェが彼の安否を気遣って贈った装備であるが、数時間ほど前を境に、発信が微弱になっている。


「ウィル様は幽閉されている可能性が高いです。大地の精霊の息吹は、ごく僅かに感じられますが」

「これを調べていたのですか、ルシェ」

 女王の問いに、彼女は静かに頷いてみせた。
 心なしか表情に疲れが滲み出ている。

「ライム、貴女だって辛いのに、さっきは当たってしまってごめんなさい……」

「気にしてないわ。それより、ありがとう」

 頭を垂れて謝るルシェをライムはすんなりと許す。

 それから三人は、ブルーティアラが奪取された時の映像を見た。

 精鋭のみでこの場所へ潜入し、目的を果たしたミルティーユが得意げな表情を見せている。


「記録はここまでよ。ライム、何か気づいたことがあって?」

「ええ、確認できたわ」

 ライムの言葉に、女王とルシェが顔を見合わせる。


「確認とは、何をです?」

「そうやって尋ねるということは、お母様には見えていないのね?」

「ええ」


「ルシェはどうかしら?」

「私も特に……確かに潜入の手口は見事でしたが。その他、ライムには何か気になることがあるのですね」


「やっぱりそうなんだ……」

 シアノとルシェの反応を見てライムは確信する。


「この記録には、私にしか見えていないものがある」

 記録映像、特にミルティーユの姿を見つめながら、ライムはウィル奪還の作戦を練るのだった。




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