『スライムバスター3 ~境界線からの使者~』








 ルシェが玉座の間を退出し、リィナたちと合流する少し前のこと――。

「な、なぜ……?」

 ミルティーユは酷く狼狽していた。
 自ら魔力を注ぎ込んだ氷の棺は完璧だ。

 いや、完璧なはずだった。

 しかし現実に、小さな亀裂が入って青い魔力が漏れ始めている。
 取るに足らぬことだろうかと迷いつつ、ミルティーユは手に集めた魔力で亀裂を修復した。


「この青い繭は、ミル……貴女そのものに見えるわ」

 ライムの言葉にミルティーユは小さく肩を震わせた。


「守られたい、閉じ込めたい、抱きしめたい――、そんな一方的な我儘が詰め込まれて形になっている」

 どこか悲しげな、それでいて妹を諭すようにライムは呟いた。


「いきなり何を言い出すかと思えば……戯言を……」


「ねえ、ミル。私が好きなのはね、閉ざされた『今』を打ち破る人なの」

「打ち破る……」

 腰に軽く手を当て、目を伏せながらライムは続ける。

 ミルティーユは衛兵だけでなく、腹心の部下も全てこの繭によって忠誠を誓わせていた。

 すなわち、この国の安定は繭によって作り出されたものだといえる。

 ティフォリアにとっては常套手段である洗脳が、如何に脆いものかということをライムは遠回しに語っているのかもしれない。


「生まれから酷い境遇で悲しみを背負い、自分以外を恨んで視野を狭めているようなヤツは……はじめから私達の敵じゃない。そうだよね、ウィル!!」

 歯を食いしばり、ライムが両目を大きく開く。体内に埋め込まれたエレメントの力を解放し、炎を纏う。
 紅の闘気がライムの体を覆い尽くし、氷の玉座を真っ赤に染め上げる。

「きゃあああああっ!」

 突然の魔力解放に、ミルティーユは氷の防御魔法を展開した。

 それらと同時に、青い繭は淡い光を放って、溶けるように真っ二つに裂けた……。


「ライム、もう少しいい方っていうものがあるだろ……」

 繭の中からフラリとよろめきながら、ウィルはライムに向かって小さく微笑む。
 その様子を見てミルティーユは愕然として問いかける。


「ウィ、ル……そんな、繭の中でたっぷり弄んだのに! 私の幻惑に屈したはずなのに……!」

 回数もわからなくなるほど彼を射精に導いた。それは間違いない。
 普通ならもはや廃人になるレベルで犯し尽くした相手が、目の前で正気を保っていることが彼女には信じられなかった。


「うん。それなら全部倒したよ」

「えっ」

 こともなげに彼は言う。ミルティーユにとってまたひとつ謎が増えてしまった。

(幻想に打ち勝つ? そんなことがありえるはずが……ハッ!)

 数秒間程度、見せてしまった隙をスライムバスターが見逃すはずはない。
 ミルティーユは既にウィルによって、上半身を裸にされていた。

「そして……今ならきっと、キミに届く!」

 予想外に強い力で抱きしめられ、困惑するミルティーユの青い瞳に、彼の姿がひときわ大きく映し出された。




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