Elbereth

 遅い帰宅となったため、ひとりで夕食をとることとなった。

 食卓にはとうに食事が終わったはずの柊柯がなぜか正面に居座っていた。純白のテーブルクロスの向こうに鎮座する漆黒のドレスという相変わらずのハイコントラストで。

「何をしているんだ?」
「余韻」

 視線を感じるのでどうにも食べづらい。しかし、退けと言うわけにもいかないので、我慢して食事を続ける。

「メイドが好きなんですってね」

「……誰から聞いたんだ。そんなこと」
「事情通」
「……それがどうした?」
「人気があるみたいね。メイド」
「みたいだな」
「メイドって、何がそんなにいいの?」
「何って……」
「服?」
「いや……」
「主従関係?」
「……人によるんじゃないかな」
「じゃあ、あなたは何よ?」
「……さあ」
「さあ、って……さあ、って何よ?」
「自分でも理由なんてわからない」

 そう言うと柊柯は眉を顰め、しばらく黙った。
 ただでさえ食が細い僕は、ここぞとばかりに箸を進める。

「ゴスロリが好きなんですってね」

「……事情通か?」
「事情通」
「……だったら何だ?」
「人気があるみたいね。ゴスロリ」
「それなりにな」
「ゴスロリって、何がそんなにいいの?」
「何って……」
「服?」
「いや……」
「頽廃?」
「……人によるんじゃないかな」
「じゃあ、あなたは何よ?」
「……さあ」
「そもそもゴスロリって何?」
「……お前が言うな」

 そう言うと柊柯はおもむろに立ち上がり、こちらへと向かって来た。
 なんだ。殴るのか。
 あまり洒落にならないのでやめてほしい。

 柊柯が手を伸ばし、僕の襟元を掴んだ。

 ……思えば短い人生だった。

「襟」
「……は?」
「あなた、手が汗ばむと襟元で拭う癖があるでしょう。汚れてる」

 掴み上げられた襟元を苦労して見ると、確かに白いシャツがそこだけ黒ずんでいた。
 全く気が付かなかった。

「これからは気を付けたら? 自分で洗濯しているわけじゃないんだから」

 そう言いつつ、ちらりと横に視線を送り、柊柯は食堂を後にする。
 そちら……僕の席の後方には、いつの間にかメイドがいた。

 振り返って視線を送ると、メイドは微かに眉尻を下げた。

Elbereth

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