Elbereth
起きたら右の手首が痛かった。
……寝相が悪かったのだろうか。
手首を曲げるだけで痛い。
手首をさすりながら降りてくると、掃除機を持って移動中のメイドに出くわした。
「なあ。湿布か何か、ある?」
「え……どうかなされたのですか?」
「……捻挫、かな」
「捻挫!?」
「あ、いや。寝て起きたらなんかちょっと手首が……」
「たいへんっ」
メイドは掃除機を放り出して台所へ駆けて行った。
……捻挫は大袈裟だったのだろうか。
遅れて台所に着くと、メイドは冷蔵庫の奥から小さな紙袋を出し、テーブルに放り出したかと思うと、息をつく間もなく台所を出て行く。
「あ……ええと」
「お待ちください。今、包帯を」
包帯……。
仕方がないので、大人しく椅子に座って待っていると、救急箱を携えて戻って来た。
「あのさあ……」
「さあ。どちらですか?」
「……ここ」
表側、右の手首の真ん中を指し示しながら差し出す。
メイドは「外用薬」と書かれた白い袋から湿布を取り出すと、患部に翳して見てから、鋏でそれ半分に切る。伸縮性が強い素材のせいで、細かく器用に鋏を動かさなければならないようだった。
「はい。ひんやりしますけど、我慢してくださいね」
手首がひんやりしたくらいで悲鳴でも上げると思っているのか。
患部に湿布が乗せられる。
ひんやりした。
手首を中心にくるくると公転させて包帯を巻く。
何周かした後、鋏で包帯をばっさりと裁つ。
……手首の近くで鋏を使わないでほしい。湿布がひんやりするよりずっと怖いじゃないか。
それにしても、鮮やかな手付きだ。
まるで看護婦のように。
……看護婦……。
「はい。終わりました」
「…………」
「あの……?」
「……はい?」
「終わりましたよ?」
「ああ……ああ。うん。ありがとう……ございます」
「……は?」
「いや。その。べつに……」
照れてない。
断じて照れてなどいない。
Elbereth
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