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惣一郎の寝所には、ほのかに香が焚きしめられていた。
右近は自分から部屋の中に入ったものの、そのまま一歩も動けずに立ち尽くしていた。斯様なとき、どう振る舞ったらよいのやら……。
閨のこととなると、実は皆目わからない。
藩校設立以来の秀才といわれた右近もお手上げである。
天満屋での一件(ここをクリック)を除いて、右近はこれまで誰にも肌身をゆるしたことがなかった。
惣一郎との経験の差は歴然で、己の余裕のなさが口惜しい。
気がつけば身体中がこわばっていた。
このまま沈黙が続けば、情けないことに膝が震えだしそうだ。
背後でくすりと笑う気配を感じた。
肩ごしに振り返ると、惣一郎が後ろから包み込むように両腕を回してきた。
抱きしめてくる腕の力強さに戸惑い、頬が一気に火照った。
それでも、惣一郎から動いてくれたことに、どこかで安堵する右近だった。
惣一郎が左手を右近の鳩尾のあたりに回し、ぐいと引き寄せる。
すかさず右手が着物の袷目に滑りこんできた。
惣一郎のさらりと熱い掌が、着物の下の肌に直に触れていく。
ゆっくりと手触りを確かめるような動きが、かえって羞恥を煽る。
右近は息を詰めてじっと堪えた。
ときおり偶然を装って、惣一郎の親指が右近の胸の飾りを掠めていく。
わずな刺激にも反応して、そこが固く立ち上がっていくのが分る。
今度ははっきりとした目的を持って、惣一郎の指が戯れ始めた。
指の腹で軽く押したり、円を描くように周囲をなぞったり、巧みな刺激を加えてくる。
「……っ」
じわじわと甘い疼きが全身に広がっていく。
少しでも気を抜くと、はしたなく声を洩らしてしまいそうだ。
右近は唇をひき結んで天井を仰いだ。
認めたくはなかった。
胸を弄られただけで、たやすく反応する己が情けなかった。
薬を飲まされた昨日とは違い、これでは何の言い訳もできない…。
「…我慢せずともよい」
右近の耳朶に唇を寄せて、惣一郎が囁いた。
「……声をあげるのは、矜持が許さぬか?」
素直にそうだと答えるわけにもいかず、右近は唇をかんだまま俯いた。
「……左様なものは…持つだけ無駄じゃ。さっさと捨ててしまうがよい」
戯れるような動きが止み、惣一郎は袷目から一旦手を引き抜いた。
小袖の襟に両手をかけると、背後から乱暴に襟元をくつろげる。
襦袢もろとも肩から引き剥がすようにして、腰のあたりまで一気に引き降ろした。
右近の白い上半身が露になった。
「惣一郎様…っ」
主の手をとめようと右近は己の手を重ねたが、所詮、形だけの抵抗であった。
袴の紐に手をかけたことろで、惣一郎の手が一瞬止まった。
意外に複雑な結び目に舌打ちしている。
着替えはいつも小姓に手伝わせているので、惣一郎は自分で袴の紐など結んだことがないのだ。
ここまで来て逃げ出すわけにもいかず、右近は覚悟を決めて、自分で紐を解こうと手を伸ばした。
「待て」
惣一郎は低い声で制すと、何を思ったか居間のほうへ戻っていく。
怪訝そうに振り返ってみれば、ほどなく右近の脇差を手にして戻ってきた。
片頬だけで微かに笑い、色悪(いろわる)のごとき婀な眼差しで、右近の目の奥をのぞいた。
「…じっとしておれ」
鞘をはらって、袴の紐の下に抜き身を差し入れ、ぐいと力を込めて断ち切った。
「何をなさいます?!」
刀は武士の魂だ。
それを不埒な目的に使われ、右近はかっと目を見開いた。
哀れな袴は足下に落ちてうずくまっている。
惣一郎は悪びれもせず、一文字結びにした帯も一刀のもとに切り裂いた。
帯が足下に滑り落ちた。
腰のあたりに留まっていた小袖も、衣擦れの音をたてて落ちていった。
惣一郎は仕上げと言わんばかりに、最後に残った襦袢の紐をふつりと断ち切った。
右近は毒気に当てられたように、身動きひとつできず、すべり落ちていく襦袢を呆然と見送った。
惣一郎は脇差を鞘に戻して畳の上に置くと、あらためて右近の腰を正面から引き寄せた。
「…よう切れるのう。寝刃を合わせた介があったな…右近」
「いくら若殿でも…斯様な戯れ言……許しませぬぞ!」
武士の覚悟を揶揄するような言いぐさに、右近は潤んだ瞳で睨み返した。
それすらも愛しげに受け止めて惣一郎は微笑み返す。
右近の撓る背をきつく抱きしめて、貪るように唇を重ねた。
*
惣一郎は寝間着を身につけたまま、右近だけが下帯一枚の姿で、敷布の上に横たわっている。
惣一郎の掌が、先程から右近の双丘を緩やかにまさぐっていた。
唇は肩や背中に転々と朱い跡を残していく。
初めの総毛立つような悪寒は消え去り、軽く触れられたり、甘咬みされたりするうちに、下帯の中がはしたなく脈打ち始めた。
肩甲骨の下を強く吸われた時、背筋にさざ波のような震えが走り、
「……う…っん」
鼻にかかった声が思わず口をついて出た。
下腹が一気に熱を持ち、右近は思わず歯がみした。
惣一郎の手が下帯にかかり、巻込んだ部分を緩めている。
右近は耳朶を紅に染め、敷布に顔をつよく押し当てて、下帯が取り去られるのをじっと耐えていた。
相変わらず惣一郎は着衣のままで、自分ひとりが一糸まとわぬ姿で横たわっている。
右近のどんな些細な反応をも見逃すまいとする、主の視線が肌につき刺さって痛い。
既に形を変えている前を見られぬよう、右近は俯せのまま、敷布をしっかりと握りこんでいた。
それを見透かしたように、惣一郎の大きな手が右近の肩にかかる。
あっという間に身体を返された。
「お赦し…ください…!」
悲鳴のような抗議も聞き入れられず、仰向けに寝かされた右近は、浅ましく脈打つものを主の眼前に曝していた。
惣一郎は蕩けるような眼差しで、右近の雪白の裸体を見下ろした。
「…顔だけではのうて…どこもかしこも美しいのだな」
指先で軽く触れられ、右近はぴくりと睫を震わせた。
淫蕩な目で見られている…。
耐え難いはずなのに、右近の身体の奥で、おき火のような何かが燻りはじめていた。
やがて小さな炎が燃えあがり、総身に広がって行く予感に、右近は慄然とした。
「紛れもなく男の身体なのだが…この色香は何と申せば良いのか…」
惣一郎はうっとりと溜息をついた。
「…今でも十分『お役』にたつではないか」(表・5話参照)
惣一郎の長い指が右近自身に絡み、ゆっくりと扱き始めた。
「お、お放し下さい…っ!」
恐ろしいほどの刺激に、右近は奥歯を噛み締めた。
襲いくる波を堪えようと、足先が反り返った。
初めて他人の手で直に触れられ、あまりの心地よさに右近は面をのけ反らせて喘いだ。
惣一郎は空いた手で、胸の蕾みも同時に嬲り始めた。
巧みな指使いで二カ所を同時に責められている。
とうとう堪え切れず、右近の唇から押し殺した喘ぎが洩れ始めた。
(このお方は……?!)
衆道の嗜みはなかったはずなのに。
惣一郎は右近の弱い部分を憎らしいほど的確に探し出してくる。
見つけたら最後、執拗なまでの愛撫を加えた。
死んでしまいたいほどの羞恥に身悶えしながらも、波のように襲い来る快楽に抗えない。やがて激しい射精感がせりあがってきた。
「惣一郎様っ…もうっ…」
切迫した呼吸は、もはや隠しようもない。
涙でぼやけた視界に、欲情に濡れた瞳で見つめる主がいた。
「…も、もう、お放しください! …お手が…汚れます!」
惣一郎は軽く鼻先で笑うと、右近の頬に唇を寄せた。
「構わぬ…」
熱い吐息とともに囁き、惣一郎は一層手の動きを速めた。
右近は目尻に涙を滲ませ、激しく首を打ちふるった。
「なりませぬ…! お放しくださ……うっ…う」
「構わぬと言っておる…!」
惣一郎も昂ったように息を弾ませて叫んだ。
敏感な先端をこねるように指の腹でこすられ、
「…くっ…ん、うっ…あぁ─!」
惣一郎の二の腕に縋るようにして、右近の身体が大きくしなった。
長く、かぼそい悲鳴をあげ、右近は惣一郎の手の中に放っていた。
震えながら弛緩していく身体を、惣一郎の腕がそっと抱きとめた。
右近視点 終り(惣一郎視点へ続く)
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