五の巻
「緑風会」補遺




by 戸田采女

 三郎の居室、奥の間。

 夜具も敷かずに、乱れた着衣のまま、主従は畳の上で絡みあっていた。

 誠之進は三郎の襦袢の前をはだけ、滑らかな胸筋を指先で愛撫しながら、時おり啄むように三郎と唇を合せた。慎ましやかな突起の先端を軽く指先でこね、気まぐれに少し強めにこすれば、三郎は耐え難げに胸を反らせる。触れ合った唇が離れるたび、お互いの切迫した息づかいが漏れた。三郎の昂りが下帯の中で硬度を増したのを、誠之進は触れ合った身体で感じた。 



 誠之進はその夜、馬で出かけた三郎を追って、秘かに妙心寺へ向かった。倫太郎の報告で、脇坂文太郎が三郎に接触したことを知り、何らかの働きかけがあったことを予測した。『緑風会』の定例会がある本日、十五日。三郎が動けば後を追うつもりでいた。

 馬を駆り、月明かりを頼りに夜道を急ぐ。
城下の外れにある妙心寺は、さほど遠い距離ではい。
誠之進の愛馬、黒毛の『北斗』は、主の意に答え、夜空に蹄の音を響かせ疾走した。
妙心寺の門が見えてきたあたりで、誠之進は強く手綱を引いた。
北斗は高くいなないて減速した。
思った通り、門近くの樹木に、三郎の馬『疾風(はやて)』がつながれている。
誠之進はそのまま北斗を並足で歩かせ、門前に向かった。

 北斗を疾風の近くにつないでいると、本堂からこちらへと提灯の灯りがやってきた。
誠之進が目を凝らすと、あちらから誰何の声があった。
「溝口様にござるか?」
誠之進は訝りながらも首肯した。
「いかにも、溝口誠之進じゃ。貴殿は?」
お互いの姿形が見える距離となり、誠之進は相手の顔を確かめた。
はきとはせぬが、どこかで出会った記憶はある。
相手は一礼すると、
「関山で郡奉行の下、用水方を務める、松本権助にござる」
言われてみれば、髭の濃い、角張った顔には見覚えがあった。
「…そういうば視察の時、貴殿とは顔を合せたことがあるな」
「はい」
「して、今宵は何故この寺に」
誠之進の問いには答えず、
「その話はまた後日改めて。はよう…お迎えに行ってくだされ」
松本は厳しい表情で促した。
「三郎ぎみは中か?」
「はい。早坂甚斎も来ております。聡明な三郎ぎみのこと、うまく切り抜けられるとは思いまするが」
「あいわかった」
誠之進は松本とうなずき交わし、
「ご案内つかまつる」
先導する松本に従い、本堂へと向かったのだ。



 誠之進は三郎の張りつめたものを、下帯の上からゆるゆると撫でさすった。
手をずらし、強めに袋を握り込めば、三郎はたまらず声をあげ、切なげに腰を揺らした。
「誠之進…っ」
三郎が片肘ついて上体を起こし、熱っぽく潤んだ瞳で誠之進を見た。
常ならもう少し焦らしたいところだが、誠之進は口元で微かに微笑むと、下帯をはぎ取り、求められるまま三郎の股間に顔を埋めた。

 勢いよく天をついた刀身を咥え込み、誠之進はひたすら奉仕した。
口淫を続けながら、中指をゆっくりと三郎の菊座に埋める。
熱い柔肉に包まれた指を軽く左右に揺すり、慣れた頃合いを見計らって抜き差しを始めた。
深く奥まで入れたかと思えば、浅く小刻みに入口を嬲る。
前後からの巧みな攻めに、三郎は早くも陥落し、鼻にかかった甘い声を上げ続けた。

 行灯のほの暗い灯りをうけ、白い障子戸に睦みあう主従の影が映っていた。



『あの問答はご立派でした』

 早坂の挑発に動じることなく、三郎は潔く応じた。
毅然として己が存念を語ったのだ。

『万一、好ましからざることあらば、一命を賭して諫言するのが、臣の道と心得る』

 三郎が間髪入れずこう答えた時、誠之進は鳥肌がたった。

『私は生涯兄上の臣として、お力になりたいと思うておる。それ以外の道はない』

 皮肉なことに、そうきっぱり言い切った三郎には、上に立つ者の威厳が溢れていた。三郎が自らを惣一郎の臣と呼び、藩主の座に微塵の野心もなしと語れば語るほど、藩士たちは三郎に心酔するだろう。自分もまた、早坂が問答をしかけた時すぐに止めなかったのは、皆中を射止めたような見事な答えを、心のどこかで期待していたのかもしれない。

『覚悟もないのに、中途半端な振舞いであの者たちを惑わしてはなりませぬ』

 そう囁いた心の奥で、一番眩惑されているのは、誠之進自身かもしれなかった。

(お育てした若君を、いつの日か藩主の座につけたい…)

 そんな思いが、日々賢く、たくましく成長する三郎を見守る中、首をもたげてくるのだった。

 だが己の本心とは裏腹に、次の筆頭家老として、家中の騒動の芽は未然に摘まねばならない。
誠之進は己の胸底に芽生えた野心に、最初は気づかぬふりをし、今はそれをひた隠した。



「誠之進…もうよい…」
荒い息を整えながら、襦袢をまといつかせたまま、三郎が両肘で上体を起こした。
頬を上気させ、
「もうよいと…申しておるっ」
焦れたような声音で呼びかける。
誠之進がすぐに動かずにいると、三郎の手が、誠之進の二の腕を取って引き上げようとした。
誠之進は改めて三郎と目を合わせた。
三郎は肩で浅く息をつき、物言いたげに誠之進を見つめ返した。

 凛々しく成長した若者の顔に、人恋しげな黒目がちの瞳が、幼き頃からの面影を残す。

 誠之進は三郎の求めに応じ、片手で自分の帯を緩めると、小袖の前を開いた。
三郎から目を離さぬまま、下帯の中から屹立を取り出す。
そのまま三郎の脚の間に割って入り、膝裏に両手を添えて押し上げた。
誠之進のするに任せるも、あられもない姿勢に三郎が固く目を閉じた。

 誠之進は三郎の先走りを親指ですくいとり、猛り立った己のものになすりつける。
初めはゆっくりと蕾に押しあて、ぬめりの力を借りて先端が入ると、後は一気に根元まで捩り込んだ。
「あぁぁぁっ……!」
三郎の喉から引き絞ったような悲鳴が洩れ、両手が誠之進の肩をつかんだ。
眉根を寄せ、浅く、せわしい呼吸を繰り返す三郎を、誠之進はしばし動きを止めて見つめた。
三郎の睫毛の間から涙が滲むのを、己が唇で優しく掠めとる。
締め付けてくる肉襞の感触に陶然としながらも、誠之進の脳裏に様々な思いが去来した。

 三郎が誰よりも愛しく、命に換えても守り抜きたい存在であることは、幼い頃も今も変わらない。
だがふとした拍子に、庇護欲と裏腹の、名状しがたい征服欲に駆られることがある。

「誠之進…っ」
三郎の右手が上がり、指先で誠之進のこめかみを二、三度梳いた。

 深く繋がりながら、泣き濡れたような瞳で見つめられ、誠之進の身体の奥で猛々しい何かが弾けた。

 誠之進は宥めるような口づけから、一転して、やや乱暴に三郎の膝を胸につくまで折り曲げると、抉るように腰を使い始めた。 

 三郎は一瞬怯えた目で誠之進を見るも、やがては自ら誠之進の身体に脚を絡めて抱きすがった。
黒曜の瞳は快楽で熱く潤み、後はただ誠之進に身を任せる。

 重みと速さを増す突き上げに、三郎は苦痛とも喜悦ともつかぬ声をあげ続けた。

***


 夜が更け、行灯の油も尽きた。

 貪り合い、底なしの悦楽に溺れた末、精魂尽きた三郎に背中から寄り添いながら、誠之進は思ふ。

 九歳の三郎を城に迎えてから、はや八年。
 
 もはや真綿でくるむがごとく、三郎を守る必要はない。

 転ばぬようにと、路傍の石を先回りして除く必要もない。

 慕わしげな眼差しで、三郎が自分を追いかけて来る日々は終わったのだと。

 この先は、時に傷つき迷う三郎を支えつつ、どこまでも付き従っていくのみ。

 真に惣一郎様の臣として生きることをお望みなら、それも良し。
私は無責任に貴方様を担ぎだそうとする者たちを押さえ、
背後に邪悪な企てあらば、この手で叩き潰してみせましょう。

 なれどいつの日か、違う道を歩もうとされるなら一一。


 誠之進は眠る三郎の耳元にそっと唇を押し当て、問わず語りはそこで途切れた。

おわり


「緑風会」5
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背景は「kigen」さんからお借りしています。


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