十九の巻「花心亭」2.5

by 戸田采女


 下帯一枚の姿で三郎が誠之進の胸にすっぽりと抱き込まれていた。わずかに顔をあおのかせ、三郎は恥じらいながらも誘うように誠之進の唇を求めていた。誠之進は三郎を愛しげに見つめたあと、瞼を閉じると、啄むように何度も軽く三郎の唇に触れた。それが物足りないのか、三郎は両腕を誠之進の首にまわして、深い口づけを交わそうとする。誠之進の両腕にも応えるように力がこもった。

 右近の身体中の毛穴から冷たい汗が滲みでていた。膝が震えそうになるのを懸命にこらえた。足がすくんで一歩も動けない。この場からすぐにも逃げ出したい気持ちと、何が何でも見届けてやるという自虐的な心理の板挟みになっていた。

 室内では誠之進が畳の上に腰をおろし、床柱にゆったりともたれかかっている。すらりと伸びた長い足の間に三郎がうずくまった。ほどなくして、前髪立の頭が誠之進の股間でゆらゆらと動きはじめた。

(まさか…家臣のものを口に含んでいるのか? な、なんと恥知らずな…)

 吐き気を催すほどの侮蔑と、目も眩むような羨望に、右近の心は引き裂かれた。まばたきもせずに室内に目を凝らす。

 誠之進は目を閉じてわずかに眉根を寄せていた。薄く開いた唇から洩れる吐息…。瞼がひらいたかと思えば、己の股間に顔を埋める三郎を、蕩けるような眼差しで見つめている。

(そんな目で見るな!…誠之進、そいつは淫売だ…)

 三郎の前髪をやさしく梳く誠之進の指。頬をなでる掌。あれほど焦がれた誠之進の手が三郎の膚に触れている。

 右近は呼吸も忘れたように誠之進の表情に見入っていた。

「若…もう、よろしいですから、私の膝の上へ…」
鳶色の瞳を快感に潤ませ、誠之進がそっと三郎の肘をとって起こした。三郎が言われるままに膝立ちになると、
「さあ、向うをむいて」
誠之進は三郎の身体を反転させると、己の股ぐらに抱き込んだ。誠之進の胸と三郎の背中がぴったりと合わさっている。三郎の両膝は大きく開かれ、誠之進の腿の上にまたがるような格好になっている。誠之進が畳の上にすっと手を伸ばした。脇に転がっていた小瓶から何かをすくいとると、三郎の双丘の間に塗り込めた。
「あ…っ」
それだけの刺激に三郎が切なげに眉を寄せた。誠之進の指はそのまま三郎の中にとどまり、ゆっくりとうごめいているように見えた。
「ふっ…ううっ」
上半身を捩って三郎が身もだえた。三郎はまだ下帯をつけていたが、中のものが窮屈そうに布を押し上げている。

 誠之進は手際よく三郎の下帯を取り去ると、両手で腰をつかんでゆっくりと己の屹立の上に導いた。頬を染めながらも言われる通り腰を沈めていく三郎。誠之進のものを自分から悦んで体内に招き入れているかのようだ。

 余程慣らされたのか、生来の淫乱か。

 時折固く目をつぶりながらも、頬のあたりに愉悦を浮かべて、三郎が誠之進の逞しいものを呑み込んでいく。

「あっ…ああんっ」
奥まで達したのか、三郎が大きく背を反らせた。誠之進自身が全て身体の中に収まったようだ。誠之進もほっと肩で息をついた。
「三郎ぎみ…お辛くはありませんか?」
三郎は唇を噛みしめ、無言で首を小さくふった。
誠之進は三郎と繋がったまま、背後から三郎の耳に口づけた。
「誠之進…」
かすれた声で名を呼ぶ三郎。

 誠之進の両手が胸の飾りを弄びはじめる。ゆっくりと三郎の項や顎に唇を這わせながら、飾りをつまんだり捻ったりすると、三郎は断続的に押し殺したような声を洩らした。
「あ、ううんっ……」
だんだん鼻にかかった甘え声にかわっていく。
「せ、誠之進っ…」
辛そうに眉を寄せながらも、誠之進をくわえこんだ三郎の腰が前後に揺れている。三郎自身は腹につくほど勃ちあがり、先端から涙を流していた。

(幼げな顔をして…、誠之進を歓ばせようと自ら腰を振るとは…!)

 右近は下地窓の中を凝視しながら、唇を血の出るほどかんでいた。
(ゆるさぬ…っ)
無意識のうちに左手の親指が脇差の鍔にかかっていた。

 誠之進の片手が胸から離れ、三郎の屹立を優しく握りこんだ。
「あっ…あああ」
三か所を同時に責められ、三郎がたまらず首を打ち振るった。誠之進は手の動きを緩めず、三郎のものを巧みな指使いで翻弄していた。三郎の息が乱れる。
「そ、そのように…されたらっ」
「いかがされました…?」
耳元にささやきながら、誠之進は下から抉るように数回腰を突き上げた。
「あああっー」
ひときわ高い声をあげ三郎が激しく身を震わせた。わずかの間を置いて、三郎のものを握り込んだ誠之進の指の間から、白い液体がじわじわと流れ出してきた。遂情し、弛緩していく三郎の身体を誠之進が後ろから愛しげに抱きとめた。

 誠之進の手で遂かされた三郎に、右近は灼けつくような嫉妬を覚えた。身体の震えが止まらない…。

(誠之進……貴公、男でも抱けるではないか…?)

 声にならない呟きで、右近は呆然と問いかける、

(藩校時代、男同士で手拭いを換えるなどばかばかしい。女人のほうがずっといいと…あれほど言っていたくせに。なぜ、三郎なら抱けるのだ…?)

 誠之進は手拭いでざっと手を拭くと、一度三郎を己の膝の上から降ろした。脱ぎ捨ててあった襦袢を畳の上に敷く。その上を三郎を寝かし、自分も隣に横たわった。覆いかぶさるようにして三郎を抱きしめ、口を吸った。次第に唇が深く重なりあう。脚と脚とが淫らに絡み合った。息苦しくなったのか、三郎が一度顔を背けて喘いだ。
三郎は大きく息をつくと、ふたたび誠之進の目を見つめ、
「誠之進っ…」
両手で誠之進の首にすがりついた。

 求めてくるような動作に煽られたのか、誠之進は三郎の脚の間に身を割り込ませると、相手の膝裏を持って両足を抱え上げた。秘処があられもなく曝され、三郎は激しく頭を振った。
「いやだっ…誠之進、お、降ろせっ」
半泣きで訴える三郎に微笑みかけ、誠之進はゆっくりと己の屹立を押し当てた。十分に慣らされたそこは、容易に誠之進のものを迎え入れていく。
「あうっ」
先程とは違う場所にあたるのか、感極まった表情で三郎が大きく仰け反った。誠之進の動きにあわせて、半ば無意識に腰をうごめかせている。誠之進は両手で三郎の膝裏を持って押し上げ、強靭な腰使いで秘処を穿ち始めた。

 絶え間なく洩れる三郎の声が、右近の鼓膜を容赦なく襲う。とろけそうな眼差しで三郎を見つめながら、誠之進は快楽に支配された牡の顔を時折垣間見せた。

(誠之進…貴公でもそんな顔をするのだな…)

 激しい責めで三郎を喘がせた後、誠之進の腰が一転して優しい動きに変わった。かすめとるように瞼に口づけたかと思えば、しっとりと唇を吸う。その間も誠之進は己のもので浅い抜き差しを繰り返してみたり、ゆっくりと抉るように三郎の中へ身を沈める。

 誠之進の首に抱きすがりながら、三郎は快感に潤みきった瞳で宙を見つめていた。

 右近は下地窓の外にたたずみ、まばたきもせずにふたりの交わりを見つめつづけた。

 三郎が切ない声をあげるたびに、誠之進が熱い息の合間から三郎の名を呼ぶたびに、右近の中で大切なものがひとつずつ砕け散っていった。

『恋が叶わずとも、一生秘かに想い続ける…。側にいて誠之進の人生を支えていくのだ』

 どこまでも純粋な見返りを望まぬ恋のはずだった。
それが…欺瞞であったことを、今、ここで思い知らされた。

 痴態をさらし、お互いの浅ましい姿を見せあってなお、ゆるがない絆。貪欲なまでに相手を貪り、快楽を共有する。自分と誠之進の間にはついに起こらなかったこと…。

 茶室の中の主従は生のままの姿をさらけ出し、心と本能のおもむくままに、お互いを飽くことなく求め合っていた。

 三郎は膝から下を誠之進の肩の上に担ぎ上げられていた。脚先がゆらゆらと揺れている。次第に揺れが激しくなり、ふたりの息づかいが切迫していく。濡れた音と動きが極限まで高まったとき、
「はあっ…あ、あ、あああーっ」
「くっ…う…」
感極まったふたりがほぼ同時に果てた。
誠之進は三郎の身体を折り畳んだまま、がっくりと三郎の身体の上に突っ伏した。荒い息を整えながら、誠之進が三郎のほおに優しく唇を落とす。局部はまだ繋がったままだ…。


つづく


壁紙は『十五夜』さんからお借りしています。

 
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