十五の巻「若紫」4



by 戸田采女


 誠之進は三郎の寝間着の帯を解き、そっと引き抜くように取り去った。

 軽く戯れるように三郎の唇を吸いながら、大きく開いた胸元から手を滑りこませた。滑らかではりのある膚をやさしく撫でる。かわいらしい突起を見つけた誠之進は指先で軽くひっかいてみた。
「ん…」
触れあった唇から三郎の震えが伝わった。
(なるほど…男でも胸で感じるのだな)
期待通りの応えの良さに、誠之進は頬が緩みそうになった。

 しばらく胸の飾りを指の腹で擦ってやると、先が固く尖ってきた。目を合わせれば、三郎は不安そうに見つめ返してくる。もっと困らせてやりたくなった誠之進は、顔を寄せて突起を口に含んだ。
「な、何をする?!」
三郎は反射的に両手を誠之進の肩につっぱった。たが押し返す手に本気の力はこもっていない。誠之進は中途半端な抵抗は無視して、突起を舌先で嬲った。
「誠之進…よせっ」
三郎はかすれた声で抗ったが、肌は内側からさらに熱を帯びた。
唇で軽く挟んだり強く吸ってみる。その度に三郎は眉根を寄せ、微かに開いた唇から切なげな吐息を洩らした。

 誠之進は愛撫を続けながら着物の前を裾まで大きくはだけた。まだ下帯には触れない。指先で胸の飾りをつまんだり捻ったりしながら、滑らかな喉や項に唇を這わせた。
「う…ううっ…ん」
鼻にかかったような声が洩れ、三郎の胸がせわしなく上下し始めた。

 目の端でちらりと見やれば、下帯の膨らみが増している。戸惑いながらも胸で感じてしまう姿が可愛くてたまらない。飾りを二つ同時に指で摘んでこすると、三郎は耐え難げに背を反らせた。
「い、嫌だっ……」
引き絞るように消える語尾。声に煽られ誠之進が少し乱暴に捻ると、三郎は誠之進の前腕に手をかけて、泣き出しそうな顔で訴えた。
「誠之進っ…」
「あ…少し痛うござりましたか?」
三郎は小さく首を左右に振ると、
「そうではないが…むずがゆくて…妙な感じなのだ…」
頬を染め消え入るような声で呟いた。
快感をまだはっきり認識できない三郎が、何とも初々しい。
「妙な感じ…でござりますか?」
声に笑いを滲ませながら、誠之進は左の突起を再び口に含むと、手を下帯の辺りへ伸ばした。軽く脚を開かせて大腿の内側を撫でてやると、ふたたび息が乱れ始めた。下帯の中のものも一段と張り詰めている様子だ。そっと布越しに触れると、三郎の躯がびくりと跳ねた。

「取りますよ…」
言いながら既に誠之進の手は下帯を緩めにかかっていた。
「誠之進、待て! 灯りを…」
三郎の訴えは無視して、誠之進は手際よく下帯をはぎとった。淡い草むらの中から薄紅色の屹立が現れた。しばし目を細めて見つめた後、誠之進はためらいもなく口に含んだ。

 口でされるなど思いもよらなかったのか、三郎が狼狽した声を上げた。
「そ、そのようなこと…!」
誠之進の肩を押し返す手に力がこもった。
三郎のものを口に含んだまま上目使いに見上げると、怯えたような瞳が誠之進を見おろしていた。

(まことに…何も御存知ないのですね…)

 守役の自分が、今まで閨のことを教えていないのだ。誰彼なく聞ける話題でもなし、三郎に知識のないのは当然だった。

(今から、ゆっくり教えてさしあげます…)

 相手が三郎ということで、誠之進はかつてないほど昂っていた。誰とも肌身を合わせたことのない、無垢な三郎…。主人である三郎に奉仕すると同時に、自分の下で存分に喘がせてみたい…。

 愛しさと不謹慎な欲望につき動かされ、誠之進は口淫を再開した。
 舌を幹に絡めたり、先端を舌先でついてやると、誠之進の肩に突っ張っていた手がすがりつくような動きに変わった。

「ふ…うん、ん…」
感じる場所をひとつずつ探りあてるたびに、甘い息が三郎の唇の間から洩れた。堪えながらも、堪え切れず洩れてしまう声がたまらない。

 誠之進は奉仕を続けながら、時折、主の表情を盗み見る。

 きゅっと眉根を寄せたかと思えば、唇を薄く開きうっとりと目を閉じている。次に見上げた時には、睫の間から玻璃玉のような瞳がじっと誠之進を見ていた。目が合うと、また泣き出しそうな顔で頬を染める。

 刻々と変わる三郎の表情に誠之進は目をみはる思いだった。

 口内に含んだ三郎が硬く張り詰めていく。呼吸がせわしなくなってきたところで一度きつく吸ってやると、
「ああっ…うんっ、あん!」
ひときわ高い声をあげて仰け反り、足先までつっぱった。

 誠之進は迸り出た蜜を躊躇することなく嚥下した。何度か痙攣しながら放出されるものを、余すとこなくなめとってやる。三郎がうっとりと目を閉じて弛緩していく。遂情の余韻に浸る姿がこのうえなく艶っぽい。思わず魅入られた誠之進に、
「せ、誠之進…」
荒く息をしながら三郎が両肘で上体を起こした。未だ自分の股間に収まっている誠之進に尋ねる。
「…あれを飲んだのか?」
「はい、もちろんでござります」
大真面目で答えると、三郎はとんでもないとばかりに目を剥いた。

「そなた、は、腹をこわすぞ?!」
恥ずかしさのあまり、耳まで紅に染めて三郎が叫んだ。

(腹を壊すなどと…萎えるようなことを言わないでいただきたい…)

 誠之進は眉間に皺を寄せて、小さくうなった。




 夜は長い。

 誠之進は気を取り直すと、三郎の脚の間から身を起こした。自分も帯をとき寝間着を脱ぐ。下帯も取り去って再び三郎の隣に横たわった。三郎は前をはだけたままで、まだ寝間着に袖を通したままだった。そっと背中から抱き起こして寝間着を脱がせた。

 一糸纏わぬ姿で抱き合う。

 あらためて肌と肌で触れあった途端、誠之進の血が沸き上がった。滑らかな象牙色の膚が、吸い付くようにぴったりとあわさってくる。誠之進の屹立が一段と固さを増した。三郎にもそれが伝わったのか、困惑した瞳で誠之進を見つめてくる。このままでは誠之進が気の毒だと思いつつ、自分の身に起こることが不安でたまらないのだろう。

 誠之進は黙って唇を寄せた。深く口づけを交わしながら、脚を絡め、身体を密着させると、時々顔を逸らして三郎が切なげに喘いだ。誠之進も正直もうぎりぎりだったが、慣らしもせずに挿入するわけにはいかない。 抱き合いながら横臥すると、誠之進は三郎の双丘の谷間に指を滑らせた。

「あっ…」

 蕾に触れた途端、三郎が息を飲むのがわかった。やはり怖いのだろう。三郎のそこは誠之進の指を拒むかのように固く閉じていた。部屋に傷薬でもおいておけばよかったと悔やんだが、何も用意していなかったのだから仕方ない。一瞬どうしたものかと悩んだ誠之進だったが、
「若、うつぶせに寝てごらんなされ」
瞳を揺らしながらも三郎は素直に従った。

 背中から腰にかけての優美な線をしばし目で楽しむと、誠之進は双丘の上に屈み込んだ。
「な…に?!」
息のかかる感触に、三郎が怯えたように振り返った。

 両手で尻を軽く押さえ、奥に息づく蕾に誠之進は舌を差し入れた。

 何をされているか理解した瞬間、三郎は激しく身を捩って逃れようとした。
「い、嫌だ…!」
三郎が必死で脚を閉じようとする。誠之進は三郎の脚の間に身を割り込ませると、腰を両手でつかみ、あらためて秘所に口づけた。
「よさぬか…、誠之進!」
三郎が涙声で訴えたが、誠之進は耳を貸さない。

「そのような…とこ…ろ…」
羞恥で鳥肌をたてているのがわかったが、誠之進は別の反応を引き出すべく舌で蕾をそっとなぞる。薄暗い部屋の中、秘処をなめる濡れた音だけが二人の耳に届いた。
「い、いやだっ……」
耳を塞ぎたくなるような音に、三郎が耐え難げに背を反らせた。羞恥に見悶える三郎の反応が、いやが上にも誠之進の劣情を煽り立てる。誠之進は閉じている入口を、時にやさしく、時に強引にこじ開けようと試みた。
「誠之進……っ」
嗚咽を堪えるようなくぐもった声音で、三郎が苦しげに誠之進を呼んだ。

 誠之進が根気よく愛撫を続けると、こわばっていた三郎の筋肉がわずかに緩み、息使いに微かな艶が混ざり始めた。
「う…あっ…」
少し入口が弛んだ隙に、誠之進は指で開いてより奥まで舌を侵入させた。内壁を舌先で舐めたりつついたりすると、三郎が腰をくねらせて声をあげた。
「嫌だ…、あっ…気持ち…わるいっ…」

 大腿がぴくぴくと震えている。誠之進は前の具合を確かめようと、手を回して触れてみた。言葉とは裏腹に、三郎のものは再び腹につくほどの勢いを取り戻していた。

 初めての交合が痛いだけに終らぬよう、誠之進は辛抱強く舐めたり指で広げたり、そこが十分にほぐれるのを待った。やがて、指一本が自由に通るようになると、注意深く抜き差しを始めた。
「うっ…ん」
三郎が声を殺して呻いた。
誠之進はそのままゆっくりと中をほぐすように指を動かしてみる。
内壁を指で擦られる度に、三郎は敷布を掻きむしりながら切なく鳴いた。
指を二本に増やすと、苦しげに仰のきながら腰をくねらせる。
誘うような動きに誠之進は息をのんだ。

(こ、これ以上は待てぬ…)

 三郎とひとつになりたかった。我慢も限界に達した誠之進は、指を引き抜くと後ろから三郎に覆い被さった。己の楔を三郎の蕾にあてがおうとしたとき、
「誠之進…もう、いいから…」
三郎が潤みきった瞳で肩ごしにじっと見つめてきた。

(何という目をされるのですか…!)

 牡の本能を直撃され、誠之進の中でたがが外れた。
三郎の菊座に先端をあてると、肉の抵抗を感じながらも半ば強引に腰を進めた。
「あっ…ああっ!」
鋭い悲鳴をあげる三郎を後ろから両腕で抱きしめた。

 熱くて狭い三郎の中。
驚きと痛みに、三郎の身体が再びこわばった。すかさず前を手で慰めながら誠之進は腰を進めた。少しずつ秘肉をかきわけるようにして根元まで入れた。

 辛抱強く慣らした介あって切れたりはしなかったが、さすがに圧迫感で苦しそうな息をしている。泣き顔が可哀想な気もしたが、やわらかい肉襞は隙間なく誠之進を包み込み、深い酩酊へと誘う。

(三郎ぎみ…!)

 想像以上の心地良さに、思わず誠之進は眉根を寄せた。
無論、物理的な快感だけではない…。
愛しいものと一つになれた歓びに、心がどうしようもなく昂った。

 奥深くまで誠之進を迎え入れた三郎のそこが、真綿のように締め付けてきた。
高波のような快感が何度も襲い来る。誠之進は堪え切れずにニ、三度大きく身震いした。

(ば、ばかな…)

 一瞬頭の中が真っ白になった。
童貞ではあるまいし、挿れただけで達するとは何という失態…。

 三郎と深く繋がったまま、誠之進は呆然自失に陥った。放出の余韻と別のショックにしばし言葉を失う。

 だが、三郎は何が起こったのか、あまり理解していないようだった。誠之進と一つになれた嬉しさか、身体が少し慣れてきたせいか、うっとりとまばたきをくり返している。いきなり激しく動かなかったのがかえって幸いしたか…。誠之進の惨めな気分は幾分か払拭された。

「三郎ぎみ…」
先に達してしまった申し訳なさで、我ながら情けない声が出た。
「誠之進…」
三郎が浅い息をしながら誠之進の名を呼んだ。
「お辛いですか…?」
囁くように尋ねれば、左右に首を振って言下に否定した。
「…大丈夫じゃ」
熱っぽいかすれたような声で呟くと、夜具の上、誠之進の手を探してそっと指をからめた。胸が痛くなるような仕種に、再び誠之進のものが勢いを盛りかえした。

 こめかみにそっと口づけながら、三郎の中で少し動いてみた。今し方放ったものがほどよい滑りを与えてくれる。これなら三郎もさほど辛くはないだろう。ゆっくりと抽走を始めると、まもなく三郎の唇から苦しげな、しかし何処か甘さを含んだ声が洩れ始めた。

「誠之進…んっ…あっ…うう」
「三郎ぎみっ…」
敷布の上をさまよい始めた三郎の手に、誠之進は己の手を握らせた。猛り立ったもので角度を変えて内壁を擦ってやる。ある場所に当たった途端、三郎が誠之進の指をきゅうっと握りしめた。もう一度同じ場所を軽く押すように突いてやると、
「やっ…やだっ、誠之進…」
三郎が躯をびくりと震わせ、肩ごしに誠之進を振り返った。
「ここは…お嫌なのですか?」
意地悪く尋ねながら、誠之進がさらに何度か狙った場所へ打ち込む。三郎は涙ぐんで敷布に顔を押し付けた。
「くうっ…ん、…ああっ」
誠之進の動きに合わせて、三郎の双丘から大腿にかけての筋肉が、悩ましくうねった。膚が桜色に染まり、しっとりと汗ばんでくる。その様子を上からじっと見おろしながら、誠之進は優しく腰を揺すぶった。
「あ…ふっ…うう」
「…初めてなのに…そのような声を出して。…はしたない方ですね」
「っ…ばかものっ…」
お仕置きとばかりに、誠之進は一度腰を退いてから深く奥を突いてやった。

「やだっ…ああっ…」
三郎の閉じた両目から涙が溢れ、次の瞬間、三郎の秘処が絞りこむように収縮した。

(な、何という…っ)

 具合の良さにたまらなくなった誠之進は、己のものを深く埋めたまま、三郎の腰を掴んで引き揚げた。より自由に動けるよう膝立ちになって、叩きつけるように腰を使う。崩れ落ちそうになる三郎の身体を両手で支え、さらに奥まで楔を打ち込んだ。

 誠之進が腰を突き進めると、
「あっ…あ…ああっ」
三郎が切ない声で鳴く。

 今まで、三郎がかわいくて、愛しくて、手の中で大事に大事に守りたいと思っていた。だが、こうして閨を供にしてみると、眠っていたもう一つの感情が揺り起こされた。

 声が枯れるまで泣かせたい。

 身体中に所有の証を刻んでやりたい。

 誠之進のことしか考えられなくなるよう、躯の隅々にまで快楽を憶えさせてやりたい…。


「せ、誠之進…、やっ…もう…」
激しく揺さぶられ、三郎の口からひっきりなしに喘ぎが洩れている。
「若…いましばらく…っ」
「も、もう…だめだっ」
四つん這いになった三郎の大腿が小刻みに震え始めた。 

 肉のぶつかる音と荒い息使いが部屋に充満する。

「誠之進っ…ん、あああっ──!」
引き絞るような悲鳴をあげて三郎の身体が痙攣した。反射的に菊座が誠之進のものを締め付けた。

 快感が脳天に突き抜ける。

(三郎ぎみ─!)

 誠之進は三郎の身体を砕けるほどに抱き締めて、想いの証を中に放った。


***


 先程の乱れ方が嘘のように、三郎は誠之進の腕の中であどけない寝顔を曝していた。

 あのまま力尽き、ほとんど意識を手放すように眠りに落ちた三郎。

 誠之進の肩口に頬を押しあて、すやすやと穏やかな寝息をたてている。愛しい身体を両腕にくるみこみ、誠之進は天井を見上げてほうっと息をついた。

 心底想う相手と契る幸せを、誠之進は今宵初めて知った。この安らかに満たされた想いを何と表現していいのかわからない。部屋を抜け出して忍んできた三郎の勇気に心から感謝した。

「お側を離れませぬ…」

 数え切れぬほどくり返してきた言葉。

 これからも、命ある限り、ずっとくり返していく言葉。

 改めて胸の中で呟くと、三郎を起こさぬようそっと額に口づけた。



 明日の朝、さてどうやって三郎を部屋に帰そうか…。皆が起き出す前に、髪を結い直してさしあげねばならぬし…。などと、現実的なことを思いめぐらしている間に、誠之進の瞼も重くなってきた。

 とうとう油が尽きたのか、行灯の炎がふっとかき消えた。

 暖かな波の合間をたゆたうような幸福感に浸りながら、誠之進も眠りに落ちてゆく。

 恋焦がれながらも、打ち明けることなく終った初恋が、静かにひっそりと記憶の彼方へ歩み去っていった。


若紫 了






「若紫」3 | 「赤い月」1

下弦の月 目次


三郎ぎみ「お初」を記念して、お福が初夏の花を生けました…。 イラストは十五夜さん作です。


Copyright © 2003 戸田采女
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大きなお世話のひとりごと:『や、やはりな…。誠之進の奴、涼しげな顔をしておるが、閨では豹変すると思うたのじゃ。
身供の目に狂いはなかった…。ううっ、夜の帝王の座を奪われぬよう、身供も精進せねばならぬな…』惣一郎