十八の巻
「乱舞」3
前編




by 戸田采女

 右近の奴…うまく隠したつもりだろうが、誠之進罷免の話しなぞ身供はとっくに知っている。おまけに上屋敷に顔を出す度、岩田の蛆虫めがご丁寧に続報を知らせてくれる。

 誠之進の処分は未だ決まっておらぬそうだ。

 その程度の情報はそなたもつかんでおるのだろうな。

 堀田の爺とこそこそ会うているようだが、それも身供には筒抜けじゃ。

 誠之進罷免の知らせを聞いて以来、身供も色々と考えた。愛しい三郎を養子先の舅・本田忠直の毒牙から守ろうと、己の地位も命も投げ打って父上に諫言するとは…あまりに誠之進らしゅうて呆れるやら感心するやらだった。

 誠之進は忌々しい恋敵だったが、身供はあの男をついに本気で憎めなんだ。あの男は悩み、惑いながらも常に顔をあげて陽のあたる道をいく。此度の出奔とて単に『逃げた』のではないだろう。武士の身分をすて裸一貫で出直し、三郎との未来に賭けたのではないか。

 首尾よく高山を抜け出しても、ふたりの賭けはいずれ惨めに頓挫したやもしれぬ。だがひょっとすると、どこぞ新天地に辿り着き、町衆や百姓に剣や学問でも教えながら、三郎とふたりで生きる幸せを見い出していたような気もする。何処で何をしようと誠之進は己の生を肯定し、愛する者を守って生きていくだろう…。

 少なくともそう思わせるものをあの男は持っている。

 物心ついた頃から奢侈の中で暮らしながら、真に望むことは何もできず、人生に倦んでいた身供とは雲泥の差じゃ。

 誠之進のような男には惹かれるか、猛烈な劣等感を刺激されるかのいずれかだが、幸い私は藩主の嫡男。身分だけはどう足掻いても誠之進が下だ。それに救われたと言えよう。

 時に誠之進の爽やかさ、まっとうさが癇に触ることがあっても、憎んだりはしない。

 そなたもだが三郎が惚れたというのもわかる気がする。

 いっそ身供がしゃしゃり出て、父上に誠之進をお許し下さるようお願いしてみようか…と思ったりもする。偽りではないぞ。右近、そなたが私に助けてくれとすがれば、今すぐにでも書状をしたためてやるものを一一。

 無論、打算が半分以上を占めている。誠之進が許されれば、誠之進はもはや決して三郎を離しはしない。となれば、そなたの未練も粉々にくだけ散る他ないだろう。

 我ながら酷なことを考えているとおもう。

 七月の初め以来、夏だというのに血の気の失せた顔をして、朝・昼の執務を終えたのち、この炎天下、一日置きに浅草の道場まで夕稽古に通うなど尋常ではない。稽古のほかに、何か目的があるのだろうか?

 閨でも上の空じゃ。

 無論、私を拒みはしないし、身体は素直に愛撫に溺れていくが、それは単なる『慣れ』であろう?

 そなた、今、江戸で何をしようとしているのか?

 誠之進を助けるため、私に隠れてこそこそ動くのが気に入らぬ。

 そなたまさか、まだ思い切れぬのか?

 私に対して疚しいことが何もないなら、なぜ打ち明けてくれぬ? 

 右近っ…。




 一度交わったのち、私は右近と肌を合わせたまま夜具の上に横たわっていた。しっとりと汗ばんだ右近の肩口に顔を埋め、私は右近のこめかみのあたりを指でそっと撫でた。

 右近の胸が未だゆっくりと浅く上下している。

 右近の身体はすっかり私に馴染み、あまりの応えの良さにこちらが夢中にさせられる。一方的に私の愛を受けていた三年前とは確かに違う。

 右近はもしかすると私を好いているのかもしれない。だがやはり、心の底から欲しているのとは違う。焦がれ死ぬほど愛してもいない。

 主従という枷がなくば、側につなぎ止めることはできぬやもしれぬ。

 それに引き比べて、誠之進と右近の間には一体どんな絆があるのだろう?

 離れても離れても、磁石のように引き合うあの二人…。

 昔、藩邸の誰かがこういった。

 ふたりの友誼は『金蘭の契り』だと。

 恋だけなら、誠之進が三郎を選んだ瞬間に終わったはずだ。誇り高い右近が自分を選ばなかった誠之進を愛し続けるなど、やはり身供には理解しがたい。

 では恋よりも固い絆、断金の友情とやらで今も結ばれているというのか? 『忠臣』はいても『友』などおらぬ身供には、右近の思いがわからない。

 快楽を分け合う幾多の夜を過ごしても、右近が己のものだという証はどこにもない。

 それを思うと、あまりの口惜しさに私は自分を見失いそうだった。


 私が夜具の上に身を起こすと、右近の視線が追いかけてくる。
私は胡座をかき、肩ごしに後ろを振り返った。
情交の余韻を残し、右近の瞳がしっとりと艶を帯びて私を見つめていた。 

「いかがなされました…?」
右近は身を起すと、薄く微笑んで尋ねた。

 やさしげな微笑が、逆に私を哀れんでいるように思えた。

 潤んだ眸のその奥で、「心はやらぬ」と私の執着をあざ笑っているような一一。

 突然、嗜虐的な情動がわきおこった。
心はくれぬ代わりに、その優しげな顔でどこまで私の要求に応える気か?

「こちらへ参れ」
胡座をかいたまま自分の正面を指さした。
右近は言われるままに身を起し、私の前に移動して跪いた。
私は己が股間にそそりたつものに軽く手を添え、
「銜(ふく)んでみよ」
と右近に命じた。

 先程まで右近の中で散々にあばれまわっていたものだ。
一度禁を解いたのち、ふたたびそれは力を取り戻していた。

 右近がちいさく息を飲み、睫を伏せた。
思えばこれまで右近に口での愛撫を要求したことはなかった。
瞳を揺らして見上げる右近に、
「何じゃ、できぬというのか?」
「いえ…」
「身供がいつもそなたにしてやっていることじゃ。…臣のそなたができぬとは言うまいな」
「御意…」

 右近は覚悟したように睫を伏せ、身を屈めて私の股間に顔を埋めた。

 右近の美しい唇が私の屹立をそっと銜えた。
見ているだけで目が眩みそうになる光景だ。
遠慮がちに右近の舌が絡みつく。
繊細な舌先が裏筋を上下になぞっていく。
私の屹立は痛いほどにはりつめ、先端からじくじくと涙を流し始めた。

 右近は多少ぎこちなさを残しながらも、心を込めて私に触れてくる。
どうしたら私が喜ぶのか、こちらの反応をうかがいながら、おそらくは私が右近にしてやったことを思い出しつつ、舌や唇でそれは丁寧に愛してくれる。

 一瞬、天にも登る心地の自分がいたが、

 これを奉仕と呼ぶのか、愛の営みと呼ぶのか…。
 
 冷めた問いかけが心の裡にわき起こる。

 結局どちらなのかわからない。わからないことが私を苛立だたせる。

「もうよいわ…下手くそめ」
私は冷たく言い捨てると、右近の頤を持って顔をあげさせた。
右近が私のものを放し、悲しげに睫を伏せた。

「そこに這ってみよ」
わざと右近を刺激する物言いをした。
眉を寄せながらも黙って命に従う右近。

 従順さの裏で、右近がまことに考えているのは一一。 

 完璧なまでに私に仕えようとする、右近の『仮面』を剥がしてやりたい。猛るものを欲しがって、狂ったように叫ぶ右近が見たくなった。

 私は枕元の乱れ箱を探り、しばらく使わなかった媚薬の小瓶に手にとった。右近はただの潤滑剤の練り物だと思っているようだが、これには奥から身体の疼きを呼ぶ秘薬がまぜ込んである。

 右近の尻をわざと高くあげさせ、練り物を多めにすくって菊座に塗り込んだ。夜具の上に両肘と両膝をつく屈辱的な姿勢を、右近は息を詰めて耐えていた。もう既に一度交わってほどよく熟れたそこは、本当なら潤滑剤など必要としない。私はことさら淫猥な音をたてて、練り物を右近の肉襞に塗り込めた。

 敏感になった蕾は指での愛撫だけでも充分蕩けたが、媚薬がそれに拍車をかけ、右近の唇から艶めいた呻きが洩れ始めた。
「惣一郎様っ…あぁっ…」
耐えがたげに腰をくねらせ、私の指をさらにくわえこもうと菊座が収縮した。
内へ内へと誘うような動きに思わず目を細めてしまう。

 右近の前も固く張り詰め、物欲しげに頭を揺らしていたが、私は一切触れてやる気はなかった。指だけで後ろから散々に責める。
「あぁ…うっ…」
「いい声で鳴くようになったの…」
指をくの字に曲げてさらに奥をまさぐった。
「…くうっ…ううッ」
内股を締めて快感にたえながら、右近の秘処は貪欲に私の指をとりこもうと蠢く。
中指から伝わる強い締め付けに、私の股間も期待に疼いた。
「指が…食いちぎられそうじゃ…」
わざと右近の耳もとに囁いてやると、
「あうっ…も、もう…お許しくださいっ…」
己の浅ましさに耐えかね、右近が泣きを入れた。
「ふむ…ここはそうは言うておらぬようだが?」
今度は内壁の腹側の一点を探り、指の腹で微かな振動を与えてやる。
嬌声があがり、右近が弾かれたように仰け反った。
四つん這いのまま両手で敷布を握りしめ、内股を震わせながらも懸命に快感を堪えている。
私は執拗に同じ場所に攻撃をかけた。
強めにこすったり、軽く小刻みに押してやれば、右近の唇から呻きともすすり泣きともつかぬ声がもれた。
射精の兆しを感じ取った私は、
「…ならぬぞ、右近」
すかさず空いた手で屹立の根元を締めた。
達しかけたところを急に堰止められ、行き場を失った熱が右近の中で荒れ狂う。
「や…こ、こんな…ううっ」
右近のなだらかな背中から腰が波のようにうねった。
私は右近の根元をきつく戒めながら、大声で背後を振り返った。

「仙之丞っ!」


後編へ
(警告:惣一郎、キレてます。この先は複数プレイあり。
苦手な方は目次へお戻りください。)


「乱舞」2「乱舞」3後編
青嵐・目次 | 艶本書庫


壁紙は「kigen」さんからお借りしています。


Copyright © 2004 戸田采女
All rights reserved.