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十八歳の弥一郎と十四歳の彩之介。
春爛漫の大坂で、客と陰間として出逢ったふたりが縁あって主従となり、半年余りを供に暮らした。出逢った当初、弥一郎が彩之介に惹かれたのは、片恋の相手、三郎信尭に似た容姿だったからだ。
しかし彩之介は一途に弥一郎を慕い、内藤家に召し抱えられてからも誠心誠意尽してくれる。弥一郎とてそんな彩之介を憎からず思わぬわけがない。
彩之介を本田家に譲ると言う父の一言は、雷のごとく弥一郎を打ちのめした。己の保身のため、彩之介を差し出そうなどもってのほか。そういう『さもしさ』を弥一郎は何よりも嫌う。
彩之介が愛しい…。
もはや三郎ぎみの代わりなどではない。
春風のような優しさで、常に自分に寄り添う彩之介。生来利発な彩之介は近習としても申し分ない働きぶりだ。一時は苦界に身を落としたとはいえ、彩之介の本質までもが歪められることはなかった。小鹿のような無垢な瞳で一心に弥一郎を見つめ、溢れる想いをこめて語りかけてくる。
自分が愛しく思うのは、彩之介の中の三郎の面影か、彩之介自身か?
その答えが出ぬうちは、彩之介に触れまいとしてきた弥一郎だった。
なれど、答えならとうの昔に出ていたのではないか?
彩之介の存在が、彩之介を慈しむことが、先の見えない日々の中、弥一郎にとってどれ程の慰めになっていたか一一。
『おまえはもう見世にいた頃とは違うのだから』
つまらない道義心に縛られ、慕ってくる彩之介と距離を置いてきたことを、弥一郎は心底悔やんでいた。
*
夜が更け、寝間着姿の彩之介が弥一郎の寝所にしのんできた。有明行灯のともる仄暗い室内に入ると、彩之介は行儀よく襖をたてた。不安げに瞳を揺らしながら、横たわる弥一郎を見つめている。
「弥一郎さま…」
心細げな呼びかけに、弥一郎はそっと夜具をめくって彩之介を招き入れた。彩之介が遠慮がちに隣に滑り込んでくる。間をおかずに弥一郎が両腕でくるみこむと、彩之介は切なげに息をついて弥一郎の胸に顔を埋めた。
(今まで…淋しい思いをさせてすまなんだ。彩之介…)
項を撫でながら愛らしい唇を吸えば、柔らかく熱を帯びた彩之介の身体が、いじらしいくらいに応えてくる。
(彩之介っ…!)
自らも一瞬のうちに昂った弥一郎は、いつになく性急な愛撫で彩之介を責め立てた。彩之介の裾を割り、右手を忍び込ませる。
「あっ…弥一郎さまっ」
彩之介が掠れた声をあげ、弥一郎の下でわずかに背を逸らせた。
弥一郎は彩之介の胸をはだけ、かわいらしい突起を口に含んだ。
痛むほどに強く吸いながら、下帯の中で息づくものを強めに扱いた。
彩之介は熱く瞳を潤ませ、浅く喘ぎながら弥一郎のなすがままになっている。
何かに駆り立てられるがごとく、弥一郎は彩之介の帯をといた。
大坂で初めて出会い枕を交わして以来、弥一郎は彩之介に離れられぬ縁(えにし)を感じていた。恥じを忍んで叔父に花代を借り、彩之介に会いたさに大和屋へ通った。江戸へ来てからの数カ月、「見世にいたときとは違うのだから」と聖人ぶった台詞を吐きながら、己の正直な心は常に彩之介を求めていた。
三郎の面影が消えぬうちに、彩之介の身体に溺れるのが怖かった。
身替わりを承知で彩之介が自分の求めに応じるのは、あまりに切ない。
なれど弥一郎が逡巡している間にも時は過ぎ一一。
父・帯刀の命で彩之介が本田家へやられてしまう。もはや空気のごとく、彩之介が側にあることが当たり前になっていた。その彩之介を失って自分はいったいどうなってしまうのか。
「彩之介っ…」
弥一郎は後悔と焦燥にかられ、彩之介をかき抱いた。
伸びやかでありながら、ほんの僅かに子供っぽい丸みを残した彩之介の身体。こうして肌を合わせてしまえば、もはや思いを遂げることしか頭にない。
傷つけまいとしながらも、弥一郎は高まる情動を押さえられなかった。未だほぐれていない蕾を己が刀身で貫く。
「すまぬっ…彩之介」
痛みを堪える風情を哀れに思う一方で、彩之介と早うひとつになりたい。
彩之介も小刻みに震えながら、弥一郎の肩にすがりつく両手には狂おしいほどの力がこもった。
彩之介の腰を抱え、弥一郎はさらに深く交わろうと奥を突いた。鼻にかかった呻き声をあげながらも、彩之介の躯はしなやかに弥一郎に寄り添い、やがて果てしない陶酔へといざなう。
「や、弥一郎さま…ぁっ」
彩之介の瞳も朦朧と溶け、薄く開いた唇の間から甘い息が洩れた。
秘肉をかきわけ楔を打ち込む度に、彩之介は弥一郎に絡み、熱くまとわりついてくる。
弥一郎は荒い息の合間に、彩之介の耳もとにささやいた。
「彩之介っ…おまえが好きだ。どこへもやりとうない!」
「まこと…に?」
つぶらな瞳から瞬く間に涙が溢れた。
目と目を見交わして弥一郎がしかとうなずくと、
「私も弥一郎さまを…お慕い申し上げております…っ」
彩之介が涙声に叫んだ。
「彩之介っ…」
弥一郎も目頭を熱くしながら、再び彩之介をかき抱いた。
なぜもっと早く『好きだ』と言ってやらなかったのだろう?
引き離される今になって恋を打ち明けるなど、自分はなんという間抜けか…。
柔らかな彩之介の頬を撫で、透明な涙をそっと唇でぬぐってやる。
彩之介は感極まったのか、
「ずっと…弥一郎様のお側におりとうござりますっ…」
声を詰まらせ、双手で弥一郎の首にすがりついた。
「彩之介っ!」
狂おしいほどの愛しさで弥一郎は彩之介を貪り、彩之介も無我夢中で応えた。
彩之介は短い間だったとはいえ、『子供屋』であらゆる手管を仕込まれている。なれど今宵は若い弥一郎の渾身の愛撫に悶え、泣き、魂まで震わせて身を任せた。
幾度となく達したのち、文字どおり精魂尽き果て、折り重なるようにふたりは夜具の上に崩れ落ちた。
未だ激しく上下する己が胸に、弥一郎は彩之介を引き上げて抱き込んだ。
しばし無言で身を寄せあい、ふたりはお互いの息の音を聞いていた。
「彩之介…」
満たされた溜息とともに名を呼べば、
「弥一郎さま…」
彩之介が目尻に涙を滲ませたまま微笑んだ。
「そなたは私が国許へ連れてゆく。わが屋敷でともに暮らそうぞ…」
「な、…なれど」
彩之介が弥一郎の二の腕を強く掴んだ。
もはや迷いはなかった。
「畿内の生まれのそなたには、越後の冬は厳しかろうが…一緒に、来てくれるな?」
弥一郎は彩之介の前髪に口づけながら、心から懇願した。
「弥一郎さま…もったいのうござりますっ…」
弥一郎の胸に頬を寄せ、彩之介は嗚咽をかみ殺していた。
「私は…そのお言葉だけで…」
唇を噛みしめ頭を振る彩之介に、
「何を言う、彩之介。私がすべて父上の言いなりになると思うてか!」
「弥一郎さま?!」
見上げる彩之介の瞳の奥を、弥一郎は真摯に見つめ返した。
「此度だけは…私は己の正しいと信ずる道をいく」
「な、なれどっ」
「よいな、私について参れ」
斯程に誰かを愛しい、守りたいと思ったことはない。三郎への想いが仄かな恋だったとすれば、彩之介は一一。
(明日にでも私が田安様をお訪ねして頭を下げよう。それでもお許しいただけぬときは一一。)
彩之介に二度と辛い思いはさせぬ。
断じて彩之介を父上の道具にはさせぬ一一。
たぎるような決意を胸を熱くしながら、弥一郎は彩之介の優しい肌の温もりに誘われ、しばしの眠りに落ちた。
つづく
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