二十四の巻
「内藤家の男たち」2.5


by 戸田采女

「遅かったの…彩之介」
彩之介は障子戸をたて、礼儀正しく帯刀のほうへ向き直り一礼した。
「申し訳ござりませぬ。先程まで弥一郎様の給仕をしておりましたゆえ」
「そなたも夕餉は済ませたのか?」
上座から低く優しげな声音が彩之介に問うた。
「まだにござります…」
「…腹が空いておろう?」
「いえ」
彩之介は身を強張らせ、小さく頭をふった。

 帯刀がふっと笑う気配が伝わってくる。立ち上がる衣擦れの音に彩之介は息を詰めた。襖を開けて奥へと促す帯刀に、彩之介は睫を伏せたまま無言で従った。




 寮の敷地内のもっとも奥まった一角に、帯刀の部屋はあった。

 天満屋はここを客間として作ったらしい。母屋とは渡り廊下で結ばれているが、厠もある独立した造りだった。耳の遠い老婆が毎日部屋の掃除をする以外、奉行人たちはほとんど立ち入らない。初めのうち、天満屋がよこした、おもんという女中が帯刀の身の回りの世話をしていたが、最近では帯刀が遠ざけたのか、この寮でおもんの姿をみかけることは滅多になかった。

 紫陽花が五月雨にぬれる季節、初めて帯刀に湯殿で抱かれて以来、彩之介は月に何度か帯刀に召し出されていた。さすがの帯刀も弥一郎には気取られまいと気を使ったのか、呼ばれる時刻は深夜が多かったが、今日はまだ宵の口。

 弥一郎に知られることを何より恐れる彩之介は、一刻も早く『勤め』が終わることを祈っていた。

 奥の間にはまだ夜具が敷かれていない。となれば、当然それは彩之介の役目。彩之介は帯刀に命じられるまでもなく、黙々と閨の用意をした。

 帯刀は唐紙の側に立ったまま、腕組みをして彩之介を見下ろしている。

「まこと…口惜しいがな」
帯刀が独白のように呟いた。
「儂とて、好き好んでそなたを手放すわけではない」
彩之介は括り枕を並べる手をとめ、帯刀を見上げた。
「殿様…」
目をあわせると、帯刀が歩み寄り夜具の上に片膝をついた。
太く逞しい指が彩之介の顎にかかった。
帯刀はそのまま指に力を込め、顔を近付けると彩之介の唇を吸った。
いきなり舌の根を絡めて強く吸われ、彩之介は息苦しさに喘いだ。

 帯刀は未練たっぷりに音をたてて唇を離すと、
「今宵はとくと名残りを惜しもうぞ…」
彩之介の小袖の袷に両手をかけ、ゆっくりと押し開くように肩から脱がせた。


***


 彩之介を一糸纏わぬ姿にし、自分は着衣のまま、帯刀は指で彩之介の後孔を責めていた。

 絹夜具の上、仰向けに横たわった彩之介に自ら膝を抱えさせ、わざと恥ずかしい姿態をとらせている。露になった蕾に練り物を塗り込み、帯刀は締め付けてくる肉襞の感触を楽しんでいた。

「のう彩之介…そなた、本田家に奉公したら、もはやこうして…」
帯刀は奥までひと差し指を突き入れると、指先をくの字に曲げ、指の腹でゆっくりと回すように内壁をこすった。
「はぅっ…あぁぁ、殿様っ…」
「可愛がってやることもできぬ…」
彩之介が耐えかねたように胸を反らせ、まだ幼さを残す幹の先端から透明な蜜が溢れでた。
「ほう…嬉しいか」
「あッ…うん…あぁ」
頬を染め、懸命にもれる声を堪えようとするのが、ことさら帯刀の邪心を煽った。

 彩之介が帯刀に肌を許すのは、請け出してもらった恩義からだ。そのようなことは自分とて百も承知だ。

 彩之介は帯刀に抱かれるとき、いつも弥一郎のことを想っている。帯刀に着物を脱がされ、生け贄のごとく夜具の上に押し倒されながら、弥一郎の涼やかな面影を脳裡に浮かべ、己が肌に触れる手や唇が愛しい男のものであればと祈る。

 彩之介は諦観の中で、綿毛のような優しい夢にすがっていた。熱く潤んだ瞳の中にそれを垣間見るとき、帯刀の心もまた、憐れみと嗜虐の間で揺れ動く。

 快楽に弛緩して、彩之介の足が夜具につきそうなほど下がってきた。
「これ、もっとしっかり抱えぬか…」
後ろを嬲る手はそのままに、帯刀は空いた手で膝裏をぐいと押し上げた。
彩之介の蕾がふたたび帯刀の目に曝された。
帯刀はつつましい秘処が己が指をくわえこむ様を、満足げに見つめた。
「この練り物はな…田安の御前からお譲りいただいた貴重な品じゃ…」
彩之介の浅く切迫した息使いが聞こえる。
「ほれ…そなたも聞いたことがあろう? 細川様の参勤交代の土産じゃ」
相変わらず答えぬ彩之介だったが、
「田安様のところへもお届けがあっての。これはそのお裾分けじゃ…」
帯刀は面白そうに喉を鳴らし、入口近くで浅い抜き差しを始めた。
帯刀の指が出ていこうとすると、彩之介の肉が逃すまいと熱くまとわりつく。
「ん?どうじゃ…細川様の土産の味は?」
帯刀はほくそ笑み、さらに指を深く突き入れて彩之介の中を探った。
目指す場所に小さなしこりを見つけ、小刻みに刺激を加えると、
「と、殿様一一っ」
彩之介が掠れた声をあげ、前髪を打ち振るった。
愛らしい瞳に涙を滲ませ、
「殿様っ…も、もう…」
自ら抱え上げた膝から下がびくびくと震え、足首が反り返った。
「ふふふ…泣く程よいか、彩之介」
彩之介の先端からさらに蜜がこぼれ、幹がぐっと硬度を増した途端、帯刀は無情にも左手で根元を握りこみ、嬲り尽した彩之介の秘処から指を抜いた。
「いやあぁぁぁ…」
彩之介の息は乱れ、喪失感に濡れた瞳ですがるように帯刀を見る。
「殿様っ……」
達しかけたところをせき止められたのだ。
下腹の疼きに耐えかね、彩之介の腰が焦れたように蠢いている。

 このまま焦らし続けるのも一興だが一一。

 帯刀は我知らず唇をなめ、ふっとため息をついた。
「いかがした…?」
「と…殿さまっ……」
いかせてくれと、幼げな瞳が懸命に訴えている。
帯刀は目を細めて彩之介を見つめ返し、
「なに、そなたの可愛く乱れる姿も見納めかと思うと…おしゅうなった」
桜色の幹の先端を指先で戯れるようになぞった。
「くうぅ…っ」
彩之介が唇を一文字にひき結び、呻きをかみ殺す。
さらに追い討ちをかけるべく、帯刀は彩之介の上に屈みこみ、胸の突起を舌先で転がすように愛撫した。
「あぁっ…ううんっ…」
ふたたび彩之介の唇が開き、声に甘さが滲んだ。
桜色に染まり汗ばんだ肌は帯刀を誘っているかのようだ。
「愛い奴じゃ…すっかり儂に馴染んだか」

 言いながら、己の言葉に苦笑する帯刀だった。

 別に自分に馴染んだわけではない。十三の時からそのように仕込まれた身体だった。つぼを心得た愛撫には相手が誰であろうと確実に反応し、歓喜の涙を流す。帯刀のような男に仕掛けられてはひとたまりもない。

 帯刀はふと思った。

 自分の後釜が、棺桶に片足突っ込んだ本田忠直の御老体とは…。彩之介の身体が満足するわけはない。

「のう、彩之介」
猫撫で声で囁きながら、帯刀は小袖の裾を割り、下帯を緩めて己のものを取り出した。
ゆっくりと彩之介の上にのしかかると、
「これが欲しいか」
すでに十分ほぐれた秘処に猛った先端をあてがった。
彩之介の睫が一瞬期待に震えたのを、帯刀は見過ごしはしない。
「どうじゃ、欲しいか?」
「殿様っ…」
彩之介がかすかにうなずいたのを見てとると、帯刀は下から突き上げるような角度で腰を入れた。
「あぁぁぁッ一一」
打ち込まれる熱杭に、彩之介は敷布の上で仰け反り、背を浮かせて耐えた。
帯刀は一度奥まで押し入ると、すぐにぎりぎりまで引き抜く。
雁のあたりをわざと蕾の入口にひっかけるように、帯刀はゆっくりと抜き挿しを始めた。
彩之介の唇が震え、瞳が陶然と潤みを帯びる。
寄り添うように絡みついてくる肉襞に、帯刀が好色な笑いを洩らした。
「…今さらながら、手放すのが惜しいのう」
「と、殿様…う、んっ…」
「そなたも寂しいか?」
彩之介の口もとがしどけなく緩み、小さな貝のような歯がのぞいていた。
「儂のものが恋しいか…」
「あっ…あ…んっ…ああっ」
ふっくらと柔らかな唇は、もはや意味のある言葉を紡がない。
「のう、彩之介…儂が好きか?」
一瞬動きをとめ、帯刀は彩之介の耳もとに囁いた。
「それとも…儂が憎いか?」

 彩之介の唇は何も語らなかった。泣き濡れて、はたはたと揺れる睫の間から、子鹿のような瞳が帯刀の眼差しを捕らえた。

 ほんのわずかの間、帯刀の胸に疼痛が走った。

(ばかな…)

 それを冷笑とともに振り捨て、帯刀は大腰を使った。
熟れて熱を持った蕾から濡れた音が聞こえ始め、彩之介の喘ぎと切なく絡みあった。
興を覚えた帯刀は、少年のすんなり伸びた足を肩に担ぎ上げ、 抉るように腰を使い始めた。
弱い部分を思いきり擦られ、
「いや…ッ!ああっ一一!」
彩之介が悲鳴に近い嬌声をあげた。

 帯刀は容赦なく彩之介を責めたてる。
奥深く穿ったまま、今度は細い腰を鷲掴みにして揺すぶった。
もはや声を殺すこともできず、彩之介は掠れた叫び声を上げ続けている。
帯刀は己の快楽に奉仕させるべく、猛り立った楔を存分に柔肉に突き立てた。

 所詮は百両で請け出した陰間だ。

 どう使おうが、主人である自分の思うままのはず。

(仏ごころを起こすとは、この儂も気弱になったものよ…)

 細川殿の土産など使わずとも、彩之介のそこは普段から十分に帯刀を楽しませていたが、さすがは将軍家への献上品。媚薬の効き目は素晴らしく、彩之介は奥深く帯刀を迎え入れたまま何度も達した。それでも彩之介の肉襞は熱い弾力を失わず、帯刀のものをきつく絞り込んでくる。

(これを本田の爺にくれてやるなぞ…猫に小判じゃ。ええいっ、口惜しいのう…)

 帯刀は未練たらしく胸の中で呟きながら、今や百両ではきかぬ値打ちの彩之介を存分に味わった。


おわり


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