仁は舞い上がっていた。なんたって、長年の想いがやっと実ったのだ。
 しかしベッドに押し倒してさあこれから!というところで、下の光也が口を開いた。
「なあ、今更こんなこと訊くのもなんなんだけどさ」
 光也の表情を見た瞬間、仁は嫌な予感がした。というか、嫌な予感しかしなかった。
「男同士ってどうやんの?」
 嫌な予感大当たり、この状況で言うか普通。
 無粋な質問で盛り上がりに水を差され、仁は痛みだしたこめかみを気にしないようにしながら、努めて冷静に答えた。
「そりゃあ、片方が入れてもう片方が入れられるのは変わりないんじゃないか」
「……女じゃないのに、どこに入れるってんだよ」
「下半身にある入れられるような穴っていったら」
 仁の言葉を全部聞き終わる前に悟ったのだろう、光也の顔がざあっと青ざめた。
「嘘だろぉ!?」
 どうやら本当に知らなかったらしい。
 どこまで晩熟なのかこの想い人は、と仁は呆れたが、『記憶喪失のみつ』は、ひょっとしてその手の記憶も失っているだけなのかもしれない。
 衝撃から未だ立ち直っていない光也は茫然自失としている。
 そんな光也の頬をぺちぺち叩いて、現実に戻ってくるよう促した。
 黒い瞳の焦点が徐々に合う。その瞳の中に、隠しきれない揺らぎがある。仁は苦笑した。
 光也にとってどれほどショックだったかはわからないが、晩熟の彼もそれはそれで可愛いと思ってしまったのだ。
 勿論、可愛いなどと言ったら殴られることは明白なので黙っている。
 だが行動にはうつしても構わないだろう。髪を撫でようと手を伸ばすと、届く前に光也の手に押しとどめられた。
「みつ?」
 光也は真っ青のままで俯いている。これが赤く頬を染めているのでもあれば嬉しいものを。語尾を震わせながら彼が言う。
「ど、どっちが入れんの」
「そんなことわかりきってるじゃないか」
 きっぱりと教えてやれば、光也はがばりと勢いよく身体を起こした。
「ここは公平にジャンケンで決めよう! な!」
 ほら、と光也の掛け声に仁は反射的に手を出してしまった。
 光也の指は固く結ばれ、仁の指は全部開かれている。……勝者、仁。
「まっ、待て! 今のなしっ、もいっかい……」
「往生際が悪いぞ、みつ」
 これ以上の問答は無用と、仁は光也の肩を押して覆いかぶさった。
「大丈夫、慣れれば気持ちよくなるって」
「慣れるまでは気持ちよくないってことだろそれ!」
 わめく彼の服を剥いていく。
「ちょ、無理! 無理無理無理、ほんと無理!」
「暴れない方が痛くないと思うぞー」
「無理だって、入んねェって!」


さて、この後どうなる?
 A:「わかったよ……そのかわり、ちゃんと気持ちよくさせろよな!?」
 B:「ごめんやっぱ無理! 今回の話はなかったことに!」
 C:「痛! いっ……て、……てんめェ、今度同じ痛み味わわせてやる!」
 D:「そ、そんな、仁がふんどし派だったなんて……」

(06.01.16)